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2021-06-17

「捻(ねじ)らず」「うねらず」「踏ん張らない」/『ナンバの身体論 体が喜ぶ動きを探求する』矢野龍彦、金田伸夫、長谷川智、古谷一郎


『ウォーキングの科学 10歳若返る、本当に効果的な歩き方』能勢博
ナンバ歩きと古の歩術
『表の体育・裏の体育』甲野善紀
『「筋肉」よりも「骨」を使え!』甲野善紀、松村卓
『ナンバ走り 古武術の動きを実践する』矢野龍彦、金田伸夫、織田淳太郎

 ・「捻(ねじ)らず」「うねらず」「踏ん張らない」
 ・体幹を平行四辺形に潰す

『ナンバ式!元気生活 疲れを知らない生活術』矢野龍彦、長谷川智
『すごい!ナンバ歩き 歩くほど健康になる』矢野龍彦
『本当のナンバ 常歩(なみあし)』木寺英史
『健康で長生きしたけりゃ、膝は伸ばさず歩きなさい。』木寺英史
『常歩(なみあし)式スポーツ上達法』常歩研究会編、小田伸午、木寺英史、小山田良治、河原敏男、森田英二
『スポーツ選手なら知っておきたい「からだ」のこと』小田伸午
『トップアスリートに伝授した 勝利を呼び込む身体感覚の磨きかた』小山田良治、小田伸午
『間違いだらけのウォーキング 歩き方を変えれば痛みがとれる』木寺英史
『脚・ひれ・翼はなぜ進化したのか 生き物の「動き」と「形」の40億年』マット・ウィルキンソン

身体革命

 我々は、ナンバを「難場」と解釈し、それを切り抜けるための身体の動かし方を模索してきた。「難場」とは、外的には足元が不安定であったり暗闇の中にいるような状況、内的には身体に痛みがあったり疲れているような状況のことを指す。
 そんな「難場」を切り抜けるには、できるだけ「捻(ねじ)らず」「うねらず」「踏ん張らない」古武術の身体の動き――西洋式の運動理論とは正反対の動き――が最適である。
 結論から先にいえば、そういう動きを取り入れることで、全身を使って動くことになり、動きの効率性が高まり、動き自体が滑らかになって、身体の局部に負担がかからなくなる。

【『ナンバの身体論 身体が喜ぶ動きを探求する』矢野龍彦〈やの・たつひこ〉、金田伸夫〈かねだ・のぶお〉、長谷川智〈はせがわ・さとし〉、古谷一郎〈こや・いちろう〉(光文社新書、2004年)以下同】

 著者の四人は桐朋(とうほう)高校バスケットボール部のコーチである。試行錯誤しながら前に進む様子が好ましい。我々は手探りの苦労をすることなく一冊の新書でノウハウやメソッドを学べるのだ。

「捻(ねじ)らず」「うねらず」「踏ん張らない」――これが基本である。胴体力の「捻る」は考え直した方がいいかもしれない。

 ナンバで歩くことの一つの利点として、着物が着崩れないということが挙げられる(現代の洋服では、どのような動きをしても気崩れるということはほとんどない。洋服の作りそのものが、そういう構造になっているのだ)。
 また、身体を捻ったり、うねったりすることが少ないので、内蔵の血流が悪くなったり、関節部分に負担がかかることなく長時間労働が可能になる。
 労働の中でも、腰を落としながら行なう農作業などは、このナンバ的動きが不可欠だ。日が出てから暮れるまでの農作業において、一日中局所に負担をかけ続けるのは、即身体を壊すことにつながりかねないからである。

 江戸時代の侍は帯刀していた。そのため右利きの人は左足が大きいと言われる。また歩行の際に手を振ることがなかったとも言われるが、荷物を持って歩くことが多かった。両手に荷物があれば体幹は正面を向いたままだ。極端に骨盤を振るモデル歩きもできない。

 一番わかりやすいのは坂道である。アップダウンを繰り返し歩けば、妙な歩行法は通用しない。何も考えずに歩けばミッドフット着地になる。正しい歩行を身につけるためには踵クッションの厚い靴は避けた方がよい。理想は地下足袋である。次にルナサンダルや草鞋(わらじ)来るわけだが、前者は高価で後者は入手しにくい。ギョサンは長距離を歩くと足裏が痛くなるし踵がやや厚すぎる。私は履いたことがないのだがベアフットシューズでもいいと思う。ただしビブラムファイブフィンガーズは微妙だ。個人的には5本指よりも鼻緒タイプの方が望ましいと考えている(靴下も)。

 昔を思えば多分ぬかるみが多かったことだろう。特に雨が多く、湿度の高い日本では道路が田んぼ状態になったことは用意に想像できる。砂浜を歩けばわかるが拇指球に力を入れることは無意味である。足全体を地面にしっかりつけて踵を推進力にするのが効率的だ。

 ところがどっこい拇指球の力を抜くことは中々容易ではない。今、様々なトレーニング法を思案しているところである。

2021-06-16

何はさておき歩いてみよう/『病気の9割は歩くだけで治る! 歩行が人生を変える29の理由 簡単、無料で医者いらず』長尾和宏


 ・何はさておき歩いてみよう

『病気の9割は歩くだけで治る!PART2 体と心の病に効く最強の治療法』長尾和宏
『ウォーキングの科学 10歳若返る、本当に効果的な歩き方』能勢博
『ランニングする前に読む本 最短で結果を出す科学的トレーニング』田中宏暁
『サピエンス異変 新たな時代「人新世」の衝撃』ヴァイバー・クリガン=リード
『アルツハイマー病は治る 早期から始める認知症治療』ミヒャエル・ネールス
『一流の頭脳』アンダース・ハンセン
『ウォークス 歩くことの精神史』レベッカ・ソルニット
『トレイルズ 「道」と歩くことの哲学』ロバート・ムーア
『脚・ひれ・翼はなぜ進化したのか 生き物の「動き」と「形」の40億年』マット・ウィルキンソン
『「体幹」ウォーキング』金哲彦
『高岡英夫の歩き革命』、『高岡英夫のゆるウォーク 自然の力を呼び戻す』高岡英夫:小松美冬構成
『あらゆる不調が解決する 最高の歩き方』園原健弘
『あなたの歩き方が劇的に変わる! 驚異の大転子ウォーキング』みやすのんき
ナンバ歩きと古の歩術
『表の体育・裏の体育』甲野善紀
『ナンバ走り 古武術の動きを実践する』矢野龍彦、金田伸夫、織田淳太郎
『ナンバの身体論 体が喜ぶ動きを探求する』矢野龍彦、金田伸夫、長谷川智、古谷一郎
『ナンバ式!元気生活 疲れをしらない生活術』矢野龍彦、長谷川智
『すごい!ナンバ歩き 歩くほど健康になる』矢野龍彦
『本当のナンバ 常歩(なみあし)』木寺英史
『健康で長生きしたけりゃ、膝は伸ばさず歩きなさい。』木寺英史
『常歩(なみあし)式スポーツ上達法』常歩研究会編、小田伸午、木寺英史、小山田良治、河原敏男、森田英二
『スポーツ選手なら知っておきたい「からだ」のこと』小田伸午
『トップアスリートに伝授した 勝利を呼び込む身体感覚の磨きかた』小山田良治、小田伸午
『間違いだらけのウォーキング 歩き方を変えれば痛みがとれる』木寺英史
『足裏を鍛えれば死ぬまで歩ける!』松尾タカシ、前田慶明監修

身体革命

【糖尿病人口は、950万人に。
 高血圧人口は、4000万人に。
 高脂血症人口は、2000万人に。
 認知症人口は460万人、予備軍も加えると900万人に。
 そして、毎年100万人が新たにがんにかかり、年間で37万人が、がんで命を落としている――。】

 毎年、毎年、そんなニュースが次から次へと耳に飛び込んできます。「こんなに病気が増えました。10年後にはもっと増えるでしょう。大変です」と、大騒ぎしています。しかし、その大半は、歩かなくなったことが原因だと思います。

【『病気の9割は歩くだけで治る! 歩行が人生を変える29の理由 簡単、無料で医者いらず』長尾和宏〈ながお・かずひろ〉(山と渓谷社、2015年)】

 長尾和宏はもはやベストセラー作家といってよい。ウォーキング本の刊行順は以下の通りである。

・本書、2015年
・『認知症は歩くだけで良くなる 認知症予防と改善に最良の方法は「ながら歩き」! 』2016年
・『歩き方で人生が変わる。 幸せになる10の歩き方』2017年
・『病気の9割は歩くだけで治る!PART2 体と心の病に効く最強の治療法』2018年
・『歩くだけでウイルス感染に勝てる! 歩行で、新型コロナやインフルエンザを克服しよう!』2020年
・『「生活習慣病」は歩くだけで9割治る!+食生活編』2020年

