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2021-11-17

『an・an』の創刊/『決定版 三島由紀夫全集36 評論11』三島由紀夫


三島由紀夫の遺言

 ・果たし得てゐいない約束――私の中の二十五年
 ・『an・an』の創刊
 ・時間の連続性

『三島由紀夫が死んだ日 あの日、何が終り 何が始まったのか』中条省平
『三島由紀夫の死と私』西尾幹二
『昭和45年11月25日 三島由紀夫自決、日本が受けた衝撃』中川右介
『三島由紀夫と「天皇」』小室直樹
『日本の名著27 大塩中斎』責任編集宮城公子

アンアン創刊おめでたう

「アンアン」の創刊は、ヨーロッパの生活感覚と日本女性の生活感覚とをますます近づけるであらう。女が美しいことは、人生が美しいといふこととほとんど同義語だといふ、フランス人の確信が、日本にそのまま伝はることは大歓迎である。(初出 an・an 昭和45年3月20日)

【『決定版 三島由紀夫全集36 評論11』三島由紀夫〈みしま・ゆきお〉(新潮社、2003年) 】

 昭和45年(1970年)の評論と楯の会関連資料が収められている。11月25日に三島は割腹自決を遂げる(享年45歳)。女性誌への祝辞が三島人気を語ってあまりある。『an・an』の命名は黒柳徹子によるもの。三島が死を決意したのは3~4月と推測されている(割腹自殺によって“作品”を完成させた三島由紀夫 | nippon.com)。

 当時、私は小学1年だった。三島事件のことは記憶にない。思い出せるのは学生運動を嘲笑うかのように流行した「帰って来たヨッパライ」くらいだ。

 新たな女性誌の創刊は時代の変化を告げるものだ。しかしながら、男女共にジーンズというアメリカ由来の作業ズボンだらけとなる。高度経済成長で汗まみれになって働く父親の後ろ姿を見て育ったせいか。

イノベーションに挑む気概/『ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか』ピーター・ティール with ブレイク・マスターズ


『独創は闘いにあり』西澤潤一
『まず、ルールを破れ すぐれたマネジャーはここが違う』マーカス・バッキンガム&カート・コフマン

 ・イノベーションに挑む気概

『ジャック・マー アリババの経営哲学』張燕
『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』藤井保文、尾原和啓
『シリコンバレー最重要思想家ナヴァル・ラヴィカント』エリック・ジョーゲンソン
『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』佐藤航陽
『Dark Horse(ダークホース) 「好きなことだけで生きる人」が成功する時代』トッド・ローズ、オギ・オーガス

 ビジネスに同じ瞬間は二度とない。次のビル・ゲイツがオペレーション・システムを開発することはない。次のラリー・ペイジとセルベイ・ブリンが検索エンジンを作ることもないはずだ。次のマーク・ザッカーバーグがソーシャル・ネットワークを築くこともないだろう。彼らをコピーしているようなら、君は彼らから何も学んでいないことになる。
 もちろん、新しい何かを作るより、在るものをコピーするほうが簡単だ。おなじみのやり方を繰り返せば、見慣れたものが増える。つまり1がnになる。だけど、僕たちが新しい何かを生み出すたびに、ゼロは1になる。何かを創造する行為は、それが生まれる瞬間と同じく一度きりしかないし、その結果、まったく新しい、誰も見たことのないものが生まれる。
 この、新しいものを生み出すという難事業に投資しなければ、アメリカ企業に未来はない。現在どれほど大きな利益を上げていても、だ。従来の古いビジネスを今の時代に合わせることで収益を確保し続ける先には、何が待っているだろう。それは意外にも、2008年の金融危機よりもはるかに悲惨な結末だ。今日の「ベスト・プラクティス」はそのうちに行き詰まる。新しいこと、試されていないことこそ、「ベスト」なやり方なのだ。
 行政にも民間企業にも、途方もなく大きな官僚制度の壁が存在する中で、新たな道を模索するなんて奇跡を願うようなものだと思われてもおかしくない。実際、アメリカ企業が成功するには、何百、いや何千もの奇跡が必要になる。そう考えると気が滅入りそうだけれど、これだけは言える。ほかの生き物と違って、人類には奇跡を起こす力がある。僕らはそれを「テクノロジー」と呼ぶ。
 テクノロジーは奇跡を生む。それは人間の根源的な能力を押し上げ、【より少ない資源でより多くの成果を可能にしてくれる】。人間以外の生き物は、本能からダムや蜂の巣といったものを作るけれど、新しいものやよりよい手法を発明できるのは人間だけだ。人間は、天から与えられた分厚いカタログの中から何を作るかを選ぶわけではない。むしろ、僕たちは新たなテクノロジーを生み出すことで、世界の姿を描き直す。それは幼稚園で学ぶような当たり前のことなのに、過去の成果をコピーするばかりの社会の中で、すっかり忘れられている。

【『ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか』ピーター・ティール with ブレイク・マスターズ:関美和〈せき・みわ〉訳(NHK出版、2014年)】

 瀧本哲史の長い序文が余計だ。翻訳の文体が合わないため挫折した。

 キリスト教文化特有の思い上がりが滲み出た文章だが、イノベーションに挑む気概は見上げたものだ。特に「出る杭は打たれる」風潮が強い我が国の産業界は耳を傾ける意見だろう。

 輝かしい学歴を手にした若者が官僚や大企業のサラリーマンになるのは嘆かわしい限りだ。「グーグル、アップル、ヒューレット・パッカード(HP)、マイクロソフト、アマゾンはいずれもガレージから始まったと言われている」(成功はガレージから始まる…5つの巨大テック企業が生まれた場所を見てみよう | Business Insider Japan)。形ではない。アイディア勝負なのだ。パナソニック、ソニー、ホンダなど日本を代表するメーカーも本を正せばベンチャー企業であった。

 ピーター・ティールイーロン・マスクとPayPalを創業した。フィンテックの走りである。今となってはスマホ決済(電子マネー)の影に隠れてしまった感があるが当時は革命的だった。日本語化が遅れたせいで普及は今ひとつであったように思う。

 ビッグテックのCEOが巨額の資産を有することがともすると批判的に受け止められているが、まず我々一般人が学ぶべきは彼らが巨富を手にしても尚働き続ける事実である。食べるために働く人々とは生きる次元が異なるのだろう。まして、やりたくもない仕事を嫌々させられている面々とは隔絶した別世界に住んでいる。成功は飽くまでも副次的なものであって、彼らにとっては「世界の仕組みを変えること」こそが働く目的なのだろう。

 レールの上を走る人生は安全ではあるが人跡未踏の地に至ることはない。困難の度が増せば増すほど開拓の喜びは大きいのだろう。

2021-11-15

ラバのように子孫ができない野菜/『タネが危ない』野口勲


『給食で死ぬ!! いじめ・非行・暴力が給食を変えたらなくなり、優秀校になった長野・真田町の奇跡!!』大塚貢、西村修、鈴木昭平
『面白いほどよくわかる「タブー」の世界地図 マフィア、原理主義から黒幕まで、世界を牛耳るタブー勢力の全貌(学校で教えない教科書)』世界情勢を読む会
『自殺する種子 アグロバイオ企業が食を支配する』安田節子

 ・ラバのように子孫ができない野菜

『野菜は小さい方を選びなさい』岡本よりたか
『土を育てる 自然をよみがえらせる土壌革命』ゲイブ・ブラウン

 もともと地方野菜とは、よそから伝播してその地の気候風土に馴化した野菜ばかりなのだから当然である。これこそ人間が移動手段を提供したために、旅をしながら遺伝子を変化させ続けてきた、野菜本来の生命力の発露なのだ。
 生命にとって変化は自然なことで、停滞は生命力の喪失である。変化を失った生命はもう生命とは言えない。気候風土や遭遇する病虫害に合わせ、己自身の内なる遺伝子に変化を促し続けてきた地方野菜こそ、生命力をたぎらせた野菜本来の姿なのだ。

【『タネが危ない』野口勲〈のぐち・いさお〉(日本経済新聞出版、2011年)以下同】

 読んだのは2014年の7月である。衝撃を受けた。

 と書いた後、パソコンの調子が悪くなった。リフレッシュした後、インターネット接続ができなくなり、その後初期化もできず、仕方がないのでノートパソコンを引っ張り出した。画面が小さいと書く気が失せる。

 話を戻そう。7年経つと些(いささ)か説得力が弱くなっている。私は宗教と科学についてはそこそこ鼻が利くのだが、殊(こと)、食に関しては批判力が弱まる。「ヘエー、フーン」なんて感じで読んでしまうのが常だが、おしなべて狭い考え方が前面に出ており、猛々しい否定でもって「我尊(たっと)し」と主張するものが多い。例えば糖質制限なども書籍によって糖質制限以外のアドバイスがバラバラで統一見解にまで至っていない。何にも増して平均寿命が伸びている現実を無視している著者が多い。まあ、赤ん坊の死亡率減少が最たる理由であったとしても、そこに触れなければQOL(生活の質)もへったくれもないだろう。

 本書では「一代雑種(F1、First Filial Generation)」としているが、Wikipediaでは「雑種第一代:Filial 1 hybrid」となっている。どちらが正しいのかは判然とせず。

 現在スーパーなどで普通に売られている野菜のタネは、ほとんどがF1とか交配種と言われる一代限りの雑種(英語ではハイブリッド)のタネになってしまっていて、この雑種からタネを採っても親と同じ野菜はできず、姿形がメチャクチャな異品種ばかりになってしまう。

 要はラバと同じなのだ。雄のロバと雌の馬を掛け合わせるとラバができる。しかしラバは繁殖することができない。F1種の場合、2代目、3代目はできるようだが異形になるらしい。雑種強勢が働くのだからよしとするのが推進派の考え方だ。「本来の姿」を思えば、ラバもまた人間の都合で勝手に作られた畸形(きけい)と言っていいだろう。私が座敷犬を好きになれないのも同じ理由のため。

 東京オリンピックを契機にした高度成長時代以降、日本中の野菜のタネが、自家採種できず、毎年種苗会社から買うしかないF1タネに変わってしまった。
 F1全盛時代の理由の第一は、大量生産・大量消費社会の要請である。収穫物である野菜も工業製品のように均質であらねばならないという市場の要求が強くなった。箱に入れた大根が直径8センチ、長さ38センチというように、どれも規格通りに揃っていれば、1本100円というように同じ価格で売りやすくなる。経済効率最優先の時代に必要な技術革新であったと言えるだろう。
 これに比べ、昔の大根は同じ品種でも大きさや重さがまちまちで、そのため昔は野菜を一貫目いくらとか秤にかけて売っていた。

 消費者と販売業者と生産者の呼吸が一致したわけだ。F1種は皆の要求から生まれたことがわかる。ただし、そうした事実が消費者に知らされていない。せめて「種のならない一代限りの雑種強勢」であることは伝えるべきだろう。

 近年、全国の種苗店のみならず、ホームセンター、JAでも、F1のタネばかり販売するようになったが、野口種苗は全国で唯一、固定種のタネの専門店を自称している。揃いが悪いので市場出荷には向かないけれど、味が好まれ昔から作り続けられてきた固定種は、家庭菜園で味わい、楽しむ野菜にはぴったりだ。

