2021-06-30

瀬島龍三を唾棄した昭和天皇/『田中清玄自伝』田中清玄、大須賀瑞夫


『日本の秘密』副島隆彦
『ある明治人の記録 会津人柴五郎の遺書』石光真人
『守城の人 明治人柴五郎大将の生涯』村上兵衛
『自衛隊「影の部隊」 三島由紀夫を殺した真実の告白』山本舜勝
『消えたヤルタ密約緊急電 情報士官・小野寺信の孤独な戦い』岡部伸
『日本のいちばん長い日 決定版』半藤一利
『機関銃下の首相官邸 二・二六事件から終戦まで』迫水久恒
『昭和陸軍謀略秘史』岩畔豪雄

 ・会津戦争のその後
 ・昭和天皇に御巡幸を進言
 ・瀬島龍三を唾棄した昭和天皇
 ・田中清玄の右翼人物評

『陸軍80年 明治建軍から解体まで(皇軍の崩壊 改題)』大谷敬二郎
『軍閥 二・二六事件から敗戦まで』大谷敬二郎
『徳富蘇峰終戦後日記 『頑蘇夢物語』』徳富蘇峰

日本の近代史を学ぶ
必読書リスト その四

 もう一つ彼(※中曾根康弘首相)に言っているのは、付き合う人間を考えろということです。彼の周りにはいろんな人間がいましたからねえ。
 例えば瀬島龍三がそうだ。第二臨調の時に彼は瀬島を使い、瀬島は土光さんにも近づいて大きな顔をしていた。伊藤忠の越後(正一元会長)などは瀬島を神様のように持ち上げたりしていたが、とんでもないことだ。かつて先帝陛下は瀬島龍三について、こうおっしゃったことがあったそうです。これは入江さんから僕が直接聞いた話です。
「先の大戦において私の命令だというので、戦線の第一線に立って戦った将兵達を咎(とが)めるわけにはいかない。しかし、許しがたいのは、この戦争を計画し、開戦を促し、全部に渡ってそれを行い、なおかつ敗戦の後も引き続き日本の国家権力の有力な立場にあって、指導的役割を果たし、戦争責任の回避を行っている者である。瀬島のような者がそれだ」
 陛下は瀬島の名前をお挙げになって、そう言い切っておられたそうだ。中曾根君には、なんでそんな瀬島のような男を重用するんだって、注意したことがある。私のみるところ瀬島とゾルゲ事件の尾崎秀実は感じが同じだね。

【『田中清玄自伝』田中清玄〈たなか・きよはる〉、インタビュー大須賀瑞夫〈おおすが・みずお〉(文藝春秋、1993年/ちくま文庫、2008年)】

 かような人物が「昭和の参謀」と持て囃(はや)され、2007年(平成19年)まで生きた。これが「日本の戦後」であった。その狡猾と無軌道ぶりこそ戦後日本の歩みであった。国防を蔑(ないがし)ろにしながら経済一辺倒の政治を国民の支持し続けた。安倍政権は戦後レジームからの脱却を目指したが、瀬島龍三の影響を払拭していなかった。日本の弱さ、デタラメさがここにある。

 祖国を貶(おとし)める反日勢力を一掃できるかどうかに日本の命運が掛かっている。作家風情の丸山健二三島由紀夫を小馬鹿にするような風潮を見逃してはならないのだ。戦後教育の巧妙な刷り込みに気づかぬ国民が国を亡ぼすと銘記せよ。

2021-06-29

昭和天皇に御巡幸を進言/『田中清玄自伝』田中清玄、大須賀瑞夫


『日本の秘密』副島隆彦
『ある明治人の記録 会津人柴五郎の遺書』石光真人
『守城の人 明治人柴五郎大将の生涯』村上兵衛
『自衛隊「影の部隊」 三島由紀夫を殺した真実の告白』山本舜勝
『消えたヤルタ密約緊急電 情報士官・小野寺信の孤独な戦い』岡部伸
『日本のいちばん長い日 決定版』半藤一利
『機関銃下の首相官邸 二・二六事件から終戦まで』迫水久恒
『昭和陸軍謀略秘史』岩畔豪雄

 ・会津戦争のその後
 ・昭和天皇に御巡幸を進言
 ・瀬島龍三を唾棄した昭和天皇
 ・田中清玄の右翼人物評

『陸軍80年 明治建軍から解体まで(皇軍の崩壊 改題)』大谷敬二郎
『軍閥 二・二六事件から敗戦まで』大谷敬二郎
『徳富蘇峰終戦後日記 『頑蘇夢物語』』徳富蘇峰

日本の近代史を学ぶ
必読書リスト その四

 ――『入江日記』によれば、お会いになったのは、1945(昭和20)年12月21日ですね。

 ええ。場所は生物学御研究所の接見室で、石渡荘太郎宮内大臣、大金益次郎次官、藤田尚徳侍従長、木下道雄侍従次長、入江相政侍従、徳川義寛侍従、戸田康英侍従らがご臨席でした。大金さんは「君が思うことをお上にお話ししてくれて結構だ。君は思うことをズバズバ言う方だから、その通りにやってもらいたい」と言われた。

【『田中清玄自伝』田中清玄〈たなか・きよはる〉、インタビュー大須賀瑞夫〈おおすが・みずお〉(文藝春秋、1993年/ちくま文庫、2008年)以下同】

 これほど面白い人物はそうそういない。小室直樹池田大作を軽く凌駕していると思う。元々は瀬島龍三の部分だけ確認するつもりで読んだ。ところが一気に引きずり込まれた。大言壮語や嘘がつきまとう人物だが、それを割り引いても圧倒的な面白さがある。

 それから私は三つのことを申し上げた。一つは、
「陛下は絶対にご退位なさってはいけません。軍は陛下にお望みでない戦争を押し付けて参りました。これは歴史的事実でございます。国民はそれを陛下のご意思のように曲解しております。陛下の平和を愛し、人類を愛し、アジアを愛するお心とお姿を、国民に告げたいと思います。摂政の宮を置かれるのもいけません」
 ということ。当時、退位論が盛んでしたから、摂政の宮をおけという議論もあった。もう一つは、
「国民はいま飢えております。どうぞ皇室財産を投げ出されて、戦争の被害者になった国民をお救いください。陛下の払われた犠牲に対しては、国民は奮起して今後、何年にもわたって応えていくことと存じます」
 ということ。三つ目は、
「いま国民は復興に立ち上がっておりますが、陛下を存じ上げません。その姿を御覧になって、励ましてやって下さい」
 というものだった。

 ――それに対する昭和天皇のお答えは。

「うーん、あっ、そうか。分かった」と。そりゃあ、もう、びっくりしたような顔をされて、こっちがびっくりするぐらい大きく頷かれたなあ。その後、これを陛下はすべて御嘉納になられて、おやりになった。

 田中清玄(きよはる)が本当に日本のことを考えていたことがよくわかる。しかも自分を大きく見せようとする姿勢が微塵もない。昭和天皇の御巡幸を日本国民は伏し目がちに迎え、声の限りを尽くして万歳を叫んだ。この陛下と国民との邂逅(かいこう)が復興の転機となるのである。