 やや粗製乱造気味と思われるので、興味が湧くタイトルを選べばいいだろう。

 尚、上記書評リストは道標(みちしるべ)として網羅を試みた。ま、古本屋の心意気みたいなものだ。心密かに「俺って天才?」と思っていることは敢えて書かない。

 特に、80歳以上では、4人に1人が認知症といわれています。

 認知症とは「私が私でなくなる病気」である。娘の顔を見て「どちら様ですか?」と言う瞬間の衝撃は筆舌に尽くし難いものがある。それまでの関係性を見失い、断ち切る深刻な病だ。当人に自覚はないが「世界から切り離された状態」に追いやられる。自我の喪失は形を変えた死といってよい。

 まず、認知症を予防するには、認知症予備軍といわれる「軽度認知障害(MCI)」の段階で注目することが一つです。MCIというのは、そのまま何もしなければ5割の人が認知症に進むけれども、気をつければまだ後戻りできるという段階。この段階で気がつけば、自力で認知症を予防することができます。
 それは現実的に可能になってきているのです。何も症状のない段階から、MCIを早期発見する「MCIスクリーニング検査」が実際に可能になりました。
 これは、アルツハイマー病の原因である「アミロイドβ」が脳内にたまっていくときにかかわっている3種類のたんぱく質を調べることで、MCIのリスクをA~Dの4段階で評価するというもの。検査は採血のみで、2万~3万円程度で受けることができるそうです。

 これは知らなかった。親が70代になったら必ず受けさせよう。認知症は静かに緩慢な進行を続け、ある日突然表面化する。氷山の一角にたじろいでからでは遅い。時間をかけて進行する病気は治すのも時間を要する。歩くことで認知症から距離を置ける。否、いっそのこと認知症から逃げるつもりで歩いた方がいいだろう。

 うつの人は、歩けば治ります。【うつ病は、脳内の「セロトニン」や「ノルアドレナリン」というホルモンが不足した状態ですが、歩けばこれらが脳内で増えるからです。】だから、1日5分でいいので、とにかく歩いてほしい。

 科学的根拠は示していないが、臨床的な実体験から述べられた言葉である。善は急げである。とにかく歩け。

 もう一つ。朝日を浴びることもとても大事です。
 朝日を浴びることが大事な理由は二つあります。一つは、朝日を浴びると、体内時計がリセットされるということ。
 体内時計は24時間よりもちょっと長い周期で働いています。ところが1日は24時間周期なので、そのままにしていると少しずつ狂ってしまう。それをリセットしてくれるのが朝日を浴びることなのです。
 また、朝日を浴びると、夜間に「メラトニン」が分泌されるようになります。メラトニンとは、睡眠ホルモンと呼ばれるもの。メラトニンが脳の松果体から分泌され、夜になると脈拍、体温、血圧が下がって自然な眠りに入っていくのです。このメラトニンは、朝、光を浴びてから14~16時間後に分泌されるといわれています。

 本書を読んでから直ぐに実行している。生活の中で自然と接触することが大切だ。人工物は死んでいる。便利な乗り物や家電製品を使うことで我々は体力を失い、風雨にさらされることを拒んで五官の感覚が衰えてゆく。安全に馴染みすぎた体はブクブクと太り、背骨は曲がり、慢性的な肩凝りや腰痛に悩まされる。我々は楽な生活を選択することで自ら生活習慣病を招き寄せているのだ。

 私は50代になってから、ウォーキング~自転車~筋トレ~スロージョギングと進み、今再びウォーキングに回帰したところである。ゆくゆくは自転車で走った宮ヶ瀬湖や相模湖まで歩いてゆくつもりだ。

 最後に重要な指摘を。長尾和宏が書いている具体的な歩行法は無視せよ。これに関しては私の方がずっと詳しい。

2021-06-14

骨盤歩き/『ナンバ走り 古武術の動きを実践する』矢野龍彦、金田伸夫、織田淳太郎


『病気の9割は歩くだけで治る! 歩行が人生を変える29の理由 簡単、無料で医者いらず』長尾和宏
『ウォーキングの科学 10歳若返る、本当に効果的な歩き方』能勢博
ナンバ歩きと古の歩術
『表の体育・裏の体育』甲野善紀

 ・「肉」ではなく「骨」を意識する
 ・骨盤歩き

『ナンバの身体論 体が喜ぶ動きを探求する』矢野龍彦、金田伸夫、長谷川智、古谷一郎
『ナンバ式!元気生活 疲れを知らない生活術』矢野龍彦、長谷川智
『すごい!ナンバ歩き 歩くほど健康になる』矢野龍彦
『本当のナンバ 常歩(なみあし)』木寺英史
『健康で長生きしたけりゃ、膝は伸ばさず歩きなさい。』木寺英史
『常歩(なみあし)式スポーツ上達法』常歩研究会編、小田伸午、木寺英史、小山田良治、河原敏男、森田英二
『スポーツ選手なら知っておきたい「からだ」のこと』小田伸午
『トップアスリートに伝授した 勝利を呼び込む身体感覚の磨きかた』小山田良治、小田伸午
『間違いだらけのウォーキング 歩き方を変えれば痛みがとれる』木寺英史
『脚・ひれ・翼はなぜ進化したのか 生き物の「動き」と「形」の40億年』マット・ウィルキンソン

身体革命

 ナンバ走りの「コツをつかむ」ための予備段階としては、まず歩きの中から習得するという方法がベストかもしれない。
 たとえば、階段や山を上る際、右足を踏み出したときに右手をその膝に添えるというやり方である。これは疲労困憊(こんぱい)したとき自然に出るポーズだが、体を楽にする意味で、しごく理に適った動きである。
 竹馬に乗って歩くのも、ナンバ的感覚を養う手段として有効である。竹馬は踏ん張ってはうまく前に進まない。スムーズに歩くためには前方へと一歩一歩倒すようにしなければならず、古武術で言う支点の崩しによるエネルギーの移動に通じるところがある。
 以上の動作を加味した上で、骨盤で走るという感覚を養うためには、俗に言う「骨盤歩き」の習得が有効になるだろう。この「骨盤歩き」は骨盤を形成する「仙骨」「腸骨」の分離感覚を促進し、それぞれの独立した動きを可能にしてくれる。第三章、第四章で後述する「骨盤潰し」による様々な技を可能にする予備段階としても、ぜひとも取り組んでもらいたいトレーニングである。


【『ナンバ走り 古武術の動きを実践する』矢野龍彦〈やの・たつひこ〉、金田伸夫〈かねだ・のぶお〉、織田淳太郎〈おだ・じゅんたろう〉(光文社新書、2003年)】

「そうか!」と膝を打った。まず膝に手を添えるというのは経験したことがなかった。更に小学生の時分に何度か竹馬に挑戦したことはあるが結局乗ることができなかった。飽きっぽい性格も手伝って直ぐに見向きもしなくなった。ただし骨盤歩きはストンと腑に落ちた。普段使っていない筋肉や骨を動かすことは明らかだ。しかも足を使えないため体幹勝負である。

 早速やってみた。直ぐにできた。これはいい。今まで動かすことのなかった体の深奥を揺さぶっている感覚がある。広いスペースで行えばもっと体が目覚めることだろう。

 問題は動かすことができるにもかかわらず動かしていない部位があまりにも多すぎることなのだろう。日常生活では手先や足先など末端を動かす営みが殆どだ。現代人は「体を使えていない」。つまりポルシェを時速30kmで運転しているような状態と言っていいだろう。

 ただし体はタイヤを回すような単純な構造ではない。複層構造の体幹に4台の油圧ショベルが据え付けられているような代物だ。

 ナンバ歩きや常歩(なみあし)を試すと筋肉よりも骨の重要さが自覚できる。例えば操り人形だ。傀儡子(くぐつし)が操る人形は関節部分を動かしているのだ。紐が筋肉だ。つまり筋肉の役割は骨を導くところにある。

 人工物が溢れる現代社会にあって体は人間に残された最後の自然である。コントロール不可能な自然であることを我々は不調や病によって知る。極端な運動は農業を行うような真似だ。そうではなく適度な運動で里山のような状態にすることが望ましいように思う。