 野口勲は三代目である。

伝統野菜や固定種の種の通販|野口のタネ・野口種苗研究所

 大学を中退し、手塚治虫の虫プロに入社。『火の鳥』の編集者を務めた。そんな経緯にも触れている。

 私もそろそろ農業に手をつけようと考えているのだが、その時は野口のタネを利用したい。

「一粒万倍」という言葉に示されるように、一粒の菜(な)っ葉(ぱ)のタネは、1年後に約1万倍に増え、2年後はその1万倍で1億粒。3年後には1兆粒。4年後はなんと1京粒だ。健康な1粒のタネは、こんな宇宙規模にも匹敵する生命力を秘めている。

 F1種は遺伝子組み換えではないのだが不自然なことに変わりはない。最も厄介なのは消化機能の化学的メカニズムがよくわかってないことだ。食物のカロリーが全て体内で燃焼するわけでもない。だからといって大自然万歳と言うのもそそっかしい。多くの植物が外敵から身を守るために毒を放っているのだから。

 種苗メーカーや産地指導にあたる農業センターの人の話によると、外食産業の要求は、「味付けは我々がやるから、味のない野菜を作ってくれ。また、ゴミが出ず、菌体量の少ない野菜を供給してくれ」ということだそうだ。こうして世の中に流通する野菜は、どんどん味気がなくなり、機械調理に適した外観ばかり整った食材に変化していく。

 大手チェーン店の正体見たり。そのうち絶妙な味付けをした軟(やわ)らかいプラスチックを食べさせられるかもね。有名チェーン店で食事をするのは危険だな。

 もともと日本にあった野菜はわさびやフキ、ミツバ、ウドぐらいで、それ以外は世界中から入ってきて、日本の気候風土になじんだ伝来種である。遺伝子が本来持つ多様性や環境適応性が発揮されて、3年も自家採種を続ければ、新しい土地の野菜に育ってくれる。

 では古代人は何を食べていたのか? ドングリ、栗、魚、貝は知っている。アフリカから遠路はるばる極東の地まで辿り着いたわけだから、それ相応の知識が蓄積されていたはずだ。人類の進路は食料によって切り拓かれたことだろう。食べ物が乏しい地域では皆が死んでしまったはずだ。水と食料は絶対不可欠だ。

 私が気をつけているのは、まず美味しいと感じること、次に飽きないこと、そして体が温まることの3点である。先日、初めて大根の葉の味噌汁を作ったのだが、それほど美味くなかった。が、体が温まったのでよしとする。赤味噌を混ぜたのがよかったのかもしれない。茎が硬いのには大いに閉口した。

 自然ということを踏まえれば、年がら年中米を食べるのは明らかにおかしい。秋から冬にかけて食べるのが正しいと思う。あるいは根菜もまたしょっちゅう手に入るものではないだろう。でも、そう考えると毎日食べることができるのは魚と葉っぱくらいしか思い浮かばない。そろそろ昆虫食を考えるタイミングだな。

 蜂群崩壊症候群に関してもF1原因説を唱えているが果たしてどうか?



炭水化物抜きダイエットをすると死亡率が高まる/『宇宙生物学で読み解く「人体」の不思議』吉田たかよし

2021-11-10

行間から滴り落ちる毒/『先崎学の浮いたり沈んだり』先崎学


『将棋の子』大崎善生
『傑作将棋アンソロジー 棋士という人生』大崎善生編
『聖(さとし)の青春』大崎善生
『一葉の写真』先崎学
『フフフの歩』先崎学

 ・行間から滴り落ちる毒
 ・村山聖

『まわり将棋は技術だ 先崎学の浮いたり沈んだり2』先崎学
・『山手線内回りのゲリラ 先崎学の浮いたり沈んだり』先崎学

 今だから笑って書ける話だが、私は10代前半の頃までかなりのどもりだった。
 どもりには二通りあって、「あ、あ、あ」と最初の言葉を反復してしまうものと、最初の一言が出てこないものに分かれるのだが、私は後者の方で、とくにカ行とタ行ではじまる言葉がてんで駄目だった。
 一発目の一語さえ発音できれば、あとはすらすら喋れるのだが、その一語がなかなか出ない。しかも緊張するとますます出ないというのがこのタイプの特徴で、一人暮らしをはじめた頃、蕎麦屋での注文の時、たぬき、きつね、天ぷらなどがどうしてもいえなかった。お陰で今でも蕎麦は冷たいものが好きである。
 奨励会の頃だからプロ棋戦の記録係を務めるのだが、カ行とタ行の棋士の記録は、できるだけしないようにしていた。「加藤先生、残り何分です」というのが言えないのである。
 だからどうかは分からないが、どちらかというと内向的な少年だった。
 そんな私を救ったのは田中角栄だった。

【『先崎学の浮いたり沈んだり』先崎学〈せんざき・まなぶ〉(文藝春秋、2002年/文春文庫、2004年)以下同】

1分間に200回の腹式呼吸/『火の呼吸!』小山一夫

 田中角栄の自伝を読み、あの雄弁な田中もどもりであった事実を知る。田中は浪曲を歌う時はどもらないことに気づく。話す時も節をつけるようにしたところ、それが後の角栄節を生んだという。田中の体験が光明(こうみょう)となった。

 とはいえ私は浪曲は知らない。だが言葉を出す時に節をつけるというのは、大きなヒントになった。「たぬき蕎麦」というのではなく、「えーとたぬき蕎麦」といえばいいのだ。
 えーと。んーと。いやあ。だからさ。そうねえ。私はこれらの言葉をなるべく使うようにした。
 こういう接続詞を多様すると必然、ややこしく理屈っぽい喋り口になる。その名残りは今も残っていて、お前の話は、中身が無いわりに理屈っぽいといわれる。
 とにかく、私は少しずつ努力した。
 ある日、どもらない自分がいた。それに気付いた時の喜びったらなかった。

 私は将棋ファンではないのだが、次の名解説で先崎の名を知った。


 どもりの片鱗もない見事な解説である。知的な語り口に魅了される。ところがどうだ。エッセイはというと行間から毒が滴り落ちている。こんな面白いエッセイを読んだのは久し振りのことだ。どこか昔の小田嶋隆と同じ匂いがする。

 間もなく読了するのだが、吃音つながりということで紹介した。私は子供の時分から口が達者な方なのだが、他人の言うに言われぬ悩みを知ると自分の狭い世界が広がる。小学校の同級生だった近藤ブー太郎に謝りたくなる。先崎の吃音(きつおん/「どもり」は現在差別用語認定)は青森出身のためかもしれない。東京に来ても雄弁なのは関西の連中くらいだろう。

 先崎は羽生世代である。が、本文で羽生に敬称はつけない。同い年というよりは同レベルの将棋指しとの矜持によるものか。大いに笑わせられる中にも勝負の厳しさをキラリと光る文章で綴っており只者ではない。

2021-11-09

1分間に200回の腹式呼吸/『火の呼吸!』小山一夫


『究極の身体(からだ)』高岡英夫
『フェルデンクライス身体訓練法 からだからこころをひらく』モーシェ・フェルデンクライス
『運動能力は筋肉ではなく骨が9割 THE内発動』川嶋佑
『ウィリアム・フォーサイス、武道家・日野晃に出会う』日野晃、押切伸一
『大野一雄 稽古の言葉』大野一雄著、大野一雄舞踏研究所編
『武学入門 武術は身体を脳化する』日野晃
『ことばが劈(ひら)かれるとき』竹内敏晴
『スーパーボディを読む ジョーダン、ウッズ、玉三郎の「胴体力」』伊藤昇
『気分爽快!身体革命 だれもが身体のプロフェッショナルになれる!』伊藤昇、飛龍会編
『棗田式 胴体トレーニング』棗田三奈子
『天才・伊藤昇と伊藤式胴体トレーニング「胴体力」入門』月刊「秘伝」編集部編

 ・1分間に200回の腹式呼吸

『ストレス、パニックを消す! 最強の呼吸法システマ・ブリージング』北川貴英
『BREATH 呼吸の科学』ジェームズ・ネスター
『釈尊の呼吸法 大安般守意経に学ぶ』村木弘昌
・『新正体法入門 一瞬でゆがみが取れる矯正の方程式』佐々木繁光監修、橋本馨
・『仙骨姿勢講座 仙骨の“コツ”はすべてに通ず』吉田始史

身体革命

【「火の呼吸」とは1分間に200~250回の激しい腹式呼吸を行い、体内のエネルギーを高めることで神経を刺激し、アドレナリンの分泌を促進していくものです。簡単にいえば、激しい呼吸によって多量の酸素を脳に送り込むわけです。それによってニューロン(脳を構成する神経細胞)の代謝が促進され、体のなかの機能が活発に働き、そうして自然治癒力が高まっていくわけです。】(中略)
 さて、「火の呼吸」の基本動作を紹介しましょう。
 胡座(あぐら)をかく状態で右足を上にして、肩の力を抜いて両手はひざの上におきます。背筋を伸ばしましょう。この姿勢で呼吸をするわけですが、腹式呼吸で鼻で息を吸い、思いっきり鼻で吐きます。吐くときは腹部の筋肉をへこませます。要領は吐くことに集中すること。思いっきり吐いて自然に息を吸うという感じです。

【『火の呼吸!』小山一夫〈こやま・かずお〉、安田拡了〈やすだ・かくりょう〉構成(KTC中央出版、2003年)以下同】

 火の呼吸は「クンダリーニ・ヨガの秘法」と紹介されている。英語だと「クンダリーニー」、サンスクリット語だと「クンダリニ」と聞こえる。クンダリーニの文字を見て尻をすぼませる人がいることだろう。私もその一人だ。少しかじった程度でも条件反射が出てしまう。

 小山一夫が伊藤昇に献本したところ、伊藤は直ちに出版社から数十冊を購入したというエピソードがある(『天才・伊藤昇と伊藤式胴体トレーニング「胴体力」入門』月刊「秘伝」編集部編)。単なるサービス精神ではあるまい。有望な弟子たちに読ませようとしたのだろう。

 小山は船木誠勝〈ふなき・まさかつ〉を指導した。それもヒクソン・グレイシー戦までの4ヶ月間である。「船木選手は私が1年以上かかったレベルの修行をわずか2か月で達成しました」と書いてある。

 クンダリーニ・ヨガというのは、日本のヨーガ教室でやっているもの(ハタ・ヨーガ)ではありません。ハタ・ヨーガというのは体を柔軟にする技法が主体で、おもに健康法として広まっています。しかし、クンダリーニ・ヨーガはヨーガのなかでも、もっとも高度な技法体系で構成されたもので、ヨーガの秘法とされ、長いあいだ公開されていませんでした。2000年以上も前からインドのさまざまな文献に名前は出てくるのですが、その実践方法が明らかにされておらず、幻のヨーガといわれていたのです。
 ところが、20世紀後半のことです。その秘法の継承者ヨギ・バジアン師(インド人)がアメリカに渡り、その全容が世界に広まっていったのです。しかし、残念ながら日本では知られておらず、私がヨギ・バジアン師から学び、ようやく日本で公開することができたのです。

