2018-12-21

「外交官とその時代」シリーズ/『陸奥宗光とその時代』岡崎久彦


『日米・開戦の悲劇 誰が第二次大戦を招いたのか』ハミルトン・フィッシュ
『繁栄と衰退と オランダ史に日本が見える』岡崎久彦

 ・「外交官とその時代」シリーズ

『陸奥宗光』岡崎久彦
『日本の敗因 歴史は勝つために学ぶ』小室直樹
『小村寿太郎とその時代』岡崎久彦
『幣原喜重郎とその時代』岡崎久彦
『重光・東郷とその時代』岡崎久彦
『吉田茂とその時代 敗戦とは』岡崎久彦
『村田良平回想録』村田良平『歴史の教訓 「失敗の本質」と国家戦略』兼原信克

日本の近代史を学ぶ
必読書リスト その四

 そのころ、大和(やまと)の五条という天領にいた本屋の主人が、たまたま和歌山に来ていて、宗光が復讐(ふくしゅう)、復讐と叫ぶのを聞いて、これは面白い子だと思って、ぼっちゃん(紀州では、ぼんぼんという)、紀州家に仇討ちをされるなら、天領の代官になりなさい、と言ってくれた。
 宗光は雀躍(じゃくやく)して喜び、大和五条にある老人の家の食客(しょっかく)となって『地方凡例録』(じかたはんれいろく)とか、『落穂集』(おちぼしゅう)とかを勉強した。これらは、幕府の民政の書で、代官の教科書であった。後年、陸奥が、日本の近代化を一挙に促進した地租改正の議(ぎ)などを提案したのは、このときの素養があったからという。
 こんなものは、大人が読んでも面白いもののはずがない。それを、数え年10歳の少年が読んで、あとに残るほど理解し、吸収し得たとすれば、それは仇討ちの気魄(きはく)があって初めてできることと思う。昔話に、仇討ちの執念でたちまちに剣道が上達する話がよくあるが、やる気というものは、恐ろしいものである。(※ルビの大半を割愛した)

【『陸奥宗光とその時代』岡崎久彦(PHP研究所、1999年/PHP文庫、2003年)】

 岡崎は先に『陸奥宗光(上)』『陸奥宗光(下)』(PHP研究所、1987年/PHP文庫、1990年)を著しており、これを短く書き直したのが本書である。刊行年だけ辿ると『小村寿太郎とその時代』(1998年)を先に読みかねないので注意が必要だ。

「外交官とその時代」シリーズは英訳を視野に入れたもので日本の近代史を客観的に捉える工夫がなされており、ルビも聖教新聞並みに豊富で配慮が行き届いている。岡崎は親米保守の旗幟(きし)を鮮明にしているが、安易なコミュニズム批判は見受けられず、時代に寄り添い、時代の中に身を置いて世界の動きを体感しようと試みる。日本近代史の中で立憲制~政党政治がどのように育まれてきたかを俯瞰できるシリーズとなっている。

 陸奥宗光〈むつ・むねみつ〉は紀州藩(和歌山県)士で海援隊では坂本龍馬の右腕となり、任官してからは版籍奉還、廃藩置県、徴兵令、地租改正を始め、農林水産業に至るまでのグランドデザインを描いた人物である。岡崎久彦は伊藤博文と陸奥宗光を日本近代化における政党政治の立役者として描く。陸奥の志は死後に立憲政友会を生ましめる。