2021-06-01

「肉」ではなく「骨」を意識する/『ナンバ走り 古武術の動きを実践する』矢野龍彦、金田伸夫、織田淳太郎


『病気の9割は歩くだけで治る! 歩行が人生を変える29の理由 簡単、無料で医者いらず』長尾和宏
『ウォーキングの科学 10歳若返る、本当に効果的な歩き方』能勢博
ナンバ歩きと古の歩術
『表の体育・裏の体育』甲野善紀
『「筋肉」よりも「骨」を使え!』甲野善紀、松村卓

 ・「肉」ではなく「骨」を意識する
 ・骨盤歩き

柳生心眼流の極意 平直行×菊野克紀
『ナンバの身体論 体が喜ぶ動きを探求する』矢野龍彦、金田伸夫、長谷川智、古谷一郎
『ナンバ式!元気生活 疲れを知らない生活術』矢野龍彦、長谷川智
『すごい!ナンバ歩き 歩くほど健康になる』矢野龍彦
『本当のナンバ 常歩(なみあし)』木寺英史
『健康で長生きしたけりゃ、膝は伸ばさず歩きなさい。』木寺英史
『常歩(なみあし)式スポーツ上達法』常歩研究会編、小田伸午、木寺英史、小山田良治、河原敏男、森田英二
『スポーツ選手なら知っておきたい「からだ」のこと』小田伸午
『トップアスリートに伝授した 勝利を呼び込む身体感覚の磨きかた』小山田良治、小田伸午
『間違いだらけのウォーキング 歩き方を変えれば痛みがとれる』木寺英史
『トレイルズ 「道」と歩くことの哲学』ロバート・ムーア
『脚・ひれ・翼はなぜ進化したのか 生き物の「動き」と「形」の40億年』マット・ウィルキンソン

身体革命

 ちょうどその頃、同大学(※桐朋学園大学)音楽科の教授を務める矢野や、演奏に体育を取り入れようと躍起になっていた。体の使い方が演奏をより良いものにするという確信からだったが、何を取り入れても常に物足りなさを引き摺っていた。
 ある日、甲野氏の『表の体育・裏の体育』(壮紳社)を読んだ。矢野を襲ったのは、「こんな身体運用が果たして人間に可能なのか」という驚き。さらに「可能ならば、演奏にも活かせるかもしれない」という閃(ひらめ)きだった。
 矢野はさっそく古谷に相談を持ちかけた。その古谷が矢野に紹介したのが、甲野氏の術理に傾倒していた長谷川だった。ここに古武術の叡智(えいち)に魅了された三人が結集することになる。それぞれの探求心が導いた“出会い”だったが、当時はまだ三人ともバスケットボール部のコーチを務めていたわけではない。この時点でスポーツを通じた金田との接点はなかった。
 だが、「縁は異なもの」という。98年、長谷川が同部のメンタルコーチに就任したのが、すべての始まりだった。古武術からのアプローチによるバスケット革命への序章である。

【『ナンバ走り 古武術の動きを実践する』矢野龍彦〈やの・たつひこ〉、金田伸夫〈かねだ・のぶお〉、織田淳太郎〈おだ・じゅんたろう〉(光文社新書、2003年)】

 甲野本はこれから読む予定である。上記7冊を読めばナンバ~常歩(なみあし)の概念は理解できる。ただし実際の動きはまた別の話である。

 ナンバが矢野・古谷・長谷川の出会いから始まったように、常歩(なみあし)もまた3人の出会いから始まった。まるで三国志のようなエピソードである。「三人寄れば文殊の知恵」と言うが、3人程度の情報交換が脳は心地よく感じるのだろう。5人以上になると損得が芽生え、10人を超えれば政治が頭をもたげる。

「コツをつかむ」という言葉がある。この「コツ」という文字を漢字に置き換えると、何があてはまるのか。
 答えは「骨」(こつ)である。ちなみに、広辞苑第四版をひもとくと、「骨」という漢字には、人体的な意味意外にこんな解釈が付け加えられている。
〈物事をなす、かんどころ。要領〉〈ほねのように、物事のしんとなっているもの。かなめ〉
 つまるところ、「コツをつかむ」とは、「かなめである骨の位置を把握する」「物事をなす骨の働きを熟知する」といった言葉に置き換えることができる。あるいは「骨に体の動きを覚えさせること」という意味にも繋がるかもしれない。
 実際、一流の板前が魚をさばくのに見事な腕前を見せるのは、その骨の位置をしっかり把握しているからである。まさに「コツをつかんだ」包丁さばきということになるだろう。

「骨を意識する」ことは重力を利用することにつながる。古武術は踏ん張らない。逆に膝の力を抜くのである。ナンバ歩きも同様で、拇指球に力を入れて蹴る動きを封ずる。踵(かかと)から着地するのではなく、足裏全体をそっと置く感覚で足を運ぶ。着地側の足も伸び切らないようにする。膝を真っ直ぐに伸ばす歩き方こそが膝痛の原因である。つまり、ありとあらゆる衝撃を柔らかくかわすところに日本の伝統的な振る舞いがある。

 尚、amazonの画像リンクを貼ってあるが、送料が480円も掛かるのでヨドバシドットコムか楽天ブックスで購入すればよい。

2021-04-01

ナンバ歩きと古の歩術


『脚・ひれ・翼はなぜ進化したのか 生き物の「動き」と「形」の40億年』マット・ウィルキンソン
『病気の9割は歩くだけで治る! 歩行が人生を変える29の理由 簡単、無料で医者いらず』長尾和宏
『病気の9割は歩くだけで治る!PART2 体と心の病に効く最強の治療法』長尾和宏
『ウォーキングの科学 10歳若返る、本当に効果的な歩き方』能勢博
『高岡英夫の歩き革命』高岡英夫:小松美冬構成
『あらゆる不調が解決する 最高の歩き方』園原健弘
『あなたの歩き方が劇的に変わる! 驚異の大転子ウォーキング』みやすのんき

 ・ナンバ歩きと古の歩術

習志野青龍窟:不眠不休で100km歩く方法!忍者の修行を体験せよ!
『ナンバ走り 古武術の動きを実践する』矢野龍彦、金田伸夫、織田淳太郎
『ナンバ式!元気生活 疲れを知らない生活術』矢野龍彦、長谷川智
『すごい!ナンバ歩き 歩くほど健康になる』矢野龍彦
『本当のナンバ 常歩(なみあし)』木寺英史
『健康で長生きしたけりゃ、膝は伸ばさず歩きなさい。』木寺英史
『常歩(なみあし)式スポーツ上達法』常歩研究会編、小田伸午、木寺英史、小山田良治、河原敏男、森田英二
『スポーツ選手なら知っておきたい「からだ」のこと』小田伸午
『トップアスリートに伝授した 勝利を呼び込む身体感覚の磨きかた』小山田良治、小田伸午
『間違いだらけのウォーキング 歩き方を変えれば痛みがとれる』木寺英史








「神足歩行術」にある江戸時代の走り方 | 江戸時代の走り方を求めて

2020-12-23

インナーマッスルを鍛える/『1週間で腹を凹ます体幹力トレーニング 1日5分誰でもラクラク即効!』木場克己


・『長友佑都体幹トレーニング20』長友佑都

 ・インナーマッスルを鍛える

 見た目が面白いくらい変わるから、【9割の人は、それがうれしくてアウターマッスルばかり鍛えてしまう】。
【だが実は、あなたの奥底に秘められた潜在力を目覚めさせてくれるのは、インナーマッスルだ】。深奥に筋肉がたっぷりバランスよくついていれば、骨格がコルセットに支えられた状態になり、真に安定した幹になる。鍛えあげられたインナーマッスルに包まれた体幹は、空気が十分に入ったボールのように「ピン!」とハリがある。【投げる、蹴る、跳ぶ……どんな動きも、弾むボールのように速く、力強くなる】。

【『1週間で腹を凹ます体幹力トレーニング 1日5分誰でもラクラク即効!』木場克己〈こば・かつみ〉(三笠書房、2016年)】

 インナーマッスルとは深層筋のことで体の奥に位置する筋肉の総称である。意識することが難しく、筋トレで鍛えることができるのはいずれも表層筋である。加齢に伴い猫背、ガニ股、腰の曲がりなどが表立ってくるが、インナーマッスルを一言にすれば「姿勢を支える筋肉群」である。

 我々が普段楽だと思っている姿勢は筋肉がダラリとなっている状態で、実は骨に負担が掛かっている。椅子に浅く腰掛けてだらしなく坐るのが典型で腰痛の原因となる。腰に負担が少ないのは真っ直ぐに背骨を伸ばした姿勢なのだ。つまり骨の硬さを利用するのである。

 体幹という言葉を知ったのは長友本による。一読した時は殆ど意味が理解できなかった。低負荷の体操と思い込んだほどだ。多少なりともスポーツをしてきた私ですら、その概念を掴むことが容易ではなかった。体幹とは胴体のことである。

 それほどお薦めできる本ではないがストレット法が多数紹介されているのが目を引く。


 私は今まで首のストレッチを軽視してきたのだがこれを見て瞬時に誤りを悟った。頭部を支える首の柔軟性が失われると思考そのものも凝り固まってしまうことだろう。


漢字でおすすめと書く場合「お勧め」「お薦め」「お奨め」のどれが正しい? 【ビジネス用語】 | マイナビニュース

2020-11-07

高血圧に有効な運動療法


 週に61分以上の運動は1~2回にまとめて行っても、週に5回以上に分けて行っても、血圧の改善効果は変らないことが認められました。(中略)
 有効な降圧のためには、1回の運動につき約300kcalのエネルギー消費が必要とされています。300kcalとは、最大酸素摂取量50%の弱い運動で約60分必要になります。多くの報告によればこの量の運動で合計1000分以上必要といわれ、十分な効果を得るにはさらにその2倍以上が望ましいとされています。

ほっかいどう・おくすり情報室|一般社団法人 北海道薬剤師会 > 【PDF】どのくらい運動すれば高血圧が改善するでしょうか?