 小山は3歳で吃音症を発症。治したい一心で少林寺拳法や真言密教の過酷な修行にも取り組んできたが願いがかなうことはなかった。ところが、ヨギ・バジアン師と出会い、クンダリーニ・ヨガを修める中でいつの間にか治っていたという。その事実に気づいたのが27歳の時で、振り返ると25歳頃に治っていたかもしれないと綴られている。ここが凄いところだ。つまり知らず識らずのうちに吃音を治したい願望よりも、クンダリーニ・ヨガを極めることが最大の目的となったのだ。生の次元が変わったと言ってよい。視線が遠くを捉えた時、目の前の障碍(しょうがい)は小さな段差に過ぎなくなったのだ。

 だいたいヨーガの生活というのは、4時に起きるんです。それでシャワーを浴びたりして、4時半からヨーガをはじめます。まずエクササイズを30分から1時間やって、それからメディテーション(瞑想)に入るわけです。合計1時間半か2時間やって、それから食事をします。

 とすると私の場合、20~21時に寝る計算となる。ウーム、早いな。しかも二度寝る癖がついてしまっている。自然の摂理からすれば、やはり早起きするのが望ましい。

 玄米というのは体を冷やします。だから熱の代謝が悪い体質の人や風邪をひき真っ青になって寒気でガチガチしているような人が玄米を食べますと、もっと代謝が悪くなるわけです。体を温めなくてはいけないのに、体を冷やす食べ物を口にしてはいけません。

 私もアンチ玄米派である。せめて3~5分づき程度にするべきだろう。玄米が健康によいのであれば米糠(こめぬか)を食べればいい。


 マクロビオティックだと玄米は「中庸」とされている。カリウム=陰性、ナトリウム=陽性と判断するようだ。ところが、「玄米にはカリウムが多量に含まれ258.1±20.0mg%であったが, ナトリウムはきわめて少量しか含まれていない」との論文がある(CiNii 論文 -  食品中ナトリウムおよびカリウム含有量の調理による影響 (第1報):米の搗精, 洗米によるナトリウムおよびカリウム含有量の変化)。とすれば小山の指摘が正しいのだろう。

 座して10分の「火の呼吸」ができる人でも、仰向けに寝た状態だと3分も持ちません。もしも寝た状態で5分の「火の呼吸」ができるようでしたら、ものすごく呼吸筋が強くなっているということです。


 尚、小山は止息を批判しているが、これは成瀬雅春に対する批判か。横隔膜を鍛えることができるのは素晴らしい。結局、大腰筋よりも上部のインナーマッスルを刺戟(しげき)するところに目的があるのだろう。

 ヨーガの師サトワン・シン先生は、毎朝アーモンドを2粒食べれば、ガンの予防になるとおっしゃていました。

 根拠は不明である。ただし信ずるものは救われるかもね。



行間から滴り落ちる毒/『先崎学の浮いたり沈んだり』先崎学

2021-11-08

骨盤体操/『棗田式 胴体トレーニング』棗田三奈子


『究極の身体(からだ)』高岡英夫
『フェルデンクライス身体訓練法 からだからこころをひらく』モーシェ・フェルデンクライス
『運動能力は筋肉ではなく骨が9割 THE内発動』川嶋佑
『ウィリアム・フォーサイス、武道家・日野晃に出会う』日野晃、押切伸一
『大野一雄 稽古の言葉』大野一雄著、大野一雄舞踏研究所編
『武学入門 武術は身体を脳化する』日野晃
『ことばが劈(ひら)かれるとき』竹内敏晴
『スーパーボディを読む ジョーダン、ウッズ、玉三郎の「胴体力」』伊藤昇
『気分爽快!身体革命 だれもが身体のプロフェッショナルになれる!』伊藤昇、飛龍会編

 ・骨盤体操

『月刊「秘伝」特別編集 天才・伊藤昇と伊藤式胴体トレーニング「胴体力」入門』月刊「秘伝」編集部編
『火の呼吸!』小山一夫、安田拡了構成
『ストレス、パニックを消す! 最強の呼吸法システマ・ブリージング』北川貴英
・『新正体法入門 一瞬でゆがみが取れる矯正の方程式』佐々木繁光監修、橋本馨
・『仙骨姿勢講座 仙骨の“コツ”はすべてに通ず』吉田始史

身体革命

・やりづらい動きは回数を増やして
・筋肉を押す、揉む、叩くは厳禁
・「吐く」呼吸を意識して

【『棗田式 胴体トレーニング』棗田三奈子〈なつめだ・みなこ〉(KKKKベストセラーズ、2011年)】

 慣れないうちはどうしても息を止めてしまう。吸うことは誰でも自然にできるので吐くことに意識を集中する。


 真向法を行ったことがあれば、この体操の意味を理解できよう。


 私の場合、ストレッチは必ず真向法(まっこうほう)から始める。植芝盛平や中井祐樹も実践してきた体操である。


 本書にはDVDが付いているので大変わかりやすい。一通りできるようになってから再度視聴することで、最初は見えなかったものが必ず見えてくることだろう。

2021-11-05

野菜の栄養素が激減している/『その調理、9割の栄養捨ててます!』東京慈恵会医科大学附属病院栄養部監修


『火の賜物 ヒトは料理で進化した』リチャード・ランガム

 ・その食べ方、間違ってます
 ・野菜の栄養素が激減している

・『その調理、まだまだ9割の栄養捨ててます!』京慈恵会医科大学附属病院栄養部監修
・『栄養まるごと10割レシピ!』料理・レシピ小田真規子、東京慈恵会医科大学附属病院栄養部監修
『野菜は小さい方を選びなさい』岡本よりたか
・『蘇るおいしい野菜 逆発想・永田農法の奇跡』飯田辰彦
・『永田農法・驚異の野菜づくり』飯田辰彦
・『永田農法でコンテナ野菜』永田照喜治監修
・『永田農法はじめてでもできるおいしい野菜づくり』諏訪雄一監修
『食は土にあり 永田農法の原点』永田照喜治
・『DVD だれでもつくれる永田野菜 全10枚

 野菜の栄養素が昔より激減しているって知っていましたか?
 実は、今の日本人の7割は野菜不足だといわれています。その上、例えば一般に販売されているほうれん草のビタミンCは、50年前に比べてほぼ1/3、鉄分は1/6以下にまで低下しています。ビタミンやミネラルが減少した原因のひとつには大量生産による土壌のミネラルが減っていることも影響しています。また野菜だけでなく、精製技術が上がったことで、米などの穀類の栄養も減っています。
 野菜不足にくわえ、食材の栄養価が下がりつつあるため、これは例えば、ほうれん草でいえば、50年前は1わでOKだったものを、昔と同じ栄養価を摂取するためには、今では3わ必要ということになるのです。
 食材の栄養価も変わっている今だからこそ、食材の栄養を逃が(ママ)さず、効率よく食べることが大きな意味を持ちます。

【『その調理、9割の栄養捨ててます!』東京慈恵会医科大学附属病院栄養部監修(世界文化社、2017年)】

 ちょっと調べてみた。


 読んでいると頭がおかしくなりそうな文章だ。「支離滅裂」という名の教科書があれば巻頭カラーページに載せてやりたい。「原因について、様々なことが言われています」。以下、引用。

 1. 測定の仕方が、今と昔とでは違うとか。
→測定の違いを示していない。

 2.旬がなくなり、旬でないとき、つまりその作物にとって適期でない時期に栽培されているから栄養価が上らないとか。
→適期と栄養価に因果関係があると断定している。

 3.品種改良によって、現在の品種は、病気に強いが、栄養価は低いとか。
→品種改良と栄養価の相関性が全品種に及ぶかどうかが判然としない。

 しかもこう書いておいて、「野菜の栄養価不足の原因は地力低下にある」と断言しておきながら、「堆肥を積極的に活用すれば、50年前のような栄養価の高い野菜ができるはずだったのですが、実際には、そう簡単にはいきませんでした」と敗北宣言をしている。

「ポイントは硝酸イオンを低く抑える技術」という一言だけが参考になった。農業が科学とは無縁なことがよく理解できた。

 硝酸イオンについても検索したのだが、これといった情報が見つからなかった。「硝酸イオンは、自然界のどこにでも存在する窒素化合物です」(なぜ、硝酸イオン(NO3-)を測るのでしょう?:商品について:栽培ガイド 『園芸ネット』本店 通販 engei.net)。「窒素施用量の削減」(野菜に含まれる硝酸イオンの問題 | 播州農機販売株式会社・兵庫農機販売株式会社 | 中古農機 クボタ 農業機械)、つまり施肥の問題らしい。

 私は農業についてはズブの素人である。少し前から永田農法を学んだ程度だ。「日本の野菜は水と肥料が多すぎる」と永田照喜治〈ながた・てるきち〉は指摘する。水とは雨のことだ。そこで永田農法ではビニールハウスやマルチシートで雨を防ぐ。無肥料栽培を提唱する岡本よりたかも水分量の多さを指摘している。

本物の野菜は腐らずに枯れる/『野菜は小さい方を選びなさい』岡本よりたか

「トマト、ジャガイモ、カボチャ、サツマイモ、唐辛子、トウモロコシ、ピーナッツ、パッションフルーツ、キノア、タバコなど、アンデス原産とされる植物は多く、現在世界で常食されている食物の約20%が、アンデス原産であるという」(日本人だけが知らない美食国ペルー 野菜・果物・魚の美味に圧倒される | マッキー牧元の「いい旅には必ずうまいものあり」)。アンデスは南米大陸の西側を貫く山脈である。もちろん高地だ。長大な山脈ゆえ様々な気候条件が入り乱れているが、日本のような温暖湿潤気候でないのは確かだ。やはり原産地の環境を再現するのが望ましいだろう。

 本書には目から鱗が落ちる情報が満載で、さほど料理をしない人が読んでも蒙(もう)が啓(ひら)けることを私が請け合おう。焼いたり、茹(ゆ)でたりすることで増える栄養素もある。

2021-11-04

工藤美代子の見識を疑う/『昭和陸軍全史1 満州事変』川田稔


・『浜口雄幸と永田鉄山』川田稔
・『満州事変と政党政治 軍部と政党の激闘』川田稔
・『昭和陸軍の軌跡 永田鉄山の構想とその分岐』川田稔
・『戦前日本の安全保障』川田稔

 ・工藤美代子の見識を疑う

・『昭和陸軍全史2 日中戦争』川田稔
・『昭和陸軍全史3 太平洋戦争』川田稔
・『石原莞爾の世界戦略構想』川田稔
・『昭和陸軍 七つの転換点』川田稔
『五・一五事件 海軍青年将校たちの「昭和維新」』小山俊樹