 ――昭和天皇のほうからは、どんなお話があったのですか。

 次々と御下問がありました。私の出身の会津藩のことや、土建業をおこして、戦後の復興に携わっていることなど、いろいろ聞かれ、「田中、何か付け加えることはあるか」とおっしゃった。それで私は「昭和16年12月8日の開戦には、陛下は反対であったと伺っております。どうしてあの戦争をお止めにはなれなかったのですか」と伺った。一番肝心な点ですからね。そうしたら言下に、
「自分は立憲君主であって、専制君主ではない。憲法の規定もそうだ」
 と、はっきりそう言われた。それを聞いて私はびっくりした。我々は憲法を蹂躙(じゅうりん)して勝手なことをやって、俺なんか治安維持法に引っかかっている。そんなにも憲法というものは守らなければいかんものなのかと(笑)。最初は20~30分ということでしたが、結局、1時間余りですかねえ。それで僕は、お話し申し上げていて、陛下の水晶のように透き通ったお人柄と、ご聡明さに本当にうたれて、思わず「私は命に懸けて陛下並びに日本の天皇制をお守り申し上げます」とお約束しました。そうしたら、終わって出てきてから、入江さんに「あなた、大変なことを陛下にお約束されましたね」って言われたなあ。それと「我々が言えないことを本当によく言ってくれました」とね。

 これまた重要な歴史的証言である。田中の率直な問いに、陛下は率直な答えで応じている。天皇が神であるのは、一切の人間らしさを捨てて原理に生きているためなのだろう。私は「人間ではない」という意味において天皇陛下は神であると受け止めている。

2021-06-28

「一隅を守り、千里を照らす」人のありやなしや/『ビルマの竪琴』竹山道雄


『昭和の精神史』竹山道雄
『竹山道雄と昭和の時代』平川祐弘
『見て,感じて,考える』竹山道雄
『西洋一神教の世界 竹山道雄セレクションII』竹山道雄:平川祐弘編
『剣と十字架 ドイツの旅より』竹山道雄

 ・敗戦の心情
 ・「一隅を守り、千里を照らす」人のありやなしや

『人間について 私の見聞と反省』竹山道雄
『竹山道雄評論集 乱世の中から』竹山道雄
『歴史的意識について』竹山道雄
『主役としての近代 竹山道雄セレクションIV』竹山道雄:平川祐弘編
『精神のあとをたずねて』竹山道雄
『時流に反して』竹山道雄
『みじかい命』竹山道雄

日本の近代史を学ぶ
必読書リスト その一

 私はよく思います。――いま新聞や雑誌をよむと、おどろくほかはない。多くの人が他人をののしり責めていばっています。「あいつが悪かったのだ。それでこんなことになったのだ」といってごうまんにえらがって、まるで勝った国のようです。ところが、こういうことをいっている人の多くは、戦争中はあんまり立派ではありませんでした。それが今はそういうことをいって、それで人よりもぜいたくな暮らしなどをしています。ところが、あの古参兵のような人はいつも同じことです。いつも黙々として働いています。その黙々としているのがいけないと、えらがっている人たちがいうのですけれども、そのときどきの自分の利益になることをわめきちらしているよりは、よほど立派です。どんなに世の中が乱脈になったように見えても、このように人目につかないところで黙々と働いている人はいます。こういう人こそ、本当の国民なのではないでしょうか? こういう人の数が多ければ国は興(おこ)り、それがすくなければ立ち直ることはできないのではないでしょうか?

【『ビルマの竪琴』竹山道雄(中央公論社ともだち文庫、1948年/新潮文庫、1959年)】

「最もよき人々は帰ってこなかった」(『夜と霧 ドイツ強制収容所の体験記録』V・E・フランクル:霜山徳爾訳)。きっとそういうことなのだろう。

 若き特攻隊員たちは花と散った。そして瀬島龍三のような連中が生き残った。当初、自主憲法の制定を悲願とした自民党も変節した。

「一隅を守り、千里を照らす」(最澄「山家学生式」)人のありやなしやを問う。

道の本質はその機能にある/『トレイルズ 「道」を歩くことの哲学』ロバート・ムーア


『病気の9割は歩くだけで治る! 歩行が人生を変える29の理由 簡単、無料で医者いらず』長尾和宏
『病気の9割は歩くだけで治る!PART2 体と心の病に効く最強の治療法』長尾和宏
『ウォーキングの科学 10歳若返る、本当に効果的な歩き方』能勢博
『サピエンス異変 新たな時代「人新世」の衝撃』ヴァイバー・クリガン=リード
『アルツハイマー病は治る 早期から始める認知症治療』ミヒャエル・ネールス
『一流の頭脳』アンダース・ハンセン
『ウォークス 歩くことの精神史』レベッカ・ソルニット

 ・道の本質はその機能にある
 ・長距離ハイキング
 ・よいデザインはトレイルに似ている

『ランニング王国を生きる 文化人類学者がエチオピアで走りながら考えたこと』マイケル・クローリー
『動物たちのナビゲーションの謎を解く なぜ迷わずに道を見つけられるのか』デイビッド・バリー
『脚・ひれ・翼はなぜ進化したのか 生き物の「動き」と「形」の40億年』マット・ウィルキンソン
『「体幹」ウォーキング』金哲彦
『高岡英夫の歩き革命』、『高岡英夫のゆるウォーク 自然の力を呼び戻す』高岡英夫:小松美冬構成
『あらゆる不調が解決する 最高の歩き方』園原健弘
『あなたの歩き方が劇的に変わる! 驚異の大転子ウォーキング』みやすのんき
ナンバ歩きと古の歩術
『表の体育・裏の体育』甲野善紀
『ナンバ走り 古武術の動きを実践する』矢野龍彦、金田伸夫、織田淳太郎
『ナンバの身体論 体が喜ぶ動きを探求する』矢野龍彦、金田伸夫、長谷川智、古谷一郎
『ナンバ式!元気生活 疲れをしらない生活術』矢野龍彦、長谷川智
『本当のナンバ 常歩(なみあし)』木寺英史
『健康で長生きしたけりゃ、膝は伸ばさず歩きなさい。』木寺英史
『常歩(なみあし)式スポーツ上達法』常歩研究会編、小田伸午、木寺英史、小山田良治、河原敏男、森田英二
『スポーツ選手なら知っておきたい「からだ」のこと』小田伸午
『トップアスリートに伝授した 勝利を呼び込む身体感覚の磨きかた』小山田良治、小田伸午
『間違いだらけのウォーキング 歩き方を変えれば痛みがとれる』木寺英史
・『間違いだらけのウォーキング 歩き方を変えれば痛みがとれる』木寺英史

身体革命
必読書リスト その五

 アパラチアン・トレイルを歩ききったあとも、その疑問はついて回った。それらに駆りたてられ、また新しい知の地平に導いてくれるかもしれないという思いもあって、わたしは道の意味についてのさらなる探究を始めた。数年かけてその疑問を追いかけるうちに、さらに大きな疑問が浮かびあがってきた。そもそも動物はなぜ動くようになったのだろう? 生物はどのようにして世界を認識するようになったのだろう? なぜ先導する者とあとについていく者がいるのか? わたしたち人間はどのようにして、現在のように世界をつくりかえたのか? やがて、道が地球上で欠かせない行き先案内の役割を果たしていることがわかってきた。小さな細胞からゾウの群れまで、あらゆるサイズの生き物が、道をよりどころにして圧倒的な数の選択肢からすばやく一本のルートを選んでいる。もし道がなかったら、わたしたちは迷子になってしまうだろう。