 エリック・ホッファーが沖仲仕の仕事を心地よく感じていたのは適度な運動量があったためなのだろう。健康のために運動をするのはやや本末転倒であるように思う。むしろ日常生活の中に歩行や力仕事を加えるべきだ。「ホモ・サピエンスが誕生したのは25万年前で、農耕が確認されているのは23000年前である。人類の歴史を振り返れば狩猟・漁撈(ぎょろう)の時期が殆どであるといってよい」(逃げない社会=定住革命/『人類史のなかの定住革命』西田正規)。つまり狩人の本能をいかに蘇らせるかに健康の本領がある。

 因みに300kcalの運動量は以下の通りだ。

・ウォーキング(速歩き) 75分
・ジョギング(強い) 30分前後
・縄跳び 20~30分
・登山 60分

300kcalを消費するための運動内容と時間(体重60kgの人)

 この手のカロリー計算を私が鵜呑みにすることはない。そもそも摂取カロリーが体内にどの程度取り込まれるかもそれほどハッキリしているわけではない。よく「筋肉を増やして基礎代謝を上げる」という話を聞くが、基礎代謝量は体の表面積に比例するからデブの方が上なのだよ。基礎代謝とは燃費である。わざわざ燃費の悪い状態を目指すところに現代人の病んだ健康信仰が窺える。

 現実に即していえば、家事に勤(いそ)しむことが最も正しい。特にトレーニングのつもりで拭き掃除を行うことが望ましい。洗濯も手でやればかなりの運動量になるだろう。そして一番手軽なのが歩くことだ。少し遠いスーパーを目指してあるくのがよい。目的は歩行にあるので荷物は背負えるよう大きめのデイバッグ(40L)や背負子(しょいこ)が欲しい。

2020-09-30

ヒモ一本でカラダ目覚める/『ヒモトレ革命 繋がるカラダ動けるカラダ』小関勲、甲野善紀


 ・ヒモ一本でカラダ目覚める

ヒモトレでX脚が治った
『ムドラ全書 108種類のムドラの意味・効能・実践手順』ジョゼフ・ルペイジ、リリアン・ルペイジ

身体革命

甲野●最近、私の講習会でも、必ずと言っていいほどヒモトレを紹介していますが、これは本当にすごい発見ですね。別に特別なことを覚えるとか、何かを意識するとか、そういうことを全くしないで、ただ、ヒモを一本巻くだけで体の動きが、たちまち変わりますから。

小関●私も驚いています(笑)。

甲野●私がヒモトレを初めてハッキリと認識し知ったのは、2014年に小関さんが日貿出版社から『ヒモトレ』という本を刊行され、私にも献本してくださった時です。
 それ以前にも、なんとなく耳にしていた気はしますが、あの本でハッキリと知りました。その後、2014年の秋頃、小関さんのお家に泊まらせていただいた時に、詳しくヒモトレの巻き方や効能を伺い、例えば「脚の付け根にヒモを緩く巻くと、階段の上り下りが楽になるんですよ」と教えていただいてから、早速試したところ、“これはいい!”と感動したのを覚えています。

【『ヒモトレ革命 繋がるカラダ動けるカラダ』小関勲、甲野善紀〈こうの・よしのり〉(日貿出版社、2016年)以下同】

虎拉(ひし)ぎ」を本書で知った。

 ヒモトレについては、100円ショップで太めの紐を買ってきて、あれこれ試したみたのだが特別な効果は感じなかった。だからといって軽んじることはできない。あの甲野が評価しているのだから。

 五官は外部情報をキャッチするアンテナである。靴や衣服はアンテナの感度を下げてしまう。裸で木登りをすれば全身で枝や風を感じることができるはずだ。ヒトの脳は集中すると周辺情報を見失う。ヒモトレは集中で凝り固まった意識を解放する効果があるのだろう。

小関●夜に尿意で5、6回ほど起きる人が、ヒモをゆる~く腰に巻くと、その日の夜から1回も起きなくなったり、起きる回数が減ったりという話を、あちこちで聞いています。夜間覚醒も随分減るようですね。
 また、鼠径部(そけいぶ)からお尻の下にかけて緩くヒモを巻いて寝ると、寝返りがとても楽にできるので、お腹の大きくなった妊婦さんからも、「寝るのが楽になった」というお声をいただいています。

 これは試してみる価値がある。いずれにしても「紐を緩く巻く」というのが肝心で、サポーターのように固く巻いてはいけない。人体がわずかな突起に反応してバランスするのは確かだろう。靴の中の小石ですら全身に不快な影響を及ぼすことからも明らかだ。

 身体障碍者にも格段の効果があるという。

 例えば、側湾(背骨が曲がっている症状)や寝たきりの子ども達の胸にヒモを巻いてみたところ、ペコンと潰れていた胸が膨らみ、呼吸が大きくなりました。人工呼吸器を付けている子どもの胸にヒモを巻いたところ、呼吸量が通常の1.5倍になっていたのですが、これにはお母さんも驚いていましたね。
 また、脳性麻痺のある子どもの中に、左右どちらかに片麻痺がある子どもがいます。自力で座ったり、真っ直ぐに立つことが大変むずかしいのですが、ヒモをお腹とタスキ掛けにして巻くと、座ったり、立ったりするときの姿勢が安定します。肩の緊張がとれて、重心が下がってくるので、足の裏でしっかり床を踏みしめることができるんですね。
 それから、嚥下障害には烏帽子掛けが有効です。下顎から頭頂部にかけて、緩くヒモを巻くのですが、そうすると、あまり機能していなかった舌骨上筋と舌骨下筋が、ヒモの微妙な刺激によってうまく連動して、嚥下反応が起こります。(藤田五郎:香川県立善通寺養護学校教諭)

 体の復元力というべきか。紐という小さな刺戟によって体が目覚める。人体で最も大きな臓器は皮膚である。これを侮ってはなるまい。なんと言っても最大のアンテナなのだから。

2020-06-20

骨を鍛える/『本当に必要な「ゆるスクワット」と「かかと落とし」』中村幸男


・『一生元気でいたければ足指を広げなさい』湯浅慶朗
『足・ひざ・腰の痛みが劇的に消える足指のばし』湯浅慶朗
・『足腰が20歳若返る 足指のばし ゆびのば』今井 一彰
『足裏を鍛えれば死ぬまで歩ける!』松尾タカシ、前田慶明監修
『死ぬまで歩くにはスクワットだけすればいい』小林弘幸

 ・骨を鍛える

『あなたの歩き方が劇的に変わる! 驚異の大転子ウォーキング』みやすのんき


【『本当に必要な「ゆるスクワット」と「かかと落とし」』中村幸男〈なかむら・ゆきお〉(小学館、2018年)】

 骨は反力によって鍛えられる。若い頃、バレーボール・バスケット・ハンドボール・剣道をやっていた人は骨密度が高い。つまり床や地面から受けた衝撃に骨が反応するのだ。踵落としとは背伸びをして踵(かかと)をストンと落とすだけの運動だ。本書では発展型としてジャンプと片足の踵落としも紹介されているが、これは膝を痛める原因となりかねないのでやらなくていいと思う。

 一方のゆるスクワットとは書影にある通りのゆるいスクワットである。これは屈んだ時にお尻を突き出すと効果が高まる。年寄り用の低負荷運動と侮るなかれ。特に女性は骨粗しょう症になりやすいので若いうちからやっておくべきだ。

