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2016-01-02

片岡鉄哉


 1冊読了。

 1冊目『日本永久占領 日米関係、隠された真実』片岡鉄哉(講談社+α文庫、1999年/講談社、1992年『さらば吉田茂 虚構なき戦後政治史』の改訂増補版)/読む順番としては、『國破れて マッカーサー』西鋭夫→『日本の戦争Q&A 兵頭二十八軍学塾』兵頭二十八→『日本の秘密』副島隆彦→本書、がいいだろう。本書を副島本で知った。戦後の日本を取り巻く安全保障はマッカーサー-吉田-ダレスによって歪められ、今尚、議論すらできぬ情況に陥っている。この3人は怨霊と化して日本に取り憑く。また鳩山一郎政権についても誤解が解けた。片岡は西と同じくスタンフォード大学フーバー研究所に席を置く人物。二人がマッカーサーに関する労作を刊行するのも何らかの情報戦略なのかもしれない。昨今の安保法改正と1958年の警職法を巡る騒動が酷似していて興味深い。やはり歴史は繰り返すのだろう。日本の政府が情報を公開していない以上、この国で民主制が機能することはあり得ない。国家のあり方や国の構えをどうするかが問われている時に、平和を持ち出す愚か者どもはもはや「平和病」といってよい。ウイグル・チベット・パレスチナをよく見よ。武器を持たぬ民族は滅ぼされる運命にある。

2015-12-11

兵頭二十八


 1冊読了。

 167冊目『「日本国憲法」廃棄論 まがいものでない立憲君主制のために』兵頭二十八〈ひょうどう・にそはち〉(草思社、2013年/草思社文庫、2014年)/いやはや勉強になった。『日本人のための憲法原論』小室直樹と『日本の戦争Q&A 兵頭二十八軍学塾』を先に読んでおくのが望ましい。憲法改正はマッカーサー偽憲法の肯定につながるため、直ちに廃棄するのが正しいと主張。本書に注目したのは「マッカーサー証言の『セキュリティ』を安全保障とするのは誤訳」という兵頭の指摘を確認するためだった。第二次世界大戦において日本が国際法を無視した姿も『日本の戦争Q&A』以上に詳しく解説。具体的にヒトラーやスターリンの論理を駆使した演説を紹介する。日本は「自衛」という概念を理解できなかった。兵頭の高い視点はリアリズムに貫かれている。ただし時折文章の揺れが目立ち、「軍学者」を自称しているが、やや「軍事オタク」の印象が強い。「必読書」入り。

【追記】なかなか難しいのだが読む順番は、『國破れてマッカーサー』『日本の敗因』『日本の戦争Q&A』『封印の昭和史 戦後50年自虐の終焉』『日本国民に告ぐ 誇りなき国家は、滅亡する』『日本人のための憲法原論』『「日本国憲法」廃棄論』としておく。

2015-10-10

虐待と知的障害&発達障害に関する書籍


     ・キリスト教を知るための書籍
     ・宗教とは何か?
     ・ブッダの教えを学ぶ
     ・悟りとは
     ・物語の本質
     ・権威を知るための書籍
     ・情報とアルゴリズム
     ・世界史の教科書
     ・日本の近代史を学ぶ
     ・虐待と精神障害に関する書籍
     ・時間論
     ・身体革命
     ・ミステリ&SF
     ・必読書リスト

「必読書リスト」の順番がちょっと怪しくなってきたので別項目としてまとめておく。

『メンデ 奴隷にされた少女』メンデ・ナーゼル、ダミアン・ルイス
『囚われの少女ジェーン ドアに閉ざされた17年の叫び』ジェーン・エリオット
『3歳で、ぼくは路上に捨てられた』ティム・ゲナール
『累犯障害者 獄の中の不条理』山本譲司
『自閉症裁判 レッサーパンダ帽男の「罪と罰」』佐藤幹夫
『永山則夫 封印された鑑定記録』堀川惠子
『生きる技法』安冨歩
『子は親を救うために「心の病」になる』高橋和巳
『消えたい 虐待された人の生き方から知る心の幸せ』高橋和巳
『生ける屍の結末 「黒子のバスケ」脅迫事件の全真相』渡邊博史
『平気でうそをつく人たち 虚偽と邪悪の心理学』M・スコット・ペック
『夜中に犬に起こった奇妙な事件』マーク・ハッドン
『くらやみの速さはどれくらい』エリザベス・ムーン
『身体が「ノー」と言うとき 抑圧された感情の代価』ガボール・マテ
『身体はトラウマを記録する 脳・心・体のつながりと回復のための手法』べッセル・ヴァン・デア・コーク
『オープンダイアローグとは何か』斎藤環著、訳
『まんが やってみたくなるオープンダイアローグ』斎藤環、水谷緑まんが
『悩む力 べてるの家の人びと』斉藤道雄
『治りませんように べてるの家のいま』斉藤道雄
『ベリー オーディナリー ピープル とても普通の人たち 北海道 浦川べてるの家から』四宮鉄男
『べてるの家の「当事者研究」』浦河べてるの家
『ザ・ワーク 人生を変える4つの質問』バイロン・ケイティ、スティーヴン・ミッチェル

2015-05-31

日本の近代史を学ぶ


     ・キリスト教を知るための書籍
     ・宗教とは何か?
     ・ブッダの教えを学ぶ
     ・悟りとは
     ・物語の本質
     ・権威を知るための書籍
     ・情報とアルゴリズム
     ・世界史の教科書
     ・日本の近代史を学ぶ
     ・虐待と知的障害&発達障害に関する書籍
     ・時間論
     ・身体革命
     ・ミステリ&SF
     ・必読書リスト

『「戦争と平和」の世界史 日本人が学ぶべきリアリズム』茂木誠
『敗者の条件』会田雄次
『お金の流れで読む日本の歴史 元国税調査官が古代~現代にガサ入れ』大村大次郎
『国民の歴史』西尾幹二
『国家の品格』藤原正彦
『お江戸でござる』杉浦日向子
『狗賓童子(ぐひんどうじ)の島』飯嶋和一
『戦国日本と大航海時代 秀吉・家康・政宗の外交戦略』平川新
『日本の知恵 ヨーロッパの知恵』松原久子
『驕れる白人と闘うための日本近代史』松原久子
『日本人の誇り』藤原正彦
『自由と民主主義をもうやめる』佐伯啓思
『鉄砲を捨てた日本人 日本史に学ぶ軍縮』ノエル・ペリン
『逝きし世の面影』渡辺京二
『シドモア日本紀行 明治の人力車ツアー』エリザ・R・シドモア
『お金で読み解く明治維新 薩摩、長州の倒幕資金のひみつ』大村大次郎
『幕末外交と開国』加藤祐三
『現代語縮訳 特命全権大使 米欧回覧実記』久米邦武
『福翁自伝』福澤諭吉
『氷川清話』勝海舟:江藤淳、松浦玲編
武士の娘 (ちくま文庫)武士の娘 日米の架け橋となった鉞子とフローレンス (講談社+α文庫)
『武家の女性』山川菊栄
『乃木大将と日本人』スタンレー・ウォシュバン
・『世界史劇場 日清・日露戦争はこうして起こった』神野正史
『ある明治人の記録 会津人柴五郎の遺書』石光真人
『守城の人 明治人柴五郎大将の生涯』村上兵衛
『北京燃ゆ 義和団事変とモリソン』ウッドハウス暎子
『日露戦争を演出した男 モリソン』ウッドハウス暎子
『五・一五事件 海軍青年将校たちの「昭和維新」』小山俊樹
『昭和陸軍全史1 満州事変』川田稔
『陸軍80年 明治建軍から解体まで(皇軍の崩壊 改題)』大谷敬二郎
『二・二六帝都兵乱 軍事的視点から全面的に見直す』藤井非三四
『敵兵を救助せよ! 英国兵422名を救助した駆逐艦「雷」工藤艦長』惠隆之介
『きけ わだつみのこえ 日本戦没学生の手記』日本戦没学生記念会編
『国民の遺書 「泣かずにほめて下さい」靖國の言乃葉100選』小林よしのり責任編集
『大空のサムライ』坂井三郎
『父、坂井三郎 「大空のサムライ」が娘に遺した生き方』坂井スマート道子
『今日われ生きてあり』神坂次郎
『月光の夏』毛利恒之
『神風』ベルナール・ミロー
『高貴なる敗北 日本史の悲劇の英雄たち』アイヴァン・モリス
『英霊の絶叫 玉砕島アンガウル戦記』舩坂弘
証言 台湾高砂義勇隊
『アーロン収容所 西欧ヒューマニズムの限界』会田雄次
『F機関 アジア解放を夢みた特務機関長の手記』藤原岩市
黎明の世紀―大東亜会議とその主役たち 革命家チャンドラ・ボース―祖国解放に燃えた英雄の生涯 (光人社NF文庫)
『日本のいちばん長い日 決定版』半藤一利
『機関銃下の首相官邸 二・二六事件から終戦まで』迫水久恒
『アメリカの鏡・日本 完全版』ヘレン・ミアーズ
東京裁判とその後 - ある平和家の回想 (中公文庫)東京裁判―フランス人判事の無罪論 (文春新書)
『パール判事の日本無罪論』田中正明