【『トレイルズ 「道」を歩くことの哲学』ロバート・ムーア:岩崎晋也〈いわさき・しんや〉訳(エイアンドエフ、2018年)以下同】

 そっと胸に抱きたくなるような本である。歩くという行動が思弁に傾くことを抑えて、脳の深層を活性化させているのだろう。クリシュナムルティの名前の出し方も上手い。「真理は途(みち)なき大地である」(『クリシュナムルティ・目覚めの時代』メアリー・ルティエンス)。ゆえに我々は辿り着くことができない。クリシュナムルティは道すら示さなかった。

 どうやら、道が道であるためには土や岩が不可欠というわけではないらしい。道はむしろ空気のように実体がなく、永続せず、流動的なものだ。道の本質はその機能にある。そして、使い手の必要に応じて変化しつづける。人は開拓者を称えるものだ。彼らは屈強な精神を持ち、比喩的にも現実にも、未知の領域を切り拓いていく。だが、あとに続く者たちもまた道ををつくるうえでそれに劣らぬ重要な役割を果たしている。不要な曲がり角を削り、通るたびに道を改善する。道が、詩人ウェンデル・ベリーの言う「経験し、慣れ親しむことによって、動きが場所にぴったりと適合する」状況になるのは、これらの人々の行動のおかげだ。それまでのやり方がうまくいかなくなり、途方にくれたときには、視線を下げ、足元にある見落とされがちな知恵を思えばいい。

 これらのテキストが興味深いのは、まるで仏教の変遷を描写しているように見えるためだ。民族性や歴史性、はたまた気候や食料、そしてそれらが時間をかけて形成した文化がブッダの教えに変化を与えたことだろう。それをよしとしてしまえば教えはプラグマティズムに堕すると私は考える。

「道の本質はその機能にある」という言葉が「筏(いかだ)の譬え」を髣髴(ほうふつ)とさせる。ただし、悟りに至る「道」や「岸」が遠くにあると私は思わない。ゆえに手段(修行)に拘泥すると目的地を見失う。



長距離自然歩道 - Wikipedia
NATS 自然大好きクラブ |長距離自然歩道を歩こう!
NATS 自然大好きクラブ|長距離自然歩道を歩こう!|首都圏自然歩道
東海自然歩道連絡協会公式サイト

2021-06-25

安倍晋三前総理に聞く日本の外交/安倍晋三前総理が振り返る憲法改正と増税


 安倍晋三は基本的にサービス精神旺盛な人なのだろう。また数々の重要な経験が知識や教養の及ばぬ見識となって光る。更に思わせぶりな態度がどこにもなく、偉ぶるところが全くない。





2021-06-22

読み始める

自動車には事故に遭いやすい色と遭いにくい色がある/『眠れないほど面白い 「道路」の不思議 路線、地図、渋滞、取締り……』博学面白倶楽部


『高速道路の謎 雑学から知る日本の道路事情』清水草一

 ・自動車には事故に遭いやすい色と遭いにくい色がある

 じつは、事故にあいやすい色とあいにくい色があるといわれているのだ。ニュージーランドのオークランド大学やアメリカのミズーリ大学の調査報告によると、車の色によって事故率が大きく異なるという。
 事故にあいにくいのは「白」や「シルバー」。白系の色は光の反射性が高い。そのため、他車から見やすく、事故率が低いのではないかと考えられている。
「黒」も事故率が低い。黒には高級感があり、乗っている人もそれ相応の人物だというイメージがあるからか、他車のドライバーが緊張感を持ち、意識を高めて運転するからではないかと推測されている。
 逆に事故率が高いのが「青」、そして「赤」や「橙」「黄色」などの派手な色。(中略)寒色系の車は暖色系に比べて後退して見えるという特徴がある。車間距離が実際より遠く感じられて、事故が起きている可能性があるのだ。(中略)
「赤」や「橙」「黄色」などの色、特に赤を好む人は攻撃的な性格の人が多いとされる。

【『眠れないほど面白い 「道路」の不思議 路線、地図、渋滞、取締り……』博学面白倶楽部(王様文庫、2016年)】

 これは意外である。派手な色は目につきやすいと思いきや、「後退して見える」とは。スピードを出しやすい人は交差点を曲がる時にわかる。交差点直前で十分な減速をして曲がっている間はアクセルを踏むのが基本である。クルマの不安定な動きをタイヤのしっかりとした動きでコントロールするのだ。ハンドルを切りながらブレーキを踏むのが最悪でわざわざスリップさせるような真似である。

 交通事故は交差点が一番多いことは誰でも知っていると思うが、もう一つは自宅周辺が多い。つまり走り慣れた道路が危ないのである。更に自宅駐車場で我が子が犠牲になる事故も少なくない。一種の正常性バイアス状態に陥るのだろう。

 クルマを「足」と思えば、「走る凶器」であることを忘れる。時速60kmの衝撃はビルの5階から落ちるのと同程度である。


 私は「運転が上手い」とよく言われるが、トラックやタクシー、はたまたバイクの後ろを走らないよう心掛けている。あとは危険予知もさることながら、落下物や飛び石に対して漠然とした注意を向けている。

「よく見る」と言われるが、むしろ見ることによって失われる情報を想像できるかどうかである。前を見れば後ろは見えないし、右を見れば左は見えないのである。「見る」ことは「見えない」ことを含んでいる。だからこそなるべく窓は少し開けて音や空気の振動を感じる状態にするのが望ましい。

2007年の排ガス規制~ホンダPCX125の登場(2010年)がビッグスクーターブームに止めを刺した


『博士のエンジン手帖3』(モーターファン別冊)畑村耕一

 ・2007年の排ガス規制~ホンダPCX125の登場(2010年)がビッグスクーターブームに止めを刺した


 偶然見た動画だが語り口が軽快で素人離れしている。これを見て『博士のエンジン手帖3』を思い出し、慌てて書評をアップした次第である。情報はいかなる情報でも必ず別の情報とつながる。教養とは知識の量ではなく、情報のつながりを示す言葉だ。今年、PCX160も発売され、こちらは高速道路にも乗れる(オートバイは125cc以上)。日本の場合、車検がない250ccバイクに人気が集まるが、もっと政治的なバックアップ体制がないとオートバイの文化は廃れていくような気がする。例えば普通自動車運転免許で小型バイク(125ccまで)の運転を認めるなど。

2021-06-21

過給ダウンサイジングと年金問題/『博士のエンジン手帖3』(モーターファン別冊)畑村耕一


・『軽トラの本』沢村慎太朗
『営業バンが高速道路をぶっ飛ばせる理由』國政久郎、森慶太
・『営業バンが高速道路をぶっ飛ばせる理由2 逆説自動車進化論』國政久郎
・『別冊モータージャーナル 四輪の書』國政久郎、森慶太

 ・過給ダウンサイジングと年金問題

2007年の排ガス規制~ホンダPCX125の登場(2010年)がビッグスクーターブームに止めを刺した

「日本のメーカーがやるべきことは、まず過給ダウンサイジングの土俵に上ること。技術を深めるのはそこからの話じゃ」
 博士がこう話したのは2012年、スバルが投入した新世代水平対向エンジン、FA20DITを前にしてのことである。排気量は2.0lで、ツインスクロールターボやEGRなど、過給ダウンサイジングの定番技術を採用している。フォレスターに乗ってFA20DITの出来映えを検証した際の感想は『博士のエンジン手帖2』を参照いただくとして、当時から小型排気量版の登場を予見していた博士は「1.6lが本命。はよ乗りたい」と繰り返し語っていた。