2020-05-04

シザース動作とプライオメトリクストレーニング/『走れ!マンガ家 ひぃこらサブスリー 運動オンチで85kg 52歳フルマラソン挑戦記!』みやすのんき


『あなたの歩き方が劇的に変わる! 驚異の大転子ウォーキング』みやすのんき
バウンディング

 ・シザース動作とプライオメトリクストレーニング

『ランニング王国を生きる 文化人類学者がエチオピアで走りながら考えたこと』マイケル・クローリー

身体革命
必読書リスト その二

足の回転を速くする「シザース動作」

 以前、全国高校駅伝の名門、豊川工業のグラウンドに「接地前に反対足をまたぎ越せ!」という木の看板がある写真を見ました。みなさんはどういう意味かわかりますか? 私は最初、何を意味しているのかわかりませんでした。
 陸上競技の世界でよく使われる言葉で「シザース動作」というものがあります。簡単にいうと、前の足が着地する前に後ろの足が前の足を追い越す、といった動作です。
 先ほどのA図のような間延びした走りにならないために、必ず身につけなくてはならない動きなのです。足は常に身体の前で回転させる意識です。例えていうならば、ママチャリでのペダリング動作に似ています。着地した足のキックと空中スイングして前に戻る足のパワー出力のタイミングをシンクロさせると、相互作用でより効率的に足が回転します。

【『走れ!マンガ家 ひぃこらサブスリー 運動オンチで85kg 52歳フルマラソン挑戦記!』みやすのんき(実業之日本社、2015年)】

バウンディング」で私が注目したのは腸腰筋の動きだが、本来の目的はシザース動作にある。読んだだけではピンと来ないと思うので動画を紹介しよう。




 上記テキストの直後に書かれているのだが着地は体の真下で行う。そりゃそうだわな。両脚を体より前に出すことはできないから。そして地面からの反力を使うためにはプライオメトリクストレーニングが効果的だ。










 昨日、20kmのウォーキングをしたのだが10kmのランニングよりも疲れた。やはりウォーキングだと地面からの反力を使えないためだろう。バスケットボールを持って歩くのとドリブルしながら歩く違いのようなものか。

 身体のメカニズムを合理的に動かすことはもちろん大切だが、もっと重要なことは体の内なる声に耳を傾けることである。私は走りながら「果たして江戸時代の飛脚がシザース動作を知っていただろうか?」と問う。今に伝わるのは上半身を捻(ひね)らないナンバ走りだけだ。安藤友香〈あんどう・ゆか〉の忍者走りがナンバである。飛脚は三尺(91cm)の棒を担いで走っているため上半身を捻らないのは当然である。武道の動きにも捻る動作はない。骨盤と体幹は同じ方向に動くのが基本である。

 身体の合理性とは力を抜くことだ。つまり少し疲れた頃から体は自然な動きを始める。理窟(りくつ)だけだと体が縛られてしまう。体が本来持っている知恵のようなものを解き放つところに運動の目的はある。

2019-12-31

肥田春充の色心不二/『鉄人を創る肥田式強健術』高木一行


『究極の身体(からだ)』高岡英夫
『フェルデンクライス身体訓練法 からだからこころをひらく』モーシェ・フェルデンクライス
『運動能力は筋肉ではなく骨が9割 THE内発動』川嶋佑
『ウィリアム・フォーサイス、武道家・日野晃に出会う』日野晃、押切伸一
『大野一雄 稽古の言葉』大野一雄著、大野一雄舞踏研究所編
『武学入門 武術は身体を脳化する』日野晃
『気分爽快!身体革命 だれもが身体のプロフェッショナルになれる!』伊藤昇、飛龍会編
『月刊「秘伝」特別編集 天才・伊藤昇と伊藤式胴体トレーニング「胴体力」入門』月刊「秘伝」編集部編
・『幻の超人養成法肥田式強健術 腰腹同量正中心の鍛錬を極めよ!』佐々木了雲

 ・肥田春充の色心不二

・『肥田式強健術2 中心力を究める!』高木一行
『表の体育裏の体育 日本の近代化と古の伝承の間(はざま)に生まれた身体観・鍛錬法』甲野善紀
『武術の新・人間学 温故知新の身体論』甲野善紀
『惣角流浪』今野敏
『鬼の冠 武田惣角伝』津本陽
『会津の武田惣角 ヤマト流合気柔術三代記』池月映
『透明な力 不世出の武術家 佐川幸義』木村達雄
『日本の弓術』オイゲン・ヘリゲル
・『火の呼吸!』小山一夫、安田拡了構成
・『新正体法入門 一瞬でゆがみが取れる矯正の方程式』佐々木繁光監修、橋本馨
・『仙骨姿勢講座 仙骨の“コツ”はすべてに通ず』吉田始史
『ストレス、パニックを消す! 最強の呼吸法システマ・ブリージング』北川貴英

身体革命
悟りとは
必読書リスト その二

 しかるにどうだ。それからわずか数年でこの虚弱(きょじゃく)な体が鋼鉄(こうてつ)の身に一変されてしまったのである。その間の経緯(けいい)を記(しる)した春充〈はるみち〉の著書が後に刊行されると、たちまち全国から講演、実演の依頼が殺到(さっとう)した。
 春充が上半身裸体となって壇上(だんじょう)に立つやいなや、会場は突如(とつじょ)として一変してしまう。触(ふ)れることさえできそうなほどの緊張感が全聴衆(ちょうしゅう)を支配する。まばたきする者もなく、身動きする者もない。
「裸体となって壇上に現れた氏の体格は、古代ローマの彫像(ちょうぞう)を見るが如(ごと)く、実に男性美を発揮したるものなり。殊(こと)にその腹胸(ふくきょう)式呼吸法における腹胸部膨張(ぼうちょう)力の旺(さか)んなること、3、4升(しょう)の鍋(なべ)を飲(の)みこみたる観(かん)あり。体格の調和せる、動作の敏捷(びんしょう)なる、気力の充実(じゅうじつ)せる、思わず驚嘆(きょうたん)の目を見張らしめたり」(大阪毎日新聞の一部)
「不思議といわんか、至妙(しみょう)といわんか、神の舞踏(ぶとう)といわんか。人間業(わざ)とは思われぬ優観(ゆうかん)、美観、否、壮観……瞬間我等(われら)は頭上より足の爪先(つまさき)まで電流を通じたるが如(ごと)く、或(あ)る力に撲(う)たれたり……」(東洋大学哲学科生)
「先生の体全体が力の泉の如くに見えた。四隣(しりん)に響き渡る気合いの発生はわれわれの心肝(しんかん)を突き、覚えず茫然自失(ぼうぜんじしつ)、ただ偉大(いだい)なる魅力に圧倒されてしまった」
「私は水が滴(したた)るような裸体姿の美しいのに見惚(みほ)れてしまいました。艶(つや)があって滑(なめ)らかで、緊張すれば鉄の如くに締(し)まる筋肉が自然のままでゆったりと肥(こ)えているところは実に見事なものでした……」(中里介山〈なかざと・かいざん〉、小説『大菩薩峠』の著者として有名)
「……その結果、以前の茅棒(かやぼう)は実に絶美(ぜつび)の体格を獲得し、この道に造詣(ぞうけい)の深い二木(ふたき)医学博士も理想的自然の発達よと嘆賞(たんしょう)するに至(いた)った」(「実業之日本誌」より)
 二木医学博士とは、玄米菜食(げんまいさいしょく)を唱導(しょうどう)し、桜沢如一〈さくらざわ・にょいち〉とならんで日本の食餌(しょくじ)法における草分け的存在である二木謙三〈ふたき・けんぞう〉のことだ。彼は春充の身体を「今まで見たなかでいちばん立派(りっぱ)な体だ」「即身即仏」といい、また強健術に関しては「それこそ真の理想的方法である」と絶賛(ぜっさん)した。このほか大隈重信〈おおくま・しげのぶ〉や東郷平八郎〈とうごう・へいはちろう〉などをはじめとする各界の名士も春充の肉体美を讃(たた)えている。
 春充の次なる著者(ママ)『心身強健術』は非常な売れ行きで重版(じゅうはん)また重版、ついに100版を突破するに至った。

【『鉄人を創る肥田式強健術』高木一行〈たかぎ・かずゆき〉(学研プラス、1986年)】

 日野晃の著書で肥田式強健術を知った。創始者の肥田春充〈ひだ・はるみち〉は明治16年(1883年)生まれで生来の虚弱体質であった。幼い頃は茅棒(かやぼう)と渾名(あだな)され、死の宣告を受けたことも一度ではなかった。春充が風邪に伏していた時、父親が仏壇の前で泣きながら祈っている姿を見た。春充は不甲斐のなさに声を上げて泣いた。ここから一念発起して後の強健術が生まれるのである。17歳の少年は物に取り憑かれたように鍛錬を重ねた。