ゴーマニズム宣言SPECIAL パール真論パール博士「平和の宣言」共同研究 パル判決書(上) (講談社学術文庫)共同研究 パル判決書(下) (講談社学術文庫)
・『東京裁判 全訳 パール判決書
『石原莞爾 マッカーサーが一番恐れた日本人』早瀬利之
『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』増田俊也
『大本営参謀の情報戦記 情報なき国家の悲劇』堀栄三
『消えたヤルタ密約緊急電 情報士官・小野寺信の孤独な戦い』岡部伸
『昭和陸軍謀略秘史』岩畔豪雄
『世界が語る大東亜戦争と東京裁判 アジア・西欧諸国の指導者・識者たちの名言集』吉本貞昭
世界がさばく東京裁判閉された言語空間―占領軍の検閲と戦後日本 (文春文庫)GHQ焚書図書開封1: 米占領軍に消された戦前の日本 (徳間文庫カレッジ に 1-1)
『國破れて マッカーサー』西鋭夫
『日本永久占領 日米関係、隠された真実』片岡鉄哉
『日米・開戦の悲劇 誰が第二次大戦を招いたのか』ハミルトン・フィッシュ
『二世兵士 激戦の記録 日系アメリカ人の第二次大戦』柳田由紀子
『シベリア抑留 日本人はどんな目に遭ったのか』長勢了治
『日本の戦争Q&A 兵頭二十八軍学塾』兵頭二十八
『「日本国憲法」廃棄論 まがいものでない立憲君主制のために』兵頭二十八
『日本の秘密』副島隆彦
『大東亜戦争肯定論』林房雄
『大東亜戦争で日本はいかに世界を変えたか』加瀬英明
日本人として知っておきたい外交の授業
『封印の昭和史 [戦後五〇年]自虐の終焉』小室直樹、渡部昇一
『日本国民に告ぐ 誇りなき国家は滅亡する』小室直樹
・『インテリジェンス戦争の時代 情報革命への挑戦』藤原肇
『日本の敗因 歴史は勝つために学ぶ』小室直樹
あの戦争になぜ負けたのか (文春新書)
『われ巣鴨に出頭せず 近衛文麿と天皇』工藤美代子
『大東亜戦争とスターリンの謀略 戦争と共産主義』三田村武夫
『日本人が知らない最先端の「世界史」』福井義高
『昭和の精神史』竹山道雄
『西洋一神教の世界 竹山道雄セレクションII』竹山道雄:平川祐弘編
『ビルマの竪琴』竹山道雄
『みじかい命』竹山道雄
『歴史的意識について』竹山道雄
『人種戦争 レイス・ウォー 太平洋戦争もう一つの真実』ジェラルド・ホーン
『人種差別から読み解く大東亜戦争』岩田温
『植民地残酷物語 白人優越意識を解き明かす』山口洋一
『敗戦への三つの〈思いこみ〉 外交官が描く実像』山口洋一
『腑抜けになったか日本人 日本大使が描く戦後体制脱却への道筋』山口洋一
『いま沖縄で起きている大変なこと 中国による「沖縄のクリミア化」が始まる』惠隆之介
『戦後史の正体 1945-2012』孫崎享
『「悪魔祓い」の戦後史 進歩的文化人の言論と責任』稲垣武
『ゴーマニズム宣言SPECIAL 天皇論』小林よしのり
日本人としてこれだけは知っておきたいこと (PHP新書)保守も知らない靖国神社 (ベスト新書)
『日本の敵 グローバリズムの正体』渡部昇一、馬渕睦夫
『誰も教えないこの国の歴史の真実』菅沼光弘
よくわかる慰安婦問題 (草思社文庫)ヤクザと妓生が作った大韓民国 ~日韓戦後裏面史
『戦国日本と大航海時代 秀吉・家康・政宗の外交戦略』平川新
『陸奥宗光とその時代』岡崎久彦
『陸奥宗光』岡崎久彦
『小村寿太郎とその時代』岡崎久彦
『幣原喜重郎とその時代』岡崎久彦
『重光・東郷とその時代』岡崎久彦
『吉田茂とその時代 敗戦とは』岡崎久彦
『米国の日本占領政策 戦後日本の設計図』五百旗頭真
『武士道』新渡戸稲造:矢内原忠雄訳
『国のために死ねるか 自衛隊「特殊部隊」創設者の思想と行動』伊藤祐靖
『昭和45年11月25日 三島由紀夫自決、日本が受けた衝撃』中川右介
『自衛隊「影の部隊」 三島由紀夫を殺した真実の告白』山本舜勝
『三島由紀夫と「天皇」』小室直樹
『田中清玄自伝』田中清玄、大須賀瑞夫
『徳富蘇峰終戦後日記 『頑蘇夢物語』』徳富蘇峰
『日本人と戦争 歴史としての戦争体験』大濱徹也
『悪の論理 ゲオポリティク(地政学)とは何か』倉前盛通
『新・悪の論理』倉前盛通
『悪の運命学 ひとを動かし、自分を律する強者のシナリオ』倉前盛通
『さらば群青 回想は逆光の中にあり』野村秋介
『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない 「保守」って何?』茂木誠

2015-03-30

アルゴリズムとは/『史上最大の発明アルゴリズム 現代社会を造りあげた根本原理』デイヴィッド・バーリンスキ


『宇宙を復号(デコード)する 量子情報理論が解読する、宇宙という驚くべき暗号』チャールズ・サイフェ

 ・サインとシンボル
 ・アルゴリズムとは

『宇宙をプログラムする宇宙 いかにして「計算する宇宙」は複雑な世界を創ったか?』セス・ロイド
情報とアルゴリズム

 アルゴリズムは、ひとつの有効な手続き、すなわち、有限個の別個のステップで何かをおこなうすべである。

【『史上最大の発明アルゴリズム 現代社会を造りあげた根本原理』デイヴィッド・バーリンスキ:林大〈はやし・まさる〉訳(早川書房、2001年/ハヤカワ文庫、2012年)以下同】

 古代の人類を思い浮かべてみよう。狩り、農耕、石器(道具)の作り方などにアルゴリズムを見て取れる。学びとは「アルゴリズムの共有」を意味したと考えてもよさそうだ。デイヴィッド・バーリンスキは古代中国に始まる官僚を「複雑なアルゴリズムを実行してきた社会組織以外の何物でもない」と指摘する。戦争やスポーツにおける戦略もアルゴリズムである。経済が上手くゆかないのはアルゴリズムが見出されていないためか。

 今世紀になってはじめて、アルゴリズムという概念の全貌が意識されるようになった。この仕事は、60年以上前、4人の数理論理学者によっておこなわれた。その4人とは、繊細で謎めいたクルト・ゲーデル、教会どころか大聖堂にも劣らずがっしりとして堂々としているアロンゾ・チャーチ、モリス・ラフェル・コーエンと同じくニューヨーク市立大学に葬られているエミル・ポスト、そして、もちろん、20世紀の後半に不安に満ちた目をさまよわせているかのような、風変わりでまったく独創的なA・M・テューリングだ。

 アインシュタインの相対性理論とゲーデルの不完全性定理は世界の見方を完全に引っくり返した。哲学は過去の遺物と化した。キリスト教も色褪せた。二つの理論は現代における常識の最上位に位置する。絶対なるものは崩壊した。

 ドイツはユダヤ人を迫害することで知性を流出して第二次世界大戦に敗れた。その知性を受け入れたアメリカが勝利を収めたのは当然であった。日本も当時、原爆製造に着手していたがウランがなかった。ゼロ戦をつくるほどの技術力はあったものの、全体観に立つ指導者がいなかった。


 解読不可能と思われていたエニグマの息の根を止めたのがチューリングだった。大戦の中で科学は次々と大輪の花を咲かせた。これが歴史の真実である。戦争に勝利したアメリカはドイツから技術や人を盗み取って、戦後の発展を遂げた(『アメリカはなぜヒトラーを必要としたのか』菅原出)。

ゲーデルの哲学 (講談社現代新書)ノイマン・ゲーデル・チューリング (筑摩選書)

『ゲーデルの哲学 不完全性定理と神の存在論』高橋昌一郎
嘘つきのパラドックスとゲーデルの不完全性定理/『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ

2015-03-14

都市革命から枢軸文明が生まれた/『一神教の闇 アニミズムの復権』安田喜憲


『環境と文明の世界史 人類史20万年の興亡を環境史から学ぶ』石弘之、安田喜憲、湯浅赳男

 ・神を討つメッセージ
 ・都市革命から枢軸文明が生まれた

『カミの人類学 不思議の場所をめぐって』岩田慶治

 イスラエルのヘブライ大学の日本研究者であるS・N・アイゼンシュタットは、超越的秩序と現世的秩序の大な水の中で、日本文明の特質を解明しようと試みた(『日本比較文明論的考察』梅津〈うめつ〉順一、柏岡富英訳、岩波書店、2004年)。アイゼンシュタットは日本文明の歴史的経験の大きな特徴は、「現在にいたるまで持続的・自律的に波瀾に満ちた歴史をもつ」ことだという。
 カール・ヤスパース(1883-1969)は、文明と呼べるのは超越的秩序としての巨大宗教や哲学をもった「枢軸文明」だけであると指摘した(『歴史の起源と目標』ヤスパース選集9、重田英世〈しげた・えいせい〉訳、理想社、1964年)。その代表がユダヤ・キリスト教のイスラエル文明、ギリシャ哲学のギリシャ文明、仏教のインド文明、儒教の中国文明だ。それは伊東俊太郎氏(『比較文明』東京大学出版会、1985年)のいう精神革命を成しとげたところでもある。
 伊東氏は、こうした精神革命をな(ママ)しとげたところは古代の都市革命の誕生地に相当しており、これらの超越的秩序は、都市文明の成熟を背景として成立したと指摘した。したがって、伊東氏の説を逆に解釈すれば、超越的秩序を生み出す精神革命を体験しなかったところでは、都市文明は誕生しなかったことになる。