 私はかねがね、西郷(さいごう)など徳川時代の教養を深く身につけた人が西欧の合理主義になじまなかった罪は陽明学にあると思っている。陽明学は儒学の行きついた極致であり、すべて自己完結している。個人の人格さえ完成すれば、それが社会全体の幸福にまでつながると信ずれば、日々の生活になんの迷いも生じない。物質的な貧乏(後進性)も、毀誉褒貶(きよほうへん/世論〈よろん〉)も気にすることはない。何もかも失敗しても、天の道をふんでいるのだから、志は天に通じていると思っている。そんな思想に凝り固まっている「立派な人」に近代思想を説いても、結局は歯車が噛み合わないであろう。
 明治維新の過程をみると、行動を重んじる陽明学はたしかに革命の原動力にはなった。江戸時代唯一の革命の試みといえる1837年の乱を起した大塩平八郎も陽明学者だった。吉田松陰が長州の革命家を育てた役割も大きい。しかし、維新後の近代化の過程では西南戦争の西郷隆盛と言い、後に議会政治を弾圧した品川弥二郎(しながわやじろう)と言い、陽明学の士は、近代化の足を引っ張っている。しょせん革命には有用であっても、近代化にはなじまない思想なのであろう。

 儒家における大乗化みたいな代物か。人を動かすのは感情だが、人を糾合するためには理窟が必要となる。思想という物差しがなければ軍は成り立たず、一揆やゲリラ戦で終わってしまう。たぶん様式化した武士道と陽明学の親和性が高かったのだろう。

 陸奥の配下に岡崎邦輔〈おかざき・くにすけ〉がいたが、実は著者の祖父に当たる。本書には書かれていないが上下本では詳細が綴られている。

 人と時代を見事に描き切った傑作である。

2016年に読んだ本ランキング


2015年に読んだ本ランキング

 ・2016年に読んだ本ランキング

2017年に読んだ本ランキング

 2016年のランキングを書いてないことに気づいた。書けなかった理由すら思い出せない。付箋(ふせん)を貼ったページは全て画像で保存しているので記録に漏れはないのだが、量が多すぎて読んだ時の心の動きがわからない。まあ、そんなわけで不正確な覚え書きとして残しておく。

 まずは印象に残った巧妙な悪書を2冊。

『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』矢部宏治
『ジェノサイド』高野和明

 続いて良書。

『なぜ専門家の為替予想は外れるのか』富田公彦
『中国・ロシア同盟がアメリカを滅ぼす日 一極主義 vs 多極主義』北野幸伯
『隷属国家 日本の岐路 今度は中国の天領になるのか?』北野幸伯
『日本自立のためのプーチン最強講義 もし、あの絶対リーダーが日本の首相になったら』北野幸伯
『日本人の知らない「クレムリン・メソッド」 世界を動かす11の原理』北野幸伯
「三木清における人間の研究」今日出海(『日本文学全集 59 今東光・今日出海』)

 次に再読、三読した必読書。外れなし。私の眼は確かだ(笑)。

『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ
『氷川清話』勝海舟:江藤淳、松浦玲編
『集合知の力、衆愚の罠 人と組織にとって最もすばらしいことは何か』 アラン・ブリスキン、シェリル・エリクソン、ジョン・オット、トム・キャラナン
『ウィンブルドン』ラッセル・ブラッドン
『環境と文明の世界史 人類史20万年の興亡を環境史から学ぶ』石弘之、安田喜憲、湯浅赳男
『「疑惑」は晴れようとも 松本サリン事件の犯人とされた私』河野義行
『聖書vs.世界史 キリスト教的歴史観とは何か』岡崎勝世
『なぜ美人ばかりが得をするのか』ナンシー・エトコフ
『女王陛下のユリシーズ号』アリステア・マクリーン
『人類が知っていることすべての短い歴史』ビル・ブライソン
『人間この信じやすきもの 迷信・誤信はどうして生まれるか』トーマス・ギロビッチ