日本の近代史を学ぶ

 1931年(昭和6年)9月18日午後10時すぎ、中国東北地方の満州・奉天(ほうてん/現在の瀋陽〈しんよう〉)近郊の柳条湖(りゅうじょうこ)付近で、日本経営の南満州鉄道(満鉄)線路が爆破された。
 まもなく、関東軍(南満州に駐留する日本軍)から中国軍の犯行によるものとの発表がなされる。一般国民には太平洋戦争終結まで、そのように信じられていたが、実際には関東軍によって実行されたものだった。
 首謀者は、関東軍の板垣征四郎〈いたがき・せいしろう〉高級参謀、石原莞爾〈いしは(ママ)ら・かんじ〉作戦参謀、爆破の直接の実行は、独立守備隊第2大隊第3中隊付の河本末守〈こうもと・すえもり〉中尉ら数名で行われた。爆破そのものは小規模に止まり、レールの片側のみ約80センチを破損したが、直後に急行列車が脱線することなく通過している。
 この時、板垣高級参謀は、奉天の日本側軍施設で待機していた。板垣は、実行部隊から鉄道爆破の連絡を受けると、中国側からの軍事行動だとして、独断で北大営(ほくたいえい/中国側兵営)と奉天城への攻撃命令を発した。高級参謀にはこのような攻撃命令の権限はなく、軍司令官の追認がなければ軍法会議で処断される行為だった。
 攻撃命令が出された直後に、板垣に面会した奉天総領事館の森島守人〈もりしま・もりと〉領事は、外交的解決を主張した。だが、板垣高級参謀は、「すでに統帥(とうすい)権の発動を見たのに、総領事館は統帥権に容喙、干渉せんとするのか」と恫喝(どうかつ)した。また、同席していた花谷正〈はなたに・ただし〉奉天特務機関補佐官も、抜刀して、「統帥権に容喙する者は容赦しない」と、森島を恫喝した(森島守人『陰謀・暗殺・軍刀』)。

【『昭和陸軍全史1 満州事変』川田稔〈かわだ・みのる〉(講談社現代新書、2014年)】

 読書中。一度挫折している。工藤美代子のせいで再読する羽目になった。やっと130ページまで読んだ。

真相が今尚不明な柳条湖事件/『絢爛たる醜聞 岸信介伝』工藤美代子

 先ほど気づいたのだが、私はずっと川田を川北稔と同一人物だと思い込んでいた。おかしいなと思ったんだ。文体の違いよりも漢字の多さが気になった。とにかく漢字が多すぎて読みにくい。川田と編集者はもっと「読んでもらう」ための努力が必要だろう。特に軍事関係は肩書が長くてウンザリさせられる。ルビも聖教新聞並みに振るべきだ。

 満州事変の詳細が書かれている。微に入り細を穿(うが)つとの言葉がぴったりだ。ただし時折時系列が変わるため流れがわかりにくい。

 これほどの状況証拠を揃えられると、工藤の文章は説得力を失う。っていうか詐欺師に思えてくるほどだ。脳は美文に逆らえない。男性が美人に逆らえないように。

 まず陸軍において長州閥 vs. 木曜会+双葉会=一夕会(いっせきかい)の権力闘争があり、次に早い時期から石原莞爾〈いしわら・かんじ〉の計画があった。

 双葉会はバーデン=バーデンの密約(1921年/大正10年)から生まれた。陸軍(士官学校16期)の三羽烏といわれた永田鉄山〈ながた・てつざん〉、岡村寧次〈おかむら・やすじ〉、小畑敏四郎〈おばた・とししろう〉が誓いを立てた。翌日に東條英機(本書では東条)も加わる。1927年(昭和2年)頃に結成された二葉会には、河本大作、板垣征四郎、土肥原賢二〈どひはら・けんじ〉、山下奉文〈やました・ともゆき〉などが参加している(陸士15~18期)。二葉会に倣(なら)って結成されたのが木曜会であった(陸士21~24期)。石原莞爾〈いしわら・かんじ〉、根本博と共に、永田・岡村・東條も加わった。1929年(昭和4年)、二葉会と木曜会が合流して一夕会が結成される。満州事変が勃発した1931年(昭和6年)には一夕会系幕僚が陸軍中央と関東軍の主要ポストをほぼ掌握した。

 とにかくどこを読んでもウンザリさせられる。陸軍内部で行われているのは権力闘争に次ぐ権力闘争なのだ。明治維新の結果が足の引っ張り合いに終わった感がある。どこを見渡しても挙国一致などない。これこそが日本の悪弊だろう。後に永田と小畑は統制派と皇道派に分かれ、永田は惨殺される。石原は東條に左遷させられ、結果的に戦犯となることを免れた。

 柳条湖事件以降の流れを見ても板垣・石原の関与はまず間違いないと思われる。工藤美代子の見識を疑う。

 

2021-11-03

体のセンサーが狂っていると疲れが取れない/『「疲れない身体」をいっきに手に入れる本 目・耳・口・鼻の使い方を変えるだけで身体の芯から楽になる!』藤本靖


『ことばが劈かれるとき』竹内敏晴
『悲鳴をあげる身体』鷲田清一
『身体が「ノー」と言うとき 抑圧された感情の代価』ガボール・マテ
『ストレス、パニックを消す!最強の呼吸法 システマ・ブリージング』北川貴英
『本当のナンバ 常歩(なみあし)』木寺英史
『健康で長生きしたけりゃ、膝は伸ばさず歩きなさい。』木寺英史
『常歩(なみあし)式スポーツ上達法』常歩研究会編、小田伸午、木寺英史、小山田良治、河原敏男、森田英二

 ・疲れないタイピングのコツ
 ・体のセンサーが狂っていると疲れが取れない

『君あり、故に我あり 依存の宣言』サティシュ・クマール
『呼吸による癒し 実践ヴィパッサナー瞑想』ラリー・ローゼンバーグ

身体革命
悟りとは

【疲れがとれないのは、身体の「センサー」の使い方の問題です。】(中略)

 身体のセンサーがうまく働かなくなると、身体は緊張して固くなります。目の奥が痛くなったり、首のつけ根が重くなったり、みぞおちのあたりが窮屈(きゅうくつ)になって呼吸が浅くなったり……。そんな経験をしたことはないでしょうか?
 これらは身体のセンサーをうまく使えず、身体の緊張がとれなくなってしまった状態なのです。

【『「疲れない身体」をいっきに手に入れる本 目・耳・口・鼻の使い方を変えるだけで身体の芯から楽になる!』藤本靖〈ふじもと・やすし〉(さくら舎、2012年/講談社+α文庫)】

 再読。私の場合、疲れたら寝る。それだけで十分だ。生まれてこの方マッサージをしたことが一度もない。床屋で頭を叩いてもらった程度である。体は硬い方だが特に困ったことはない。身体操作に関しては日常的に意識を研ぎ澄ましている。階段を上る時は必ず一段飛ばしで、尚且つ下の足の踵を浮かせないようにしている。これは10代の頃に雑誌で読んだヒップアップトレーニングだ。また、1日に10回くらいは肩甲骨を動かし可動域を広げるよう心掛けている。更に坐る際は骨盤を立てるようにし、歩く時は骨盤を動かすことを心掛けている。

 筋トレはケトルベルと懸垂のみ。大胸筋がついてくると動きの妨げになる。メインは常歩(なみあし)だ。本当は走りたいのだが右の膝痛があって養生(ようじょう)している。起床直後は血管マッサージと三角倒立を必ず行う。食はあまり気にしていない。基本は粗食で食べ過ぎないようにしている。主食はご飯とオートミールを交互に摂っている。ご飯の時は血糖値上昇を防ぐため必ず納豆かオクラを合わせる。オートミールには卵を。私は昨年まで肉を避けてきたのだが現在は遠慮しないで食べている。後はサバ缶タマネギと味噌汁でどうにでもなる。

 体のセンサーを確認する方法がいくつか紹介されている。やってみると「ほほう」という感じなのだが、どうも物足りない。体のセンサーを正すためには柔術系格闘技がいいと思う。日常生活では倒れたり転がったりすることが全くない。常に頭を高い位置にしているわけだから平衡感覚だって、そりゃ狂ってくるだろう。ブラジリアン柔術、合気道、システマの道場を探しているところだ。

2021-11-02

日露戦争がきっかけで写真館が増えた/『工藤写真館の昭和』工藤美代子


 ・日露戦争がきっかけで写真館が増えた
 ・昭和11年の日常風景

『われ巣鴨に出頭せず 近衛文麿と天皇』工藤美代子
『絢爛たる醜聞 岸信介伝』工藤美代子

 もともと、日本全国で写真館が飛躍的に増えたのは、日露戦争のためといわれている。出生記念に兵士が写真を撮るのと同時に、家族たちも肖像写真を撮って、兵士に持たせた。まだ一般家庭に写真機などなかった時代に、人々は写真館で今生の名残となるかもしれない瞬間を凍結した。
 その思いは、昭和の代になっても変わってはいないのだろう。中国大陸がどれほど希望に満ちた約束の地であったとしても、兵士たちの顔には隠し切れない悲壮感や不安が漂っていた。
 カメラのファインダーを覗くたびに哲朗は、それを感じていた。普通の家族の肖像写真とは、空気の密度がまるで違っている。まだ10代後半や20代の初めの、若々しい兵士たちの顔は、いやにくっきりと、その輪郭を縁どる空気が濃く凝縮して見える。

【『工藤写真館の昭和』工藤美代子〈くどう・みよこ〉(朝日新聞社、1990年講談社文庫、1994年/ランダムハウス講談社文庫、2007年)】

 今時は冠婚葬祭くらいでしか写真撮影を頼むことはない。私が小学校の半ばくらいまでは年に一度家族で写真館に足を運んだ。懐かしさと共に突然思い出が蘇った。私の父は若い頃からカメラを嗜(たしな)んでいてセミプロ級の腕前だった。ニコンのFシリーズを愛用し、時折新聞社からも撮影を依頼されていた。

 写真を撮りにゆくのはあまり好きではなかった。正装するのも面倒だったし、何にも増して家族で外出すると怒られることが多かった。私は幼い頃、少しボーッとしたところがあって、母から持たされたハンドバッグをどこかに置き忘れたりして、そのたびに凄い剣幕で怒られた。撮影直前のしゃちほこばった数秒間も堪(たま)らなく嫌いだった。

 日露戦争がきっかけで写真館が増えたのは知らなかった。一葉の写真が忘れ形見となる。切り取られた瞬間は彼が生きた確かな証であった。死者数8万4000人(日露戦争はやわかり | 日露戦争特別展2)を思えば、涙に掻き暮れた家族は数十万人に及んだことだろう。

 昔、写真は厚い台紙のアルバムに貼り付けていた。私の世代だと既にセロファンみたいなやつで挟み込むような体裁になっていたが、それでもやはり貴重品だったのだろう。フィルムタイプは現像を待たねばならなかった。そうした時間も一枚の写真の大事な要素だった。

 その後、連写機能が開発され、家庭用ビデオが発売され、デジカメ~スマホという流れを辿り、写真は単なる画像情報に格下げされた。ウェアラブルカメラや防犯カメラでは長時間の動画撮影が可能となった。

 無限の記録と一枚の写真との違いを思う。

2021-10-31

農業の産業化ができない日本/『脱ニッポン型思考のすすめ』小室直樹、藤原肇


小室直樹
藤原肇

 ・農業の産業化ができない日本

『新しい資本主義 希望の大国・日本の可能性』原丈人

藤原●アメリカのCIAは、インテリジェンスをうたっているけど、内閣調査室を「日本のCIA」と呼ぶ場合には、あれは日本のセントラル・インフォメーション・エージェンシーの略だと思えばいい。どうせインテリジェンスのやれる人材なんかがいるわけないですから。

小室●インテリジェンスというのは数学的な発想が基礎になっています。ところがそれが日本人にはない。私は、かつて、役人相手に数学の基礎理論を手ほどきしたことがあるけど、その実情に驚いたことがある。