【『一神教の闇 アニミズムの復権』安田喜憲〈やすだ・よしのり〉(ちくま新書、2006年)】

 日本を独自文明とするかシナの衛星文明とする二つの見方がある。尚、今後当ブログでは社会主義化以降を中国、それ以前をシナと表記する。理由については以下のリンクを参照されたい。

シナ(支那)を「中国」と呼んではいけない三つの理由
支那呼称問題・「中華」「中国」は差別語、「支那」「シナ」が正しい・「支那」は世界の共通語・【私の正名論】評論家の呉智英・「中華主義」と「華夷秩序」という差別文明観を込めた「中国」を日本にだけ強要

 中華思想は「世界の中心地」を意味するゆえ、日本人が安易に「中国」と呼べば、精神的・文化的に属国となりかねない。

「シナ」と「中国」の区別/『封印の昭和史 [戦後五〇年]自虐の終焉』小室直樹、渡部昇一

 シナ文明が中国共産党によって途絶えたことと、日本の200年以上に及ぶ鎖国(1639-1854)の歴史を踏まえると「独自文明」の色合いが強まる。

 このテキストについては元々紹介するつもりはなかったのだが、馬渕睦夫〈まぶち・むつお〉著『国難の正体 世界最終戦争へのカウントダウン』『世界を操る支配者の正体』を補強する内容であることに気づいた。馬渕はソ連をつくったのはユダヤ人であり、建国当初からアメリカ国内に左翼勢力がうごめいていた事実を指摘。そこから国際主義者=左翼であることを示し、思想的な背景にユダヤ教の影響があると考察する。つまり世界各地に離散(ディアスポラ)したユダヤ人がユダヤ的価値観に基いて国際主義を鼓吹(こすい)した結果が現在のグローバリゼーションに至るわけだ。

 儒教が都市から生まれたことは養老孟司〈ようろう・たけし〉がよく指摘するところである(『養老孟司の人間科学講義』)。「子、怪力乱神(かいりきらんしん)を語らず」とは孔子が自然を相手にしなかったことを意味すると。

 都市革命という視点を私は欠いていた。郷村から人々が自由に移動を始め、ある地域に集まった時、ローカル(地方)を超えた概念が必要となる。つまり「脱民俗」というベクトルが結果的に世界へと向かったわけだ。ヒト社会における群れから都市への革命は脳内をも一変させたことであろう。言葉も書き換えられたことは容易に想像がつく。

 思想的に捉えると日本の都市化が始まったのは日本仏教が花開いた鎌倉時代とするのが妥当かもしれない。


シナの文化は滅んだ/『香乱記』宮城谷昌光

2015-02-28

悟りとは


     ・キリスト教を知るための書籍
     ・宗教とは何か?
     ・ブッダの教えを学ぶ
     ・悟りとは
     ・物語の本質
     ・権威を知るための書籍
     ・情報とアルゴリズム
     ・世界史の教科書
     ・日本の近代史を学ぶ
     ・虐待と知的障害&発達障害に関する書籍
     ・時間論
     ・身体革命
     ・ミステリ&SF
     ・必読書リスト

『運転者 未来を変える過去からの使者』喜多川泰
『飛鳥へ、そしてまだ見ぬ子へ 若き医師が死の直前まで綴った愛の手記』井村和清
『巷の神々』(『石原愼太郎の思想と行為 5 新宗教の黎明』)石原慎太郎
『精神の自由ということ 神なき時代の哲学』アンドレ・コント=スポンヴィル
『君あり、故に我あり 依存の宣言』サティシュ・クマール
『奇跡の脳 脳科学者の脳が壊れたとき』ジル・ボルト・テイラー
『ザ・ワーク 人生を変える4つの質問』バイロン・ケイティ、スティーヴン・ミッチェル
『わかっちゃった人たち 悟りについて普通の7人が語ったこと』サリー・ボンジャース
『悟り系で行こう 「私」が終わる時、「世界」が現れる』那智タケシ
『タオを生きる あるがままを受け入れる81の言葉』バイロン・ケイティ、スティーヴン・ミッチェル
『ストレス、パニックを消す!最強の呼吸法 システマ・ブリージング』北川貴英
『「疲れない身体」をいっきに手に入れる本 目・耳・口・鼻の使い方を変えるだけで身体の芯から楽になる!』藤本靖
『呼吸による癒し 実践ヴィパッサナー瞑想』ラリー・ローゼンバーグ
『日本の弓術』オイゲン・ヘリゲル
『鉄人を創る肥田式強健術』高木一行
『表の体育裏の体育 日本の近代化と古の伝承の間(はざま)に生まれた身体観・鍛錬法』甲野善紀
『ローリング・サンダー メディスン・パワーの探究』ダグ・ボイド
『人類の知的遺産 53 ラーマクリシュナ』奈良康明
『あるヨギの自叙伝』パラマハンサ・ヨガナンダ
『クリシュナムルティの神秘体験』J・クリシュナムルティ
『生と覚醒(めざめ)のコメンタリー 2 クリシュナムルティの手帖より』J・クリシュナムルティ

2015-01-24

脳神経科学本の傑作/『確信する脳 「知っている」とはどういうことか』ロバート・A・バートン


 長期にわたってものを考えるとき、その考えを維持するために、推論の連鎖から十分な報酬を引き出す必要がある。しかし一方で、柔軟さも維持して、その考えに矛盾する証拠が出てきたら喜んでそれを捨てられるようでなければならない。けれども、長い間考えていて、報酬の感覚が繰り返され、発達してくると、思考と正しいという感覚とを結びつける神経連結がしだいに強化されていく。このような結びつきは、いったん形成されるとなかなか断てない。

【『確信する脳 「知っている」とはどういうことか』ロバート・A・バートン:岩坂彰訳(河出書房新社、2010年)以下同】

 まだ読んでいる最中なのだが覚え書きを残しておく。脳神経科学本の傑作だ。『脳はいかにして〈神〉を見るか 宗教体験のブレイン・サイエンス』アンドリュー・ニューバーグ、ユージーン・ダギリ、ヴィンス・ロース、『集合知の力、衆愚の罠 人と組織にとって最もすばらしいことは何か』 アラン・ブリスキン、シェリル・エリクソン、ジョン・オット、トム・キャラナン、『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ、『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ、『動物感覚 アニマル・マインドを読み解く』テンプル・グランディン、キャサリン・ジョンソンなどと、認知科学本を併読すれば理解が深まる。

 脳神経科学は身体反応に拠(よ)っている。つまり「目に見える科学」である。ただし全ての身体反応を科学が掌握しているわけではあるまい。見落としている反応もたくさんあるに違いない。その限界性を弁える必要があろう。

 ロバート・A・バートンは小説を物(もの)する医学博士である。こなれた文章で困難極まりないテーマに果敢なアプローチを試みる。

 急いで書こうとしたのにはもちろん理由がある。以下のテキストと関連が深いためだ。

英雄的人物の共通点/『生き残る判断 生き残れない行動 大災害・テロの生存者たちの証言で判明』アマンダ・リプリー

「報酬」とは具体的には中脳辺縁ドーパミン系の活性化である。

 1990年代前半に、エルサレムにあるヘブライ大学の生化学者リチャード・エブスタインらはボランティアを募り、各自が持つ、リスクや新奇なものを求める志向を評価してもらった。その結果、このような行動のレベルが高い人ほど、ある遺伝子(DRD4遺伝子)のレベルが低いことが分かった。この遺伝子は、報酬系の中脳辺縁系の重要な構造においてドーパミンの働きを調整する。そこでエブスタインらが立てた仮説は、ドーパミンによる報酬系の反応性が弱い人ほど、報酬系を刺激するために、よりリスクの高い行動や興奮につながら行動をとりやすい、というものだった。
 その後エブスタインらは、非利己的、あるいは愛他的な行動をとりがちだと自己評価する被験者では、この遺伝子のレベルが高いことも発見した。この遺伝子をたくさん持っている人は、これを持たない人よりも弱い刺激から一定の快感を得ることができるとも考えられる。

 薬物やアルコールなどの依存症、暴走族や犯罪傾向が顕著な人物を思えば理解しやすいだろう。アマンダ・リプリーが「英雄的人物」と評価した人々を支えていたのは遺伝子である可能性が考えられる。「救助者たちは概して民主的で多元的なイデオロギーを支持する傾向があった」(アマンダ・リプリー)事実は、特定の宗教や思想・信条といった狭い世界ではなく、より広い世界から報酬を得られることを示唆している。

 私はよく思うのだが、自分が正しいと主張し続けることは、生理学的に見て依存症と似たところがあるのではないだろうか。遺伝的な素因も含めて。自分が正しいことを何としても証明してみせようと頑張る人を端から見ると、追求している問題よりも最終的な答えから多くの快感を得ているように思える(本人はそう思っていない)。彼らは、複雑な社会問題にも、映画や小説のはっきりしない結末にも、これですべて決まり、という解決策を求める。常に決定的な結論を求めるあまり、最悪の依存症患者にも劣らないほど強迫的に追い立てられているように見えることも少なくない。おそらく、実際そうなのだろう。