 次にオススメ本。

『声』アーナルデュル・インドリダソン
『裏切り』カーリン・アルヴテーゲン
『風の影』カルロス・ルイス・サフォン
『「読まなくてもいい本」の読書案内 知の最前線を5日間で探検する』橘玲
『三島由紀夫の死と私』西尾幹二
『給食で死ぬ!! いじめ・非行・暴力が給食を変えたらなくなり、優秀校になった長野・真田町の奇跡!!』大塚貢、西村修、鈴木昭平
『「疲れない身体」をいっきに手に入れる本 目・耳・口・鼻の使い方を変えるだけで身体の芯から楽になる!』藤本靖
『自由と民主主義をもうやめる』佐伯啓思
『さらば、資本主義』佐伯啓思
『自滅するアメリカ帝国 日本よ、独立せよ』伊藤貫
『苦しみをなくすこと 役立つ初期仏教法話 3』アルボムッレ・スマナサーラ
『心の中はどうなってるの? 役立つ初期仏教法話5』アルボムッレ・スマナサーラ
『結局は自分のことを何もしらない 役立つ初期仏教法話6』アルボムッレ・スマナサーラ
『日露戦争を演出した男 モリソン』ウッドハウス暎子
『武士の娘 日米の架け橋となった鉞子とフローレンス』内田義雄
『動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか』福岡伸一
『動的平衡2 生命は自由になれるのか』福岡伸一
『失われてゆく、我々の内なる細菌』マーティン・J・ブレイザー
・『人間原理の宇宙論 人間は宇宙の中心か』松田卓也
『「アメリカ小麦戦略」と日本人の食生活』鈴木猛夫
『コールダー・ウォー ドル覇権を崩壊させるプーチンの資源戦争』マリン・カツサ
『天皇畏るべし 日本の夜明け、天皇は神であった』小室直樹
『ブッダが説いたこと』ワールポラ・ラーフラ
『呼吸による癒し 実践ヴィパッサナー瞑想』ラリー・ローゼンバーグ
『幸せになる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教えII』岸見一郎、古賀史健

 必読書入りしたのが以下。

『5つのコツで もっと伸びる カラダが変わる ストレッチ・メソッド』谷本道哉、石井直方
『ヒトラーの経済政策 世界恐慌からの奇跡的な復興』武田知弘
『大東亜戦争肯定論』林房雄
『アメリカの鏡・日本 完全版』ヘレン・ミアーズ
『ファストフードが世界を食いつくす』エリック・シュローサー
『脳はバカ、腸はかしこい』藤田紘一郎
『日本永久占領 日米関係、隠された真実』片岡鉄哉
『父、坂井三郎 「大空のサムライ」が娘に遺した生き方』坂井スマート道子
『ゴーマニズム宣言SPECIAL 天皇論』小林よしのり
『往復書簡 いのちへの対話 露の身ながら』多田富雄、柳澤桂子
『金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント 経済的自由があなたのものになる』ロバート・キヨサキ、シャロン・レクター
『ドル消滅 国際通貨制度の崩壊は始まっている!』ジェームズ・リカーズ
『通貨戦争 崩壊への最悪シナリオが動き出した!』ジェームズ・リカーズ
『複雑系 科学革命の震源地・サンタフェ研究所の天才たち』M・ミッチェル・ワールドロップ
『人が死なない防災』片田敏孝
『新・人は皆「自分だけは死なない」と思っている 自分と家族を守るための心の防災袋』山村武彦

 で、ベスト10である。

10位 『量子力学で生命の謎を解く 量子生物学への招待』ジム・アル=カリーリ、ジョンジョー・マクファデン
9位 『砂の王国』荻原浩
8位 『昭和45年11月25日 三島由紀夫自決、日本が受けた衝撃』中川右介
7位 『われ巣鴨に出頭せず 近衛文麿と天皇』工藤美代子
6位 『確信する脳 「知っている」とはどういうことか』ロバート・A・バートン
5位 『べてるの家の「当事者研究」』浦河べてるの家
4位 『悟り系で行こう 「私」が終わる時、「世界」が現れる』那智タケシ
3位 『わかっちゃった人たち 悟りについて普通の7人が語ったこと』サリー・ボンジャース
2位 『タオを生きる あるがままを受け入れる81の言葉』バイロン・ケイティ、スティーヴン・ミッチェル
1位 『人間の本性について』エドワード・O ウィルソン

