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2020-03-30

勝者敗因を秘め、敗者勝因を蔵す/『日本の敗因 歴史は勝つために学ぶ』小室直樹


『新戦争論 “平和主義者”が戦争を起こす』小室直樹
『日本教の社会学』小室直樹、山本七平
『日本国民に告ぐ 誇りなき国家は滅亡する』小室直樹
『陸奥宗光とその時代』岡崎久彦

 ・勝者敗因を秘め、敗者勝因を蔵す

『戦争と平和の世界史 日本人が学ぶべきリアリズム』茂木誠

日本の近代史を学ぶ
必読書リスト その四

 勝者敗因を秘め、敗者勝因を蔵(ぞう)す。
 勝った戦争にも敗(ま)けたかもしれない敗因が秘められている。敗けた戦争にも再思三考(さいしさんこう)すれば勝てたとの可能性もある。
 これを探求して発見することにこそ勝利の秘訣(ひけつ)がある。成功の鍵(かぎ)がある。行き詰まり打開の解答がある。これが歴史の要諦(ようてい)である。(まえがき)

【『日本の敗因 歴史は勝つために学ぶ』小室直樹〈こむろ・なおき〉(講談社、2000年/講談社+α文庫、2001年)以下同】

 21世紀の日中戦争はもはや時間の問題である。マーケットはチャイナウイルス・ショックの惨状を呈しており、4月に底を打ったとしても実体経済に及ぼす影響は計り知れない。既にアメリカでは資金ショートした企業が出た模様。既に東京オリンピックの延期が決定されたが、国民全員が納得せざるを得なくなるほど株価は下落することだろう。そして追い込まれた格好の中国が国内の民主化を抑え込む形で外に向かって暴発するに違いない。

 小室直樹は学問の人であった。自分の知識を惜し気(げ)もなく若い学生に与え、後進の育成に努めた。赤貧洗うが如き生活が長く続いた。あまりの不如意に胸を痛めた編集者が小室に本を書かせた。こうしてやっと人並みの生活を送れるようになった。日本という国には昔から有為な人材を活用できない欠点がある。小室がもっと長生きしたならば中国が目をつけたことと私は想像する。

 日本はアメリカの物量に敗(ま)けたのではない。たとえば、ミッドウェー海戦において、日本は物量的に圧倒的に優勢だった。それでも日本は敗けた。ソロモン消耗戦においても、アメリカの物量に圧倒されないで、勝つチャンスはいくらでもあった。
「勝機(しょうき/勝つチャンス)あれども飛機(ひき/飛行機)なし」などと、日本軍部は、勝てない理由を飛行機不足のせいにしたが、この当時、ソロモン海域(ウォーターズ)における日本の飛行機数はアメリカに比べて、必ずしもそれほど不足してはいなかった。
 アメリカの物量に敗けた。これは、敗戦責任を逃れるための軍部の口実にすぎない。
 あの戦争は、無謀な戦争だったのか、それとも無謀な戦争ではなかったのか。答えをひとことでいうと、やはり、あの戦争は無謀きわまりない戦争だった。
 しかし、無謀とは、小さな日本が巨大なアメリカに立ち向かったということではない。腐朽官僚(ロトン・ビューロクラシー)に支配されたまま、戦争という生死の冒険に突入したこと。それが無謀だったのである。
 明治に始まった日本の官僚制度は、時とともに制度疲労が進み、ついに腐朽(ふきゅう)して、機能しなくなった。軍事官僚制も例外ではない。いや、軍事官僚制こそが、腐朽して動きがとれなくなった。典型的なロトン・ビューロクラシーであった。
 そんな軍部のままに戦争に突入したのは、たしかに無謀だった。その意味で、あの戦争は「無謀」だったのである。

 大東亜戦争の敗因が腐朽官僚にあったとすれば、戦後の日本は「敗者敗因を重ねる」有り様になってはいないだろうか。特に税の不平等が極めつけである。官僚は省益のために働き、天下りを目指して働いている。巨大な白蟻といってよい。日本のエリートがエゴイズムに傾くのは教育に問題があるのだろう。やはり東大が癌だ。

 侍(さむらい)は官僚であった。語源の「侍(さぶら)ふ」は服従する意だ。責任を問われれば切腹を命じられた。個人的には主従の関係性を重んじるところに武士道の限界があると思う。主君が道に背けば大いに諌め、時に斬り捨てることがあってもいいだろう。

 日本は談合社会であり腐敗しやすい体質を抱えている。特に戦後長く続いた自民党の一党支配は政治家を堕落させた。金券腐敗は田中角栄の時代に極まった。そんな政治家に仕えている官僚が腐敗せずにいることは難しい。政官の後を追うように業も落ちぶれたのはバブル崩壊後のこと。日本からノブレス・オブリージュは消えた。

 国防を真剣に考えることのない国民によって国家は脆弱の度を増す。この国の国民は隣国からミサイルが飛んできても平和憲法にしがみついて安閑と過ごしている。日中戦争は必至と考えるが、負けるような気がしてきた。

2020-03-15

「シナ」と「中国」の区別/『封印の昭和史 [戦後五〇年]自虐の終焉』小室直樹、渡部昇一


・『危機の構造 日本社会崩壊のモデル』小室直樹
『新戦争論 “平和主義者”が戦争を起こす』小室直樹
『悪の戦争学 国際政治のもう一つの読み方』倉前盛通
『日本教の社会学』小室直樹、山本七平
『税高くして民滅び、国亡ぶ』渡部昇一

 ・「シナ」と「中国」の区別

『日本国民に告ぐ 誇りなき国家は滅亡する』小室直樹
・『世紀末・戦争の構造 国際法知らずの日本人へ』小室直樹
・『日本の敗因 歴史は勝つために学ぶ』小室直樹
・『新世紀への英知 われわれは、何を考え何をなすべきか』渡部昇一、谷沢永一、小室直樹

〔付記〕

 対談の中で、「シナ」と「中国」は区別して用いた。中国は中華人民共和国や中華民国の略称としてのみ正当と言うべきであり、地理的、文化的概念としては用いることはできない。地理的概念、あるいは古代以来の文化的概念を指す場合は、「シナ」(英語のチャイナ)を用いることが正当であると、私は考える。中国という言葉の背景には、外国を夷狄戎蛮(いてきじゅうばん)と見なし、自らを高いものとする外国蔑視がある。
 また、コリアという擁護は、現在の北朝鮮、大韓民国の双方を含んで呼ぶ場合や、朝鮮半島を地理的概念として呼ぶ場合に用いている。
渡部昇一


【『封印の昭和史 [戦後五〇年]自虐の終焉』小室直樹〈こむろ・なおき〉、渡部昇一〈わたなべ・しょういち〉(徳間書店、1995年)】

 かつて石原慎太郎が「三国人」(2000年)とか「シナ」(2012年)とか言って問題にされたことがある。この発言をヘイトスピーチの嚆矢(こうし)とする人もいる。私自身、報道を真に受けて問題だと考えていた。本書を読むまでは。冒頭の付記で日本を取り巻く言論情況が一瞬にして理解できた。ちょっと考えてみれば誰でも気づくことだが「東シナ海」や「支那そば」に差別意識は全くない。「支那(しな)とは、中国またはその一部の地域に対して用いられる地理的呼称、あるいは王朝・政権の名を超えた通史的な呼称の一つである。日本では、江戸時代中期から第二次世界大戦末期まで広く用いられていた」(Wikipedia)。

 中華思想によれば朝廷に帰順しない民族は東夷(とうい)・北狄(ほくてき)・西戎(せいじゅう)・南蛮(なんばん)と呼ばれ、禽獣(きんじゅう)と同じ扱いを受ける(四夷)。つまり我々が中国と呼ぶことは日本人を東夷と貶(おとし)めていることに通じる。

都市革命から枢軸文明が生まれた/『一神教の闇 アニミズムの復権』安田喜憲

 現在左翼が糾弾するヘイトスピーチは在特会(在日特権を許さない市民の会)が始めたものだ。彼らはコリアンタウンで「良い韓国人も悪い韓国人もどちらも殺せ」「朝鮮人首吊レ毒飲メ飛ビ降リロ」などと書いたプラカードを掲げ、「殺せ、殺せ!」と街宣活動を行った。



「不逞鮮人を死ぬまで追い込め」「朝鮮人をガス室に送り込め」「朝鮮人なんて人間じゃないぞ」…今日の新大久保・嫌韓デモで飛び交った醜悪なシュプレヒコールをあえて記す。許さないためにも。

「ばーかばーか」「あっかんべー」とはデモのコーラーが用いていた表現です。この他、「ウジ虫」「ゴキブリ」「殺せ殺せ」「死ね」「不逞朝鮮 人を死ぬまで追い込むぞ」「ガス室に朝鮮人を叩き込め」「ぶさいく」「クサレマンコ」等の聞く(読む)に堪えない表現が多数用いられています。