 肥田の相貌と肉体は人間離れしている。日本の武術においては筋肉よりも骨が重視される。腹部は柔らかくなくてはいけない。



 威風が吹いてくるような体である。「」(からだ)と旧字で書くのが相応(ふさわ)しい。

 肥田春充は悟った人物であり、生をコントロールした彼は死をもコントロールした。日本仏教が開いた禅的アプローチは後に「道」(武道、茶道、華道、歌道など)となるが、それを可能ならしめたのは「術」であった。すなわち仏道修行の「行」を「術」に変換することで「業」(ぎょう、ごう)へと昇華したところに独創の花が咲いた。それにしても武術の深さは際立つが、仏道修行の浅さはどういうわけか。

2019-12-11

スポーツドリンクのナトリウム濃度は低い/『ランニングする前に読む本 最短で結果を出す科学的トレーニング』田中宏暁


ウォーキング
『56歳でフルマラソン、62歳で100キロマラソン』江上剛
・『スロージョギングで人生が変わる』田中宏暁

 ・スポーツドリンクのナトリウム濃度は低い

『最速で身につく 最新ミッドフットランメソッド』高岡尚司、金城みどり
『走れ!マンガ家 ひぃこらサブスリー 運動オンチで85kg 52歳フルマラソン挑戦記!』みやすのんき
『ランニング王国を生きる 文化人類学者がエチオピアで走りながら考えたこと』マイケル・クローリー
『ウォーキングの科学 10歳若返る、本当に効果的な歩き方』能勢博
『すごい!ナンバ歩き 歩くほど健康になる』矢野龍彦
『本当のナンバ 常歩(なみあし)』木寺英史
『健康で長生きしたけりゃ、膝は伸ばさず歩きなさい。』木寺英史
『常歩(なみあし)式スポーツ上達法』常歩研究会編、小田伸午、木寺英史、小山田良治、河原敏男、森田英二
『トップアスリートに伝授した 勝利を呼び込む身体感覚の磨きかた』小山田良治、小田伸午
『一流の頭脳』アンダース・ハンセン

 スポーツドリンクにはナトリウムが入っていますので、低ナトリウム血症を防げそうですが、アルモンドたちの研究では否定されています。その理由として、彼らはスポーツドリンクのナトリウム濃度は、生理食塩水に比べて5分の1と低すぎるから、としています。
 42.195kmの長い道のりを走り切るには、水分と糖分の補給をうまくおこなうことが大切です。しかし、とにかく水分の取りすぎには注意しなければなりません。

【『ランニングする前に読む本 最短で結果を出す科学的トレーニング』田中宏暁〈たなか・ひろあき〉(ブルーバックス、2017年)】

 アルモンドとしか書かれていないので詳細は不明だが、PDF論文「運動時の水分補給に関する変遷ならびに日本における運動習慣のある若年成人の現状と課題」宮川達・麻見直美の脚註にAlmond CSとある。たぶん正確な発音は「アーモンド」だろう。ナッツのアーモンドと同じスペルだ。

「経口補水液の濃度の目安は、生理食塩水の濃度0.9パーセントの約3分の1、すなわち500mlあたり塩1.5g(ナトリウム600mg)です。しかしながら代表的なスポーツドリンクの500mあたりのナトリウム量でみてみると、200mg~245mgしかなく、電解質補給には濃度が不足しています」(スポーツドリンクって実際どうなの?|佐賀市兵庫町のこうすけ歯科医院

「要するに、医療用医薬品開発の歴史の中で洗い出されてきたあらゆる問題が、スポーツドリンクの世界では野放しになっているというわけです」(スポーツドリンクの似非科学)。

「まずスポーツドリンクに科学性を付与するため、企業がなりふり構わず御用学者、専門雑誌、メディア、そしてIOCを含むスポーツ団体を巻き込み、「小さな科学」を武器に脱水にもっとも効果のあるスポーツドリンクというイメージを作り上げセールスを行っている点だ。BMJの調べでは、このような科学的データを提供したほとんどの研究者は多くの助成金をスポーツドリンク販売会社から得ている」(7月15日:科学の衣をまとったスポーツドリンクに潜む危険(7月24日号British Dental Journal 掲載論文) | AASJホームページ

 汗はしょっぱい。つまり体内から塩分(ナトリウム+クロール=塩化ナトリウム)が排出されている。汗をかいた時は水を飲んでも熱中症になるのは水分過剰で血液中のナトリウム濃度が下がるためで、これを低ナトリウム血症という。

 健康常識における減塩信仰は根強いものがあるが近頃ようやく見直されるようになってきた。私はもともと塩分摂取よりも汗をかかない生活習慣に問題があると考えてきたので減塩を意識したことはなかった。塩分は毒のように思われているが実はミネラルなのだ。高血圧を悪と認定することで病院は降圧剤を処方しボロ儲けしてきた。その市場規模は1兆円レベルに達しようとしている(降圧剤市場なおも拡大 18年に1兆円市場に 配合剤登場で競争激化 | ニュース | ミクスOnline)。血圧の正常値を120/80未満と低く設定(高血圧治療ガイドライン2009)したことで多数の認知症患者が生まれた。

 田中宏暁はスロージョギングの提唱者でその効果は世界的に認められている。ただし著書を読む限りではものの見方が一方に傾く嫌いがあり、科学的な姿勢が弱い。例えば活性酸素に関する記述がないのは明らかな片手落ちだろう。そのため必読書ではなく教科書本とした。

2019-11-20

柔軟性よりも胴体力/『月刊「秘伝」特別編集 天才・伊藤昇と伊藤式胴体トレーニング「胴体力」入門』月刊「秘伝」編集部編


『究極の身体(からだ)』高岡英夫
『フェルデンクライス身体訓練法 からだからこころをひらく』モーシェ・フェルデンクライス
『心をひらく体のレッスン フェルデンクライスの自己開発法』モーシェ・フェルデンクライス
『運動能力は筋肉ではなく骨が9割 THE内発動』川嶋佑
『ウィリアム・フォーサイス、武道家・日野晃に出会う』日野晃、押切伸一
『大野一雄 稽古の言葉』大野一雄著、大野一雄舞踏研究所編
『武学入門 武術は身体を脳化する』日野晃
『ことばが劈(ひら)かれるとき』竹内敏晴
『スーパーボディを読む ジョーダン、ウッズ、玉三郎の「胴体力」』伊藤昇
『気分爽快!身体革命 だれもが身体のプロフェッショナルになれる!』伊藤昇、飛龍会編
『棗田式 胴体トレーニング』棗田三奈子

 ・柔軟性よりも胴体力
 ・動きの「細分化」
 ・骨盤の細分化

『火の呼吸!』小山一夫、安田拡了構成
『身体構造力 日本人のからだと思考の関係論』伊東義晃
『ストレス、パニックを消す! 最強の呼吸法システマ・ブリージング』北川貴英
・『新正体法入門 一瞬でゆがみが取れる矯正の方程式』佐々木繁光監修、橋本馨
・『仙骨姿勢講座 仙骨の“コツ”はすべてに通ず』吉田始史

身体革命
必読書リスト その二

伊藤●ストレッチは、胴体に関係なく伸ばすことが多いです。中には連続性で動かすものもありますが、伊藤式の場合、あくまで胴体が動いて手足が動くムチのような身体作りを前提にしているのです。
 むしろ意味もなく、身体を伸ばしてはいけないのです。身体組織は、胴体が動いて四肢が動くわけですから、背中が硬いのに脚を無理に完全開脚して、回し蹴りなどをやっていれば、股関節や膝を悪くしてしまいます。無理のない動きを作るために行うのが伊藤式胴体トレーニングですから、柔軟性を求めるストレッチとは似て非なるものですね。人間の身体は、無理にでも伸ばしていれば、伸びてしまうものなのです。でも、武道的に見た場合、いくら動いてもそこに威力が伴わなければダメですね。

 人は、そんなに可動性って、必要ないですから。スポーツでもそうなのですが、別にタコのような柔軟性がなくてもなんとかなるものが多いのです。ですから、ヘタに可動域を広げるよりも、いかに胴体をなめらかに動かすかを考えるのが先決だと思います。