『人間の本性について』は一度挫折しているだけに思い入れが深い。

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2018-12-16

富んで栄えた国が武事を閑却し滅びる/『繁栄と衰退と オランダ史に日本が見える』岡崎久彦


『日米・開戦の悲劇 誰が第二次大戦を招いたのか』ハミルトン・フィッシュ
『戦国日本と大航海時代 秀吉・家康・政宗の外交戦略』平川新

 ・富んで栄えた国が武事を閑却し滅びる

『陸奥宗光とその時代』岡崎久彦

日本の近代史を学ぶ

 モデルスキーの「世界政治の長期周期」説などがそれである。大ざっぱにいうと、16世紀をポルトガルの世紀、17世紀をオランダの覇権時代、18世紀はイギリス覇権の第1期、19世紀はその第2期、20世紀をアメリカの世紀と考えて、大体1世紀毎の興亡の周期があるという理論の下で、やがて来るべきアメリカの衰運に警告を発するという考え方である。
 私自身としては、この種のシェマティック(図式的)な分析というものには必ず無理があり、国家や人間の生きるか死ぬかの争いの場である歴史の流れを把握するには役に立たないと思っている。現にオランダの覇権時代といっても、それはあとで論じるように、英国がスペイン帝国に併呑されないように必死に抗争している間に、オランダが世界的規模でその経済力を伸ばすチャンスをつかんだという話であり、もともと英国との友好協力関係が前提であって、スペインの脅威が去るや否や英国の嫉視の的となって衰退するまでの期間に過ぎない。(中略)
 その圧巻ともいうべきものは、日露戦争の翌年である1906年に出版されたエリス・バーカーの500頁近い大著『オランダの興亡』である。(中略)
 私がこの本を知ったのは、昭和7年に出版された大類伸編の『小国興亡論』の中にその短い抄訳があったからである。以来、多年、その原著を求めていたが、英国内の図書館にはついに見あたらず、アムステルダムの王立図書館でようやくそのフォト・コピーを手に入れることが出来た。その後、アメリカの議会図書館にも1部あることも確かめた。また、上智大学の図書館にも寄贈図書として1巻がある由である。(中略)
 右の本はいずれも、かつて英国より経済、技術の面でははるかに先進国だったオランダが、英蘭戦争などを通じて衰えていく過程を記述して、英国も同じ運命を辿ることを憂いた警世の書である。もともとオランダの繁栄を嫉視して、これを破壊したのはイギリスであるが、かつてカルタゴを滅ぼした小スキピオ・アフリカヌスが、同行していた歴史家ポリビウスの手を取って、「次に来るものはローマの衰亡か?」と長嘆息したのと同工異曲というべきであろうか。
 バーカーは、ポール・ケネディと違ってより伝統的な史観の上に立っている。つまり、富んで栄えた国が武事を閑却し、質実剛健、尚武の未開人に滅ぼされるというローマ帝国の衰亡、平家の滅亡の史観であり、この方が本来は人類の常識であって、その意味ではポール・ケネディの理論は独創的であるといえるが、まだどこか未熟であやふやなところがあり、多くの専門家にその弱点を突かれているのもそのためである。

【『繁栄と衰退と オランダ史に日本が見える』岡崎久彦(初出誌『文藝春秋』1990年1月号~10月号/文藝春秋、1991年文春文庫、1999年/土曜社、2016年)】

 本書から岡崎久彦を読み始めた。『戦国日本と大航海時代』を読み終えた直後でタイミングとしては申し分がない。欧州における戦争と大航海時代が同時進行であった歴史的事実にヨーロッパの強さを思い知らされる。

「富んで栄えた国が武事を閑却し」滅びる、との指摘が重い。世界を席巻したオランダは封建領主の力が強すぎて国家として一つにまとまることができなかった。国内で足の引っ張り合いをする姿が日本の政治情況と重なる。北朝鮮がミサイルを撃っても日本国民は憤激することなく静観を保っている。世論がワイドショーで浮いたり沈んだりしている間は憲法改正に至らないだろう。