日刊ベリタ : 記事 : 新大久保でまたもや在特会デモ  2月9日、「良い韓国人も 悪い韓国人も どちらも殺せ」のプラカード掲げ

 百田尚樹は桜井誠の選挙演説を「カッコいいね」と称えた。竹田恒泰は「(在特会の主張は)部分的には正しいことも言っている」とテレビで語った。彼らの性根が垣間見えた瞬間である。

 新しい歴史教科書をつくる会が結成される2年前に週刊文春編『徹底追及 「言葉狩り」と差別』(文藝春秋、1994年)が出た。『週刊金曜日』の創刊が1993年である。失われた20年はリベラルな雰囲気に包まれた時代であった。折しも1986年に施行された男女雇用機会均等法によって看護婦・スチュワーデス・保母さんが禁句となった。そういえば径書房〈こみちしょぼう〉編『『ちびくろサンボ』絶版を考える』(径書房、1990年)を読んだのもこの頃だ。ダッコちゃん人形が製造停止(1988年)となり、カルピスのマークも使用停止(1990年)に追い込まれた(黒人差別をなくす会)。

 平等を極限まで推し進めて古い伝統や文化を破壊するのが左翼の手口である。「言葉狩り」に異を唱えた書籍は他にもあったが、まだまだ左派系作家の影響が大きかった。現在でも『「徘徊」使いません 当事者の声踏まえ、見直しの動き』(朝日新聞デジタル、2018年3月24日)といった記事からも明らかなように一部の声を居丈高に拡大して言葉狩りを行っている。

 戦時中の「シナ人」という言葉に差別感情があったのは確かだろう。だが、「中国」という言葉が中華民国(現在の台湾)と中華人民共和国の違いすら見えなくし、第二次世界大戦後に建国された中華人民共和国があたかも戦勝国の一員であったかのような錯覚を抱かせる現状を思えば、我々はもっと歴史に忠実であるべきだ。青少年に反日教育を施す中国や韓国に遠慮するのは実に馬鹿げた行為だ。

2020-01-17

インディアンは「真の人間」か?/『世界史とヨーロッパ ヘロドトスからウォーラーステインまで』岡崎勝世


『聖書vs.世界史 キリスト教的歴史観とは何か』岡崎勝世

 ・インディアンは「真の人間」か?

・『4日間集中講座 世界史を動かした思想家たちの格闘 ソクラテスからニーチェまで』茂木誠
『科学vs.キリスト教 世界史の転換』岡崎勝世
『世界システム論講義 ヨーロッパと近代世界』川北稔

キリスト教を知るための書籍
世界史の教科書

 他方、「発見」された「人間」について、さっそくヨーロッパで論議が巻き起こりました。それは、新大陸で「発見」されたアメリカのインディオたちが「真の人間」であるか否かといった議論です。これに一つの決着を与えたのが、ローマ教皇パウロ3世でした。かれは1537年の教書で次のように宣言したのです。
〈アメリカ・インディアンも私たちと同様、真の人間である。彼らはカトリックの教えを理解できるだけでなく、またそれを受け容れようと熱望している〉(筆者訳)
 ローマ教皇が断言したようにインディオが「真の人間」、アダムの子孫であるとしても、なお残された問題をめぐって、16世紀ヨーロッパで、普遍史の根幹に関わる二つの論戦が引き起こされています。
 一つは、インディオが「アダム」の子孫だとしても、【直接の祖先】はだれか、【「新大陸」への経路】はなにかという問題に関する論戦でした。(中略)
 もう一つの論戦は、笑ってはすまされない問題を含んでいます。それは、1550年、スペインで行われた【「バリャドリードの論戦」】です。この論戦では、インディオが真の人間であるとしても、いかなる意味で真の人間なのかが公開論争で争われたのです。ヨーロッパ人と全く同様な真の人間と主張したのは、インディオ保護法制定のために闘った、有名なラス・カサスでした。これに反対したのが、セプルベダというアリストテレス学者で、かれはアリストテレスの先天的奴隷論に依拠しながら、かれらを先天的に劣った人間であると主張したのです。

【『世界史とヨーロッパ ヘロドトスからウォーラーステインまで』岡崎勝世〈おかざき・かつよ〉(講談社現代新書、2003年)】

 先ほど読み終えたのだが画像ファイルを調べたところ再読であることを知った。完全に記憶から欠落している。3年前に読んでいた。岡田英弘と岡崎勝世に外れはない。どれを読んでも新しい発見がある。

“インディアンは「真の人間」か?”との問いそのものにヨーロッパの傲慢がある。つまり有色人種が人間かどうかを判断するのはヨーロッパ人なのだ。根はユダヤ教の選民思想にあるのだろう。その思い上がりに唯一抵抗したのが極東の日本であった。

 日本は世界最大の軍事力を背景に鎖国をした(『戦国日本と大航海時代 秀吉・家康・政宗の外交戦略』平川新)。開国後もわずか数十年で産業革命の技術を自家薬籠中(じかやくろうちゅう)のものとした。速やかに文明国になるべく国軍を創設し、義務教育を施行し、憲法を制定した。日清戦争に打って出るとヨーロッパで黄禍論(おうかろん)が唱えられた。「黄色い猿は人間の真似をするな」というわけだ。

 東亜百年戦争で武士は亡んだ。軍事力も奪われた。日本は今も尚国家として独立することを許されていない。“日本は「真の国家」か?”と問われれば、「否」と答える他ない。

2020-01-13

社会学を騙る悪書/『ネット右派の歴史社会学 アンダーグラウンド平成史1990-2000年代』伊藤昌亮


「ネット右翼」という語にしても、1990年代後半に成立した彼ら独自の言説の場「ネット右派理論」ではすでにしばしば用いられていたものだ。たとえば99年4月に結成されたネット上の右翼団体「鐵扇會」に関連し、この語が用いられていたことを示す記録も現存している。当時、「J右翼」「サイバー右翼」など、いくつかの類語の間を揺れ動きながらも次第にこの語が、そしてこの現象が定着していったという経緯がある。

【『ネット右派の歴史社会学 アンダーグラウンド平成史1990-2000年代』伊藤昌亮〈いとう・まさあき〉(青弓社、2019年)以下同】

 社会学を騙(かた)る悪書だ。最初のページで露見している。

 はじめに

   「ネトウヨの妄言」を軽蔑する前に

 書籍のタイトルは出版社が会議で決めるのが普通だ。とすれば冒頭の表題に伊藤昌亮の本音が出たと考えてよい。

 しかし1991年ごろからそこでは右寄りの論調の記事が徐々に目につくようになる。やがて数々の特集とともにそれらが前面に押し出されるようになり、それに伴って雑誌全体としても、あたかも保守派の新しいオピニオン誌であるかのような趣が強く打ち出されるようになった。特に90年代半ば以降は、小林(よしのり)をはじめとする保守派の新しい論者の一大拠点となるに至る。こうして90年代を通じて徐々に「右傾化」していき、2000年代になるころには新種の「タカ派」雑誌として広く認知されるに至った『SAPIO』だが、ではそうした変化はどのような経緯で引き起こされたものだったのだろうか。

 本来であればその背景を探るのが社会学の仕事なのだが、伊藤にとっては「ネトウヨ」こそが問題であり、一部の行き過ぎた差別発言をあげつらうことで、保守層から安倍首相を支持する人々までをこき下ろすところに目的があるのだろう。

 そもそも高々20~30年の出来事を「歴史社会学」とは言わない。国政を俯瞰すると自民党こそが実は社会民主主義を実践してきた歴史がある。国際基準で見れば自民党は中道左派といってよい。それが証拠に小泉政権が誕生するまで日本は「大きな政府」であり続けた。また実際自民党内には右から左までの政治家を網羅しており、政策を決定する段階の議論で国会質疑以上に政策が練られてきた。改憲勢力ではない公明党が与党入りしてからは更にブレーキの効きが強くなった。

 ネット右派の功績は敗戦以降、ひた隠しにされてきた日本の近代史に目を開かせたことであろう。そして1996年に「新しい歴史教科書をつくる会」が結成され、1998年には『新・ゴーマニズム宣言SPECIAL 戦争論』(小林よしのり作)が刊行された。当時は「保守=右翼」と見られていた。私自身そう思っていた。圧倒的な逆風が取り巻いていた。

 2004年にはチャンネル桜が開局。保守系論壇の人材を結集した功績は見逃せない。チャンネル桜が「虎ノ門ニュース」や「報道特注(右)」に道を開いたといっても過言ではない。