藤原●それは生態環境としての生活圏の問題が多いに関係しているせいです。それもインテリジェンスのレベルまで行かずに、インフォメーションのレベルで決定的な役割を演じています。くわしいことは『情報戦争』や『日本が斬られる』という本で論じたが、情報に対しての理解の仕方と構えで見ると、農耕民族と遊牧民は本質的に異なっているんです。農耕民の情報は蓄積し発酵して知恵にしている。それに対して、遊牧民の情報はオンタイムでとらえ、的確に選択し行動に移すことで、そのグループの生存に結びつける。そうなると、リーダーシップが関係してきて、遊牧民はリーダー中心の社会で、いうならば、男の世界です。

小室●たしかに、農耕社会は大地と結びついているから女性的です。日本も天照大神が一番偉いし、かつ女性上位だし……。

藤原●トップの性別はあまり関係なくて、たとえ男であっても女性型支配をするのです。それが長老であり、農耕民族は蓄積だから長老が一番偉い。情報も新しさよりも知恵と結びついた古さのほうが重要視される。その辺にリーダー型の西欧や中東と、長老型のアジアの違いがあります。

小室●一般にヨーロッパ的、アジア的と区分する人が多いが、中国やインドのほうが日本よりはるかにヨーロッパに近い。実は、世界中で日本だけが例外中の例外です。たとえば、牧畜を例にとってみても、牧畜をまったくやらないのは日本ぐらいで、中国もインドも農業と牧畜の二本建(ママ)てです。それに日本の驚くべき特徴として指摘していいのは、どんなに見かけ上近代化したように観察されても、日本では農業が絶対に産業化されない点です。こういうことはアジアでもめずらしい。

藤原●日本語では術語が十分にないので、議論がむずかしいから英語を借りて話すと、日本にはファーミングもアグリカルチャーもなくて、あるのはガーデニングだけです。ガーデニングは技術集約化がむずかしいから産業化するところまでは行かない。

小室●日本軍がフィリピン作戦をしたときに、フィリピンは農業しかないから、農村地帯では食糧が自給できるはずだと思い込んでいたら、それはとんでもないことだった。タバコ地帯ではタバコだけしかないし、麻を作るところには麻しかなかった。いわゆるモノカルチャーです。農村地帯は食糧があるはずだと期待したいのに、食糧はない。だがタバコや麻を食べるわけにいかないので、作戦は大混乱してしまったそうです。

藤原●ベトナムだってブラジルだって同じです。農業が労働力集約型から技術集約型への進化の系列の中で動いているので、産業が可能になる。それを植民地主義がプランテーション化を通じてやったわけです。

小室●フィリピンは遅れている、と日本人は頭から決めつけてかかる癖があるが、農業でみる限りでは、産業の組織化という点で、返っらのほうがはるかに進んでいる。日本の農業なんて何でも作るし、それも主な目的は家族が食べるところにある。

藤原●インダストリアライズして剰余価値を生み出すところまで行っていない。

小室●農業に見る限り、日本は世界で最も遅れた状態を維持している。しかも、この農業地帯を地盤にした政党が農本的な政治をやってきたのだし、これからも続けようとしているので救いがありません。

藤原●そこに日本の政治が近代以前のパターンでしか機能しない理由もあるし、日本人が情報一般に関して非常にニブイ原因もあると思います。その当然の帰結として、インテリジェンスの問題がいかに重要であるかについて誰も気がつかないし、また、それを論じようともしないのです。(中略)

藤原●とてもじゃないが、日本の農業社会を見る限りでは、近代資本制などの水準には達していないといえます。

小室●とてもキャピタリズムじゃない。

藤原●じゃあ、前に話したように原始(グラスルーツ)共産制ですね。

小室●農業だけでなく企業や産業界までが同じであり、労働力は労働と分化しないまま、労働者は会社という一種の共同体の所属物になってしまっている。古典的な資本主義では労働市場が存在して、そこでは完全な自由競争が行なわれるのに、日本ではそれさえなくて、賃金でさえ、生きる上で必要な給与を分配してもらう形をとっている。

藤原●原始共産制における分け前だから、交通費や厚生費の現物支給があったり、年功序列の手当てが給料の形をとるのです。

小室●それに〈生産者と生産手段が分離する〉という、資本主義にとって最も基本的なこの性格が欠けている日本の経済システムは、中世的な共同体のままといえます。

藤原●中世じゃなくて古代以前だと思いますね。政治を見ればわかるけれど、どう考えても呪術的ですよ。だから、情報以前なのは当たり前かもしれない。

【『脱ニッポン型思考のすすめ』小室直樹〈こむろ・なおき〉、藤原肇〈ふじわら・はじめ〉(ダイヤモンド社、1982年)】

大東亜戦争はアメリカのオペレーションズ・リサーチに敗れた/『藤原肇対談集 賢く生きる』藤原肇

「オペレーションズ・リサーチ」が本書に書かれていたと思い込んでいて、三度も画像を確認する羽目となってしまった。これ、と思った情報はメモ書き程度で構わないから残しておく必要がある。はてなブログを使うか。

「インテリジェンス」という言葉は佐藤優〈さとう・まさる〉が嚆矢(こうし)と思いきや、本書の方がずっと早かった。藤原、小室、そして倉前盛通〈くらまえ・もりみち〉あたりを嚆矢とすべきか。

 農業の産業化ができない日本という指摘は納得できる。近頃、農業本を数冊読んできたのだが「工夫次第では儲かる」というレベルで、大規模化を農地法が妨げている現状だ。安倍政権が何とか改革したが、まだまだ道半ばである。

 日本の政治は食料安全保障の意識が欠如している。食とエネルギーこそ国家の生命線である。自民党にとって農家は票に過ぎない。農業のグランドデザインを描く政治家を私は見たことがない。日本の食料自給率はカロリーベースで37%まで低下した(令和2年/日本の食料自給率:農林水産省)。国防もさることながら食料においても有事を想定していないことがわかる。

 小室と藤原は合理性をそのまま人間にしたような人物である。ただし、今読むとどこか新自由主義の臭いがして、すっきりと頷けないところがある。

2021-10-30

浮き指が進行すると腰が曲がる/『ひざの激痛を一気に治す 自力療法No.1』


『だれでも「達人」になれる! ゆる体操の極意』高岡英夫
『自分で治せる!腰痛改善マニュアル』ロビン・マッケンジー
『自分で治す病気の数々 痔 膝痛 腰痛 肩こり 認知症 椎間板ヘルニア』谷幸照
『3万人のひざ痛を治した! 痛みナビ体操』銅冶英雄
『ひざ痛は99%完治する』酒井慎太郎
『半月板のズレを戻せばひざ痛は治る!』中村昭治

 ・ゴキブリ体操改めブルブル体操
 ・浮き指が進行すると腰が曲がる

『5分間背骨ゆらしで体じゅうの痛みが消える 自然治癒力に火をつけて、首・肩・腰痛・ひざ痛を解消!』上原宏

身体革命

 そこで、手軽にできるO脚改善法、ひいてはひざ痛改善として、私がお勧めしているのが、「足の親指バンソウコウ」という方法です。
 これは、名称のとおり、足の親指にバンソウコウを巻くだけの、いたって簡単な方法です。なぜ、そんな簡単な方法で、O脚やひざの痛みが改善できるかというと、O脚の根本原因である外側重心の悪いクセを矯正する、意識付けとして役立つからです。
 ひざ痛の大きな原因となるO脚を改善するには、足の外側に偏っている重心を、意識的に足の親指寄りに戻し、「内側重心」にする必要があります。
 しかし、「内側に重心をかけよう」とただ意識するだけでは、すぐに忘れてしまうのが人間です。ところが、親指にバンソウコウを巻いておくと、歩行のさい、そこに普段とは違う圧力がかかるので、自然に親指に意識が向き、内側重心になるのです。
 また、足の親指にバンソウコウを巻いている感覚は、私たちの脳には一種の違和感として刻み込まれます。
 これを解消したいという意識下の働きによって、歩くときに、親指側をグッと踏み締め、けり上げる動きが強化されます。
 これにより、足裏のアーチ構造を強化でき、正常な土踏まずが再生されます。
 このことによって、O脚が改善していくのです。(勝野浩〈かつの・ひろし〉)

【『ひざの激痛を一気に治す 自力療法No.1』(マキノ出版、2013年)】

 絆創膏は親指の根元に巻く。きつ過ぎてもいけないようだ。蹴り上げる必要はない。足裏はフラットに着地するイメージで踵(かかと)~外側~拇指球へと体重移動をする。重要なのは拇指球の力を抜くことだ。歩行の推進力は飽くまでも踵である。アーチ構造を強化したいのであればスロージョギングか縄跳びをするべきだ。

 本書で蒙(もう)を啓(ひら)かれたのは以下のイラストである。


 そして膝が曲がり、バランスを取ろうとして上半身が前傾してくるのだ。腰が曲がる原因を見事なまでに描写したイラストである。

曲がった背中を伸ばす/『5秒 ひざ裏のばしですべて解決 壁ドン!壁ピタ!ストレッチ』川村明

 膝裏のばしストレッチを行ってから歩行改善に臨めば、曲がった腰はバランスを取り戻すことだろう。

 尚、「5本指ソックスが浮き指の原因」との指摘もある(『「筋肉」よりも「骨」を使え!』甲野善紀、松村卓)。

2021-10-28

大東亜戦争はアメリカのオペレーションズ・リサーチに敗れた/『藤原肇対談集 賢く生きる』藤原肇


『脱ニッポン型思考のすすめ』小室直樹、藤原肇

 ・大東亜戦争はアメリカのオペレーションズ・リサーチに敗れた

『ジャパン・レボリューション 「日本再生」への処方箋』正慶孝、藤原肇

藤原●日本人は太平洋戦争の敗因を米国の物量作戦だと考えがちです。だが、アメリカが英国から導入して完成させたオペレーションズ・リサーチによって、日本流その場しのぎの大福帳のやり方が破綻させられて、徹底的に打ち負かされた事実をいまだに気づいていない。
 要するに、数理発想に基づく計算されたリスク管理によって、太平洋戦争は頭脳戦で日本が完敗したということです。

【『藤原肇対談集 賢く生きる』藤原肇〈ふじわら・はじめ〉(清流出版、2006年)以下同】

「オペレーションは作戦、リサーチは検証、という意味です。互いに干渉しあう複数の作戦が最適な方法で、効率的に実行可能かどうか、リサーチ、つまり検証する、そういう目的で使われ始めた科学でした。様々な環境、次々に変化する状況において、 数学や統計学を用いた数理的なモデルに落とし込み、分析することで最適なアプローチを導きます」(オペレーションズ・リサーチとは? | ‐株式会社 構造計画研究所‐ オペレーションズ・リサーチ部)。

「オペレーションズリサーチ(OR)は、意思決定にかかわる科学的なアプローチと言われている。ある組織の運用問題に対して、さまざまな方法を用いて分析し、適切な解決法を見つけることである。そのため、しばしば経営学とも言われる。分析方法としては、数理モデル、統計的な手法、アルゴリズムなどがある」(オペレーションズリサーチ(OR):Operations Research:研究開発:日立)。