 正義を主張する原理主義者は脳内で得ることのできない報酬を、特定の集団内で得ているのだろう。

 やや難しい内容ではあるが、かような傑作を見落としていた自分の迂闊(うかつ)さに驚くばかりである。

2014-11-03

池田清彦、菅沼光弘、ピエール・ルメートル、ルイズ・アームストロング


 4冊読了。

 82冊目『新装版 レモンをお金にかえる法』ルイズ・アームストロング、絵:ビル・バッソ:佐和隆光〈さわ・たかみつ〉訳(河出書房新社、2005年/旧版、1982年)/評価の高い絵本だが、どこがいいのかさっぱりわからなかった。まず絵が悪い。本文も無味乾燥だと思う。

 83冊目『その女アレックス』ピエール・ルメートル:橘明美訳(文春文庫、2014年)/昨夜読み始めて、今朝読了。悪くはないといったところ。技巧が勝ちすぎていて鼻につく。シドニィ・シェルダン的な作為が全開。わかっている。最後まで付き合ってしまった私の負け惜しみだ。愛すべきキャラクターを描けていないため感情移入ができなかった。主役の警部は身重が145cmしかなく、それを小馬鹿にするような描写がたっぷり出てくる。

 84冊目『菅沼レポート・増補版 守るべき日本の国益』菅沼光弘(青志社、2012年/旧版、2009年)/菅沼尽くしである。公安調査庁入りした経緯が最も詳しく描かれている。菅沼は正真正銘の国士である。それに対して佐藤優は官僚を脱していない。

 85冊目『生物にとって時間とは何か』池田清彦(角川ソフィア文庫、2013年/『生命の形式 同一性と時間』哲学書房、2002年)/大どんでん返し。今年の1位はまたしても入れ替わった。文庫ではなくハードカバーを買うべきだった。角川ソフィア文庫は紙質が悪い。米原万里〈よねはら・まり〉が『打ちのめされるようなすごい本』で推していた一冊。私は構造主義をさほど知らないが、『免疫の意味論』、『アフォーダンス 新しい認知の理論』、『哲学、脳を揺さぶる オートポイエーシスの練習問題』を読んでいたので辛うじてついてゆくことができた。池田の気合いが手加減を許さないため難解だが、第1章の専門用語に目をつぶれば後は何とかなる。時間に対してこういうアプローチの仕方があるとはね。クオリアの件(くだり)はよくわかならかったが、ポパーの3世界を論じた箇所で私は悟りを得た(笑)。いやあ、やっぱり長生きするもんだね。

2014-10-08

菅沼光弘


 1冊読了。

 74冊目『この国の権力中枢を握る者は誰か』菅沼光弘(徳間書店、2011年)/東日本大震災による福島原発事故を通して、日本が原発を導入するに至った歴史的・政治的経緯に始まり、GHQの占領政策が戦後の日本をどのように破壊してきたかを様々な角度から説く。その膨大な知識と情報に圧倒される。しかも金融・経済にまで目配りが行き届いている。菅沼は原発を憂慮する国民が多いことをわかりながら、敢えて核武装の必要性を提言する。私自身は数年前から核武装に賛成の立場だ。理由は単純である。もともと民主主義というのは類人猿時代に始まる。それは弱い者が力を合わせてアルファオス(ボス猿)を暴力的に排除することに由来している。人類が起こしてきた革命はすべてこれに該当する。ところが金融の電子化と原子爆弾の発明によって民主主義は滅んだと私は考える。なぜなら国民の大半が蜂起したとしても、これらを奪うことができないためだ。米よこせ運動は可能だが、マネーよこせ運動や核よこせ運動は不可能だ。そもそも銀行には一部の資産しか存在しないのだ。行間に憂国の情がほとばしり、結論で日本人への信頼を述べている件(くだり)は胸に込み上げてくるものがある。手引きとしては、『拒否できない日本 アメリカの日本改造が進んでいる』関岡英之→『戦後史の正体 1945-2012』孫崎享→『ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く』ナオミ・クライン→『メディア・コントロール 正義なき民主主義と国際社会』ノーム・チョムスキー→菅沼光弘と進めば理解が深まることだろう。

2014-07-02

アルゴリズムが人間の知性を超える/『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル


『人類が知っていることすべての短い歴史』ビル・ブライソン
『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ
・『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ
・『動物感覚 アニマル・マインドを読み解く』テンプル・グランディン、キャサリン・ジョンソン
・『人間原理の宇宙論 人間は宇宙の中心か』松田卓也
全地球史アトラス
『2045年問題 コンピュータが人類を超える日』松田卓也

 ・指数関数的な加速度とシンギュラリティ(特異点)
 ・レイ・カーツワイルが描く衝撃的な未来図
 ・アルゴリズムが人間の知性を超える

意識と肉体を切り離して考えることで、人と社会は進化する!?【川上量生×堀江貴文】
『AIは人類を駆逐するのか? 自律(オートノミー)世界の到来』太田裕朗
『トランセンデンス』ウォーリー・フィスター監督
『LUCY/ルーシー』リュック・ベッソン監督、脚本
『Beyond Human 超人類の時代へ 今、医療テクノロジーの最先端で』イブ・ヘロルド
『〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則』ケヴィン・ケリー
『養老孟司の人間科学講義』養老孟司
『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』ユヴァル・ノア・ハラリ
『文明が不幸をもたらす 病んだ社会の起源』クリストファー・ライアン
『われわれは仮想世界を生きている AI社会のその先の未来を描く「シミュレーション仮説」』リズワン・バーク

情報とアルゴリズム

 まず、われわれが道具を作り、次は道具がわれわれを作る。
  ──マーシャル・マクルーハン

【『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル:井上健〈いのうえ・けん〉監訳、小野木明恵〈おのき・あきえ〉、野中香方子〈のなか・きょうこ〉、福田実〈ふくだ・みのる〉訳(NHK出版、2007年)以下同】

 出たよ、マクルーハンが。本当にこの親父はもの思わせぶりな言葉が巧いよな。道具とはコンピュータである。

 われわれの起源を遡ると、情報が基本的な構造で表されている状態に行き着く。物質とエネルギーのパターンがそうだ。量子重力理論という最近の理論では、時空は、離散した量子、つまり本質的には情報の断片に分解されると言われている。物質とエネルギーの性質が究極的にはデジタルなのかアナログなのかという議論があるが、どう決着するにせよ、原子の構造には離散した情報が保存され表現されていることは確実にわかっている。

 波であれば連続的で、量子であれば離散的になる。既に時間も長さも最小単位が存在する(プランク時間プランク長)。

生い立ちから「ディジタル」…「量子論」

 生物の知能進化率と、テクノロジーの進化率を比較すると、もっとも進んだ哺乳類では、10万年ごとに脳の容量を約16ミリリットル(1立法インチ)増やしてきたのに対し、コンピュータの計算能力は、今現在、毎年おおよそ2倍になっている。

 指数関数的に技術革新が行われることで進化スピードを凌駕するのだ。

 これから数十年先、第5のエポックにおいて特異点が始まる。人間の脳に蓄積された大量の知識と、人間が作りだしたテクノロジーがもついっそう優れた能力と、その進化速度、知識を共有する力とが融合して、そこに到達するのだ。エポック5では、100兆の極端に遅い結合(シナプス)しかない人間の脳の限界を、人間と機械が統合された文明によって超越することができる。
 特異点に至れば、人類が長年悩まされてきた問題が解決され、創造力は格段に高まる。進化が授けてくれた知能は損なわれることなくさらに強化され、生物進化では避けられない限界を乗り越えることになる。しかし、特異点においては、破壊的な性向にまかせて行動する力も増幅されてしまう。特異点にはさまざまな面があるのだ。

 アルゴリズムが人間の知性を超える瞬間だ。このあたりについてはクリストファー・スタイナー著『アルゴリズムが世界を支配する』が詳しい。人間がコンピュータに依存するというよりも、人間とコンピュータが完全に融合する時代が訪れる。

 今のところ、光速が、情報伝達の限界を定める要因とされている。この制限を回避することは、確かにあまり現実的ではないが、なんらかの方法で乗り越えることができるかもしれないと思わせる手がかりはある。もしもわずかでも光速の限界から逃れることができれば、ついには、超光速の能力を駆使できるようになるだろう。われわれの文明が、宇宙のすみずみにまで創造性と知能を浸透させることが、早くできるか、それともゆっくりとしかできないかは、光速の制限がどれだけゆるぎないものかどうかにかかっている。

 これが量子コンピュータの最優先課題だ。量子もつれが利用できれば光速を超えることが可能だ。

 この事象のあとにはなにがくるのだろう? 人間の知能を超えたものが進歩を導くのなら、その速度は格段に速くなる。そのうえ、その進歩の中に、さらに知能の高い存在が生みだされる可能性だってないわけではない。それも、もっと短い期間のうちに。これとぴったり重なり合う事例が、過去の進化の中にある。動物には、問題に適応し、創意工夫をする能力がある。しかし、たいていは自然淘汰の進み方のほうが速い。言うなれば、自然淘汰は世界のシミュレーションそのものであり、自然界の進化スピードは自然淘汰のスピードを超えることができない。一方、人間には、世界を内面化して、頭の中で「こうなったら、どうなるだろう?」と考える能力がある。つまり、自然淘汰よりも何千倍も速く、たくさんの問題を解くことができる。シミュレーションをさらに高速に実行する手段を作りあげた人間は、人間と下等動物とがまったく違うのと同様に、われわれの過去とは根本的に異なる時代へと突入しつつある。人間の視点からすると、この変化は、ほとんど一瞬のうちにこれまでの法則を全て破壊し、制御がほとんど不可能なくらいの指数関数的な暴走に向かっているに等しい。
  ──ヴァーナー・ヴィンジ「テクノロジーの特異点」(1993年)