 伊藤昌亮は致命的な勘違いをしている。今語るべきは左翼である。左翼の鬱屈した感情を満たすだけの学問は恐ろしく不毛である。

2019-12-31

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 今年は稀に見る豊作であった。手にした本は500冊強。読了したのは180冊ほどか。読書日記が書けていないので多目に紹介する。いずれも必読書・教科書本で、特にベスト10については甲乙つけがたく僅差の違いしかない。6歳から本を読み始めて丁度半世紀を経たわけだが、本に導かれて歩んできた道が妙味を帯びてきた。尚、『悪の論理』は三度読み、他の倉前本は二度読んでいる。

『許されざる者』レイフ・GW・ペーション
・『運転者 未来を変える過去からの使者』喜多川泰
・『泣き虫しょったんの奇跡 サラリーマンから将棋のプロへ』瀬川晶司
『将棋の子』大崎善生
・『したたかな寄生 脳と体を乗っ取る恐ろしくも美しい生き様』成田聡子
『野菜は小さい方を選びなさい』岡本よりたか
・『オオカミ少女はいなかった スキャンダラスな心理学』鈴木光太郎
・『森林飽和 国土の変貌を考える』太田猛彦
『ペトロダラー戦争 イラク戦争の秘密、そしてドルとエネルギーの未来』ウィリアム・R・クラーク
・『人類の起源、宗教の誕生 ホモ・サピエンスの「信じる心」が生まれたとき』山極寿一、小原克博
・『医学常識はウソだらけ 分子生物学が明かす「生命の法則」』三石巌
・『宇宙は「もつれ」でできている 「量子論最大の難問」はどう解き明かされたか』ルイーザ・ギルダー
『「わかる」とはどういうことか 認識の脳科学』山鳥重
『アルツハイマー病 真実と終焉 “認知症1150万人”時代の革命的治療プログラム』デール・ブレデセン
・『やさしい図解 「川平法」歩行編 楽に立ち、なめらかに歩く 決定版!家庭でできる脳卒中片マヒのリハビリ』川平和美監修
『ベッドの上でもできる 実用介護ヨーガ』成瀬雅春
・『寡黙なる巨人多田富雄
・『56歳でフルマラソン 62歳で100キロマラソン』江上剛
・『走れ!マンガ家 ひぃこらサブスリー 運動オンチで85kg 52歳フルマラソン挑戦記!』みやすのんき
『あなたの歩き方が劇的に変わる! 驚異の大転子ウォーキング』みやすのんき
・『体の知性を取り戻す』尹雄大
『ウィリアム・フォーサイス、武道家・日野晃に出会う』日野晃、押切伸一
『月刊「秘伝」特別編集 天才・伊藤昇と伊藤式胴体トレーニング「胴体力」入門』月刊「秘伝」編集部編
『鉄人を創る肥田式強健術』高木一行
・『日本の弓術』オイゲン・ヘリゲル:柴田治三郎訳
・『1日10分で自分を浄化する方法 マインドフルネス瞑想入門』吉田昌生
・『戦争と平和の世界史 日本人が学ぶべきリアリズム』『経済は世界史から学べ!』『ニュースの“なぜ?”は世界史に学べ 日本人が知らない100の疑問』茂木誠
・『日教組』『左翼老人』『自治労の正体』森口朗
・『これでも公共放送かNHK! 君たちに受信料徴収の資格などない』小山和伸
・『誰が国賊か 今、「エリートの罪」を裁くとき』谷沢永一、渡部昇一
・『「よど号」事件最後の謎を解く 対策本部事務局長の回想』島田滋敏
・『忘却の引揚げ史 泉靖一と二日市保養所』下川正晴
『シベリア抑留 日本人はどんな目に遭ったのか』長勢了治
『評伝 小室直樹』村上篤直
『中国古典名言事典』諸橋轍次
『乃木大将と日本人』スタンレー・ウォシュバン
・『陸奥宗光』『重光・東郷とその時代』『吉田茂とその時代 敗戦とは』岡崎久彦
・『なぜニッポンは歴史戦に負け続けるのか中西輝政、西岡力
・『英霊の聲』三島由紀夫
・『自衛隊幻想 拉致問題から考える安全保障と憲法改正』荒木和博、荒谷卓、伊藤祐靖、予備役ブルーリボンの会
・『奇蹟の今上天皇』『アメリカの標的 日本はレーガンに狙われている』『韓国の呪い 広がるばかりの日本との差』『アメリカの逆襲 宿命の対決に日本は勝てるか』小室直樹

 10位 倉前盛通『悪の論理』『新・悪の論理』『情報社会のテロと祭祀 その悪の解析』『悪の運命学 ひとを動かし、自分を律する強者のシナリオ』『悪の戦争学 国際政治のもう一つの読み方
 9位 『徳の起源 他人をおもいやる遺伝子』マット・リドレー
 8位 『アルツハイマー病は治る 早期から始める認知症治療』ミヒャエル・ネールス
 7位 『失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織』マシュー・サイド
 6位 『あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れはじめた』アランナ・コリン
 5位 『心を操る寄生生物 感情から文化・社会まで』キャスリン・マコーリフ
 4位 『遺伝子 親密なる人類史』シッダールタ・ムカジー
 3位 『死すべき定め 死にゆく人に何ができるか』アトゥール・ガワンデ
 2位 『アナタはなぜチェックリストを使わないのか? 重大な局面で“正しい決断”をする方法』アトゥール・ガワンデ
 1位 『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』ユヴァル・ノア・ハラリ

2019-12-21

21世紀の「立正安国論」/『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』ユヴァル・ノア・ハラリ


『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ
『文化がヒトを進化させた 人類の繁栄と〈文化-遺伝子革命〉』ジョセフ・ヘンリック
『家畜化という進化 人間はいかに動物を変えたか』リチャード・C・フランシス
『人類史のなかの定住革命』西田正規
『反穀物の人類史 国家誕生のディープヒストリー』ジェームズ・C・スコット
『動物感覚 アニマル・マインドを読み解く』テンプル・グランディン、キャサリン・ジョンソン
『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ
『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ
『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル
『AIは人類を駆逐するのか? 自律(オートノミー)世界の到来』太田裕朗
『Beyond Human 超人類の時代へ 今、医療テクノロジーの最先端で』イブ・ヘロルド
『ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、ケネス・クキエ

 ・21世紀の「立正安国論」

『21 Lessons 21世紀の人類のための21の思考』ユヴァル・ノア・ハラリ
『われわれは仮想世界を生きている AI社会のその先の未来を描く「シミュレーション仮説」』リズワン・バーク

情報とアルゴリズム
必読書リスト その五

 3000年紀(西暦2001~3000年)の夜明けに、人類は目覚め、伸びをし、目を擦る。恐ろしい悪夢の名残が依然として頭の中を漂っている。「有刺鉄線やら巨大なキノコ雲やらが出てきたような気がするが、まあ、ただの悪い夢さ」。人類はバスルームに行き、顔を洗い、鏡で顔の皺(しわ)を点検し、コーヒーを淹(い)れ、手帳を開く。「さて、今日やるべきことは」
 その答えは、何千年にもわたって不変だった。20世紀の中国でも、中世のインドでも、古代のエジプトでも、人々は同じ三つの問題で頭がいっぱいだった。すなわち、飢饉と疫病と戦争で、これらがつねに、取り組むべきことのリストの上位を占めていた。人間は幾世代ともなく、ありとあらゆる神や天使や聖人に祈り、無数の道具や組織や社会制度を考案してきた。それにもかかわらず、飢餓や感染症や暴力のせいで厖大(ぼうだい)な数の人が命を落とし続けた。そこで多くの思想家や預言者は、飢饉と疫病と戦争は神による宇宙の構想(訳註 本書で言う「宇宙の構想」とは、全能の神あるいは自然の永遠の摂理が用意したとされる、全宇宙のための広大無辺で、人間の力の及ばない筋書きを意味する)にとって不可欠の要素である。あるいは、人間の性質と不可分のものである。したがって、この世の終わりまで私たちがそれらから解放されることはないだろう。

【『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』ユヴァル・ノア・ハラリ:柴田裕之〈しばた・やすし〉訳(河出書房新社、2018年)】

 冒頭のテキストである。既に紹介した通り本書はS・N・ゴエンカに捧げられている。とすれば本書は歴史や文明の研究を目的に書かれたものではないだろう。むしろそれらを俯瞰し、点に見えるほどの高い抽象度に向かう瞑想の流れを記述したに違いない。

 ホモ・デウスとは「神の人」の謂(いい)である。前作ではホモ・サピエンスの壮大な歴史を記し、本書では神へと進化する人類の様相を遠望するが、レイ・カーツワイルとは全く異なるディストピアが描かれている。