 マーケティング分野では「ランチェスター戦略」(ランチェスターの法則)と呼ばれる。それではと手始めに『まんが新ランチェスター戦略 1 新ランチェスター戦略とは』(矢野新一、まんが:佐藤けんいち、ワコー、1995年)を開いたが、敢えなく挫折した。

 本書で初めてオペレーションズ・リサーチという言葉を知った。日本の近代史及び大東亜戦争に関してはそこそこ読んできたつもりであったが、ORを敗因と指摘したのは藤原肇が嚆矢(こうし)ではあるまいか。藤原は石油コンサルタントで石油開発会社をアメリカで経営してきた人物である。彼にとってORは常識であったのだろう。石油精製には様々なプロセスがあり、不安定な国情や戦争、あるいは経済・金融など複合的なリスクが伴う。ORを欠けば金鉱を掘り当てるような博奕(ばくち)と化す。莫大な初期投資を可能にするのは精確なリスク・マネジメントである。

藤原●日本人はハード志向だから飛行機や軍艦を量として数え、主として戦闘の問題に全力を傾けてしまうから、システムとしての戦争を見忘れがちになる。

 これまた重要な指摘で、大東亜戦争では兵站(へいたん/ロジスティクス)を無視して南進したことが多くの餓死者を生んでしまった。日本には伝統的に輜重(しちょう)を軽んじる文化がある。どこか国土の感覚が関東平野の域を超えていないようなところがある。水が豊富なことも危機意識を鈍らせていることだろう。

 特に目に見えるものの増減に一喜一憂して、目に見えないものの変化に注目しないから、システム発想をしないという欠陥に支配されてしまうのです。
 そういった民族的な欠陥への反省を含めて、動態変化の重要性とサイバネティックスを結びつけ、それを資本と情報の流れとしてフローチャートにして、決算の機構を体系化したのが会計工学だと思います。

 システム思考ができない現実は今も変わらない。藩閥を打開したと思いきや、今度は陸軍と海軍が仲違いをし、戦局の正確な情報が首相にまで上がってこなくなっていた。東条英機首相はミッドウェー海戦の敗北を知らされていなかった。張作霖爆殺事件(1928年/昭和3年)で田中義一首相は天皇陛下に嘘をつき満州事変(1931年/昭和6年)では侍従武官長と若槻礼次郎首相が事実を伏せた(兼原信克)。昭和天皇は関東軍の暴走を「下剋上」と断じて厳罰に処さなかったことを悔やまれた(繰り返し戦争を回顧 後悔語る|昭和天皇「拝謁記」 戦争への悔恨|NHK NEWS WEB)。

 日本人の行動様式(エトス)が戦前も戦後も変わらないことを指摘したのが小室直樹の初著『危機の構造 日本社会崩壊のモデル』(ダイヤモンド現代選書、1976年)であった。藤原肇と小室直樹の対談は自然な流れであった(『脱ニッポン型思考のすすめ』ダイヤモンド社、1982年)。



オペレーションズ・リサーチの破壊力/『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』キャシー・オニール

2021-10-25

真相が今尚不明な柳条湖事件/『絢爛たる醜聞 岸信介伝』工藤美代子


『工藤写真館の昭和』工藤美代子
『機関銃下の首相官邸 二・二六事件から終戦まで』迫水久恒

 ・佐藤栄作と三島由紀夫
 ・「革新官僚」とは
 ・真相が今尚不明な柳条湖事件

 事件は昭和6(1931)年9月18日に、奉天(現瀋陽)郊外の柳条湖の満鉄(南満州鉄道)線路で起きた小さな爆発事件だった。
 一般的に「柳条湖事件」と呼ばれているこの爆発事件の首謀者は関東軍高級参謀板垣征四郎大佐と、同じく関東軍作戦参謀石原莞爾(かんじ)中佐だとされてきた。
 両者ともその事実を否定したまま故人となった。
 ところが戦後になって当時の奉天特務機関にいた花谷正少佐(最終階級陸軍中将)が「手記」を発表し、板垣、石原のほかに関東軍司令官本庄繁中将、挑戦軍司令官林銑十郎(せんじゅうろう)中将、参謀本部第一部長建川美次(よしつぐ)少将、参謀本部ロシア班長橋本欣五郎中佐らも一緒にこの謀略に荷担していた、と書いた。
 雑誌「別冊知性」(河出書房刊)に発表された花谷の手記は「満州事変はこうして計画された」と題するもので、戦史研究家・秦郁彦の取材に答えたとされる。
 だがその時点で、主役の登場人物はすべて物故しており肝心な裏付けはとれない。
 さらに、インタビューした秦郁彦自身による次のような記述を読めば、花谷発言の信憑性に疑問すら浮かぶ。

「私はこの事件が関東軍の陰謀であることを確信していたので、要は計画と実行の細部をいかに聞き出すかであった。最初は口の重かった花谷も少しずつ語り始め、前後8回のヒアリングでほぼ全貌をつかんだ。みずから進んで語るのを好まない関係者も、花谷談の裏付けには応じてくれた。
 それから3年後の1956年秋、河出書房の月刊誌『知性』が別冊の『秘められた昭和史』を企画したとき、私は花谷談をまとめ、補充ヒアリングと校閲を受けたのち、花谷の名前で『満州事変はこうして計画された』を発表した」 (『昭和史の謎を追う』上)

 花谷はこのときまで62歳だったが、翌年死亡が伝えられている。すでに体調を崩していたための代筆とも考えられるが、それだけに真相がどれだけ語られていたのか、すべては死人に口なし、である。
 したがって、この一文をもって柳条湖事件を関東軍の謀略と決めつけるのはいささか無理がありそうだ。
 事件の背後にはもっと複雑な謀略が絡んでおり、事件の真相はまだ闇の中と言えよう。
 いわゆる「リットン調査団」の報告書も微妙な表現を用い、断定を避けている。
 岸が生涯の前半生を賭けた大仕事が満州経営であってみれば、その発端を切り拓いた柳条湖事件は極めて重要なポイントとして見逃せない。
 だが、軍部中心のこの事件の真相に迫るのは本書の主題から離れるので、史料がいまだにいかに不確実な事件かという事実だけを指摘するに留めたい。
 満鉄線の一部が何者かによって爆破されたということ、それを契機として日中間に銃撃戦が発生し、関東軍が自衛のために満州各地へ進出(錦州爆撃など)を開始した、という経過だけが明らかなのである。

【『絢爛たる醜聞 岸信介伝』工藤美代子〈くどう・みよこ〉(幻冬舎文庫、2014年/幻冬舎、2012年『絢爛たる悪運 岸信介伝』改題)】

 吃驚仰天した。柳条湖事件を起こしたのが板垣征四郎と石原莞爾〈いしわら・かんじ〉であったというのは既成事実ではないのか? 慌てて検索したのだが工藤美代子の主張を裏づける情報は皆無であった。

 工藤は文章が巧みである。工藤の手に掛かればいかなる人物であったとしてもそれなりの物語にすることが可能だろう。我々は文章や言葉に直ぐ騙される。その最大の見本がバイブルである。あの文体は脳を束縛する心地好さがある。イエスという人物があたかも実在したように錯覚させられる。しかも西洋人はイエスの言葉を通して、更に実在の不明な神を信じているのだ。胡蝶の夢のまた夢といってよかろう。

 工藤の文章が危ういのは、「事件の背後にはもっと複雑な謀略が絡んでおり」と思わせ振りなことを書いておきながら、その根拠を全く述べていないところだ。事実に印象を盛り込んでおり、読者を誘導しようとする魂胆が透けて見える。

 歴史が厄介なのは、嘘を確認するために学ぶことがあまりにも多いためだ。その作業が疎(うと)ましく感るごとに歴史から遠ざかってしまう。嘘がどれほど罪深いかを知ることができよう。

 日本国民は満州事変を熱狂的に支持した。三国干渉(1895年/明治28年)以降、臥薪嘗胆(がしんしょうたん)を合言葉にしてきた日本人が諸手を挙げて喝采を送ったは当然であった。すなわち柳条湖事件はきっかけに過ぎず、たとえ同事件が発生しなくとも、別の事件で事変に至ったのは確実である。



工藤美代子の見識を疑う/『昭和陸軍全史1 満州事変』川田稔

2021-10-19

血管マッサージには運動と同じ効果が/『血管マッサージ 病気にならない老化を防ぐ』妹尾左知丸


 ・血管マッサージには運動と同じ効果が

『いつでもどこでも血管ほぐし健康法 自分でできる簡単マッサージ』井上正康
『「血管を鍛える」と超健康になる! 血液の流れがよくなり細胞まで元気』池谷敏郎
『血管指圧で血流をよくし、身心の疲れをスッと消す! 秘伝!即効のセルフ動脈指圧術』浪越孝
『別冊Newton 人体の取扱説明書』
『実践「免疫革命」爪もみ療法 がん・アトピー・リウマチ・糖尿病も治る』福田稔

身体革命

 人がふつうに呼吸をして食事をしていれば、体内部の細胞はよく働くはずです。しかし運動せずにいると、動かしてない部分の筋肉は栄養と酸素をもらえず、やせ細り、老化が進行してしまいます。したがって、毎日よく運動して全身の組織にずい時血液を流すよう、努力しなければなりません。化  とはいっても、毎日よく運動するのは大変でしょう。代わりに、動脈の表面に分布する血管拡張神経に外から刺激を与えて興奮させてやれば、刺激された部分の動脈は拡張子、その部分の筋肉に血液が流れます。つまり「血管マッサージ」で運動を代用するのです。
 私はこの20年間、毎日欠かさず全身の血管マッサージを続けています。1日1回、毎朝たった15~20分の血管マッサージ。でもそのマッサージが驚くほどの効果を見せてくれたのです。マッサージのおかげでしわやしみが薄くなり、生活習慣病にもかかっていません。

【『血管マッサージ 病気にならない老化を防ぐ』妹尾左知丸〈せのお・さちまる〉(KKベストセラーズ、2006年)以下同】

 執筆時、妹尾は91歳である。翌年死去(田代裕)。遺著となった。血液循環に関する本は何冊か読んできたが、よもや血管を直接マッサージできるとは思わなかった。眼(まなこ)を開いてくれた一書である。

「運動を代用」と書かれているが、実は運動の効果が血流をよくすることにあると考えることもできよう。心拍数を上げ、筋肉を肥大させるのも血管に対する刺戟が目的なのだろう。だとすれば血管マッサージ=運動という図式が成り立つ。

 ゆる体操(高岡英夫)やストレッチも同様だ。あるいはヨガも。身体を見つめ直す行為はよりよき生へとつながり、よりよき生は血管に収まるのだ(断言)。

 動脈は骨に沿って深いところを走っているので、血管(動脈)マッサージは皮膚の上から動脈に沿って行います。
 マッサージは皮膚と骨、骨と筋肉を上下左右にずらして、動脈をゆさぶるように動かして刺激するのがコツ。

 上記血管本を読んできた今となっては、本書のイラストは大雑把すぎると思う。私が神経質なのかもしれないが、もっと具体的に動脈の位置を知りたい思いに駆られる。

 私は当年取って58歳になるが、病気は十二指腸潰瘍しか知らない。ついこの間、20日間以上休みなしで働き、2日間で27時間も寝てしまうほど健康である。昨日も11時間半寝た。寝ると私の意志は強靭になるのだ。誰も私の眠りを妨げることはできない(大袈裟)。