【『博士のエンジン手帖3』(モーターファン別冊)畑村耕一〈はたむら・こういち〉(三栄書房、2015年)以下同】

 運転は好きなのだが、特別クルマに興味があるわけではない。仕事でハイエースや2トントラックに乗っていたことがあり、荷物を運ぶクルマに関心があった。そこで上記書物を読んだというわけ。

 メカニズムに関しては更に蒙(くら)い。動画「クラッチの仕組みとは?」を視聴してもピンと来るものがなかった。まして過給ダウンサイジングの意味など知る由もない。

ダウンサイジング過給エンジン:なぜエンジンをダウンサイジングすると効率が良くなるのか?|Motor-FanTECH

 多分、人を運ぶエンジンサイズの適正化ということなのだろう。人間一人を移動させるだけなら50ccの原動機で十分だ。実際の馬が4馬力で、人間が0.3PS~1.5PSという(人間は何馬力? | 教えて!goo)。自転車なら8メッツ程度だ(METsとは?|松本協立病院)。

「1.6リッターが本命」ということは5人乗りであれば一人あたり300ccに相当する。車重を踏まえれば250ccバイクに乗ると考えられるから妥当だろう。

「エンジン屋にとって、過給ダウンサイジングを理解するのはよっぽど難しいんかと思う。ワシの場合はもともとエンジン屋じゃのうて電気自動車屋、パワートレーン屋じゃけ、エンジンはトランスミッションとセットで走りを考えにゃいけんことがわかっとる。クルマは気持ち良う走ることが大事で、そのためには低速トルクが要るんだということは実際に体験してみるのが一番じゃ」

 読んだ時は訛(なま)りに違和感を覚えてならなかった。「お前は猪熊滋悟郎か?」とも思った(YAWARA! - Wikipedia)。編集部としては生(なま)の畑村を伝えようとしたのだろうが完璧な失敗だ。

【「技術屋がわかってもクルマは変わらん。企画する人間や営業が変わらねば」
 これも博士の口癖だ。】

 理系特有の本質に切り込む視点が参考になる。特に驚かされたのは年金に対する考え方だ。

 効率を求めない、成長を求めないのが、これからの国のかたち、人の生き方じゃろう。成長を続けることが本当にええことなんかどうかをよく考えにゃいけん。これ以上成長したら地球はもたんようんになるのは目に見えとるからじゃ。面白いことに、年金がきちんと出て老後が保障されるようになると、子供を持つ理由がないようになる。だから、先進国は人口が減っていく。一方、年金が整備されていない国は自分の老後を子供に託すしか道がないけえ、子供を増やす。貧しい国では子供が育たんこともあるんで、リスク対応でたくさん産む。だから、貧しい国はどんどん人口が増えていく。
 世界はいま、そういう状況に陥っとる。この流れを断ち切るには、年金をやめにゃいけん。物事の本質を見誤ると、ほころびが出てくる。年金制度がなぜ破綻するかというたら、年金制度があるからじゃ。働き手が少ないからという指摘もあるが、年金が十分に受け取れるなら子供に面倒を見てもらう必要がないけ、子供は減り、働き手が減って年金は破綻するに決まっとる。
 年金制度は、老後はみんなで面倒を見ましょうという話。子供が自分の親の面倒を見るんじゃのうて、他の親も含めて面倒を見にゃいけん。その一方で、子供がいある親だけが子供の面倒を見る必要がある。そんな不公平な状況だから、だったら子供は要らんという話になる。年金制度で老人の面倒を見るんなら、子供の面倒もみんなで見る制度を一緒に整備せにゃいけん。子育て支援など当たり前じゃ。

 つまり社会保障のダウンサイジング化ということなのだろう。その辺の政治家よりも遥かに高い見識の持ち主で、こうした人々が日本のものづくりを支えてきたことを思うと胸が熱くなる。



エンジンコンサルティング|畑村エンジン研究事務所(広島市南区)

不動産会社の原状回復修理費用に騙されるな


 ・不動産会社の原状回復修理費用に騙されるな

【10万円以上安くできる】賃貸物件をお得に借りるテクニックまとめ

 残置物に関しては知らなかったので貼り付けておく。







【8月2日追加】



2021-06-19

サグ渋滞/『高速道路の謎 雑学から知る日本の道路事情』清水草一


 ・サグ渋滞

『眠れないほど面白い 「道路」の不思議 路線、地図、渋滞、取締り……』博学面白倶楽部

 週末や連休の各高速道路で発生する渋滞は、その6割以上が“サグ”を先頭にした自然渋滞です。一見何も障害がないところを先頭に、渋滞が発生するのです。
“サグ”とは、くぼ地のこと。高速道路が、下り坂から上り坂に差し掛かるポイントを言います。かつては、知る人ぞ知る専門用語でしたが、現在は一般常識になりつつあります。
 道路が、ドライバーが気付かないほどゆるやかな上り坂に切り替わると、意識しないうちにスピードが落ち、追いついてしまった後続車がブレーキを踏むなどして急激に速度が低下。その連鎖により渋滞が発生します。

【『高速道路の謎 雑学から知る日本の道路事情』清水草一〈しみず・そういち〉(扶桑社新書、2009年)】


 本書でサグ渋滞という言葉を知った。これは錯視というよりは運動神経の鈍さによるものだろう。自転車であれば緩い坂道に入る直前から加速するのは当然である。クルマも同様だ。上手な運転とは一定の速度をキープすることだ。なるべくブレーキを使わないことも含まれる。ただし車重の重いトラックであれば減速することはあり得る。

 事故を防ぐためには道路状況を把握する必要がある。危険予測もさることながら、こうした一般的なドライバーの癖を知っておけば事故を回避できる。特に人間の視力は正面の距離をつかみにくい傾向がある。早めの減速が生死(しょうじ)を分ける場合もある。

ゴキブリ体操改めブルブル体操/『ひざの激痛を一気に治す 自力療法No.1』


『だれでも「達人」になれる! ゆる体操の極意』高岡英夫
『自分で治せる!腰痛改善マニュアル』ロビン・マッケンジー
『自分で治す病気の数々 痔 膝痛 腰痛 肩こり 認知症 椎間板ヘルニア』谷幸照
『3万人のひざ痛を治した! 痛みナビ体操』銅冶英雄
『ひざ痛は99%完治する』酒井慎太郎
『半月板のズレを戻せばひざ痛は治る!』中村昭治

 ・ゴキブリ体操改めブルブル体操
 ・浮き指が進行すると腰が曲がる

『5分間背骨ゆらしで体じゅうの痛みが消える 自然治癒力に火をつけて、首・肩・腰痛・ひざ痛を解消!』上原宏

身体革命

 日本国内での調査では、ひざの痛みに悩んでいる人は約820万人、腰の痛みに悩んでいる人は約1020万人に上り、痛みは、日本社会の深刻な問題となっています。

【『ひざの激痛を一気に治す 自力療法No.1』(マキノ出版、2013年)以下同】

 膝痛の本は20冊ほど読んだと思う。玉石混淆(こんこう)でもちろん玉は少ない。個人的には本書が一番よかった。

 少し前までスロージョギングを行っていたのだが、時折膝痛がぶり返すのでウォーキングに戻した。それでも右膝が痛むことがあった。五十を過ぎたら無理は禁物だ。常歩(なみあし)を学んで知ったのだが着地する際は膝抜きをするのが正しい。格段に歩きやすくなった。