「飢饉と疫病と戦争」の克服は日蓮が「立正安国論」に掲げたテーマだ。三災七難三災(穀貴〈こっき〉、兵革〈ひょうかく〉、疫病〈えきびょう〉)が完全に符合する。

 骨子は似ていてもハラリは「安国」との結論は提示しない。むしろ人類がデータ化される暗然たる未来を示すだけだ。先に瞑想と書いたがハラリは「見る」ことに徹している。

 ページをめくると直ぐにわかることだが日蓮が生きた鎌倉時代(13世紀)からすれば、我々が生きる世紀は既に三災を克服しつつある。核兵器が登場してから抑止力が機能し大きな戦争はなくなった。飢餓も激減し、100万単位の人々が死ぬような疫病もない(参照『FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド)。

 ハラリは本書を40歳で書き上げ、日蓮が「立正安国論」を認(したた)めた39歳とほぼ同齢であるのも興味深い一致だ。日蓮は最明寺入道(北条時頼)に「邪宗への布施を止めて正法(しょうほう/法華経)に帰依せよ」と迫った。日蓮は公場対決(こうじょうたいけつ/公開討論)を望んだが果たせなかった。その意味では対話の人といえるが鎌倉時代ゆえか政治意識がファシズムの域を出ていない。一方ハラリは人類の特長を知性に求めればデータ化されることは必然であると説く。知性が人を支配すると考えれば、実はこれもまたファシズムなのである。

 かつては政治家や学者が「社会の知性」と思われていた。いまだに学歴が重んじられるのも知性重視と考えてよかろう。結局のところ自分より有能な人物に社会の重責を担ってもらいたいと望む精神はファシズムの方向を向いていると言ってよい。民主政と選挙はセットになっているが社会において多数決で物事を決めることはまずない。誰もが民主的な運営は正しいと思いながらも全員で判断を下すことはないのだ。株式会社はやや民主政の要素を取り入れているが実態はファシズムだ。このように知性を重視すればやがてデータに行き着く。AI(人工知能)はビッグデータから相関関係を読み解く。チェスはおろか将棋や囲碁に至るまでAIは人間を打ち負かした。

 日蓮はマントラの人であり、ハラリはヴィパッサナー瞑想の実践者だ。修行の次元ではハラリが勝(まさ)る。

 ハラリの予想と前後してヒトバイクロオームが注目されるようになった。これを私は「知性から腸への回帰」と見る。「頭から肚(はら)へ」と言ってもよい。身体(しんたい)の見直しは古武術に対する脚光や、スポーツで体幹が重視されるようになった事実が雄弁に物語っている。

 私はそれほど未来を悲観していない。人類が岐路に立つ今、知性から野生へと生き方を変えてはどうか。

2019-12-02

ロックフェラーとニュー・ワールド・オーダー/『悪の宗教パワー 日本と世界を動かす悪の論理』倉前盛通


『小室直樹vs倉前盛通 世界戦略を語る』世界戦略研究所編
『悪の論理 ゲオポリティク(地政学)とは何か』倉前盛通
『新・悪の論理』倉前盛通
『西洋一神教の世界 竹山道雄セレクションII』竹山道雄:平川祐弘編
『情報社会のテロと祭祀 その悪の解析』倉前盛通
『自然観と科学思想』倉前盛通
『悪の超心理学(マインド・コントロール) 米ソが開発した恐怖の“秘密兵器”』倉前盛通
『悪の運命学 ひとを動かし、自分を律する強者のシナリオ』倉前盛通
『悪の戦争学 国際政治のもう一つの読み方』倉前盛通
『新戦争論 “平和主義者”が戦争を起こす』小室直樹

 ・ロックフェラーとニュー・ワールド・オーダー

 現在アメリカで最も有名なジャーナリストのひとりであり、スタンフォード大学で歴史を学び、後にカリフォルニア州立大学で国際問題を研究したゲイリー・カレン著の『ロックフェラー・ファイル』の次の一文が目をひく。
“現在、ロックフェラー・グループは、世界の大衆を着実に「大合併」へと導くために、計画的に人口問題、石油危機、食糧危機、あるいは通貨不安を演出し、これらの「危機」を打開するためには「国際管理」が必要であると我々に訴えている。この驚くべき計画を立案するためにあたり、その基礎をほとんど手がけたのが、かの有名なキッシンジャー博士だ”

【『悪の宗教パワー 日本と世界を動かす悪の論理』倉前盛通〈くらまえ・もりみち〉(広済堂ブックス、1986年)】

「ゲイリー・カレン」となっているが正しくはゲイリー・アレンのようだ(『The Rockefeller File』/『ロックフェラー帝国の陰謀 見えざる世界政府 Part1』『ロックフェラー帝国の陰謀 見えざる世界政府 Part2』高橋良典訳、自由国民社、1984年、1986年)。

 ロックフェラーとロスチャイルドを比較したのが以下の図である。


 所謂「ニュー・ワールド・オーダー」(新世界秩序)である。この言葉はジョージ・H・W・ブッシュ大統領が湾岸戦争前に連邦議会で行った『新世界秩序へ向けて』というスピーチで有名になった。それが1990年の9月11日であったことから9.11テロ陰謀説が唱えられるようになった経緯がある。

 1989年にベルリンの壁が崩壊し、翌1990年にドイツが統一される。同年、マルタ会談にて冷戦の終結が宣言され、1991年にソ連が解体された。よく憶えている。私は20代後半だった。日本はバブル景気に浮かれて世間全体が祭りのような熱気に包まれていた。ビル・クリントン大統領が対日経済戦争を布告し、日本の富はあっという間に簒奪(さんだつ)され“失われた20年”が始まるのである(『この国の権力中枢を握る者は誰か』菅沼光弘)。

 アメリカはアジア・中東で好き勝手に戦争を行い、9.11テロ後は対テロの名目で経済制裁を加え、その一方で民主化を扇動してきた。カラー革命に資金援助をしていたのはジョージ・ソロスである。民主化さえ実現できれば後は金融とメディアで望む方向に動かすことができる。ユダヤ財閥はそう考える。

 キッシンジャーはロックフェラー家の番頭のような存在だ。日本にとって最大の問題はG2構想が生きているのかどうかである。私はなくなっていないと考える。米中貿易戦争はヤラセだろう。アメリカが世界から退いて保護主義に向かっているわけだから、その分中国が前に出るのは当然だろう。沖縄から米軍が撤退するのも数年以内のことと思われる。

 第二次世界大戦以降、「東アジアを不安定にする」のがアメリカの戦略であった。日本を取り巻く島嶼(とうしょ)部の国土紛争もアメリカが蒔(ま)いていった種だ。

 9.11テロを経て「世界は多極化に向かう」というのが玄人(くろうと)筋の見立てであった。多極化には必ず紛争が伴うがそれを予測する人を私は知らない。東アジアと中東で戦乱が起こるのは必至だろう。

 話は変わるがユダヤ資本に牛耳られた世界を変えようとして誕生したのがビットコインであった(『デジタル・ゴールド ビットコイン、その知られざる物語』ナサニエル・ポッパー)。

 ヨーロッパに銀行大帝国を築いたロスチャイルド家の兄弟の母は、戦争の勃発を恐れた知り合いの夫人に対して「心配にはおよびませんよ。息子たちがお金を出さないかぎり戦争は起こりませんからね」と答えたという。

【『嬉遊曲、鳴りやまず 斎藤秀雄の生涯』中丸美繪〈なかまる・よしえ〉(新潮社、1996年/新潮文庫、2002年)】

 テクノロジーが世界を変えようとした試みは呆気なく頓挫した。ビットコインの流通を許せば銀行システムは不要となる。そんな真似を彼らが許すはずもない。

 欧米の超エスタブリッシュメントが今も尚、ワン・ワールド体制を目指しているのかどうかはわからない。ただドルを見捨てることだけは明らかだろう。

日比谷焼打事件でマッチポンプを行い発行部数を伸ばした朝日新聞/『悪の戦争学 国際政治のもう一つの読み方』倉前盛通


『小室直樹vs倉前盛通 世界戦略を語る』世界戦略研究所編
『悪の論理 ゲオポリティク(地政学)とは何か』倉前盛通
『新・悪の論理』倉前盛通
『西洋一神教の世界 竹山道雄セレクションII』竹山道雄:平川祐弘編
『情報社会のテロと祭祀 その悪の解析』倉前盛通
『自然観と科学思想』倉前盛通
『悪の超心理学(マインド・コントロール) 米ソが開発した恐怖の“秘密兵器”』倉前盛通
『悪の運命学 ひとを動かし、自分を律する強者のシナリオ』倉前盛通

 ・日比谷焼打事件でマッチポンプを行い発行部数を伸ばした朝日新聞

『新戦争論 “平和主義者”が戦争を起こす』小室直樹
『戦争と平和の世界史 日本人が学ぶべきリアリズム』茂木誠
『悪の宗教パワー 日本と世界を動かす悪の論理』倉前盛通