 つまらないことだが世論の読みは「よろん」で構わないと思う。正しくは「輿論(よろん)、世論(せろん)」なのだろうがどちらも「public opinion」の訳語であるし、漢字が伝わりやすいように訓読みすることは日常でも珍しくはない。私は7月生まれなのだが上京してから「なながつ」と言うようになった。これは多分「しち」と「はち」の聞き間違いを防ぐためなのだろう。北海道の従姉に笑われて初めて気づいた覚えがある。もう一つ書いておくと横書きの場合、数字表記も迷うことが多い。基本的には訓読みでアラビア数字を用いることはない(3つ、など)。一番困るのは「1」である。世界大戦は漢字で書き、その他は感覚で書き分けている。上記テキストだと「一部」にするか「1部」にするかで数分間迷った。書籍タイトルにアラビア数字を入れるのはどうしても気に入らないところである。背表紙は縦書きなのだから漢数字表記が正しい。例えば『一九八四年』の如し。

 日本はアメリカが行った戦争で栄えてきた。朝鮮特需高度経済成長、ベトナム特需を経て、二度のオイルショックを乗り切り、バブル景気へ至る。日本の繁栄をアメリカが指をくわえて眺めているはずがなかった。クリントン大統領が経済戦争を宣言し、人民元のレートを1ドル5.72元から8.72元に60%も切り下げた。地価と賃金の上昇に酔い痴れる日本人は全く注目しなかったが、中国の輸出力に保証を与えたようなものである。ここから日本が沈み、中国が上昇してくる。

 日本の低迷は20年にも及んだ。その間、終身雇用はズタズタに破壊され、会社=ファミリーといった文化も完全に廃(すた)れた。北朝鮮による拉致被害が明らかになっても国民の安全保障意識が高まることはなかった。ただ辛うじて東日本大震災という未曾有の悲劇によって天皇陛下を中心とする国家の命脈が保たれた。

 岡崎の文章は川のように流れ澱(よど)むことがなく、士を見抜く確かな目が具(そな)わっている。その名調子を思えば、やはり話し言葉の拙さや声の貧しさ、大衆を説得する力の弱さという落差が際立つ。「じゃあ、あんたはどういう仕事をしたんだ?」と言いたくなる。これは悪口ではなくそれほどまでに素晴らしい文章なのだ。

 いずれにしても今年の読書道は竹山道雄山口洋一岡崎久彦という流れが決定的であった。

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岡崎 久彦
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2018-12-15

読み始める

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2018-12-11

核拡散防止条約(NPT)の欺瞞/『腑抜けになったか日本人 日本大使が描く戦後体制脱却への道筋』山口洋一


『敗戦への三つの〈思いこみ〉 外交官が描く実像』山口洋一

 ・核拡散防止条約(NPT)の欺瞞

『植民地残酷物語 白人優越意識を解き明かす』山口洋一

日本の近代史を学ぶ

 ところが、(※国家とは異なり)国際社会はこのような公権力によって秩序が保たれる組織化された社会ではないので、個々のメンバーである各国は、国の安全を守り、権利を保全するのに、自国の軍隊で独自に防衛したり(自衛)、腕っ節の強そうな他の国と同盟を結んでお互いに守りあう(集団的自衛)ことをしないと存立し得なくなるのである。あたかも国内社会で、公権力が機能しない無法地帯では、一人ひとりが自分自身で刀やピストルを持って自衛したり、強そうなやくざやマフィアと手を結んで安全を期するしか生き延びていかれないのと似ている。

【『腑抜けになったか日本人 日本大使が描く戦後体制脱却への道筋』山口洋一(新風舎、2007年文芸社、2008年/文芸社文庫、2013年)】

 つまり第二次世界大戦における戦勝国の権利が核保有なのだ。実にわかりやすい話である。続きを紹介しよう。

 軍事大国の身勝手な論理が、あからさまに通っている典型的な例は核拡散防止条約(NPT)である。在来兵器に比べて桁違いの威力をもつ核兵器が拡散して、各国がこれを持つようになると、世界の平和維持が著しく不安定になるどころか、それこそ地球が木っ端微塵になり、人類全体の破滅を招く事態となりかねない。核兵器がテロリストの手に渡る危険も増大する。