 たぶんエリートと労働者に二分される世界が出現することだろう。いい悪いではなく役割分担として。その時、労働者はエリートが考えていることを理解できなくなっているに違いない。驚くべき知の淘汰が行われると想像する。

 超インテリジェント・マシンとは、どれほど賢い人間の知的活動をも全て上回るほどの機械であるのだとしよう。機械の設計も、知的な活動のひとつなので、超インテリジェント・マシンなら、さらに高度な機械を設計することができるだろう。そうなると、間違いなく「知能の爆発」が起こり、人間の知性ははるか後方に取り残される。したがって、人間は、超インテリジェント・マシンを最初の1台だけ発明すれば、あとはもうなにも作る必要はない。
  ──アーヴィング・ジョン・グッド「超インテリジェント・マシン1号機についての考察」(1965年)

 万能チューリングマシンの誕生だ。仮にコンピュータが自我を獲得したとしよう(「心にかけられたる者」アイザック・アシモフ)。マシンの寿命が近づけば自我もろともコピーすることが可能だ。そう。コンピュータは永遠の生命を保てるのだ。ここに至り、光速と同様に人間の寿命がイノベーションの急所であることが理解できよう。

 自我は個々人に特有のアルゴリズムと考えることができる。そんな普遍性のないアルゴリズムはノイズのような代物だろう。コンピュータが人類を凌駕した時、真実の人間性が問われる。

2014-05-15

小林秀雄、高山正之、夏井睦、他


 2冊挫折、2冊読了。

緊迫シミュレーション 日中もし戦わば』マイケル・グリーン、張宇燕〈チョウ・ウェン〉、春原剛〈すのはら・つよし〉、富坂聰〈とみさか・さとし〉(文春新書、2011年)/歯が立たず。数ページだけ読む。

さらば消毒とガーゼ 「うるおい治療」が傷を治す』夏井睦〈なつい・まこと〉(春秋社、2005年)/私は介護の経験があるのでラップ療法は5~6年前から知っていた。数ヶ月前のことだが知人の子供が顔をざっくり切ったと聞き、すかさず教えた。今では殆ど傷跡も残っていない。正確な知識にするべく開いた。中ほどまで読んで、後は飛ばし読み。傷口を「消毒する、乾かす」のは誤りで、医師やナースでも知らない連中が多い。傷口を水で洗って、ラップを貼るだけで十分だ。実用書としては良書。ただ繰り返しの記述が目立つ。

 31冊目『変見自在 サダム・フセインは偉かった』高山正之(新潮社、2007年/新潮文庫、2011年)/正確には高山の高はハシゴの「高」。とうとう50歳になって私もかような本を読むようになってしまった。武田邦彦との対談動画「欧米人が仕掛ける罠」を見ていたので内容は予想できた。ある記述を照会するために取り寄せたのだが、面白くて全部読んでしまった。朝日新聞の悪口がメインなのだが、知識が豊富で人物や歴史の見方が変わる。高山が保守論客の中で信用に値するのは、中国・韓国だけではなく米国批判を行っているためだ。彼が産経新聞をこき下ろせば、もっと高く評価できるのだが。

 32冊目『小林秀雄対話集 直観を磨くもの』小林秀雄(新潮文庫、2013年)/良書。『小林秀雄全作品』の14、15、16、17、19、21、25、26、28巻が底本。私は『小林秀雄全作品 26 信ずることと知ること』を読んでいたので部分的には再読になるが、それでも新しい発見が多かった。小林秀雄は大嫌いな人物なのだがやっぱり面白い。特に対談と講演が刺激的だ。この人は物怖じするところがない。有り体にいえば生意気で不躾。驚いたのは湯川秀樹との対談で、小林が量子論を1948年(昭和23年)の時点で理解していたこと。恐るべき知性である。今読んでいる『学生との対話』と併せて、格好の小林秀雄入門といってよい。

2014-05-13

合理的思考の教科書/『リサイクル幻想』武田邦彦


・合理的思考の教科書
「物質-情報当量」

『「水素社会」はなぜ問題か 究極のエネルギーの現実』小澤詳司

 ・情報とアルゴリズム

 この例のように、「使用した材料は劣化する」という原則を無視してリサイクルすることを「リサイクルの劣化矛盾」といいます。劣化矛盾があるのはテレビのキャビネットばかりではありません。冷蔵庫の内ばり材は油でダメージを受け、洗濯機は絶え間ない振動で力学的な損傷を受けます。
 もちろん家電製品ばかりでなく、自動車の材料はさらに厳しい環境におかれます。エンジンルームの部品は油と熱で劣化しますし、バンパーは寒暖の差の激しい外気に接し、太陽の光を浴び、さらに振動とひずみの力を受けて悪くなっていきます。

【『リサイクル幻想』武田邦彦(文春新書、2000年)以下同】

 リサイクルの欺瞞を科学的に検証する。環境に名を借りた国家ぐるみの詐欺行為が横行している。リサイクル利権もその一つだ。かつて岐阜県では産業廃棄物処理場の建設反対を公約に掲げて当選した町長が二人の暴漢から滅多打ちにされて死にかけたことがある(『襲われて 産廃の闇、自治の光』柳川喜郎)。

 我々の社会でリサイクルの実現可能性が問われているわけではない。リサイクルという名のマネーゲームが行われているのだ。


 まるで人類が愚行を繰り返す六道輪廻の様相を描いたようなマークだ。ま、地球と人間のリサイクルは決してできないわけだが。

 製品のどの程度をリサイクルするかを「リサイクル深度」という言葉で表現します。リサイクル深度が浅い場合、つまり、社会で使っているもののほんの一部でリサイクルが行われている場合には、回収する量が少ないので、劣化した材料を下位の製品に回すことができます。つまり、膨大なプラスチックを使うテレビのキャビネットを、公園のベンチに転用しても、量のバランスがとれるのです。
 しかし、リサイクル深度が深くなると、家電製品に使っているだけの量を振り向ける「下位の用途」などというものはなくなります。仮にテレビのキャビネットのすべてをリサイクルしして公園のベンチにすると、日本の公園はベンチで埋まってしまいます。このことは「家電メーカーは巨大なのに、雑貨メーカーは小さい」ということを考えてもわかります。
 このように、リサイクル前後の製品の受容があわず、大量のリサイクル材料が余ってしまう矛盾を「リサイクルの需給矛盾」と呼びます。この矛盾が原因となって、新たな環境破壊が起こります。その一つが、コンクリートや、鉄鋼生産に際して出るコンクリートに似た「スラグ」と呼ばれる石の塊を、地面の上に敷きつめる行為です。

 本書はリサイクルを素材とした合理的思考の教科書である。科学は科学的思考に極まる。感情だけで判断するとやがて瞳が曇る。矛盾に気づかないためだ。武田の指弾は続く。

 すなわり、「リサイクル」という行為は、貿易との関係でみると「消費する国で再び生産すること」なので、毒物を含もうと含むまいと、貿易と本格的なリサイクル・システムは本来、調和しないことがわかります。(中略)
 もし世界の国々が自国で使うものは自国でリサイクルしなければいけないとすると、現在の国際分業と貿易は破壊され、それぞれの国が、その国で使うすべての製品を作る工場を、国内にもたなければならないことになり、非現実的です。
 この矛盾を「リサイクルの貿易矛盾」といいます。リサイクル深度が深くなればなるほど、この矛盾が拡大することは容易に想像できるでしょう。ますます国際化が進む中で、リサイクルの貿易矛盾をどのように考えるかが重要な課題になりつつあります。

 かくも致命的な矛盾がいくつもあるのに我々はリサイクルゲームをやめようとしない。行政という社会の枠組みは揺らぎもしない。なぜか? それはリサイクルが既に宗教へと格上げされたからだ。マヨネーズの容器を切り開いて水で洗う行為にご利益がある(※自治体によって異なる)。無駄に流した水に思いを馳せることはない。リサイクル教は新たな自己満足を捏造(ねつぞう)した。

 さて、ペットボトルを石油から作り消費者の手元に届けるまでの石油の使用量は、ボトルの大きさにもよりますが約40グラムです。
 ところが、このボトルをリサイクルしようとすると、かなり理想的にリサイクルが進んでも150グラム以上、つまり、4倍近く石油を使うことになります。資源を節約するために行うリサイクルによって、かえって資源が多く使われるという典型的な例です。資源が多く使われるのですから、その分だけゴミも増えます。(中略)
 このように、本来資源を有効に使用し、環境汚染を防止するために行うリサイクルが「すればするほど資源を使い、ゴミを増やす」場合、これを「リサイクルの増幅矛盾」といいます。
 リサイクルの増幅矛盾が起こるのは、主として「薄く広がったものは資源として集めることはできない」という分離工学の原理(後述)によるのであり、リサイクルしやすい社会システムができあがれば改善される、というような「社会システムの問題」ではなく、みんなが心を合わせれば解決できる、というような「国民の意識の問題」でもありません。

 全国民が参加する壮大な無駄をどのように考えるべきなのか? 市民の良心に訴えながら、その裏で邪悪なビジネスが横行している。しかも負担は必ず消費者に負わせ、企業にゴミを減らす努力を促すことはないのだ。

 科学の入門書として本書と『人類が知っていることすべての短い歴史』(ビル・ブライソン)を推す。

2014-05-11

神を討つメッセージ/『一神教の闇 アニミズムの復権』安田喜憲


『環境と文明の世界史 人類史20万年の興亡を環境史から学ぶ』石弘之、安田喜憲、湯浅赳男
『人類の起源、宗教の誕生 ホモ・サピエンスの「信じる心」が生まれたとき』山極寿一、小原克博