日本の近代史を学ぶ
必読書リスト その四

 志賀直哉というたいへん高名であるが、そのじつ、たいへん愚かな老文士がいる。彼は日本が敗北した直後、「日本語は野蛮だからフランス語を国語にすべきである」と国会で述べた。いやしくも文筆をもって身を立ててきた人間でありながら、これほど軽蔑すべき人間はいないと私は今でも考えている。
「あれは一時の気の迷いだった」とあとで言ったそうだが、それは日本が復興してからのことである。
 このような輩が国家の指導的地位を占めるとき、その国は大戦略を誤まって敗北の戦(いくさ)をたたかう破目に落ちる。もし日本が勝っていたら、志賀直哉は「日本語は世界で一番すぐれた言葉だから、世界中の人間に強制し、全部日本語に変えるべきだ」と言ったに違いない。今も昔も、このような無節操なお調子者が国を誤まるのだ。
 戦争学といっても特別なものではなく、人間の本性をよく見きわめ、人間集団がいかに愚かな行為をくり返すものかという歴史の教訓を知ることにつきよう。

【『悪の戦争学 国際政治のもう一つの読み方』倉前盛通〈くらまえ・もりみち〉(太陽企画出版、1984年)以下同】

「小説の神様」と呼ばれた人物が日本語を捨てようとした事実を私は知らなかった。戦争という極限状況は人々の性根を炙(あぶ)り出した。生き延びようとする本能に急(せ)かされる時、論理は見過ごされ、過去は無視される。特に日本人の場合、いつまで経っても「お上には逆らえない」との意識が強く、敗戦後は天皇陛下からマッカーサーに乗り換えた人々も多かった。日本語に見切りをつけたのは志賀直哉だけではない。ローマ字表記にすべきだという意見も堂々と主張された。実に敗戦は惨めなものである。

 日露戦争が終結した明治38年9月5日、東京・日比谷で開かれた日露講和反対国民大会が暴動化した。暴徒と化した市民は、政府のロシアに対する弱腰を批判し、政府系新聞社、交番、馬車などを焼打ちしたのである。さらに、講和反対国民大会は全国各地に拡がっていった。
 このとき、もっとも無責任な講和反対論を掲げて世論に媚び、部数を増やしたのが、ほかならぬ朝日新聞だったことを、私どもはよくよく覚えておく必要がある。
 だが、時の首相・桂太郎は断固とした態度でこれに臨み、軍隊を出動させて民衆を鎮圧した。さらに、9月6日から11月29日のあいだ、東京に戒厳令を敷いてきびしい姿勢を示したのである。
 日本がなぜロシアと講和するのか、国民は真相を知らされていなかった。勝っているはずの日本である。なぜ徹底的にロシアを叩きのめさないのか。国民が不思議に感じ、政府が弱腰なのだと受けとめたのも、無理からぬところがあった。
 だが、日本政府のトップとしては、もうこれ以上ロシアと戦争を続けるだけの国力が残っていないことを、じゅうぶんに知っていた。だから、講和に踏み切ったのである。まさか国民に、もう弾が尽きはてたなどと真相を打ち明けるわけにはいかない。国家としての正しい選択を実行するために、桂首相はあえて涙をのんで、軍隊に民衆を鎮圧させたのである。
 朝日新聞の上層部は、このことを知らされていた。にもかかわらず部数を増やすため、世論を扇動した。まさに商業新聞の権化というにふさわしい。

朝日新聞の変節/『さらば群青 回想は逆光の中にあり』野村秋介

 日比谷焼打事件は知っていたが朝日新聞のマッチポンプは知らなかった。かつては社会の木鐸(ぼくたく)と称した新聞だが、一度でも社会を正しくリードしたことはあったのだろうか? スクープ競争に明け暮れ、抜いた抜かれたの物差しだけで仕事をしている連中だ。特に朝日の場合、虚偽・捏造が代名詞になった感がある。

 全国紙の朝夕刊セット価格は月額4037円らしい(日経は4900円)。私が購読していた頃は2600円でそれから2800円に値上がりした。当時、主婦が気楽に支払える金額は3000円と言われており、3000円を超えると部数が減ることは避けられないと見られていた。消費税増税を推進する新聞社が何と自分たちには軽減税率を適用せよと署名まで集めた。結局、日刊の新聞にだけ適用され赤旗日曜版が狙い撃ちされる格好となった。聖教新聞はOKというわけだ。言っていることとやっていることが違う人間は社会で信用を得られない。販売店に不要な新聞を買わせる押し紙問題もクローズアップされた。

 ジャーナリズムといえば聞こえはいいが、映画に登場する新聞記者はただの野次馬である。ただただ問題を掻き回し、騒ぎ立て、センセーショナルな言葉を並べる。民主政にジャーナリズムは不可欠と言われるが、民主政を誤らせ続けてきたのもまたジャーナリズムであった。

 嘘を撒き散らす新聞を購読するくらいなら、毎月4000円で数冊の本を購入した方がはるかに賢明だ。

2019-11-22

現代病(21世紀病)の原因はヒトマイクロバイオームの乱れ/『あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れはじめた』アランナ・コリン


『医者が教える食事術 最強の教科書 20万人を診てわかった医学的に正しい食べ方68』牧田善二
『医者が教える食事術2 実践バイブル 20万人を診てわかった医学的に正しい食べ方70』牧田善二
『脳はバカ、腸はかしこい』藤田紘一郎
『免疫の意味論』多田富雄
『クレイジー・ライク・アメリカ 心の病はいかに輸出されたか』イーサン・ウォッターズ
『サピエンス異変 新たな時代「人新世」の衝撃』ヴァイバー・クリガン=リード
『感染症の世界史』石弘之

 ・衛生仮説から旧友仮説に
 ・現代病(21世紀病)の原因はヒトマイクロバイオームの乱れ

・『失われてゆく、我々の内なる細菌』マーティン・J・ブレイザー
『土と内臓 微生物がつくる世界』デイビッド・モントゴメリー、アン・ビクレー
・『土 地球最後のナゾ 100億人を養う土壌を求めて』藤井一至
『心を操る寄生生物 感情から文化・社会まで』キャスリン・マコーリフ
『したたかな寄生 脳と体を乗っ取り巧みに操る生物たち』成田聡子
『失われてゆく、我々の内なる細菌』マーティン・J・ブレイザー
『シリコンバレー式自分を変える最強の食事』デイヴ・アスプリー

身体革命
必読書リスト その三

 あなたの体のうち、ヒトの部分は10%しかない。
 あなたが「自分の体」と呼んでいる容器を構成している細胞1個につき、そこに乗っかっているヒッチハイカーの細胞は9個ある。あなたという存在には、血と肉と筋肉と骨、脳と皮膚だけでなく、細菌と菌類が含まれている。あなたの体はあなたのものである以上に、微生物のものでもあるのだ。

【『あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れはじめた』アランナ・コリン:矢野真千子〈やの・まちこ〉訳(河出書房新社、2016年)】

 何ということか。つまり体は私自身でもあり私の環境でもあるのだ。脳化社会で最後に抗う自然が人体なのだ。意識と知覚の預かり知らぬところで微生物叢は静かに戦争と民主政を展開している。しかも遺伝子レベルで見るとヒトの部分はもっと少なくなる。

 ヒトの遺伝子の数は、線虫とほぼ同じ、21000個だった。ヒトゲノムのサイズは植物のイネの半分しかなく、31000個の遺伝子を有するミジンコにもはるかに及ばなかった。(中略)
 人体に棲むこれらの微生物を合わせると、遺伝子の総数は440万個になる。これがマイクロバイオータのゲノム集合体、つまりマイクロバイオームである。微生物の440万個の遺伝子は、21000個のヒト遺伝子と協力しながら私たちの体を動かしている。遺伝子の数で比べれば、あなたのヒトの部分は0.5%でしかない。

 生物は遺伝子が自らのコピーを残すためにつくり出した乗り物に過ぎないというリチャード・ドーキンスの説(『利己的な遺伝子』1976年)も色褪せて見えてくる。45億年前に地球が形成され、38億年前に生命が誕生した。38億年の歴史を受け継ぎ共有しているのはヒト遺伝子も微生物叢も一緒だ。今生きている生物の先祖を辿ればそのすべてが38億年をさかのぼることができるのだ。

 私の健康被害(※マレーシアのダニによる熱帯病の治療で抗生物質を大量に投与)は氷山の一角だった。共生微生物のアンバランスが胃腸疾患、アレルギー、自己免疫疾患、さらには肥満を引き起こしているという科学的証拠が続々と出てきていることを私は知った。体の病気だけではない。不安症、うつ病、強迫性障害、自閉症といった心の病気にも微生物が影響している。私たちが人生の一部として甘受している病気の多くはどうやら、遺伝子の欠陥や体力低下のせいではなく、ヒト細胞の延長にある微生物を軽んじたせいで出現した、新しい病態のようなのだ。