 今日、人類が到達した科学技術の水準からすれば、国が核兵器を持っているかどうかは、刀やピストルを持っている人と丸腰の人との違いと変わらない。190人余りの後世ん(国家)がいる社会(国際社会)で、5人だけがピストルを持ち、他の者たちに「お前らには鉛筆削りのナイフも持たせない、素手でいろ」と命じて、監視の目を光らせ、やりたい放題の振る舞いを許しているのがこの条約なのである。しかもこの5人は国連安保理で拒否権をもった常任理事国なので、国連での重要な決定を自由自在に妨げることができ、一人が「ノー」と言えば国連は動きがとれなくなってしまう。こんな実情に国際社会からのブーイングすら起きていないのが不思議でならない。
 もっとも「核拡散防止条約」にも言い分はある。これがなければ190人余りのそれぞれが、各自飛び道具を手にして争うことになり、そうなると大変なことになる。地球が破滅してしまうという理屈だ。だから、核兵器保有国が悪兵器を他国に移譲しない義務を負い(NPT条約第1条)、核保有国が核兵器を受領せず、製造せず、製造について援助を求めたり、受けたりしないと約束すること(同第2条)は、重要であるように思える。
 確かに、無制限、無秩序に核軍備競争が進む状況に比べれば、なんらかの歯止めがあった方がいいという理屈は、一見もっともに聞こえる。しかし飛び道具を独占している5人が「正義」を実現してくれるという保証はどこにもない。彼が唱える「正義」は、彼らの独善による身勝手な言い分に過ぎず、彼ら自身が「ならず者国家」に変身する危険は常に覚悟していなければならない。

 ここで忘れてならないのは、飛び道具独占を正当化するこの理屈は、あくまで最終的には、核兵器保有国も核兵器廃絶に向かうことを前提にしたものだということである。そうでなく、保有国が未来永劫に核兵器を保有し続けるのであれば、軍事面における保有国の、非保有国に対する有利な立場を決定的に固定化してしまうこととなる。
 現にNPT条約の前文には「……核兵器の製造を停止し、並びに諸国の軍備から核兵器及びその運搬手段を除去することを容易にするため、国際間の緊張の緩和及び諸国間の信頼の強化を促進することを希望し、……」この条約を締結することが謳われており、また第6条には「各締約国は、各軍備競争の早期の停止及び各軍備の縮小に関する効果的な措置につき、並びに厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行うことを約束する」と明記されている。
 ところが、この世から核兵器が廃絶に向かう気配は一向にない。

 軍事力があればどのような理窟でも通ってしまう。国際社会といっても所詮は力が支配するのである。力がなければ崇高な理念も絵に描(か)いた餅だ。

 かつてNPT条約に関心を抱いたことは一度もなかったが、このように説明されるとその理不尽さがひしひしと伝わってくる。かような状況を打ち破るためには新たな世界大戦を待つ他ないような気がする。

 核保有国に常識や公正さがあればもちろん戦争する必要はない。だが彼らが増長し、覇権を拡大しようと非保有国に爪を伸ばす時、有事が勃発することはあり得る。特に昨今は中国の動きが活発化しており、南シナ海や尖閣諸島あたりで戦火の上がる確率が高い。

 北朝鮮と中国という脅威がありながらも日本の国会ではまともな防衛議論が行われていない。野党は学校の許認可や土地売買の質問に終始している。憲法改正の気運も低迷しつつある。

 核拡散防止条約がどれほど欺瞞に満ちていようとも直ちにゲームのルールを変えることはできない。とすればしばらくの間は日米安保を重視するのが正道なのだろう。

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ソ連の予審判事を怒鳴りつけた石原莞爾/『石原莞爾 マッカーサーが一番恐れた日本人』早瀬利之