 そんな私が、もう5年以上、毎日続けている健康法があります。それが、ゴキブリ体操です。妙なネーミングですが、ひっくり返ったゴキブリが足をモゾモゾ動かしている姿に似ていることから、こういう名前になったようです。
 ゴキブリ体操は、あおむけに寝た状態で、両手両足をブルブルと震わせるだけ、という簡単なものです。(中略)
 実践、といっても寝ながら手足をブルブルさせるだけです。かかる時間は2~3分。本当にこんなもので痛みが取れるのだろうかと思いながらも、やってみたらびっくり。前日まで気になっていた腰痛や手足のこわばりが、なくなっていたのです。
 そして何より、起き上がったときのすっきり感が最高でした。全身がポカポカして、体が軽くなったような感じです。(加賀田節子〈かがた・せつこ〉)

 いくら何でもネーミングが悪すぎる。「引っくり返ったゴキブリ」は死を連想するから年寄りには悪い影響が出かねない。そこで私は「ブルブル体操」と名づけた。一時期集中的に行っていたのだが、私は体操というよりは手足の末端に溜まった血液を体幹に戻す感覚でやっていた。このように重力や引力を利用する運動が「ナンバ的な動き」なのだ。今日から再びやってみることにする。



動脈指圧/『血管指圧で血流をよくし、身心の疲れをスッと消す! 秘伝!即効のセルフ動脈指圧術』浪越孝

2021-06-18

体幹を平行四辺形に潰す/『ナンバの身体論 体が喜ぶ動きを探求する』矢野龍彦、金田伸夫、長谷川智、古谷一郎


『ウォーキングの科学 10歳若返る、本当に効果的な歩き方』能勢博
ナンバ歩きと古の歩術
『表の体育・裏の体育』甲野善紀
『「筋肉」よりも「骨」を使え!』甲野善紀、松村卓
『ナンバ走り 古武術の動きを実践する』矢野龍彦、金田伸夫、織田淳太郎

 ・「捻(ねじ)らず」「うねらず」「踏ん張らない」
 ・体幹を平行四辺形に潰す

『ナンバ式!元気生活 疲れを知らない生活術』矢野龍彦、長谷川智
『すごい!ナンバ歩き 歩くほど健康になる』矢野龍彦
『本当のナンバ 常歩(なみあし)』木寺英史
『健康で長生きしたけりゃ、膝は伸ばさず歩きなさい。』木寺英史
『常歩(なみあし)式スポーツ上達法』常歩研究会編、小田伸午、木寺英史、小山田良治、河原敏男、森田英二
『スポーツ選手なら知っておきたい「からだ」のこと』小田伸午
『トップアスリートに伝授した 勝利を呼び込む身体感覚の磨きかた』小山田良治、小田伸午
『間違いだらけのウォーキング 歩き方を変えれば痛みがとれる』木寺英史
『脚・ひれ・翼はなぜ進化したのか 生き物の「動き」と「形」の40億年』マット・ウィルキンソン

 ・身体革命
 ・体幹を平行四辺形に潰す

 では体幹部を使うとはどういうことか。それは、鎖骨だけを動かすというような部分的な使い方ではなく、胸郭や骨盤を潰すということである。
 胸郭や骨盤をボックスとしてイメージする。そして、そのボックスを左右・前後・上下に、各面が平行四辺形になるように潰していくのである。また、ボックスを対角線上に引き合って潰していくやり方もある。
 このようにボックス全体を操作できるようになると、偏った部分的緊張や弛緩(しかん)がなくなる。一斉にパランスよく体幹を動かせる。
 また、胸郭や骨盤を潰すことにより、身体内部の動きに敏感になり、動きが洗練されてくる。
 動きが洗練されてくるというのは、無駄がとれてくると同時に、一つの動きに全身が参加するため、必要最小限の動きになるということである。これをリラックスした動きという。

【『ナンバの身体論 身体が喜ぶ動きを探求する』矢野龍彦〈やの・たつひこ〉、金田伸夫〈かねだ・のぶお〉、長谷川智〈はせがわ・さとし〉、古谷一郎〈こや・いちろう〉(光文社新書、2004年)】

 これは理解しにくいと思うが本書の画像を参照せよ。小田伸午の著作と併せて読むと理解が深まる。体の使い方もあるが、視線を水平に保つ意味合いもある。こうした神経系の連関を古(いにしえ)の武術家は直観で見抜いた。スポーツ指導で頭の位置を注意されることは多いが、本質的な問題は頭よりも視線にある。

 自分で強く意識するために覚え書きを残しておく。

2021-06-17

「捻(ねじ)らず」「うねらず」「踏ん張らない」/『ナンバの身体論 体が喜ぶ動きを探求する』矢野龍彦、金田伸夫、長谷川智、古谷一郎


『ウォーキングの科学 10歳若返る、本当に効果的な歩き方』能勢博
ナンバ歩きと古の歩術
『表の体育・裏の体育』甲野善紀
『「筋肉」よりも「骨」を使え!』甲野善紀、松村卓
『ナンバ走り 古武術の動きを実践する』矢野龍彦、金田伸夫、織田淳太郎

 ・「捻(ねじ)らず」「うねらず」「踏ん張らない」
 ・体幹を平行四辺形に潰す

『ナンバ式!元気生活 疲れを知らない生活術』矢野龍彦、長谷川智
『すごい!ナンバ歩き 歩くほど健康になる』矢野龍彦
『本当のナンバ 常歩(なみあし)』木寺英史
『健康で長生きしたけりゃ、膝は伸ばさず歩きなさい。』木寺英史
『常歩(なみあし)式スポーツ上達法』常歩研究会編、小田伸午、木寺英史、小山田良治、河原敏男、森田英二
『スポーツ選手なら知っておきたい「からだ」のこと』小田伸午
『トップアスリートに伝授した 勝利を呼び込む身体感覚の磨きかた』小山田良治、小田伸午
『間違いだらけのウォーキング 歩き方を変えれば痛みがとれる』木寺英史
『脚・ひれ・翼はなぜ進化したのか 生き物の「動き」と「形」の40億年』マット・ウィルキンソン

身体革命

 我々は、ナンバを「難場」と解釈し、それを切り抜けるための身体の動かし方を模索してきた。「難場」とは、外的には足元が不安定であったり暗闇の中にいるような状況、内的には身体に痛みがあったり疲れているような状況のことを指す。
 そんな「難場」を切り抜けるには、できるだけ「捻(ねじ)らず」「うねらず」「踏ん張らない」古武術の身体の動き――西洋式の運動理論とは正反対の動き――が最適である。
 結論から先にいえば、そういう動きを取り入れることで、全身を使って動くことになり、動きの効率性が高まり、動き自体が滑らかになって、身体の局部に負担がかからなくなる。

【『ナンバの身体論 身体が喜ぶ動きを探求する』矢野龍彦〈やの・たつひこ〉、金田伸夫〈かねだ・のぶお〉、長谷川智〈はせがわ・さとし〉、古谷一郎〈こや・いちろう〉(光文社新書、2004年)以下同】

 著者の四人は桐朋(とうほう)高校バスケットボール部のコーチである。試行錯誤しながら前に進む様子が好ましい。我々は手探りの苦労をすることなく一冊の新書でノウハウやメソッドを学べるのだ。