 ・神を討つメッセージ
 ・都市革命から枢軸文明が生まれた

『カミの人類学 不思議の場所をめぐって』岩田慶治
『新・悪の論理』倉前盛通

 海と森を見て感動する心は、美しい水の循環系を維持する心でもある。森の繁る山は水の源である。そして稲作には水が必要不可欠である。だから稲作漁撈民は、山に特別の思いを抱いた。美しい水の循環系を守るためには、美しい心が必要だ。美しい未来の日本文明を創るためには、まず心を美しくすることだ。その美しい心の原点はアニミズムにある。
 真摯に森と山と海の貴重な循環を知り、それに感動する心を育む。そうすれば、その先にはかならず未来が見えてくるはずだ。美しい「美と慈悲の文明」・「生命文明」の未来が見えてくるはずだ。21世紀は「美と慈悲の文明」・「生命文明」の世紀となるべきものなのである。
 学問をするということの意味は人によって異なるだろう。しかし今、なにをおいても必要なことは、地球環境の劣化という人類の危機を救済する新たな道を探求することである。新たな哲学、新たな宗教の再生に立脚した、地球環境と人類を救済する「新たな物語」が必要なのである。
 たとえば最澄空海、さらには親鸞日蓮の思想は、1000年以上にわたって日本人の心に受け継がれてきた。自分が学問をすることの意味とは何かを考えたとき、最終的にめざすべきものは、そうした1000年も受け継がれるような新たな文明の潮流の根幹となりうる思想を提示することであると思う。

【『一神教の闇 アニミズムの復権』安田喜憲〈やすだ・よしのり〉(ちくま新書、2006年)】

 一神教批判の書である。日本は明治以降、西洋文明の恩恵を受けることで経済的・学問的な発展を遂げてきた。その恩を返す意味でも東洋から西洋文明を捉え直す作業が必要だ。なかんずく歴史・思想・宗教の次元で西洋文化を再構築するべきだ。多様性が叫ばれながらも世界を支配するのは一神教の論理である。日本国内でごちゃごちゃやるよりも欧米を向いたメッセージの発信が求められる。

 私がアニミズムに着目した経緯については読書日記(2011-12-13)に記した通りだ。本書は私が抱いた多くの疑問に答えてくれた。『環境と文明の世界史 人類史20万年の興亡を環境史から学ぶ』(石弘之、安田喜憲、湯浅赳男)も東洋の位置から西洋を鋭く見据えた鼎談(ていだん)となっている。

 地球温暖化説はカーボン・マーケット(排出取引)創出を目的とした世界的な詐欺行為であると私は考えるが、地球環境が破壊されているのは事実である。これに異論を挟む者はあるまい。

 戦争や工業化など様々な問題があるが結局のところ先進国の搾取に行きつく。発展途上国の人口爆発も貧困に支えられている。環境運動は一時的には盛り上がりを見せたものの、市民運動のレベルにとどまり国家的な方向転換にまで至っていない。地球がどれほど破壊されようとも人類は反省しないのだ。何という思い上がりか。

 神はまだ死んでいない。あいつはまだ生きている。いくら戦争反対を叫んでも無駄だ。欧米には宗教的正義が息づいているのだから。ゆえに戦争反対よりもキリスト教反対を叫ぶことが正しい。それに代わる思想はアニミズムでよい。アニミズムはありとあらゆるものに聖霊を見出す平和思想だ。聖霊がいるかいないかはこの際不問に付す。「物語としての聖霊」で構わない。たった一人の神様が君臨するよりはずっといいだろう。



必須音/『音と文明 音の環境学ことはじめ』大橋力
一神教と天皇の違い/『日本語の年輪』大野晋

2014-05-10

原題は『これが人間か』/『アウシュヴィッツは終わらない これが人間か』プリーモ・レーヴィ


『「疑惑」は晴れようとも 松本サリン事件の犯人とされた私』河野義行
『彩花へ 「生きる力」をありがとう』山下京子
『彩花へ、ふたたび あなたがいてくれるから』山下京子
『生きぬく力 逆境と試練を乗り越えた勝利者たち』ジュリアス・シーガル
『夜と霧 ドイツ強制収容所の体験記録』V・E・フランクル:霜山徳爾訳
『それでも人生にイエスと言う』V・E・フランクル

 ・原題は『これが人間か』

『休戦』プリーモ・レーヴィ
『溺れるものと救われるもの』プリーモ・レーヴィ
『プリーモ・レーヴィへの旅 アウシュヴィッツは終わるのか?』徐京植
『イタリア抵抗運動の遺書 1943.9.8-1945.4.25』P・マルヴェッツィ、G・ピレッリ編
『石原吉郎詩文集』石原吉郎
『私の身に起きたこと とあるウイグル人女性の証言』清水ともみ
『命がけの証言』清水ともみ

 だが、これは、人間が絶対的な幸福にたどりつけないことを示すよりも、むしろ、不幸な状態がいかに複雑なものか、十分に理解されていないことを表わしている。不幸の原因は多様で、段階的に配置されているが、人は十分な知識がないため、その原因をただ一つに限定してしまうのだ。つまり最も大きな原因に帰してしまう。ところが、やがていつかこの原因は姿を消す。するとその背後にもう一つ別の原因が見えてきて、苦しいほどの驚きを味わう。だが実際には、別の原因が一続きも控えているのだ。
 だから冬の間中は寒さだけが敵と思えたのに、それが終わるやいなや、私たちは飢えていることに気づく。そして同じ誤りを繰り返して、今日はこう言うのだ。「もし飢えがなかったら!……」
 だが飢えがないことなど、考えられない。ラーゲルとは飢えなのだ。私たちは飢えそのもの、生ける飢えなのだ。

【『アウシュヴィッツは終わらない これが人間か』プリーモ・レーヴィ:竹山博英訳(朝日新聞出版、2017年/朝日選書、1980年『アウシュヴィッツは終わらない あるイタリア人生存者の考察』改題、改訂完全版)】

 27歳の青年が著した手記である。彼はアウシュヴィッツを生き延びた。そして67歳で自殺した(事故説もあり)。遺著となった『溺れるものと救われるもの』を私は二度読もうとしたが挫折した。行間に立ちこめる死の匂いに耐えられないためだ。

 本書の文章には不思議な透明感がある。それはプリーモ・レーヴィが化学者であったからというよりは、自己の経験を突き放して見つめる彼の態度にあるのだろう。


 地獄で問われるのは「生存の意味」だ。「死んだ方が楽な世界」を生き延びた人は実存を問い続ける。そこに浅はかな希望が入り込む余地はない。現実はかくも厳しい。

「私たちは飢えそのもの、生ける飢えなのだ」――この一言は紛(まが)うことなき悟りである。我々の日常において欲望をここまで真摯に見つめることはまずない。飢えの自覚は食べ物に対して無量の感謝を育んだことだろう。我々にはそれがないからいとも簡単に残し、捨てるのだ。


 当然ではあるが『夜と霧』V・E・フランクルを必ず読むこと。池田香代子訳が望ましい。イタリアのレジスタンスを知るために『イタリア抵抗運動の遺書 1943.9.8-1945.4.25』P・マルヴェッツィ、G・ピレッリ編も。それと『石原吉郎詩文集』石原吉郎も併せて。順番は特に指定しない。



ドキュメンタリー「アウシュビッツ」
ジェノサイドの恐ろしさ/『望郷と海』石原吉郎

2014-05-09

シオニズムと民族主義/『なるほどそうだったのか!! パレスチナとイスラエル』高橋和夫


 パレスチナという土地はあるが、パレスチナという国はない。そこにあるのは、イスラエルという国と【ガザ地区】と、【ヨルダン川西岸地区】である。

【『なるほどそうだったのか!! パレスチナとイスラエル』高橋和夫(幻冬舎、2010年)】

 苦難が人生を変える。よくも悪くも。大変は「大きく変わる」と書く。現実に押し潰される人と現実を切り拓いてゆく人との違いは何か? それは他者への共感性であろう。他人の苦しみに共感できる人はその時点で既に学んでいる。

 だが共感だけだと共倒れになることがあり得る。特に女性の場合、愚痴っぽくなりやすい。共感の深度を掘り下げるのは価値観である。そう考えると他人の苦しみは他人の歴史と置き換えることが可能だ。つまり人間は歴史から学ぶのだ。

 その意味で私の精神風景を一変させたのはルワンダとパレスチナ、そしてインディアンであった。

 以前、ある教育者が「小野さんにとってのルワンダは、僕の場合、ポル・ポトなんですよ」と語った。こういう相手だと話が早い。歴史をひもとけば人類の悲惨は至るところにある。それを知らずして人間理解は不可能だろう。

 本書はパレスチナ入門の教科書本ともいうべき内容でよくまとまっている。

 ユダヤ人たちの、自分たちの国を創ろうという運動を【シオニズム】と呼ぶ。これはシオン山の“シオン”と“イズム”を合わせた言葉である。イズムとは、主義という意味の言葉である。主義というのは、この場合にはある政治的考えのための努力である。シオン山とは、【パレスチナの中心都市】のエルサレムの別名である。エルサレムは、標高835メートルほどの丘の上に建てられている。新東京タワー、つまりスカイツリーが635メートルの高さであるから、それより高い所に位置する都市である。
 ヨーロッパのユダヤ人がパレスチナに入ってくると、その土地に生活していたパレスチナ人との間に紛争が始まった。これが現在まで続く、パレスチナ問題の発端である。これは、つまり約120年間の紛争である。