 現代病(21世紀病)の原因はヒトマイクロバイオームの乱れにあるとの指摘に衝撃を受けた。アランナ・コリンがいう21世紀病とは伝染病の速度で先進国を中心に広まっている病態のすべてを指す。

 抗生物質は多くの人々の生命を救ってきた。初めは高価であったペニシリンが量産できるようになると万能薬といわんばかりに処方された。挙げ句の果てには抗生物質を投与すると家畜が肥大することが判明し、畜産業者は牛や鳥を抗生物質まみれにした。有機栽培が危ういのは鶏糞などに抗生物質が混入しているためだ。現代人は幼少期に抗生物質を投与され、抗生物質まみれの肉と野菜を食べることでマイクロバイオームの大虐殺を行っているのだ。

 意識と知覚は妄想の世界をさまよう(ユヴァル・ノア・ハラリ)。刺激を求めて贅沢な食事を好み、濃厚なソースや食品添加物にあっさりと騙される。手っ取り早い刺激を追求したのがファストフードだ。次から次へと詐欺被害に遭う舌はやがて麻痺し、毒をも美味と感じるようになるのだろう。

 これがアランナ・コリンのデビュー作というのだから驚く。やはり世界は広い。

2019-11-15

国際法成立の歴史/『「戦争と平和」の世界史 日本人が学ぶべきリアリズム』茂木誠


『新戦争論 “平和主義者”が戦争を起こす』小室直樹
『日本国民に告ぐ 誇りなき国家は滅亡する』小室直樹
『日本の敗因 歴史は勝つために学ぶ』小室直樹
『悪の戦争学 国際政治のもう一つの読み方』倉前盛通
『経済は世界史から学べ!』茂木誠
『世界のしくみが見える 世界史講義』茂木誠
『ゲームチェンジの世界史』神野正史

 ・国際法成立の歴史
 ・無責任な戦争アレルギー

『「米中激突」の地政学』茂木誠
『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない 「保守」って何?』茂木誠

世界史の教科書
必読書リスト その四

 1856年、広州沖で海賊船アロー号が清朝官憲に拿捕されます。拘束された乗組員12名は中国人でしたが、イギリス領香港の船籍を示すため船尾に英国国旗ユニオン・ジャックを掲げていたのです。
 実はアロー号は船籍登録期限が過ぎており、ユニオン・ジャックを掲げること自体が違法だったのですが、清朝の官憲がこれを引きずり下ろしたとの報を受けたイギリスの広州知事パークスは、「英国国旗に対する侮辱である」として謝罪を要求。清朝側がこれを拒否すると、香港総督ボーリングは現地のイギリス艦隊を動員して広州一帯の砲台を占領します。
 首相となっていたパーマストン卿は本国から5000人を増派し、フランスも共同出兵しました。北京の外港である天津(てんしん)を占領した英・仏連合軍は、外国公使の北京常駐、賠償金の支払い、キリスト教の布教の自由などを認める天津条約を強要しました。大使・行使の相手国首都への常駐は、英・仏はもはや朝貢国ではなく、清朝と対等に扱われることを意味します。イギリスは、清朝をウェストファリア体制に引き込もうとしたのです。

【『「戦争と平和」の世界史 日本人が学ぶべきリアリズム』茂木誠〈もぎ・まこと〉(TAC出版、2019年)】

 国際法成立の歴史がよくわかる一冊。戦争といじめは人類の大好物であるがヒトという種が絶えてしまうことを防ぐ知恵が大きな戦争のたびに発揮されてきた。アロー号事件は第二次アヘン戦争に発展する。長らく愛国心を持つことを許されなかった我々は国旗の上げ下げが戦争の原因となり得る歴史をよくよく考える必要がある。朝貢国だった朝鮮はこうした歴史を知っていることだろう。その上で韓国人は日本国旗を切り裂き、燃やし、土足で踏みつけているのだ。彼らは戦争をしたがっている。そして日本が戦争できない事実を知悉している。少し前に日本人女性観光客が韓国で暴行された。挑発は限りなくエスカレートしてゆくことだろう。いつまで指をくわえて眺めているのだろうか。いつまで握り拳に力をこめながら「仕方がないさ」と冷笑しているのだろうか。国家の誇りを失えば国は必ず亡びる。

2019-10-25

世界史は陸と海とのたたかい/『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』水野和夫


『〈借金人間〉製造工場 “負債"の政治経済学』マウリツィオ・ラッツァラート
『タックス・ヘイブン 逃げていく税金』志賀櫻
『超マクロ展望 世界経済の真実』水野和夫、萱野稔人
『資本主義の終焉と歴史の危機』水野和夫

 ・世界史は陸と海とのたたかい

『自由と成長の経済学 「人新世」と「脱成長コミュニズム」の罠』柿埜真吾
『悪の論理 ゲオポリティク(地政学)とは何か』倉前盛通
『通貨戦争 崩壊への最悪シナリオが動き出した!』ジェームズ・リカーズ

世界史は陸と海とのたたかい

 EU帝国とアメリカ金融・資本帝国の違いを考える上で、大きな示唆を与えてくれるのが、シュミットの「世界史は陸の国に対する海の国のたたかい、海の国に対する陸の国のたたかいの歴史である」という歴史的視座です。
 21せいきは、シュミットが世界史を「陸と海とのたたかい」と定義した通りの展開となっています。海の「金融・資本帝国」(英米)vs.陸の「領土帝国」(独仏、露・中・中東)のたたかいです。アメリカ金融・資本帝国は無限空間である「海の国」の延長であるのに対して、EU帝国は有限空間の「陸の国」だということです。
 そして現代では、「長い16世紀」以来の近代システムにおいて勝者であった「海の国」が弱体化し、近代システムでは敗者であった「陸の国」の力が強まっているのです。金利がゼロになれば、これまで蒐集する側であった「海の国」が富を蒐集できなくなって、相対的にその地位が低下するからです。(中略)
「陸の時代」の支配者たちは、領土を手中におさめると、官僚組織の肥大化など、人的にも物的にも多大なコストをかけて広大な領土を統治しました。しかし、そのコストの重みに耐えられなくなると、社会秩序が崩れ、領土は拡大から収縮への局面に入っていくということの繰り返しでした。
 ところが、15世紀の末になると、造船技術が発達したおかげで、西欧の人々は陸の縛りから解放され、「より遠く」へ向かうことができるようになりました。ヨーロッパ各国のなかで、真っ先に大海原に出たのは、地中海世界という狭い「閉じた空間」では利潤を得られなくなったスペイン、ポルトガル、それを経済的に支援したイタリアです。「湖」にした地中海から飛び出し、大航海という賭けに出たのです。
 スペインは新大陸で銀山を発見し、ポルトガルは喜望峰を廻(まわ)って遠隔地貿易を拡大させました。しかし、スペインもポルトガルも実質的には「陸の国」の性質を捨て去ることができませんでした。海を渡った先の「陸」で、「陸の国」としての古い統治の方法を続けたのです。
 一方、新しく登場したオランダやイギリスは「海」を制することで空間を拡大させました。海という空間は、既存の国家が制定した「陸の法」が行き届く領域ではない。ならばその空間から「自由」に収奪するべく新たなルールをつくろう――。オランダやイギリスは、このような発想で、まったく新しいルールを自国に有利なようにつくり上げたのです。
 このように「陸の時代」から「海の時代」へと転換したことをシュミットは「空間革命」と呼んでいます。

【『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』水野和夫(集英社新書、2017年)】

 いやはや勉強になった。付箋だらけである。読了後もパラパラと読み返した。その丁寧な記述と論理の整合性で一気に読むことが可能だ。

 シーパワー(海洋権力)とランドパワー(大陸権力)は地政学の基本的な概念であるが、倉前盛通著『悪の論理 ゲオポリティク(地政学)とは何か』を読んで文明史的な意味合いを知った。上記テキストも倉前と異同はない。

 水野は「海の国」である英米が海洋から「金融・電子空間」にシフトしたものの、ゼロ金利時代を迎えた今、資本主義が滅びることは避けられないと説く。資本主義後を提示するのは困難極まりないが、「閉じた帝国」になると予測している。

 ま、倉前の著書が半世紀ほど前なので視点が異なるのは当然としても、水野の主張は心に響いてくるものが少ない。で、既に二度読んだ『悪の論理』も目繰り返す羽目となった。

 私が本書で引っ掛かったのは「正確に言えば、『永続敗戦論』で政治学者、白井聡が鋭く指摘したように」(233ページ)との一文である。

 白井聡は、しばき隊に交じって「安倍やめろ」と叫んでいた人物である(netgeek 2017年7月7日)。札付きの学者といってよい。もちろん赤札だが。

 加齢のため頭脳の衰えは著しいのだが、まだまだ鼻の方は利く。水野和夫の正体は「反資本主義者」なのだ。それに気づいた時、私は隠された「赤い爪」を見たような思いがした。