【『月刊「秘伝」特別編集 天才・伊藤昇と伊藤式胴体トレーニング「胴体力」入門』月刊「秘伝」編集部編(BABジャパン出版局、2006年/新装改訂版、2021年)】

 月刊『秘伝』の1999年9月号から2006年3月号にかけて掲載された記事をもとに再編集し、大幅な描き下ろしを加えたB5判ムック本。伊藤式胴体トレーニングの決定版といってよい。様々なトレーニング法の写真も多く眼(まなこ)が開く思いがした。読み終えて直ちに再読した。ベースとなるのは単純な動作である。
「私が求めていたのはこれだ」と確信した。単純な動作には体をパーツごとに動かす目的がある。胴体の細密にして微妙な動きこそが胴体力なのだ。

 私は内旋運動を意識してアイソメトリックス効果を出すべく7秒キープを心掛けている。また伊藤式を実践してみると高岡英夫のゆる体操が同じ視線の角度で身体を見つめていることがわかる。

 鍛えるだけでは壊れる。調(ととの)えることを忘れてはなるまい。

2019-10-28

感じる力が高まる/『気分爽快!身体革命 だれもが身体のプロフェッショナルになれる!』伊藤昇、飛竜会編


『究極の身体(からだ)』高岡英夫
『フェルデンクライス身体訓練法 からだからこころをひらく』モーシェ・フェルデンクライス
『運動能力は筋肉ではなく骨が9割 THE内発動』川嶋佑
『ウィリアム・フォーサイス、武道家・日野晃に出会う』日野晃、押切伸一
『大野一雄 稽古の言葉』大野一雄著、大野一雄舞踏研究所編
『武学入門 武術は身体を脳化する』日野晃
『ことばが劈(ひら)かれるとき』竹内敏晴
『スーパーボディを読む ジョーダン、ウッズ、玉三郎の「胴体力」』伊藤昇

 ・感じる力が高まる

・『棗田式 胴体トレーニング』棗田三奈子
『月刊「秘伝」特別編集 天才・伊藤昇と伊藤式胴体トレーニング「胴体力」入門』月刊「秘伝」編集部編
『火の呼吸!』小山一夫、安田拡了構成
『ストレス、パニックを消す! 最強の呼吸法システマ・ブリージング』北川貴英
・『新正体法入門 一瞬でゆがみが取れる矯正の方程式』佐々木繁光監修、橋本馨
・『仙骨姿勢講座 仙骨の“コツ”はすべてに通ず』吉田始史

身体革命

 胴体の三つの動き(1.伸ばす・縮める 2.丸める・反る 3.捻る)のトレーニングを続けていると、身体の【“感じる力”】が高まります。感じる力とは、具体的には危険察知能力、瞬時の状況判断力、病気、異常の感知能力といえます。
 動物を見るとよくわかります。犬でも猫でも、人間がなにかしようと近づこう(ママ)とするだけで逃げだします。身体に合わないものは食べません。具合が悪ければ、何も食べずにジッと寝て、自分の力でなおします。動物はこの力がなければ生きてはゆけません。
 ところが、現代人は考える力や記憶する力にたよりすぎて、感じる力が著しく低下しています。これでは、自分の身体の異常や病気にも気がつかず、自分の体験したこと、本などで勉強して得た知識以外の出来事が起こると、まったく対応できなくなってしまいます。いわゆる“マニュアル人間”はこれにあてはまります。
 感じる力は、生きていくうえでもっとも大切な能力です。この力があれば、頭でいちいち考えなくても、食べ物、運動など、自分の身体が、必要なものは何かを感じることができます。

【『気分爽快!身体革命 だれもが身体のプロフェッショナルになれる!』伊藤昇、飛竜会編(BABジャパン、2005年/ベストセラーズ、1993年『気分爽快!身体(からだ)革命 一日三分で痛みを消しさる』改題)】

 私は30代から酒を呑み始め、あっという間に体重が80kg近くなった。運動不足と深夜の飲食は不健康への近道だ。肥大するウエストのために毎年ズボンを買い替えた。腹が出てくれば当然ズボンは下がりがちとなる。私はしょっちゅうベルトを外してファスナーを下ろしてはシャツをたくし込んだ。女性の前でも平然と行ったため随分とひんしゅくを買った。ウエストが92cmに落ち着いてからはサスペンダーを愛用してきた。

 40代で無呼吸症候群が発覚し、その後アルコールを飲むと不整脈が起こるようになった。48歳で生まれて始めて肩凝りを経験したあたりから体への意識が芽生え始めた。五十肩はチューブトレーニングを行い1週間で治した。日常的には歩くことを心掛けた。50代でバドミントンをやったら立て続けに三度もふくらはぎの肉離れを起こした。で、昨年から自転車に乗り始めた。保有しているのはスピンバイク、懸垂マシン、腹筋ローラー、バイクの古チューブである。食べ物もかなり気をつかっている。

 身体のピークは60代と伊藤は言い切る。更に性格も体操で変えられるとまで語る。見上げた確信だ。ベストセラーズ版が絶版となり本書は「幻の」と噂されるまでに至った。とはいうものの内容がベーシック過ぎて素人にはピンと来ない。その意味では瞑想とよく似ている。本気で取り組まないと変化を実感することは難しい。

 体幹を極めると胴体力になる。骨盤を中心とした胴体のしなやかな動きが手足の筋力を最大限に活かすのだ。単調な筋トレは体を壊しやすい。動きを変えるためには全身のバランスを調える方が望ましい。

2019-10-08

「すべての身体表現の源は、胴体にあり」/『スーパーボディを読む ジョーダン、ウッズ、玉三郎の「胴体力」』伊藤昇


『究極の身体(からだ)』高岡英夫
『フェルデンクライス身体訓練法 からだからこころをひらく』モーシェ・フェルデンクライス
『運動能力は筋肉ではなく骨が9割 THE内発動』川嶋佑
『ウィリアム・フォーサイス、武道家・日野晃に出会う』日野晃、押切伸一
『大野一雄 稽古の言葉』大野一雄著、大野一雄舞踏研究所編
『武学入門 武術は身体を脳化する』日野晃
『ことばが劈(ひら)かれるとき』竹内敏晴

 ・「すべての身体表現の源は、胴体にあり」
 ・股関節で地面をとらえる

『気分爽快!身体革命 だれもが身体のプロフェッショナルになれる!』伊藤昇、飛龍会編
『棗田式 胴体トレーニング』棗田三奈子
『月刊「秘伝」特別編集 天才・伊藤昇と伊藤式胴体トレーニング「胴体力」入門』月刊「秘伝」編集部編
『火の呼吸!』小山一夫、安田拡了構成
『ストレス、パニックを消す! 最強の呼吸法システマ・ブリージング』北川貴英
・『新正体法入門 一瞬でゆがみが取れる矯正の方程式』佐々木繁光監修、橋本馨
・『仙骨姿勢講座 仙骨の“コツ”はすべてに通ず』吉田始史

身体革命

 胴体から出る力=胴体力は、しなやかで強い。
 そして、一度身につけてしまえば、なかなか衰えることがない。
 スポーツマンやダンサー、俳優だけでなく、自分の「身体能力」に限界を感じている人はすべて、胴体の動きを変えていけば、これまで以上の力を必ず発揮できる。
 ただ、胴体の動きは手や足に比べて、見えにくいのが難点だ。(中略)
「すべての身体表現の源は、胴体にあり」
 人間の、そしてあなたが持っている胴体の能力に驚き、自信を持っていただきたい。

【『スーパーボディを読む ジョーダン、ウッズ、玉三郎の「胴体力」』伊藤昇(マガジンハウス、1998年/改訂版、2011年)】

 体の動きは、伸ばす・縮める、丸める・反る、捻(ねじ)るの三つに集約される。これが伊藤式胴体トレーニングの要諦である。基本的な動きは簡単だ。正座をして頭の後ろで手を組み上半身を左右に動かす。両手を下ろして胸骨を前後に動かす。そして両手を振って左右後方に捻る。「エ?」と思うのが普通の反応だろう。「それがどうした?」と私も思った。

 実際にやってみると直ぐに気づくことだが驚くほど私の胴体は不安定だ。そこでゆっくりとストレッチを行う要領で取り組んだ。更に吉田始史〈よしだ・もとふみ〉が教える動き(『仙骨姿勢講座 仙骨の“コツ”はすべてに通ず』)を取り入れた。体の内側からはまだ声が聞こえてこないが、胴体力とはでんでん太鼓の原理なのだろう。