『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』増田俊也

 ・天才戦略家の戦後
 ・ソ連の予審判事を怒鳴りつけた石原莞爾

『昭和陸軍謀略秘史』岩畔豪雄

日本の近代史を学ぶ
必読書リスト その四

 5月27日は、ソ連の予審判事が3人やってきた。陰湿な男で、いきなり満州事変について質問した。
 石原は昭和8年ジュネーブでの国際連盟臨時総会に出席する途中、招かれてソ連のエゴロフ総参謀長と会ったことを話した。するとソ連の検事は顔色を変え、一瞬言葉に詰った。相手が余りにも大物だったからである。
 ソ連の検事は「国体」について尋問した。石原は「天皇中心とした国家でなければ日本は治まらない」と理由を説明した。ところが共産党国家の検事はせせら笑って、スターリンのソ連国体を持ち出した。その時、石原はムッとして、
「自分の信仰を知らずして、他の信仰を嘲笑うような下司なバカ野郎とは話したくない。帰れ!」と激怒した。通訳官が慌てて、「この人は、ソ連では優秀な参謀です。話をすれば分かると思います。ぜひ進めてください」と頼んだ。
 すると石原は、「バカなことを言うな。こんなのはソ連では参謀で優秀かも知れんが、日本には箒で掃き出すほどいる。こんなバカとは口をききたくない、帰れ」と突っぱねた。
「分かるように話してやる。君らはスターリンといえば絶対ではないか。スターリンの言葉にはいっさい反発も疑問も許されないだろう。絶対なものは信仰だ。どうだ判ったか。自分自身が信仰を持っていながら、他人の信仰を笑うようなバカには用はない。もう帰れ」
 それきり、石原は口を固く閉じた。

【『石原莞爾 マッカーサーが一番恐れた日本人』早瀬利之(双葉新書、2013/双葉文庫、2016年)】

 天才とは規格外の才能を意味する。凡人が理解できるのは秀才までで天才が放つ光は時に「狂」と映る。やや礼賛に傾きすぎていて人物の描き方は浅いと言わざるを得ないが、それでもかつての日本にこうした人物がいたことを知る必要があろう。

 石原莞爾〈いしわら・かんじ〉は満州事変の首謀者で、1万数千名の関東軍を率いて23万人を擁する張学良〈ちょう・がくりょう〉軍を打ち破った。その名は軍事的天才として世界に知れ渡った。二・二六事件では単身で鎮圧に乗り出し、凄まじい剣幕で反乱軍兵士を怒鳴りつけ、青年将校にピストルを突きつけられても微動だにすることがなかった。

 二・二六事件のとき、石原は東京警備司令部の一員でいた。そこに荒木貞夫がやって来たとき、石原は「ばか! お前みたいなばかな大将がいるからこんなことになるんだ」と怒鳴りつけた。荒木は「なにを無礼な! 上官に向かってばかとは軍規上許せん!」とえらい剣幕になり、石原は「反乱が起こっていて、どこに軍規があるんだ」とさらに言い返した。そこに居合わせた安井藤治東京警備参謀長がまぁまぁと間に入り、その場をなんとかおさめたという。

Wikipedia

 後に昭和天皇は「一体石原といふ人間はどんな人間なのか、よく分からない、満洲事件の張本人であり乍らこの時の態度は正当なものであった」と述懐している(『昭和天皇独白録 寺崎英成御用掛日記』文藝春秋、1991年)。

 石原は満州国を建国した後は一貫して平和主義者の態度を変えていない。しかしながらさすがの彼も関東軍の暴走を抑えることはできなかった。ここが凡人にはわかりにくいところである。暴走した石原の腹心は石原の行動に倣(なら)っているつもりであったのだ。

 大東亜戦争の戦線拡大に反対し続けた石原は遂に犬猿の中であった東條英機〈とうじょう・ひでき〉の暗殺にゴーサインを出す。その時刺客を務めることになったのが木村政彦であった(『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』増田俊也)。また東京裁判の酒田出張法廷に出廷する際、病に伏していた石原をリヤカーに乗せて運んだのは大山倍達〈おおやま・ますたつ〉であったと伝えられる。