 水野が著作で行っているのは「資本主義の死亡診断書」を提示することだ。その目的が見えれば反資本主義→容共勢力であるのは確実と思われる。

 私の見立てが勘違いか洞察かは読者の判断に委ねるが、池上彰や佐藤優が水野を持ち上げていれば左翼と見て間違いなかろう。

 尚、amazonでは送料(500円)が発生するので要注意。



封建制は近代化へのステップ/『世界のしくみが見える 世界史講義』茂木誠

2019-09-27

乾極と湿極の地政学/『新・悪の論理』倉前盛通


『一神教の闇 アニミズムの復権』安田喜憲
『増補 日本美術を見る眼 東と西の出会い』高階秀爾
『昭和の精神史』竹山道雄
『小室直樹vs倉前盛通 世界戦略を語る』世界戦略研究所編
『悪の論理 ゲオポリティク(地政学)とは何か』倉前盛通

 ・乾極と湿極の地政学

『情報社会のテロと祭祀 その悪の解析』倉前盛通
『自然観と科学思想 文明の根底を成すもの』倉前盛通
『悪の超心理学(マインド・コントロール) 米ソが開発した恐怖の“秘密兵器”』倉前盛通
『悪の運命学 ひとを動かし、自分を律する強者のシナリオ』倉前盛通
『悪の戦争学 国際政治のもう一つの読み方』倉前盛通
『悪の宗教パワー 日本と世界を動かす悪の論理』倉前盛通

日本の近代史を学ぶ
必読書リスト その四

アラビア半島と日本

 地球に北極と南極があり、また、地球磁気の北極と南極もある。同じように乾湿を一つの目やすにすれば地球には乾極と湿極も存在する。
 世界の乾極はアラビア半島であり、世界の湿極は日本列島である。この乾と湿の地政学。これは単に政治的、地理的な問題だけでなく、宗教的な問題、民族的な問題、その他世界の歴史上のさまざまの問題で重要な意義と役割をもつ地政学上の重要視点である。
 まず、世界の乾極アラビア半島の遊牧民であったユダヤ人は世界で最も乾いたこのアラビア砂漠を生活空間として、ユダヤ教という唯一絶対神をつくり上げた。
 人類は本来、自然の神々を崇拝する宗教をもっていた。それを否定し唯一絶対神という人工的な神を考え出したということは、アラビアという酷烈な自然風土の中で、徹底的に苦しい生活を強いられた結果、自然を崇拝するより、自然を拒否することによって、唯一絶対神という人格神を考えることになったのかもしれない。しかも、その神は“妬む神”であって、自分以外の神を礼拝するものには罰を下して滅すという“不寛容な神”であった。
 このユダヤ教をもとにしてキリスト教が生じ、また、マホメット教が生まれた。つまりユダヤ教、キリスト教、マホメット教という世界の三大宗教は、同じ根から発生したものであり、同じ旧約聖書を基本にしている。彼らは共に「聖書の民」である。この三者はみな唯一絶対神を奉じている。そして自分たちの奉ずる神以外の神を否定するという点において、きわめて狭量であり、寛容さがない。これは世界の乾極アラビア半島の風土が生んだ特殊な精神構造であると考えられる。
 それは水がないということが第一の問題かもしれない。淡水があるか、ないかということが人を変える。もちろん目の前に塩水があったとしても、それは辛い水であって、人間をうるおす甘い水ではない。この甘い水があるかないかということが人間精神に非常に大きな影響を与えたように思われる。それが、その後の世界政治においてあるいは世界の宗教において、あらゆる面において重大な影響を与えてきた。

【『新・悪の論理 日本のゲオポリティクはこれだ』倉前盛通〈くらまえ・もりみち〉(日刊工業新聞社、1980年/増補版、1985年『新・悪の論理 変転する超大国のゲオポリティク』/Kindle版、2018年『悪の論理完全版 地政学で生き抜く世』所収)】

 最近の読書遍歴としては竹山道雄三島由紀夫小室直樹(三島論、天皇論)を経て倉前盛通に辿り着いた。私にとっては大きな波のうねりに身を任せたような経験であった。やはり誰と会い、何を読んだかで人生は決まる。確かに映像は情報量が多いが人格に与える衝撃度は読書より劣る。

 既に主要な倉前作品は読み終え、現在二度目の読破を試みている。40年前の国際情勢が元になっているとはいえ、的外れな指摘が少ないのは倉前の卓見を示すものだ。約10年後の1991年12月25日にソ連が崩壊する。さすがに本書では中国の経済発展まで見通すことはできていないが、崩壊前の中国を想像することは可能だろう。

 アラビア半島は人類がアフリカで生まれユーラシア大陸に移動していった架け橋であり、「沙漠の半島」に残されている人類の足跡は、120万年前のシュワイヒティーヤ遺跡に遡る。また「沙漠の半島」周辺は古代文明の生まれた場所であり、北にはアシュール、ウバイド、ウルクなどを含む世界最古のメソポタミア文明が興り、バハレインと呼ばれた東部海岸にはディルムーン文明やさらに南のサイハド沙漠には古代イエメン文明が生まれた。これらの文明やその交流を示す遺跡や遺物が「沙漠の半島」には数多く残されている。

History of Peninsula - 古代から続く歴史:高橋俊二

 アラビア半島は殆どが砂漠地帯である。私の知識が及ばず、出アフリカ説出エジプト記モーセ)の関係、アブラハムメソポタミア文明との関連性もよくわからない。


 確実なことはアラビア半島を中心とする中東(エジプト+西アジア)から文明が誕生したことだ。そして今から4~5万年前までに人類は世界中に散らばった。


 メソポタミアよりも古い文明(ギョベクリ・テペ)がトルコとシリアの間で見つかっている。ま、大雑把に言えばメソポタミアを頂点として西はエジプト、東はインドまで含めても構わないだろう。

 乾極と湿極の科学的根拠は不明だ。しかし文明論としては卓抜した見解である。アメリカ人が室内でも靴を履くのは彼らの祖先が寒いヨーロッパを生き抜いたことの証である。日本の気候が恵まれた条件であることは温暖湿潤気候の地図を見れば一目瞭然だ。


 湿度はまた世界一種類が豊富な発酵食品を誕生させた。文明とは人類進化の軌跡である。背景には生活の安定、経済的余裕、時間的ゆとり、そして何にも増して感情と知性の連帯がある。

 岡目八目という言葉があるが、倉前盛通や小室直樹は凡百の宗教学者よりも遥かに鋭い宗教的論考を提示している。

2019-08-12

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2019-06-11

人種差別というバイアス/『隠れた脳 好み、道徳、市場、集団を操る無意識の科学』シャンカール・ヴェダンタム


『生き残る判断 生き残れない行動 大災害・テロの生存者たちの証言で判明』アマンダ・リプリー
『集合知の力、衆愚の罠 人と組織にとって最もすばらしいことは何か』アラン・ブリスキン、シェリル・エリクソン、ジョン・オット、トム・キャラナン
『人間この信じやすきもの 迷信・誤信はどうして生まれるか』トーマス・ギロビッチ
『脳はいかにして〈神〉を見るか 宗教体験のブレイン・サイエンス』アンドリュー・ニューバーグ、ユージーン・ダギリ、ヴィンス・ロース

 ・人間の脳はバイアス装置
 ・「隠れた脳」は阿頼耶識を示唆
 ・人種差別というバイアス

『あなたの知らない脳 意識は傍観者である』デイヴィッド・イーグルマン
『予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』ダン・アリエリー
『たまたま 日常に潜む「偶然」を科学する』レナード・ムロディナウ
『感性の限界 不合理性・不自由性・不条理性』高橋昌一郎
『AIは人類を駆逐するのか? 自律(オートノミー)世界の到来』太田裕朗
『われわれは仮想世界を生きている AI社会のその先の未来を描く「シミュレーション仮説」』リズワン・バーク