「捻(ねじ)らず」「うねらず」「踏ん張らない」――これが基本である。胴体力の「捻る」は考え直した方がいいかもしれない。

 ナンバで歩くことの一つの利点として、着物が着崩れないということが挙げられる(現代の洋服では、どのような動きをしても気崩れるということはほとんどない。洋服の作りそのものが、そういう構造になっているのだ)。
 また、身体を捻ったり、うねったりすることが少ないので、内蔵の血流が悪くなったり、関節部分に負担がかかることなく長時間労働が可能になる。
 労働の中でも、腰を落としながら行なう農作業などは、このナンバ的動きが不可欠だ。日が出てから暮れるまでの農作業において、一日中局所に負担をかけ続けるのは、即身体を壊すことにつながりかねないからである。

 江戸時代の侍は帯刀していた。そのため右利きの人は左足が大きいと言われる。また歩行の際に手を振ることがなかったとも言われるが、荷物を持って歩くことが多かった。両手に荷物があれば体幹は正面を向いたままだ。極端に骨盤を振るモデル歩きもできない。

 一番わかりやすいのは坂道である。アップダウンを繰り返し歩けば、妙な歩行法は通用しない。何も考えずに歩けばミッドフット着地になる。正しい歩行を身につけるためには踵クッションの厚い靴は避けた方がよい。理想は地下足袋である。次にルナサンダルや草鞋(わらじ)来るわけだが、前者は高価で後者は入手しにくい。ギョサンは長距離を歩くと足裏が痛くなるし踵がやや厚すぎる。私は履いたことがないのだがベアフットシューズでもいいと思う。ただしビブラムファイブフィンガーズは微妙だ。個人的には5本指よりも鼻緒タイプの方が望ましいと考えている(靴下も)。

 昔を思えば多分ぬかるみが多かったことだろう。特に雨が多く、湿度の高い日本では道路が田んぼ状態になったことは用意に想像できる。砂浜を歩けばわかるが拇指球に力を入れることは無意味である。足全体を地面にしっかりつけて踵を推進力にするのが効率的だ。

 ところがどっこい拇指球の力を抜くことは中々容易ではない。今、様々なトレーニング法を思案しているところである。

武田邦彦「1990年代以降、食品添加物の心配は不要」






2021-06-16

何はさておき歩いてみよう/『病気の9割は歩くだけで治る! 歩行が人生を変える29の理由 簡単、無料で医者いらず』長尾和宏


 ・何はさておき歩いてみよう

『病気の9割は歩くだけで治る!PART2 体と心の病に効く最強の治療法』長尾和宏
『ウォーキングの科学 10歳若返る、本当に効果的な歩き方』能勢博
『ランニングする前に読む本 最短で結果を出す科学的トレーニング』田中宏暁
『サピエンス異変 新たな時代「人新世」の衝撃』ヴァイバー・クリガン=リード
『アルツハイマー病は治る 早期から始める認知症治療』ミヒャエル・ネールス
『一流の頭脳』アンダース・ハンセン
『ウォークス 歩くことの精神史』レベッカ・ソルニット
『トレイルズ 「道」と歩くことの哲学』ロバート・ムーア
『脚・ひれ・翼はなぜ進化したのか 生き物の「動き」と「形」の40億年』マット・ウィルキンソン
『「体幹」ウォーキング』金哲彦
『高岡英夫の歩き革命』、『高岡英夫のゆるウォーク 自然の力を呼び戻す』高岡英夫:小松美冬構成
『あらゆる不調が解決する 最高の歩き方』園原健弘
『あなたの歩き方が劇的に変わる! 驚異の大転子ウォーキング』みやすのんき
ナンバ歩きと古の歩術
『表の体育・裏の体育』甲野善紀
『ナンバ走り 古武術の動きを実践する』矢野龍彦、金田伸夫、織田淳太郎
『ナンバの身体論 体が喜ぶ動きを探求する』矢野龍彦、金田伸夫、長谷川智、古谷一郎
『ナンバ式!元気生活 疲れをしらない生活術』矢野龍彦、長谷川智
『すごい!ナンバ歩き 歩くほど健康になる』矢野龍彦
『本当のナンバ 常歩(なみあし)』木寺英史
『健康で長生きしたけりゃ、膝は伸ばさず歩きなさい。』木寺英史
『常歩(なみあし)式スポーツ上達法』常歩研究会編、小田伸午、木寺英史、小山田良治、河原敏男、森田英二
『スポーツ選手なら知っておきたい「からだ」のこと』小田伸午
『トップアスリートに伝授した 勝利を呼び込む身体感覚の磨きかた』小山田良治、小田伸午
『間違いだらけのウォーキング 歩き方を変えれば痛みがとれる』木寺英史
『足裏を鍛えれば死ぬまで歩ける!』松尾タカシ、前田慶明監修

身体革命

【糖尿病人口は、950万人に。
 高血圧人口は、4000万人に。
 高脂血症人口は、2000万人に。
 認知症人口は460万人、予備軍も加えると900万人に。
 そして、毎年100万人が新たにがんにかかり、年間で37万人が、がんで命を落としている――。】

 毎年、毎年、そんなニュースが次から次へと耳に飛び込んできます。「こんなに病気が増えました。10年後にはもっと増えるでしょう。大変です」と、大騒ぎしています。しかし、その大半は、歩かなくなったことが原因だと思います。

【『病気の9割は歩くだけで治る! 歩行が人生を変える29の理由 簡単、無料で医者いらず』長尾和宏〈ながお・かずひろ〉(山と渓谷社、2015年)】

 長尾和宏はもはやベストセラー作家といってよい。ウォーキング本の刊行順は以下の通りである。

・本書、2015年
・『認知症は歩くだけで良くなる 認知症予防と改善に最良の方法は「ながら歩き」! 』2016年
・『歩き方で人生が変わる。 幸せになる10の歩き方』2017年
・『病気の9割は歩くだけで治る!PART2 体と心の病に効く最強の治療法』2018年
・『歩くだけでウイルス感染に勝てる! 歩行で、新型コロナやインフルエンザを克服しよう!』2020年
・『「生活習慣病」は歩くだけで9割治る!+食生活編』2020年

 やや粗製乱造気味と思われるので、興味が湧くタイトルを選べばいいだろう。

 尚、上記書評リストは道標(みちしるべ)として網羅を試みた。ま、古本屋の心意気みたいなものだ。心密かに「俺って天才?」と思っていることは敢えて書かない。

 特に、80歳以上では、4人に1人が認知症といわれています。

 認知症とは「私が私でなくなる病気」である。娘の顔を見て「どちら様ですか?」と言う瞬間の衝撃は筆舌に尽くし難いものがある。それまでの関係性を見失い、断ち切る深刻な病だ。当人に自覚はないが「世界から切り離された状態」に追いやられる。自我の喪失は形を変えた死といってよい。

 まず、認知症を予防するには、認知症予備軍といわれる「軽度認知障害(MCI)」の段階で注目することが一つです。MCIというのは、そのまま何もしなければ5割の人が認知症に進むけれども、気をつければまだ後戻りできるという段階。この段階で気がつけば、自力で認知症を予防することができます。
 それは現実的に可能になってきているのです。何も症状のない段階から、MCIを早期発見する「MCIスクリーニング検査」が実際に可能になりました。
 これは、アルツハイマー病の原因である「アミロイドβ」が脳内にたまっていくときにかかわっている3種類のたんぱく質を調べることで、MCIのリスクをA~Dの4段階で評価するというもの。検査は採血のみで、2万~3万円程度で受けることができるそうです。