 ま、そんなわけで、要は効果を感じにくいということだ。実は今日から血管マッサージを始めた。私は健康オタクを自称しているので、その名に恥ずかしくない実践をしてゆくつもりである。

 2ヶ月ほど前に免許試験場の隣で献血をしようとしたところ、血圧が200を超えていて断念した。三度目の正直で呼吸法を駆使して180以下まで下げたのだが、下の数値が高くて駄目だった。8年ほど前に酒をやめたところ突然高血圧となった。加齢の影響もあるのだろう(動脈が細くなる)。血圧はいつでも下げる自信があった。実際に2週間ほどサバ缶タマネギを食べ続けて140台まで下げた。次はいよいよ血管拡張だ。

農業の大規模化と個別化/『稼げる!新農業ビジネスの始め方』山下弘幸


『[農業]商売の始め方・儲け方』大森森介

 ・農業の大規模化と個別化

 オランダが先進的な農業国であることは知られていますが、それもICTIoTを活用しているからです。
 オランダの国土面積(3万7000平方キロ)は日本の国土面積(37万7900平方キロ)のおよそ10分の1しかありませんが、平坦な土地が多いため、耕地面積は日本の445万ヘクタールに対して、オランダの184万ヘクタールとおよそ4分の1程度です。
 また、総人口に対する農業者人口とその比率は、日本が3.7%で約290万人、オランダが2.8%で約15万人ですが、農家1戸あたりの農地面積は日本が2.8ヘクタールに対して、オランダは25.9ヘクタールとなっています。
 そのオランダの農業輸出は866億ドルと、1位のアメリカの1449億ドルにつぐ規模です。日本の農業輸出33億ドルの26倍にも相当します(輸出額の2012年の数値)。また、農業就業人口1人あたりの生産額は日本の14倍とも言われています。
 オランダ農業の特徴は、自国に強みのある品目に集中している点にあります。
 たとえばトマト、パプリカ、キュウリなどの施設園芸に特化しているのです。この農業モデルは、オランダが通商国家として発展する過程で培われたものだとされています。17世紀初頭のヨーロッパでは、オランダで栽培されるチューリップがたいへんな人気となり、球根の値段が高騰したあげく、チューリップバブルが発生したほどです。

【『稼げる!新農業ビジネスの始め方』山下弘幸〈やました・ひろゆき〉(すばる舎、2018年)】

 飛ばし読みしようと思ったのだが全部読んでしまった。よく勉強していて目配りが利いている。ビジネス書としてもおすすめできる。

 元々オランダは小規模農家が多かったがEU統合を契機に大規模化が進んだという。日本の農業は規制まみれで大規模化を妨げている。本書では安倍首相が風穴を空けた事実が紹介されているが、それでもまだ道半ばである。

 食糧安全保障という側面から考えれば大規模化せざるを得ない。私は国民兵農化が望ましいと考えているので、一人ひとりが何らかの作物を作ることを目指すべきであると主張したい。

 日本という国家には昔から戦略がない。常に行きあたりばったりである。その最たるものが大東亜戦争だった。各兵士は世界最強であったが指揮官が愚劣すぎた。現在の政治家を見ても、「私は日本をこうする!」という演説を聞いたことがない。細かい政策に終始している。

 まずは憲法改正である。「憲法を改正して中国共産党から日本を守ります!」という政治家を我々は必要としているのだ。次に官僚機構を再編成し、縦割り行政を解消する。更に文科省とNHKから左翼を一掃する。続いて農業革命である。農地と農家の流動化を図る。補助金行政も見直し、まともなインセンティブにすることが望ましい。

 コンビニ各社も地産地消の一翼を担うべきだろう。

2021-10-16

社会性=都市化/『ハキリアリ 農業を営む奇跡の生物』バート・ヘルドブラー、エドワード・O・ウィルソン


 ・社会性=都市化

『人間の本性について』エドワード・O ウィルソン

 葉をかつぐアリを追っていけば巣にたどり着く。ただしその道のりは50メートルから100メートル以上にも及ぶ場合がある。途中で分厚い茂みを抜けることもあるだろうし、ちょっとした上り下りもあるだろう。やがて唐突に巣が姿を現す。そこには何百万匹ものアリが暮らす地下の一大都市だ。地上には、巣づくりのために掘り出した土が2メートルを超える高さに積みあがり、丸い小山のようになっている。地下は何千という部屋に分かれ、それぞれの大きさを平均するとだいたい人間の頭ほど。もっと正確にいえば、容積にして30分の1リットルから50リットルくらいである。
 各部屋はトンネルで迷路のようにつながっていて、部屋にはふわふわした灰色のかたまりが詰まっている。部屋の壁は薄く、表面積ができるだけ大きくなるようにでこぼこしている。
 壁には特殊な菌類(キノコなどの仲間である真菌類)が生えている。この菌は、アリに栽培されるためだけに存在している。ハキリアリや、進化的にもっと未発達な近縁のアリにだ。この菌がおなじみのキノコ形になって傘と柄をつけることはめったにない。たいていは細い菌糸がもつれ合ったかたまりになる。
 菌は部屋の壁から栄養を得ていて、壁はバルブのような糊状の物質でできている。そしてこの糊状の物質をつくる材料が、働きアリのもち帰る植物の断片だ。
 ハキリアリは植物を切りとって樹液を吸うこともあるが、それ以外はこうして育てた菌だけを食べて生きている。生の植物そのものはアリの消化器官の手に負えない。そこでハキリアリは、それを食べられる食物に変える方法を編みだした。
 農業を始めたのである。
 おかげでハキリアリは進化の壁を突きやぶって大躍進を遂げる。切りとった植物で土台をつくり、その上で菌という作物を栽培することで、ほぼ無尽蔵といっていい食料を確保する道を開いたのだ。

【『ハキリアリ 農業を営む奇跡の生物』バート・ヘルドブラー、エドワード・O・ウィルソン:梶山あゆみ訳(飛鳥新社、2012年)】

 地球で最後まで生き残るのは社会性昆虫か菌類だろう。ヒトの社会性は文明を誕生させたが、いたずらに資源を浪費する。自然の摂理においてヒトは必要とされていない。むしろ癌細胞のような存在と言えるだろう。

 そろそろ知能よりも協働を重視するべきだ。天才の閃きよりも傾聴から生まれる集合知が尊い。巨大なアリの巣は完璧な空調システムをも備えている。誰かが設計し、現場監督を務めたわけではない。一匹一匹のアリが必要な作業を繰り返してゆく中で創発されたものだ。人間の造った建築物が創発に至ることはない。図面はあっても知恵を欠くためだ。

 ヒトの生活を振り返ると屎尿(しにょう)がリサイクルされていないことに気づく。「じゃあ、今度から畑でウンコをするよ」というわけにいかない。なぜなら薬や化学物質が混じっているからだ。就中(なかんずく)、薬が厄介で放射能の半減期を思わせるほどしっかりと残っている。健康な人物の便は細菌の宝庫である。アメリカでは便移植が始まっているが、間もなく日本でも解禁されることだろう。例えば痩せている人の便を移植すれば、痩せ菌によって容易に体重を落とすことができる。薬価を思えば、ウンコが1000円とか1万円で取引されるようになっても決しておかしくない。

 準完全食といわれているのは卵、サツマイモ、納豆、オートミール、ブロッコリー、キヌア、リンゴなど。昔、沖縄で抜きん出て健康な男性がいたが、彼が食べていたのはサツマイモだけだった、という話を物の本で読んだことがある。

 縄文人が食べていたとされるのは、団栗(どんぐり)・栗・胡桃(くるみ)・栃の実など。あとは魚、貝類、山菜である。また塩が必須だ。

 ヒトは雑食のため単一の食べ物で生きてゆくことは難しい。タンパク質摂取のために昆虫食を開拓する必要もあるだろう。

 迫りくるチャイナリスクを思えば、国民に兵農を義務づけるのもいい手だと思う。義務教育でサバイバル技術を身につければ、日本も生まれ変わることができるだろう。







2021-10-10

あなたが1日に使えるエネルギーの総量とその配分の仕方は法則により制限されている/『データの見えざる手 ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』矢野和男


『次のテクノロジーで世界はどう変わるのか』山本康正
『ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、ケネス・クキエ

 ・あなたが1日に使えるエネルギーの総量とその配分の仕方は法則により制限されている

『パーソナルデータの衝撃 一生を丸裸にされる「情報経済」が始まった』城田真琴
『マインド・ハッキング あなたの感情を支配し行動を操るソーシャルメディア』クリストファー・ワイリー
『無人の兵団 AI、ロボット、自律型兵器と未来の戦争』ポール・シャーレ
『データ資本主義 ビッグデータがもたらす新しい経済』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、トーマス・ランジ
『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』藤井保文、尾原和啓
『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』キャシー・オニール
・『アフターデジタル2 UXと自由』藤井保文
・『UXグロースモデル アフターデジタルを生き抜く実践方法論』藤井保文、小城崇、佐藤駿
・『アフターデジタルセッションズ 最先端の33人が語る、世界標準のコンセンサス』藤井保文監修

 これらの方程式が自然法則の基本であり、それらがすべて保存則、とくに「エネルギーの保存則」から派生する式だとすれば、「エネルギー」の概念こそが、自然現象の科学的な理解の中心にあることは疑いない。
 実は、このエネルギーの概念が、形を変えてあなたの今日の時間の使い方と関係があるのである。あなたが1日に使えるエネルギーの総量とその配分の仕方は、法則により制限されており、そのせいであなたは意思のままに時間を使うことができないのだ。
 あなたのまわりで起きているあらゆる現象や変化には、エネルギーが必要である。エネルギーはいろいろな形態で蓄積され、あらゆる現象に関わっている。原子力のエネルギーもあれば、化学エネルギーもあれば、熱エネルギーもあれば、電気エネルギーもある。
 エネルギーは形こそ変えるものの、トータルでは、増えもしなければ減りもしない。宇宙も地球も常に変化しているように見える。しかし、エネルギーは一定で増えも減りもしない。
 それでは、なぜ世界は変化するのだろうか。目に見えるあらゆる変化は、実は、エネルギーが別のエネルギー形態に変わることで起こる。たとえば、リンゴが木から落ちるとき、リンゴの重力エネルギーがリンゴの運動エネルギーに変化している。しかし、合計は少しも変化しない。総量は変わらず、その「配分」が変わるのである。
 逆に、配分を変えても実現できない変化は起きない。たとえば、低いところにある物体が、力を加えないのに自然に高いところに昇(ママ)ることはない。これはエネルギーを新たに生み出していることになるからだ。配分を変えることでは実現できない変化である。エネルギーの配分という見方が、科学的に起きうることと起きえないことを明らかにする。
 この300年の物理科学の歴史は、突き詰めれば、あらゆる自然現象をこのように「エネルギーの配分」という統一原理によって説明することであった。

【『データの見えざる手 ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』矢野和男〈やの・かずお〉(草思社、2014年/草思社文庫、2018年)】