 極端から極端へと走る姿がいかにも日蓮主義者らしい。同時期の国柱会信者には宮沢賢治がいた。

2018-12-09

大東亜戦争は武士の時代から商人の時代へと日本を変えた/『日本永久占領 日米関係、隠された真実』片岡鉄哉


『國破れて マッカーサー』西鋭夫
『日本の秘密』副島隆彦

 ・大東亜戦争は武士の時代から商人の時代へと日本を変えた

日本の近代史を学ぶ
必読書リスト その四

 総体的に、日本の保守政治は、選挙区への利益誘導と、その海外への延長である利権ばら撒きしかないのである。それ以外のことは無関心で、全部アメリカに任せてある。
 いま、ブッシュ政権に憎悪され敵視されているのは、この体制なのである。
 日本は悪いことはしないと誓いを立て、悪いことを避けるのを最大限の目標にして生きてきた。戦争は最大の悪だから、絶対これを避ける。自衛の戦争は、することになっているが、領海3マイルから外では、何が置きても関知しない。これを国家の最大限の目標にしてきたのである。
 そうしているうちに、日本は萎縮した。矮小化した。卑俗化した。気品を失った。
 大きなこと、美しいこと、善いこと、勇敢なこと、ノーブルなこと。これらのすべてを日本は拒否するようになったのである。
 戦争と軍隊は手段であり、悪にも善にも奉仕する。ところが、日本人は、戦争と軍隊を悪に見立てることによって、【悪と善の双方を避けるようになったのである】。

【『日本永久占領 日米関係、隠された真実』片岡鉄哉〈かたおか・てつや〉(講談社+α文庫、1999年/講談社、1992年『さらば吉田茂 虚構なき戦後政治史』の改訂増補版)】

 ノーブル(noble、英語)とは高貴さのこと。ノブレス・オブリージュ(noblesse oblige、高貴なる者の義務)のノブレス(フランス語)と同じ意味だ。

 片岡鉄哉のスケッチは実にわかりやすい。55年体制が自民党内に腐敗を生み、社会党は時代の変化に対応することなく野党の位置に甘んじてきた。この体制を38年間にわたって国民は支持した。かつては武士道のイメージで見られた日本人は、貧相な顔と体そして眼鏡とカメラというアイコンに変わり果てた。戦時中から敗戦後に抱えた「生活さえよければ」との願望はバブル景気に至っても止(や)むことがなく、バブル崩壊後長い低迷期を経てますます強くなっている感がある。日本人が目指したのは飽食だったのだろう。国家を顧みる人はいなかった。

 大東亜戦争は武士の時代から商人の時代へと日本を変えた。経済的成功者を英雄と見なす風潮がはびこった。政治家や官僚、学者や僧侶までもが商人と堕した。いかにマネーを獲得するかというゲームが現代の狩猟である。

 かつては投資=利殖ではない時代があった。タニマチのような存在が各所にいた。まだ若く貧しかった勝海舟を見込んだ渋田利右衛門〈しぶた・りえもん〉は初めて会ったその日に200両もの大金を渡して「あなたの好きな本を買って、読み終えたら私に送って下さい」と申し出た(『氷川清話』勝海舟:江藤淳、松浦玲編)。かような金満家は現在いるだろうか?

『世界!ニッポン行きたい人応援団』を見ると、日本の伝統工芸が落ちぶれてゆく様子がありありとわかる。売れない物は淘汰されてゆくのが資本主義の原則である。篤志家がいないのであれば国が補助金を出すべきだと思うのだが、クールジャパンに出すカネはあっても伝統工芸に回すカネはないようだ。

 人を育て才を伸ばすために喜捨されたカネがどれほど日本を豊かにしてきたことか。現代のスポンサーシップはメディアに向かってのみ発揮される。新聞・テレビが新たな利殖の温床と化し、広告代金を分配するシステムが構築されている。芸人と呼ぶのも躊躇(ためら)われるようなお笑いタレントが数千万円~数億円もの年収を稼ぐ時代となった。世も末である。