 これは知らなかった。親が70代になったら必ず受けさせよう。認知症は静かに緩慢な進行を続け、ある日突然表面化する。氷山の一角にたじろいでからでは遅い。時間をかけて進行する病気は治すのも時間を要する。歩くことで認知症から距離を置ける。否、いっそのこと認知症から逃げるつもりで歩いた方がいいだろう。

 うつの人は、歩けば治ります。【うつ病は、脳内の「セロトニン」や「ノルアドレナリン」というホルモンが不足した状態ですが、歩けばこれらが脳内で増えるからです。】だから、1日5分でいいので、とにかく歩いてほしい。

 科学的根拠は示していないが、臨床的な実体験から述べられた言葉である。善は急げである。とにかく歩け。

 もう一つ。朝日を浴びることもとても大事です。
 朝日を浴びることが大事な理由は二つあります。一つは、朝日を浴びると、体内時計がリセットされるということ。
 体内時計は24時間よりもちょっと長い周期で働いています。ところが1日は24時間周期なので、そのままにしていると少しずつ狂ってしまう。それをリセットしてくれるのが朝日を浴びることなのです。
 また、朝日を浴びると、夜間に「メラトニン」が分泌されるようになります。メラトニンとは、睡眠ホルモンと呼ばれるもの。メラトニンが脳の松果体から分泌され、夜になると脈拍、体温、血圧が下がって自然な眠りに入っていくのです。このメラトニンは、朝、光を浴びてから14~16時間後に分泌されるといわれています。

 本書を読んでから直ぐに実行している。生活の中で自然と接触することが大切だ。人工物は死んでいる。便利な乗り物や家電製品を使うことで我々は体力を失い、風雨にさらされることを拒んで五官の感覚が衰えてゆく。安全に馴染みすぎた体はブクブクと太り、背骨は曲がり、慢性的な肩凝りや腰痛に悩まされる。我々は楽な生活を選択することで自ら生活習慣病を招き寄せているのだ。

 私は50代になってから、ウォーキング~自転車~筋トレ~スロージョギングと進み、今再びウォーキングに回帰したところである。ゆくゆくは自転車で走った宮ヶ瀬湖や相模湖まで歩いてゆくつもりだ。

 最後に重要な指摘を。長尾和宏が書いている具体的な歩行法は無視せよ。これに関しては私の方がずっと詳しい。

2021-06-15

現代の小麦は諸病の源/『小麦は食べるな!』ウイリアム・デイビス


アメリカの穀物輸出戦略
『給食で死ぬ!! いじめ・非行・暴力が給食を変えたらなくなり、優秀校になった長野・真田町の奇跡!!』大塚貢、西村修、鈴木昭平
『ファストフードが世界を食いつくす』エリック・シュローサー

 ・現代の小麦は諸病の源

西田昌司×吉野敏明 参政対談 ・『病気がイヤなら「油」を変えなさい! 危ない“トランス脂肪”だらけの食の改善法』山田豊文
・『本当は危ない植物油 その毒性と環境ホルモン作用』奥山治美
・『危険な油が病気を起こしてる』ジョン・フィネガン
『うつ消しごはん タンパク質と鉄をたっぷり摂れば心と体はみるみる軽くなる!』藤川徳美
『シリコンバレー式 自分を変える最強の食事』デイヴ・アスプリー
『医者が教える食事術 最強の教科書 20万人を診てわかった医学的に正しい食べ方68』牧田善二
『医者が教える食事術2 実践バイブル 20万人を診てわかった医学的に正しい食べ方70』牧田善二
『DNA再起動 人生を変える最高の食事法』シャロン・モアレム
『サピエンス異変 新たな時代「人新世」の衝撃』ヴァイバー・クリガン=リード
『アルツハイマー病は治る 早期から始める認知症治療』ミヒャエル・ネールス
『反穀物の人類史 国家誕生のディープヒストリー』ジェームズ・C・スコット

身体革命

 わたしたちが日々食べているブランマフィンやオニオンチャバタなどに巧妙に形を変えているものは【かつての小麦ではなく】、20世紀後半に行われた遺伝子研究によって形質転換されたものです。現代の小麦が本物の小麦なら、チンパンジーは人間だと言うようなものです。
 50年代の運動をしないやせた人たちと、トライアスロン選手を含めた21世紀の太った人たちの違いは、穀類――もっと正確に言うと、遺伝子操作された現代の小麦と呼ばれるもの――の消費量の増加だとわたしは考えています。
 小麦を体に悪い食物だと言えば、ロナルド・レーガンを共産党員と言うに等しいことは、わかっています。伝統的な主食を有害食品呼ばわりするとは、ばかなことを言うと思われるでしょうし、非国民とさえ言われることでしょう。それでも、世界で最も人気のある穀物が世界で最も破壊的な食品成分であることは、これから証拠を挙げて説明していきます。
【小麦による人体への奇妙な影響】として、食欲増進、エクソルフィン(脳内麻薬のエンドルフィンと同等の外因性の物質)による脳の活性化、食欲と満腹のサイクルを繰り返す引き金となる血糖値の大幅な亢進、病気や老化の原因となる糖化反応、軟骨をむしばみ、骨を破壊する炎症やpHバランスの破壊、免疫反応疾患の活性化が記録されています。
 小麦を消費することで、セリアック病――小麦グルテンの摂取による破壊的な腸管疾患――から、さまざまな神経障害、糖尿病、心臓疾患、関節炎、奇妙な発疹、統合失調症のおぞましい妄想まで、さまざまな病気が引き起こされます。

【『小麦は食べるな!』ウイリアム・デイビス:白澤卓二〈しらさわ・たくじ〉訳(日本文芸社、2013年)】

 上記リンクの油本3冊は既に読んだのだが書評を書いてないため参考情報として挙げておく。一応言いわけしておくと、当ブログ内で書籍にリンクを貼ってあるものは、「既に読んだかこれから読むか」という作品に限っている。それが最低限の誠実さというものだ。

 大衆消費社会を先導するのは広告である。すなわち新聞・雑誌・ラジオ・テレビ、そしてインターネットとマスメディアは発達してきたわけだが、心理学や行動経済学を駆使して様々な仕掛けを施す。感情を操作し、欲望に点火し、消費という行動を促す。現代における幸福とは購買の異名である。

 個人的な話で恐縮だが私は宗教と科学についてはそこそこ知識がある。日本近代史はここ数年間、集中的に学んできた。近代とは西洋化の異名であるから世界史も参照せざるを得ない。経済の原理についてはいささか昏(く)いが、一般人よりは金融を知っている。そんな私でも、こと食べ物や健康に関しては素人同然で批判し得るだけの基準がない。「物は試し」の精神で臨んでいるが、知識や思考が身体に与える影響は決して少なくない。

 例えばこんなことがあった。随分前のことだがテレビで野口五郎が「卵の黄身を食べられない」と語っていた。それを聞いた私は、「馬鹿だなあ。白身だけじゃ栄養が少ないだろーよ」と思った。ところが数日後、目玉焼きの黄身を食べていたところ、突然気分が悪くなったのだ。頭に刺すような感覚が走り、胸が悪くなった。それ以降、しばらく卵の黄身を食べることができなくなった。今でも半熟は駄目だ。私は野口五郎のファンでもなければ教祖と崇めているわけでもない。それでも何気なく耳に入ってきた情報は体を変えることがあるのだ。