 ウェアラブル(wearable)は「着用できる、身につけられる」との意(著者は「ウエアラブル」と表記している)。

 上記テキストは実験データに基づいている。矢野は自ら立ち上げたプロジェクトでリストバンド型ウェアラブルセンサを8年間にわたって装着。1秒間に20回も計測するこのデータによって、いつ寝返りを打ち、いつ作業に集中していたかが解析できる。つまり「左手の動き」という取るに足らないデータであってもビッグデータ化することで思わぬ人間行動や社会現象を探ることが可能になったのだ。

 私は先週の金曜日まで休みなしで21日間働き詰めだった。金曜日はいくつかの予定をやり過ごし、昨日は修理したバイクでツーリングにでも行こうと考えていた。ところが2~3km進んだところで何となく引き返してきた。夜は久し振りにウォーキングをしようと家を出たものの、やはり2~3kmで戻った。何となく疲労の蓄積が霧のように体を取り巻いていた。昨夜は22時に寝た。4時に目が醒めた。再び寝転がった。時計を見ると8時だった。結局起きたのは13時のこと。15時間も寝てしまった。

 私の場合、保存則は睡眠時間にはっきりと現れる。基本的に寝ないと駄目なタイプである。その代わり寝てしまえば、そこいらの男の3倍くらいのパワーを発揮する。

「エネルギーを使えばつかうほど時間が早く進む」という本川達雄の指摘とも重なる(『「長生き」が地球を滅ぼす 現代人の時間とエネルギー』)。多分、竜宮城では時間がゆっくり進んでいたのだろう。浦島太郎が一瞬で老け込んだのもエネルギー量の違いに原因を求めることができよう。

 一つ疑問に思ったことは、スポーツ選手の場合どうなるのか? マラソン選手が短命な事実は知られているが高々数年程度である。その運動量を思えば辻褄が合わないような気がする。

2021-10-09

小林秀雄は「非常時」という言葉を嫌った/『生きること生かされること 兄 小林秀雄の心情』高見澤潤子


『小林秀雄全作品 25 人間の建設』小林秀雄
・『兄小林秀雄との対話 人生について』高見沢潤子
・『兄 小林秀雄』高見澤潤子

 ・小林秀雄は「非常時」という言葉を嫌った

・『続 生きること生かされること 兄 小林秀雄の真実』高見澤潤子
・『永遠(とこしえ)のふたり 夫・田河水泡と兄・小林秀雄』高見澤潤子
・『生きることは愛すること 兄 小林秀雄の実践哲学』高見澤潤子
・『人間の老い方死に方 兄小林秀雄の足跡』高見澤潤子

 今日は個人主義思想はもう流行(はや)らないのださうですが、流行らなくなっても、人間いかに生くべきかは各自の工夫を要する事に変りはあるまい。  (文学と自分

 此の言葉は、昭和15年、戦争のはじまる前の年に書いた「文学と自分」という作品の中の言葉である。此の言葉の最初の「今日」というのは、その頃、国家総動員とか非常時体制とかものものしくいわれた時代のことである。個人のことなど考えてはいけない。すべて日本国家のために、軍部の命令通りに、動かなければいけないという時代だったから、「個人主義など流行らない」といったのである。しかし兄は、個人の大切さを知っていた。人間は一人一人ちがうのだから、一人一人ちがった歩みをするのが本当の生き方だというのである。兄は非常時という言葉も嫌っていたが、国民精神総動員などといって文士も国家の政策のために尽力するようにといわれても、文士は文学を一生けんめいやり、いい作品を創るだけだ、といっていた。

【『生きること生かされること 兄 小林秀雄の心情』高見澤潤子〈たかみざわ・じゅんこ〉(海竜社、1987年)】

 非常事態、はある。例えば災害は火急の事態だ。しかし災害が収まれば被災者の生活が始まる。戦争は非常時の最たるものだが、国民が織り成すのは日常生活である。つまり戦争状態が日常と化すのだ。小林の嫌悪はよくわかる。「非常時」という言葉は国民に犠牲を強いる時に使われるのだ。「非常時だから我慢せよ」というわけだ。

 2019年12月から始まったコロナ禍騒動も「非常時」で覆われている。法的根拠もないまま、国民にマスクや外出規制を強要するのは独裁国家と変わりがない。唯々諾々と従う国民の心理にあるのは「非常時だから仕方がない」との諦めだ。資本力の弱い飲食店は次々と倒れ、二百三高地状態となっている。政府の無策を思えば、切羽詰まった行動を起こす店主が現れても不思議ではない。

 小林が戦時中の言論について「反省なぞしない」と言い切ったのは、自己批判を繰り返す左翼への嘲笑でもあったのだろう(小林秀雄の戦争肯定/『国民の歴史』西尾幹二)。

 ラジオ番組で「(小林秀雄の)どこがいいんでしょうね? 読んでもさっぱりわからない」と佐藤優が語ったのを聴いて、「小林秀雄は読むべきだ」と直感した。私の勘は滅多に外れることがない。

 

2021-09-27

自律型兵器の特徴は知能ではなく自由であること/『無人の兵団 AI、ロボット、自律型兵器と未来の戦争』ポール・シャーレ


『デジタル・ゴールド ビットコイン、その知られざる物語』ナサニエル・ポッパー
『次のテクノロジーで世界はどう変わるのか』山本康正
『ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、ケネス・クキエ
『データの見えざる手 ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』矢野和男
『パーソナルデータの衝撃 一生を丸裸にされる「情報経済」が始まった』城田真琴
『マインド・ハッキング あなたの感情を支配し行動を操るソーシャルメディア』クリストファー・ワイリー

 ・自動化(オートマチック)、手順自動化(オートメーション)、自律(オートノミー)
 ・自律型兵器の特徴は知能ではなく自由であること

・『自衛隊最高幹部が語る令和の国防』岩田清文、武居智久、尾上定正、兼原信克
『データ資本主義 ビッグデータがもたらす新しい経済』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、トーマス・ランジ
『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』藤井保文、尾原和啓
『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』キャシー・オニール

 合意を基本とする調整は、分権の手法で、スウォーム・エレメント(小編隊)すべてが、互いに同時に通信し、行動の進路を共同で決める。これは“投票”もしくは“オークション”アルゴリズムで、行動を調整することで実行できる。つまり、スウォーム・エレメントはすべて、フライの捕球を“入札”したり“競売”したりすることができる。最高値をつけたものが“落札”して捕球し、あとのものは邪魔にならないように離れる。
 突発的調整は、もっとも分権が進んだ手法で、鳥の群れ、昆虫のコロニー、人間の暴徒の動きのように、周囲の個々の意思決定から、調整された行動が自然発生する。個々の行動の単純な法則から、きわめて複雑な共同行動が引き起こされ、スウォームは“集団的知性”を発揮する。たとえばアリのコロニーは、しばらくすると、個々のアリの単純な行動によって、食べ物を巣に運ぶ最適ルートに集まる。食べ物を運ぶアリは、巣に戻るときにフェロモンの足跡を残す。もっと濃いフェロモンが残っている既存の通り道にぶつかると、そのルートに切り替える。より早いルートでアリがどんどん巣に引き返すうちに、フェロモンの足跡が濃くなり、多くのアリはそこを通るようになる。アリはいずれも最速のルートがどれかを知っているわけではないが、アリのコロニーは集団として最速のルートに集まる。
 スウォーム(群飛)のエレメント間の通信は、外野手が“おれが捕る”と叫ぶのとおなじような直接の信号でも行なわれる。魚や動物の群れがいっしょにいる共同観察のような間接的手段もある。アリがフェロモンを残して通り道の印にするのは、“スティグマジー”と呼ばれるプロセスのたぐいで、環境に残された情報に反応して行動する。

【『無人の兵団 AI、ロボット、自律型兵器と未来の戦争』ポール・シャーレ:伏見威蕃〈ふしみ・いわん〉訳(早川書房、2019年)以下同】

 読書中に必読書にしたのだがその後、教科書本にとどめた。現在多忙につき、体力を整えてから再読する予定である。序盤はいいんだけどね。

 swarmの意味は「群れ、うじゃうじゃした群れ、大群、群衆、大勢、たくさん」(Weblio英和辞書)など。「スウォーム・エレメント」とはドローン兵器を指す言葉で、ドローンの小編隊同士を戦わせる実験が既に行われているという。そこで繰り広げられるのは「戦闘の自律化」である。スウォームの指揮統制モデルは以下の通りである。


 期せずして政治システムを表しているのが興味深い。直接民主制、議会制民主主義、談合、国際関係(安全保障・貿易体制)を思わせる。

 自律といえばアパッチ族の分権システムが知られる(『ヒトデはクモよりなぜ強い 21世紀はリーダーなき組織が勝つ』オリ・ブラフマン、ロッド・A・ベックストローム)。自律を支えるのは内発性だ。中央集権のハードパワー体制はリーダーが斃(たお)れれば組織が崩壊する。ヴェトナム戦争でアメリカはヴェとコンのゲリラ戦に敗れた。戦後長きにわたって一人戦争を続けた小野田寛郎もまた内発性ゆえに戦い得たのだ。

 自律には永続性がある。つまりロボットが自律性を獲得すれば「壊れるまで戦い続ける」ことが可能になる。電力供給や自動修復機能、更にはソフトウェアの自動更新が埋め込まれれば、AI兵器は永遠に戦い続けることだろう。精度の高い顔認証システムが完成すれば、ドローンから逃れることは不可能となる。テロリスト対策として開発され、やがては政敵を葬るために使われるはずだ。

 これらの例は、自律型兵器についてのよくある誤解――知能(インテリジェンス)〔認知・推論・学習能力〕を備えれば兵器は“自律”するという浅はかな考え――を浮き彫りにしている。システムの知能が高いことと、それが実行するタスクが自律的であることは、次元が違うのだ。自律型兵器の特徴は知能ではなく、自由であることだ。知能は自律を変えることなく、いくらでも兵器に付け加えられる。自律型兵器と半自律型兵器に使用されるターゲット識別アルゴリズムは、これまではしごく単純なものだった。このため、完全自律型兵器の有用性には制約があった。兵器の知能があまり高くない場合、軍は兵器に大幅な自由を委ねるのをためらう傾向があるからだ。しかし、機械の知能が進歩するにつれて、自律目標決定(ターゲティング)は幅広い状況で技術的に可能になった。

「!」――頭の中で電球が灯(とも)った。大人には大人の、子供には子供の、病人には病人の、障碍者には障碍者の「自律」があるのだ。「自律型兵器」を「自律型組織」に置き換えて私は読んだ。

 AIの自律性はヒューリスティクスソマティック・マーカーをも実装し、失敗とフィードバックを繰り返しながら機械学習をしてゆくに違いない。その行く末を思えば「感情なき人間」の姿が浮かんでくる。ヒトの感情は元々集団の中で生存率を高めるためのアルゴリズムだったのだろう。歴史を生み、文化を育み、国家を形成したのは民族的感情に拠(よ)るところが大きい。

 機械やコンピュータは機能で構成されている。ビッグデータは感情や理由は無視する。膨大なデータから関連性・相関性を探るだけだ。それでも因果関係に迫ることができるのだ。

 では人類の未来は薔薇色に輝いているのだろうか? 違うね。『すばらしい新世界』(オルダス・ハクスリー)みたいな完全管理の碌(ろく)でもない世界が、サーバーの地平から現実世界へ押し寄せるに決まってらあ。