 持ち手が脚で玉付きの紐が腕と考えれば下半身と胴体のしなやかな動きが高らかな太鼓の音につながる。

 本書はスーパースターの胴体力を解説した内容で具体的な胴体力の手引書ではない。それでも伊藤の目のつけどころが身体(しんたい)への意識を確実に変える。

2019-10-01

筋肉は螺旋状に動く/『カラダのすべてが動き出す!“筋絡調整術” 筋肉を連動させて、全身を一気に動かす秘術』平直行


・『めざめよカラダ! “骨絡調整術" 骨を連動させて、体の深部を動かす秘術』平直行

 ・筋肉は螺旋状に動く

・『触れるだけでカラダの奥が動き出す! 皮絡調整術と無意識領域の運動』平直行
武の思想と知恵 平直行✕北川貴英
柳生心眼流の極意 平直行×菊野克紀

 筋肉は体に真直ぐには付いてはいない。手脚の筋肉は螺旋状になっている。
 だから真直ぐに伸ばすように思えても、実は筋肉は真直ぐではなく螺旋状に動き、その結果として手脚が真直ぐに伸びる。それなのに螺旋を無視して真直ぐに動かそうとしていたら、どうしても動かない部分が出てくる。(中略)
 可動域だけではない。体を捻ると人の体は大きな力が出る構造になっている。

【『カラダのすべてが動き出す!“筋絡調整術” 筋肉を連動させて、全身を一気に動かす秘術』平直行〈たいら・なおゆき〉(BABジャパン、2017年)】

 文章があまりよくない。タイトルも締まりを欠いており冗長だ。「サムライメソッドやわらぎ」というネーミングも不味い。たぶん独創性が完成に向かう途次なのだろう。「螺旋」のイメージは斬新だ。バドミントンのスマッシュで内旋(回内運動)の動きは身につけていたが、体全体を捻(ねじ)るまでには至っていなかった。更に手脚の骨が指先から関節を経るごとに5本~2本~1本となって体幹とつながっているとの指摘には目から鱗が落ちた。

 螺旋とは何か。
 螺旋とは渦(うず)のことである。
 小さなものでは原子核の周囲を運動する電子の回転(スピン)、または田螺(たにし)のような巻貝から、大きなものでは、最大直径16万光年にもおよぶ我々の属する銀河系のようなひとつの渦状星雲に至るまで、あらゆるものが渦を巻いている。
 それを捜し、集めるのがわたしの趣味なのだ。

【『上弦の月を喰べる獅子』夢枕獏(早川書房、1989年/ハヤカワ文庫、1995年)】

 生命の設計図であるDNAも螺旋を描く。宇宙の本質は回転と速度にあるのだろう。スポーツ競技の中でこれほど球技の占める割合が大きいのも「回転への憧憬」と考えてよさそうだ。

「柳生心眼流の素振り」に興味を抱いたのだが如何せんやり方がわからず。多分この動画がそうか。


 簡単にできそうにない。空手の三戦(さんちん)と似たような動きだ。身体(しんたい)の構造からいえば外旋よりも内旋に鍵がありそうだ。

 本書を読んでから思い出しては手脚の内旋運動を行うようにしている。ただ捻(ひね)るだけなのだが想像以上に筋力を使う。ストレートな動きの自重運動は見ようによっては不自然な動きであり、部分的な筋肉の肥大が全体のつながりを阻害するように思われる。武術の基本は体を目覚めさせるところにある。複雑な要素を取り込む必要がありそうだ。


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2019-09-20

つながる武術/『武学入門 武術は身体を脳化する』日野晃


『究極の身体(からだ)』高岡英夫
『フェルデンクライス身体訓練法 からだからこころをひらく』モーシェ・フェルデンクライス
『心をひらく体のレッスン フェルデンクライスの自己開発法』モーシェ・フェルデンクライス
『運動能力は筋肉ではなく骨が9割 THE内発動』川嶋佑
『ウィリアム・フォーサイス、武道家・日野晃に出会う』日野晃、押切伸一
『大野一雄 稽古の言葉』大野一雄著、大野一雄舞踏研究所編

 ・つながる武術

『ことばが劈(ひら)かれるとき』竹内敏晴
『気分爽快!身体革命 だれもが身体のプロフェッショナルになれる!』伊藤昇、飛龍会編
『月刊「秘伝」特別編集 天才・伊藤昇と伊藤式胴体トレーニング「胴体力」入門』月刊「秘伝」編集部編
・『火の呼吸!』小山一夫、安田拡了構成
・『新正体法入門 一瞬でゆがみが取れる矯正の方程式』佐々木繁光監修、橋本馨
・『仙骨姿勢講座 仙骨の“コツ”はすべてに通ず』吉田始史
『ストレス、パニックを消す! 最強の呼吸法システマ・ブリージング』北川貴英

身体革命

 それは自分自身という「身体」そのものが、外からの情報の受信装置であり、自己表現する発信装置そのものだからです。
 そういった「身体」に対して、情報としての刺激を与え、その刺激を知覚していくことが「身体能力の開発」であり、受信発信装置としての精度を高めることです。つまり、そういった情報器官としての「身体」ということを認識し開発していくことで、情報の収集量や発信量を増やし、質的にも高めていくことが出来るのです(「武」で言えば、「聽勁=人と触れ合うことで意識の変化を察知する」他)。
 それを【「身体を脳化する」】と呼んでいます。
 そして、「武」の戦いは一人で成立するものではありません。最低一人の相手が必ずいなければなりません。そこから言えば、【「人間関係」】を学ぶということです。
 そこには自分の自己主張としての意見と、それに対する受け取り側の意見が、攻防という形で明確にあります。
 その攻防という形式から、攻防の目に見えた形を憶えるのではありません。攻防を支える「自分の考え方」や「自分の感情の起伏」「自分が固執しているもの」といった、自分自身そのものを「身体運動」が浮き彫りにします。そこがポイントです。

【『武学入門 武術は身体を脳化する』日野晃(BABジャパン出版局、2000年/新装改訂版、2015年)】

 あの竹内敏晴が序文を寄せている。これだけで信頼に足るというものだ。ところがまだまだ甘かった。初見良昭〈はつみ・まさあき〉や伊藤昇にまで会わせてくれたのだ。人を知ることは人生の至福である。私にとっては運命の書となった。『ウィリアム・フォーサイス、武道家・日野晃に出会う』が「開かれた武術」で、本書は「つながる武術」と位置づけてよい。

 日野晃は独覚(どっかく/縁覚〈えんがく〉)の人である。スポーツと化した現在の空手や柔道に飽き足らず、古文書に直接当たり、試行錯誤を繰り返しながら日本武術を手繰り寄せた。その日野が「最強」と慕う人物が武神館宗家〈ぶじんかんそうけ〉・初見良昭である。

武神館宗家初見良昭師 - 日野武道研究所








 初見はどこにでもいそうなジイサンにしか見えない。全く武張ったところがなく、口調ものんびりと穏やかである。しかし逆にそこが恐ろしい。事が起こった時には平然と相手を殺せる人間なのだろう。必要とあらばどんなことでもやってのける落ち着きに満ちている。

 天才伊藤が「初見宗家の重心はどこにあるのでしょうね?」と訊ね、日野が「見えない」と答える(『天才・伊藤昇と伊藤式胴体トレーニング 「胴体力」入門』月刊『秘伝』編集部)。見る人が見ればそれほどの超人なのだ。

「武」の字義は「夫(そ)れ文に、止戈(しか)を武と為す」(『春秋左氏伝』)とある。長らく「戈(ほこ)を止める」と読まれてきたが、実は「止」の字は趾(あしあと)の形(第19回 人の形から生まれた文字〔4〕 体の部分~手と足(3) | 親子で学ぼう!漢字の成り立ち)で元々は「進む」という意味があった。「歩」の上半分も「止」である。

会意。戈と止とを組み合わせた形。止は趾(あしあと)の形で、甲骨文字の字形は之(ゆく)と同じで、行く、進むの意味がある。戈を持って進む形が武で、それは戈を執って戦うときの歩きかたであるから、“いさましい、たけし、つよい” の意味となる。また戈を持って進む“もののふ、武士”の意味に用いる。

【『常用字解』白川静(平凡社、2012年)】

 詳細については劉暢の論文『「武」の字形研究:武道・武術文化研究の基礎付け』(PDF)が詳しい。尚、検索して知ったのだがスガシカオの本名は「菅止戈男」で父親は「止める」の意味で名付けたようだ。

 元来の武とは進み取りゆく姿であったに違いない。それが江戸時代という太平の世になると武士道に変貌した。行為としての武を抑制し理念・理想に置き換えたのだ。ただし「死ぬこと」をテーマに据えた武士道(『葉隠』)が形而上に向かうことは決してなかった。

 日野の哲学でいえば「往(い)なす」場合は「止める」義になる。つまり平時には往(い)なし、戦時には攻めるのが武の本義であろう。

 尚、「脳化」との表現はあまり好ましくはない。「神経化」とすべきだろう。