 パレスチナを巡る問題には第二次世界大戦の欺瞞がシンボリックに現れている。シオニズムという言葉も1896年に考案されたものだ(『リウスのパレスチナ問題入門 さまよえるユダヤ人から血まよえるユダヤ人へ』エドワルド・デル・リウス)。すなわちユダヤ教徒は戦争というどさくさに紛れて、自分たちが創作した新しい物語を実現させたのだ。

 それでは、なぜヨーロッパのユダヤ人たちは、この時期にパレスチナへの移住を考えるようになったのだろうか。それは、ヨーロッパで19世紀末になってユダヤ人に対する迫害が激しくなったからである。では、どうしてであろうか。
 答えは、この時期にヨーロッパに【民族主義】が広まったからである。この民族主義がユダヤ人の迫害を引き起こした。

 民族主義は近代から生まれた。大雑把にいえばナポレオンフランス革命国民国家)、パックス・ブリタニカ産業革命資本主義)、アメリカ独立の三点セットだ。

近代を照らしてやまない巨星/『ナポレオン言行録』オクターブ・オブリ編
フランス革命は新聞なくしては成らなかった
歴史の本質と国民国家/『歴史とはなにか』岡田英弘
自由競争は帝国主義の論理/『アメリカの日本改造計画 マスコミが書けない「日米論」』関岡英之+イーストプレス特別取材班編
何が魔女狩りを終わらせたのか?
資本主義経済崩壊の警鐘/『ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く』ナオミ・クライン

 つまり人類に国家意識が芽生えたのだ。産業革命で一人勝ちしたイギリスは帝国主義の刀を抜いて世界中を植民地化した。それまでは魔女狩りや戦争でヨーロッパの内側で殺し合いをやっていた連中の目が世界に向けられた時代であった。

 ヨーロッパにおけるユダヤ社会は、いびつである。なぜならば、地に足のついた生活をしている人々、つまり農民が少なかったからだ。

 土地を奪われたユダヤ人は流浪の民であることを運命づけられた(『離散するユダヤ人 イスラエルへの旅から』小岸昭)。彼らが土地(国家)を熱望した心情は理解できる。

 ユダヤ人の伝統的な仕事は、【金貸し】であり、商売人であり、仲買人であり、医者であり、弁護士であり、研究者であり、芸術家であり、音楽家であった。つまり組織に頼らず、【自分の才覚】のみで生きていた。これはユダヤ人が差別された結果であった。

 過酷な歴史がユダヤ人を鍛え上げた。資本主義が追い風となった。現在ではメディア支配にまで至っている。

 ナチス・ドイツによって600万人のユダヤ人が虐殺されたという記述があり(29ページ)、冒頭の論旨が台無しになっている。ナチスによるホロコーストをユダヤ人虐殺という文脈に書き換えたのはユダヤ資本である(『ホロコースト産業 同胞の苦しみを「売り物」にするユダヤ人エリートたち』ノーマン・G・フィンケルスタイン)。

 パレスチナに興味を覚えた人は本書から入り、『「パレスチナが見たい」』森沢典子→『パレスチナ 新版』広河隆一→『新版 リウスのパレスチナ問題入門 さまよえるユダヤ人から血まよえるユダヤ人へ』エドワルド・デル・リウス→『ホロコースト産業 同胞の苦しみを「売り物」にするユダヤ人エリートたち』ノーマン・G・フィンケルスタイン→『アラブ、祈りとしての文学』岡真理と進むのがよい。パレスチナ人は今日も殺されている(異形とされるパレスチナ人)。

なるほどそうだったのか!!パレスチナとイスラエル
高橋 和夫
幻冬舎
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2014-05-08

石牟礼道子、藤井厳喜、渡邉哲也、ニーチェ


 2冊挫折、2冊読了。

ニーチェ全集 8 悦ばしき知識』ニーチェ:信太正三〈しだ・しょうぞう〉訳(理想社普及版、1980年/ちくま学芸文庫、1993年)、『喜ばしき知恵』ニーチェ:村井則夫訳(河出文庫、2012年)/三十七、八歳でよくもまあこんな代物が書けたものだ。「神は死んだ」の一言で知られるニーチェの代表作。やはり哲学は肌に合わない。いくら言葉をこねくり回しても真理を見出すことは不可能だろう。ニーチェよ、さらばだ。

 29冊目『日本はニッポン! 金融グローバリズム以後の世界』藤井厳喜〈ふじい・げんき〉、渡邉哲也〈わたなべ・てつや〉(総和社、2010年)/勉強になった。渡邉哲也を初めて読んだが説明能力が極めて高い。新聞がきちんと報じない世界経済の構造がよくわかる。致命的なのは総和社の校閲だ。欠字・重複が目立つ。『超マクロ展望 世界経済の真実』(水野和夫、萱野稔人)の次に読むとよい。

 30冊目『苦海浄土  池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集 III-04』石牟礼道子〈いしむれ・みちこ〉(河出書房新社、2011年)/第1部『苦海浄土 わが水俣病』(講談社、1969年/講談社文庫、1972年/新装版、2004年)、第3部『天の魚 続・苦海浄土』(講談社、1974年/講談社文庫、1980年)、第2部『苦海浄土 第二部 神々の村』を収録。大部のため3冊分に分けて書く。石牟礼道子は熊本県に住む主婦であった。本書も元々は水俣病患者や家族から話を聞き、チラシの裏などに書き溜めてあったものらしい。ルポルタージュでもなければ私小説でもない。厳密にいえば「語り物」ということになろう。すなわち『苦海浄土』は形を変えた『遠野物語』なのだ。そしてまた水俣の地はルワンダでもあった。美しい水俣の海と耳に心地良い熊本弁と水銀に冒された病(やまい)の悲惨が強烈な陰影となって読者をたじろがせる。石牟礼は水俣病患者に寄り添うことで「新しい言葉」を紡ぎだした。それが創作であったにせよ事実と乖離(かいり)することを意味しない。むしろ隠された真実を明るみに引きずり出す作業であったことだろう。犯罪企業のチッソ日窒コンツェルンの中核企業であった。旭化成、積水化学工業、積水ハウス、信越化学工業、センコー、日本ガスは同じ穴の狢(むじな)だ。

2014-05-06

グローバリズムの目的は脱領土的な覇権の確立/『超マクロ展望 世界経済の真実』水野和夫、萱野稔人



『〈借金人間〉製造工場 “負債"の政治経済学』マウリツィオ・ラッツァラート
『タックス・ヘイブン 逃げていく税金』志賀櫻

 ・グローバリズムの目的は脱領土的な覇権の確立

『資本主義の終焉と歴史の危機』水野和夫
『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』水野和夫

『悪の論理 ゲオポリティク(地政学)とは何か』倉前盛通
『通貨戦争 崩壊への最悪シナリオが動き出した!』ジェームズ・リカーズ

水野●その価格決定権を(※OPECから)アメリカが取り返そうとして1983年にできたのが、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物市場ですね。
 石油の先物市場をつくるということは、石油を金融商品化するということです。いったんOPECのもとへと政治的に移った価格決定権を、石油を金融商品化することで取り返そうとしたんですね。

萱野●まさにそうですね。
 60年代までは石油メジャーが油田の採掘も石油の価格も仕切っていた。これは要するに帝国主義の名残(なごり)ということです。世界資本主義の中心国が周辺部に植民地をつくり、土地を囲い込むことによって、資源や市場、労働力を手に入れる。こうした帝国主義の延長線上に石油メジャーによる支配があった。その支配のもとで先進国はずっと経済成長してきたわけです。
 しかし、こうした帝国主義の支配も、50年代、60年代における脱植民地化の運動や、それにつづく資源ナショナリズムの高揚で、しだいに崩れていきます。そして、石油についてもOPECが発言力や価格決定力をもつようになってしまう。当然、アメリカをはじめとする先進国側はそれに反撃をします。ポイントはそのやり方ですね。つまり石油を金融商品化して、国債石油市場を整備してしまう。それによって石油を戦略物資から市況商品に変えてしまうんです。

【『超マクロ展望 世界経済の真実』水野和夫、萱野稔人〈かやの・としひと〉(集英社新書、2010年)以下同】

 昨今の世界経済危機は資本主義の転換点であるという主旨を様々な角度から検証している。年長者である水野が終始控え目で実に礼儀正しく、萱野を上手く引き立てている。萱野は哲学者だけあって経済の本質を鋭く捉えている。

 先物取引の大きな目的はリスクヘッジにある。

 例えばある商社が、米国から大豆10,000トンを輸入する。米国で買い付け、船で日本に到着するまでに1箇月かかるとする。1箇月の間に大豆の販売価格が仮に1kgあたり10円下がったとすると、商社は1億円の損失を出すことになる。そのため、商社は必ず買付けと同時に、商品先物取引を利用して10,000トン分の大豆を売契約し、利益額を確定する。 値下がりすれば先物で利益が出るので、現物の損失と相殺することが出来る。値上がりの場合は利益を放棄することとなるが、商社の利益は価格変動の激しい相場商品を安全に取引することにある。また、生産者も植えつけ前に先物市場において採算価格で販売契約し、販売価格を生産前に決めることで、収穫時の投機的な値上がり益の可能性を放棄する代わりに適切な利益を確保し、収穫時の価格下落(採算割れ)を気にせずに安心して計画的に生産することが出来る。

Wikipedia

 これが基本的な考え方だ。ところが恣意的な価格決定のためにマーケットがつくられたとすれば、マーケット価格が現物に対するリスクと化すのだ。その上インターネットによって瞬時の取引が可能となり、異なるマーケット同士が連鎖性を帯びている。このため金融危機はいつどこで起こってもおかしくない状況となっている。