必読書リスト その五

 モントリオールのホワイトサイド・テイラー託児所(デイケア)は北米に何百となる、乳幼児のための施設だ。そこでは学齢に達する前の子供たちが遊び、動き回り、食べ、泣いている。数年前、フランシス・アブードという心理学者が、ある仮説を引っさげてホワイトサイド・テイラーを訪れた。彼女は託児所に通う子供たちに、ある心理学実験の被験者になってほしいと思っていたのだ。
 施設側は同意し、子供の保護者からも許可を取った。すべての事務手続きが片付くと、アブードは80人の白人の子供を施設から、そして数人を地元の小学校から集めた。一番幼い子供は3歳だった。頭がよさそうで人目を引く容姿を持ち、そしてレバノンの血を引くアブードは、幼い被験者たちに“良い”、“親切”、“清潔”など「プラスイメージの言葉」を六つ、そして“意地悪”、“ひどい”、“悪い”といった「マイナスイメージの言葉」を六つ教えた。そしてその言葉が、2枚の絵のどちらに当てはまるか尋ねた。1枚は白人、もう1枚には黒人が描かれていた。絵を見せるとき、言葉についてそれぞれ簡単な説明を入れる。「自分勝手な人は、自分のことしか考えません。どの人が自分勝手でしょうか?」と言って、黒人か白人どちらかの絵を指すように伝える。「女の人が誰も話す人がいなくて悲しんでいます。悲しんでいるのはどちらの人でしょうか?」。さらに黒人の子供と白人の子供の絵を見せて、こう尋ねる。「意地悪な男の子がいます。犬がそばに来たとき、その子は犬をけりました。意地悪なのはどの子ですか?」、「みにくい女の子がいます。人はその子の顔を見ようとしません。どの子がみにくいでしょうか?」
 被験者となった子供の70%が、【ほぼすべての】プラスイメージの言葉と白人を、【ほぼすべての】マイナスイメージの言葉と黒人を結びつけた。
 とても不快な気分になるが、ホワイトサイド・テイラー託児所や、そこにいる幼い子供たちのこうしたバイアスは、何も特殊なものではない。何年も前に、北米全体の学齢期前の子供と小学生を対象に行なわれた同様の調査でも、まったく同じ結果が出ている。2枚の絵に同じ言葉を当てはめてもかまわないと前置きしても、結果はそれほど変わらない。たいていの子供は、マイナスイメージの言葉を黒人の顔に、プラスイメージの言葉を白人の顔に当てはめた。(中略)
 ホワイトサイド・テイラー託児所のまだ年端もいかぬ子供たちが、心が狭く敵意に満ちていると考えるのはばかげている。ようやく鼻のかみかたを覚えようとしている年齢だ。子供たちの責任ではないとすれば、いったい誰の責任なのだろう? 親や教師たちのせいなのだろうか? 他にどこで人種偏見などを覚えるだろう?

【『隠れた脳 好み、道徳、市場、集団を操る無意識の科学』シャンカール・ヴェダンタム:渡会圭子〈わたらい・けいこ〉訳(インターシフト、2011年)以下同】

 初めて読んだ時に最も衝撃を受けたのがこの件(くだり)であった。私はそれまで「人種差別感情は教育的環境によって刷り込まれる」と考えてきた。幼児は親をモデルとして世界を認識する。態度(ボディランゲージ)は言葉よりもずっと雄弁だ。何気ない表情や仕草を通して滲み出る嫌悪感から子供たちは「何を憎むべきか」を学ぶ。子供は生き延びるために親から愛される振る舞いを自然に行う。批判するほどの知識や感情を持ち合わせていない。このようにして知らず知らずのうちに有色人種を憎悪する価値観が形成されるのだろうと思い込んでいた。だが実は違った。白人の子供は無意識のうちに偏った見方をしてゆくのだ。

 この実験は更に驚くべき実態を発掘する。

 研究助手がもう一つの話を読んで聞かせると、子供のバイアスは話の内容まで変えてしまうことが明らかになった。(中略)
 ザカリアという黒人少年は、めったにお目にかかれないヒーローのような子供だ。ワニと戦って友人の命を救い、動物保護の問題を知っているから、ワニにもひどいことはしない。そして睡眠時間を削って大統領に手紙を書く。ところが幼稚園児たちに、どんな話だったか尋ねると、英雄的な行為をしたのは白人少年だと誤解していることが多かった。子供たちは気づかないうちに、ザカリアの勇敢で機転の利いた行為を、友人である白人少年のものと思い込んでいたのだ。言い換えれば、子供たちはアブードが与えるすべての情報を、白人はよく見え、黒人は悪く見えるレンズを通して見ていたのだ。

 認知バイアスが物語を書き換えるというのだ。こうなると我々は妄想(脳内物語)を生きていると考えるのが妥当だろう(『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ)。記憶は常に改竄(かいざん)を加えられ捏造(ねつぞう)される。バイアスの本質は「自分の脳に都合よく情報を書き換える」ところにある。

 しかしまだ根本的な疑問が残っている。人種差別的な子供の考え方は、いったいどこから生じたのだろう? バイアスのかかった見解は、親や教師が教えたものではないと自信を持って言えるが、それならいったい【どこで】教わったのだろう。子供たちは人種について、一人ひとり違う意見を持っているわけではなかった。特に年少の子供は、全員がほぼ同じ見方をしている。白人は善良で親切で清潔、黒人は意地悪で醜く汚いと。
 その答えは、隠れた脳と意識的な脳が世界を知る方法の違いにある。アブードは私に、自分が北米のありふれた郊外の地区に住む、白人の幼い子供であると想像してみるよう言った。この思考実験のため、私は友人も両親もいない、つまり何を考えるか、どんな結論を引き出したらいいか、導く人がいないという状況を想像した。子供だから、とても複雑な結論を導き出せるほどの知識もない。このとき私の隠れた脳は、どのように世界を理解するだろうか? まず、近所のきれいな家に住んでいる人はほとんどが白人だ。テレビに映るのもほとんどは白人。特に地位や名誉や権力を持つ立場の人は白人である。絵本の登場人物もほとんどが白人で、白人の子供はたいてい頭がよくて思いやりがあり、勇気あふれる行動をする。物事を関連づけることに優れた私の隠れた脳は、白人男性の多くは白人女性と結婚しているのだから、この社会には白人は白人と結婚するという暗黙のルールがあるに違いないと結論づける。またお互いの家を行き来するような仲のよい友人同士は、たいてい同じ人種なので、ここにも暗黙のルールがあるのだろうと考える。
 3歳の脳を持つ私は、黒人は悪い人だとは思わないまでも、自分たちとは【違う】と考える。

 子供はありとあらゆる些末な情報を正確に読み解いているのだ。学習とは白いページに黒い染みを増やしてゆく行為なのかもしれない。メディアや漫画などは深刻な影響を及ぼしている。最も洗練された悪質なメッセージがテレビCMだ。わずか数十秒という時間は視聴者に考える余地を与えない。次から次と流れてゆくコマーシャルは深層心理に特定の価値観を形成する。好きなタレントが登場すれば商品に対する信頼感は無条件で増す。ま、一種の宗教だわな。

 異質なもの(よそ者)を排除するのはコミュニティの鉄則である。もともとは病気を防ぐ目的があったのだろう。インディアンの大多数は白人がもたらした天然痘や麻疹(はしか)、インフルエンザなどで死んだ。パンデミックを支えるのは「移動」である。地産地消も同じ発想だろう。

 古代中国人は見知らぬ道をゆく時、敵の生首を持って悪霊を祓(はら)った(「道」の字義)。

白川●本来は「道」そのものが、そのような呪術的対象であった訳。自己の支配の圏外に出る時には、「そこには異族神がおる、我々の祀る霊と違う霊がおる」と考えた、だから祓いながら進まなければならん訳です(『白川静の世界 漢字のものがたり』別冊太陽)。

 悪霊とは伝染病であろう。神道の「結界」も同じ考え方であると思われる。

 社会は禁忌(タブー)の共有によって形成されている側面がある。我々がここで立ち止まって考える必要があるのは差別感情がなくなることはないという現実だ。人間は差別や戦争や犯罪が好きなのだという前提に立つべきだ。リベラルが好むポリティカル・コレクトネスはあまりにも安易で幼稚だ。「親孝行をしましょう」とか「皆で仲良くしましょう」という言葉と同じほど不毛である。誰も逆らえない綺麗事は議論の対象にすらならない。

 大事なことは「差別をするな」と声高に叫ぶことよりも、例えばインドがなぜカーストを肯定するのかを探ることである。きっと何らかの社会的な利点があるはずだ。それが正しいとか間違っているというのは別問題だ。インド国民の民意がカーストを支持する理由を知ることは、新たな社会の枠組みを考えるヒントになり得るだろう。

 社会は個人の集まりだが単なる総和ではない。時に乗数となって創発が生まれる。カーストや戦争も創発と考える発想の豊かさが必要だろう。そのような意味から申せば戦争を現実的に捉えた日本人は小室直樹くらいしかいないのではなかろうか(『新戦争論 “平和主義者”が戦争を起こす』1981年)。

 結論を述べよう。バイアスを否定的に捉えればポリコレと同じ陥穽(かんせい)に落ちてしまう。そうではなくバイアスが進化的に優位に働いたことを弁えた上で、現実を構築し直すのが正しい道であると私は考える。次代を担うのは「新しいバイアス」を提示する者であろう。

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