 もう一つ書いておかねばならないことは、現代人の不健康な食事を論(あげつら)う書籍は山のようにあるわけだが、寿命が伸びたことを無視しているような気がする。もちろん長寿の原因が幼児の死亡率低下にあることは明白だが、日本は2007年に超高齢社会となった。2030年には日本人の平均年齢は51.5歳になると予測されている。


 平均寿命と健康寿命の差分は「闘病あるいは要介護の期間」となる。1990年代後半から老老介護という言葉が表面化した(中村律子:PDF)。「1995年9月15日の読売新聞で鵜飼哲夫が佐江衆ー著『黄落』の評として用いており、1996年2月22日第136回国会衆議院予算委員会公聴会にて公述人として樋口恵子東京家政大学教授が質問に立ちこの語を用いた」(Wikipedia)。厚生労働省は2006年から介護殺人の件数をカウントしている。「2015年(平成27年)度までに247件、250人の被害者が出ている」(Wikipedia)。特に世間の耳目を集めたのは京都伏見介護殺人事件(2006年)であった。

 そして2006年真冬のその日、手元のわずかな小銭を使ってコンビニでいつものパンとジュースを購入。母親との最後の食事を済ませ、思い出のある場所を見せておこうと母親の車椅子を押しながら河原町界隈を歩く。やがて死に場所を探して河川敷へと向かった。

「もう生きられへんのやで。ここで終わりや」という息子の力ない声に、母親は「そうか、あかんのか」とつぶやく。そして「一緒やで。お前と一緒や」と言うと、傍ですすり泣く息子にさらに続けて語った。「こっちに来い。お前はわしの子や。わしがやったる」。  その言葉で心を決めた長男は、母親の首を絞めるなどで殺害。自分も包丁で自らを切りつけて、さらに近くの木で首を吊ろうと、巻きつけたロープがほどけてしまったところで意識を失った。それから約2時間後の午前8時ごろ、通行人が2人を発見し、長男だけが命を取り留めた。

「地裁が泣いた介護殺人」10年後に判明した「母を殺した長男」の悲しい結末 | デイリー新潮

 具体的な数字はわからないが、報道される介護殺人は情状酌量で無罪となるケースが多いように思う。確かによんどころない事情があるのはわかる。だが「無罪」はまずいだろう。これだと「介護で行き詰まったら家族が処理せよ」とのメッセージを放っているようにすら見える。例えば上記事件だと、生活保護を拒んだ役所の人間の責任ぐらいは問うて然るべきだろう。

 話が思い切り横道に逸れてしまった。健康寿命を伸ばすのは食事と運動である。あとは何でも語れる友達がいればいい。地域で新しい年寄りのコミュニティを作ることを数年前から思案中である。


2021-06-14

骨盤歩き/『ナンバ走り 古武術の動きを実践する』矢野龍彦、金田伸夫、織田淳太郎


『病気の9割は歩くだけで治る! 歩行が人生を変える29の理由 簡単、無料で医者いらず』長尾和宏
『ウォーキングの科学 10歳若返る、本当に効果的な歩き方』能勢博
ナンバ歩きと古の歩術
『表の体育・裏の体育』甲野善紀

 ・「肉」ではなく「骨」を意識する
 ・骨盤歩き

『ナンバの身体論 体が喜ぶ動きを探求する』矢野龍彦、金田伸夫、長谷川智、古谷一郎
『ナンバ式!元気生活 疲れを知らない生活術』矢野龍彦、長谷川智
『すごい!ナンバ歩き 歩くほど健康になる』矢野龍彦
『本当のナンバ 常歩(なみあし)』木寺英史
『健康で長生きしたけりゃ、膝は伸ばさず歩きなさい。』木寺英史
『常歩(なみあし)式スポーツ上達法』常歩研究会編、小田伸午、木寺英史、小山田良治、河原敏男、森田英二
『スポーツ選手なら知っておきたい「からだ」のこと』小田伸午
『トップアスリートに伝授した 勝利を呼び込む身体感覚の磨きかた』小山田良治、小田伸午
『間違いだらけのウォーキング 歩き方を変えれば痛みがとれる』木寺英史
『脚・ひれ・翼はなぜ進化したのか 生き物の「動き」と「形」の40億年』マット・ウィルキンソン

身体革命

 ナンバ走りの「コツをつかむ」ための予備段階としては、まず歩きの中から習得するという方法がベストかもしれない。
 たとえば、階段や山を上る際、右足を踏み出したときに右手をその膝に添えるというやり方である。これは疲労困憊(こんぱい)したとき自然に出るポーズだが、体を楽にする意味で、しごく理に適った動きである。
 竹馬に乗って歩くのも、ナンバ的感覚を養う手段として有効である。竹馬は踏ん張ってはうまく前に進まない。スムーズに歩くためには前方へと一歩一歩倒すようにしなければならず、古武術で言う支点の崩しによるエネルギーの移動に通じるところがある。
 以上の動作を加味した上で、骨盤で走るという感覚を養うためには、俗に言う「骨盤歩き」の習得が有効になるだろう。この「骨盤歩き」は骨盤を形成する「仙骨」「腸骨」の分離感覚を促進し、それぞれの独立した動きを可能にしてくれる。第三章、第四章で後述する「骨盤潰し」による様々な技を可能にする予備段階としても、ぜひとも取り組んでもらいたいトレーニングである。


【『ナンバ走り 古武術の動きを実践する』矢野龍彦〈やの・たつひこ〉、金田伸夫〈かねだ・のぶお〉、織田淳太郎〈おだ・じゅんたろう〉(光文社新書、2003年)】

「そうか!」と膝を打った。まず膝に手を添えるというのは経験したことがなかった。更に小学生の時分に何度か竹馬に挑戦したことはあるが結局乗ることができなかった。飽きっぽい性格も手伝って直ぐに見向きもしなくなった。ただし骨盤歩きはストンと腑に落ちた。普段使っていない筋肉や骨を動かすことは明らかだ。しかも足を使えないため体幹勝負である。

 早速やってみた。直ぐにできた。これはいい。今まで動かすことのなかった体の深奥を揺さぶっている感覚がある。広いスペースで行えばもっと体が目覚めることだろう。

 問題は動かすことができるにもかかわらず動かしていない部位があまりにも多すぎることなのだろう。日常生活では手先や足先など末端を動かす営みが殆どだ。現代人は「体を使えていない」。つまりポルシェを時速30kmで運転しているような状態と言っていいだろう。

 ただし体はタイヤを回すような単純な構造ではない。複層構造の体幹に4台の油圧ショベルが据え付けられているような代物だ。

 ナンバ歩きや常歩(なみあし)を試すと筋肉よりも骨の重要さが自覚できる。例えば操り人形だ。傀儡子(くぐつし)が操る人形は関節部分を動かしているのだ。紐が筋肉だ。つまり筋肉の役割は骨を導くところにある。

 人工物が溢れる現代社会にあって体は人間に残された最後の自然である。コントロール不可能な自然であることを我々は不調や病によって知る。極端な運動は農業を行うような真似だ。そうではなく適度な運動で里山のような状態にすることが望ましいように思う。