水野●驚くことに、アメリカのWTI先物市場にしても、ロンドンのICEフューチャーズ・ヨーロッパ(旧国債石油取引所)にしても、そこで取引されている石油の生産量は世界全体の1~2%ぐらいです。にもかかわらず、それが世界の原油価格を決めてしまうんですね。

萱野●そうなんですよね。世界全体の1日あたりの石油生産量は、2000年代前半の時点でだいたい7500万バレルです。これに対して、ニューヨークやロンドンの先物市場で取引される1日あたりの生産量は、せいぜい1000万バレルです。

水野●1.5%もありませんね。

萱野●ところが先物取引というのは相対取引で何度もやりとりしますから、取引量だけでみると1億バレル以上になる。その取引量によって国際的な価格決定をしてしまう。価格という点からみると、石油は完全に領土主権のもとから離れ、市場メカニズムのもとに置かれるようになったことがわかりますね。

 しかも10~20倍のレバレッジが効いている。金融市場に出回る投機マネーは世界のGDP総計の4倍といわれてきたが、世界各国の通貨安競争を経た現在ではもっと増えていることだろう。もともと交換手段に過ぎなかったマネーが膨張に次ぐ膨張を繰り返し、今度は実体経済に襲いかかる。プールの水が増えすぎて足が届かなくなっているような状態だ。投機マネーとは「取り敢えず今直ぐ必要ではないカネ」の異名だ。

 マネーサプライが増加しているにもかかわらずインフレを示すのは株価と不動産価格だけで経済全体の底上げにつながっていない。

萱野●要するに、イラク戦争というのは、イラクにある石油利権を植民地主義敵に囲い込むための戦争だったのではなく、ドルを基軸としてまわっている国際石油市場のルールを守るための戦争だったんですね。これはひじょうに重要なポイントです。

 本書以外でも広く指摘されている事実だが、フセイン大統領は石油の決済をドルからユーロに代えることを決定し、国連からも承認された。これをアメリカが指をくわえて見過ごせば、ドル基軸通貨体制が大きく揺らぐ。つまり人命よりもシステムの方が重い、というのがアメリカの政治原理なのだ。

萱野●先進国にとっての戦争が、ある領土の支配権を獲得するためのものではなくなり、脱領土的なシステムを防衛するためのものとなったのです。領土、ではなく、抽象的なシステムによって自らの利益を守ることに、軍事力の目的が変わっていったのです。
 かつての植民地支配では、その土地の領土主権は認められていませんでしたよね。それは完全に宗主国のコントロールのもとにあった。それが現在では、領土主権は一応その土地にあるものとして認められたうえで、しかし、その領土主権を無化してしまうような国際経済のルールをつうじて、覇権国の利益が維持されるのです。
 これは、経済覇権のあり方が脱植民地化のプロセスをつうじて大きく変化したということをあらわしています。いまや経済覇権は領土の支配をつうじてなされるのではありません。領土の支配を必要としない脱領土的なシステムをつうじてなされるのです。

 卓見だ。更に「脱領土的な覇権の確立、これがおそらくグローバル化のひとつの意味なのです」とも。本書の次に『日本はニッポン! 金融グローバリズム以後の世界』藤井厳喜、渡邉哲也:ケンブリッジ・フォーキャスト・グループ編(総和社、2010年)を読むと更に理解が深まる。グローバリズムの本質と惨禍については『ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く』ナオミ・クラインが詳しい。またアメリカが安全保障上の観点から通貨戦争に備えている事実はジェームズ・リカーズが書いている。

超マクロ展望 世界経済の真実 (集英社新書)
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大英帝国の没落と金本位制/『新・マネー敗戦 ――ドル暴落後の日本』岩本沙弓
米ドル崩壊のシナリオ/『通貨戦争 崩壊への最悪シナリオが動き出した!』ジェームズ・リカーズ

2014-05-02

アメリカを代表する作家トマス・ウルフ/『20世紀英米文学案内 6 トマス・ウルフ』大澤衛編、『とうに夜半を過ぎて』レイ・ブラッドベリ


 トマス・ウルフ(1900-38)という男は、一言でいうなら、20世紀の開幕と同時にアメリカ南部の山国で生まれ、ヨーロッパ大陸とアメリカ大陸を数回遍歴し、アメリカ生活の万華鏡と若者の飢渇を、噴きあふれる河のように書き、『天使よ故郷を見よ』、『時間と河』、『蜘蛛の巣と岩』、『帰れぬ故郷』の四大作その他をのこし、1930年代の、彼の同時代作家らがアメリカの喪失に陥っている時に、いち早くアメリカ発見に到達し、ナチス・ドイツ抬頭のころ、いわば、第二次世界大戦の前夜に、37歳の若盛りで死んだ、並外れたスケールの、不敵な、人生派作家である。
 この噴き井のような暴れん坊は、並外(はず)れたスケールに反比例して、いかにも短命だったと言わねばならない。静かな成熟とかおもむろな大成といったような作風の生まれる年輩まで、彼は生きのびなかった。このことをまず初めに忘れないでおこう。

【『20世紀英米文学案内 6 トマス・ウルフ』大澤衛〈おおさわ・まもる〉編(研究社出版、1966年)】


 書き手は他に福田尚造〈ふくだ・しょうぞう〉、酒本雅之〈さかもと・まさゆき〉、井出弘之〈いで・ひろゆき〉、田辺宗一〈たなべ・そういち〉、輪島士郎〈わじま・しろう〉、古平隆〈こだいら・たかし〉など。Wikipediaは「トーマス・ウルフ」という表記になっている。翻訳がいずれも古いため発音に寄り添って「トマス」となったものか。

「活字になった彼の書きもののうち、目ぼしい本11冊の合計数は、5009ページであり、もしこの全部を邦訳するとすれば、少なくともその2倍以上の印刷ページ面を占める分量となろう」とある通りどれも大冊だ。しかも発行が古いため活字が小さい。本書も同様である。

 何となく名前に聞き覚えがあったのだがそれはトム・ウルフであった。ブラッドベリの短篇で彼の名前を知り、興味が湧いたというわけ。

「この本を見なさい」と、ややあってから、フィールドはそれを持ちあげて見せた。
「これは一人の巨人が書いた本だ。その男は1900年にノース・カロライナ州アッシュビルに生れた。生前に、四つの長い小説を発表している。この男は、いうなれば、つむじ風だった。山を持ち上(ママ)げ、風を集めた。そして1938年9月15日ボルティモアのジョンズ・ホプキンズ病院で、ベッドのかたわらに鉛筆書きの原稿をトランクに一ぱい残して、結核で死んだ。結核というのは、昔の恐ろしい病気だ」
 一同はその本を見つめた。
『天使よ故郷を見よ』。
 フィールドは更に3冊の本を見せた。『時と河の流れと』『蜘蛛の巣と岩』『汝ふたたび故郷を見ず』。

【「永遠と地球の中を」/『とうに夜半を過ぎて』レイ・ブラッドベリ:小笠原豊樹〈おがさわら・とよき〉訳(河出文庫、2011年/集英社、1978年/集英社文庫、1982年)】


 とある未来の大富豪がタイムマシンでトマス・ウルフを連れてこさせ、宇宙の様相を書かせようと目論むという内容のSF作品だ。一緒に収録されている「親爺さんの知り合いの鸚鵡」では名だたる作家がけちょんけちょんに書かれているので、このテキストは否応(いやおう)なく目を惹く。

 トマス・ウルフの翻訳は少なく、長篇だと『天使よ故郷を見よ』以外では、『汝故郷に帰れず』が刈田元司訳(1959年)と鈴木幸夫訳(1968年)があるのみ。飯嶋和一〈いいじま・かずいち〉のデビュー作『汝ふたたび故郷へ帰れず』はひょっとしてトマス・ウルフからの影響があるのだろうか?


人類の戦争本能/『とうに夜半を過ぎて』レイ・ブラッドベリ

2014-05-01

森見登美彦、大村大次郎、今枝由郎


 1冊挫折、2冊読了。

新釈 走れメロス 他四篇』森見登美彦〈もりみ・とみひこ〉(祥伝社、2007年/祥伝社文庫、2009年)/文学パロディなのだが実に香り高い文章である。古めかしい常套句がきちんと使われており、科白(せりふ)も戯曲のようにピシっと決まっている。ただし個人的には京都のバンカラ大学生が放つ雰囲気についてゆけず。冒頭の「山月記」のみ。

 27冊目『税務署員だけのヒミツの節税術 あらゆる領収書は経費で落とせる【確定申告編】』大村大次郎〈おおむら・おおじろう〉(中公新書ラクレ、2012年)/これはオススメ。大村は元国税調査官だけあって実に目が行き届いている。しかも読みやすい。前著の『あらゆる領収書は経費で落とせる』も読む予定だ。確定申告をしている人は必読のこと。税金の世界は一般的に考えられているよりもはるかに曖昧で、国税庁のデタラメがまかり通っている模様。

 28冊目『日常語訳 新編 スッタニパータ ブッダの〈智恵の言葉〉』今枝由郎〈いまえだ・よしろう〉訳(トランスビュー、2014年)/今枝は『仏教と西洋の出会い』フレデリック・ルノワールの翻訳者。予想以上に出来がよい。ブッダの言葉が脳の奥深くまで突き刺さる。敢えてブッダが説いたであろう「やさしい言葉」にした上で、大幅に割愛したのも功を奏している。中村元訳の前に読んでおくのが望ましい。