2018-12-27

読み始める

時流に反して (1968年) (人と思想)
竹山 道雄
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日本人の戦争―作家の日記を読む (文春文庫)
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果てしなく美しい日本 (講談社学術文庫)
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乗り物の未来形



2018-12-25

新潮社はダメかもね/『ぼくを忘れたスパイ』キース・トムスン


『時のみぞ知る』ジェフリー・アーチャー

 ・新潮社はダメかもね

「なんだっけか?」彼は自問した。

【『ぼくを忘れたスパイ』キース・トムスン:熊谷千寿〈くまがい・ちとし〉訳(新潮文庫、2010年)】

 またぞろ新潮社である。翻訳家の熊谷は東北出身なのか? やっぱりね。宮城県出身のようだ。私としては新潮社の編集の問題であると考える。言葉を生業(なりわい)とする者が言葉に対して鈍感になった事実が新潮社の凋落(ちょうらく)ぶりを示して余りある。ひょっとすると「訛(なま)り」をも訳した可能性があるが、それならそうと説明を加えるべきだ。2ページ目でかような言葉を目にして読み続けることは困難だ。

ぼくを忘れたスパイ〈上〉 (新潮文庫)
キース トムスン
新潮社
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ぼくを忘れたスパイ〈下〉 (新潮文庫)
キース トムスン
新潮社
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2018-12-24

ロードバイクは人生を変える/『自転車で遠くへ行きたい。』米津一成


『こぐこぐ自転車』伊藤礼

 ・ロードバイクは人生を変える

「そんな長距離なんてとてもとても」と思うかもしれない。でも、あなたがロードレーサーを手に入れたならば、50kmがたやすく走れる距離であること、100kmが手の届く距離であることにすぐに気がつくだろう。そしていずれは200km、300kmという距離を走ることも不可能ではないと気がつくはずだ。
 今は信じてもらえないかもしれないが(東京近郊に住んでいる人ならば)その気になれば1日で往復200km、東伊豆で海鮮丼を食べて帰ってくることも、片道300km、日本海まで走って夕焼けを眺めることさえできる。そして、その距離を走る間に見ることができる景色は、エンジン付きの乗り物から見る景色とはまったく違うものだ。もちろん辿り着いた目的地で見る景色もまったく違って見えるはずだ。
 ロードレーサーとはそういう乗り物だ。
 僕はロードレーサーに出会って、生活が一変した。見たことのなかった景色をたくさん見た。走ったことのなかった道をたくさん走った。自転車仲間という多くの新しい友人も得た。体型もずい分変わった。そして何より、僕の心の奥底の何かが大きく変わった。再生した、と言ってもいい。(中略)
 自転車で遠くへ行きたい。
 その「遠く」とは物理的な距離だけではない。ロードレーサーはあなたの心も「遠く」へ連れていってくれるはずだ。

【『自転車で遠くへ行きたい。』米津一成〈よねづ・かずのり〉(河出書房新社、2008年/河出文庫2012年)】

 自転車は移動そのものを喜びに変える不思議な乗り物だ。慣れるまでは確かに苦しい。前傾姿勢とケツの痛みは拷問といってよいほどだ。最初の関門は1000kmである。私は2ヶ月半で達成した。体が自転車に馴染んでくると周囲の景色がよく見えるようになる。

 ロードバイクの定義は様々あるようだが、目方が10kg以下で、サドルの位置がハンドルより高く、タイヤ幅が28cm以下の自転車と考えればよい。もっと簡単明瞭にいえば「荷物を載せない自転車」である。ハンドルはドロップが望ましいが、フラットバーでもバーエンドバーを付ければ姿勢を変えることができる。街乗りメインだとブレーキを掛けやすいフラットバーの方が安全だ。

 私は55歳で乗り始めたのだが4回目で50kmを走行した。軽い衝撃を覚えた。原付バイクで50km走ることもそう滅多にあるものではない。それを人力で成し遂げたのだ。文明の利器これに優(すぐ)るものなし。寒くなってくると案の定乗る機会は減ってきたが、現在の総走行距離は1337kmである。最長距離は77kmで100kmまで手が届きそうだが今はまだ脚作りが先だ。

 自転車の難点は二つある。まず盗難リスクである。自宅保管は当然ながら、飲食をする際にも十分留意する必要がある。二つ目は飲食代が嵩(かさ)むことだ。ここ数年、殆ど使ってこなかった自動販売機を多用する羽目になった。で、カロリーを消費するわけだから当然食べる量が増える。脚力をつけるためにもタンパク質の摂取が欠かせない。これはガソリン代と考えてよかろう。

 最大のリスクは交通事故であるがこれについては稿を改める。

 颯爽と風を切る。風を浴びるのではない。私が風になるのだ。

自転車で遠くへ行きたい。 (河出文庫)
米津 一成
河出書房新社
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2018-12-23

香る言葉/『ストーナー』ジョン・ウィリアムズ


『あなたに不利な証拠として』ローリー・リン・ドラモンド

 ・香る言葉

東江一紀
楡井浩一

 図書館では、何万冊もの本を収めた書庫のあいだを歩き回って、革の、布の、そして乾きゆくページのかびくささを、異国の香(こう)のようにむさぼり嗅(か)いだ。ときおり足を止め、書棚から一冊抜き出しては、大きな両手に載せて、いまだ不慣れな本の背の、硬い表紙の、密なページの感触にくすぐられた。それから、本を開き、この一段落、あの一段落と拾い読みをして、ぎこちない指つきで慎重にページをめくる。ここまで苦労してたどり着いた知の宝庫が、自分の不器用さのせいで万が一にも崩れ去ったりしないようにと。
 友人はなく、生まれて初めて孤独を意識するようになった。屋根裏部屋で過ごす夜、読んでいる本からときどき目を上げ、ランプの火影(ほかげ)が揺れる隅の暗がりに視線を馳(は)せた。長く強く目を凝らしていると、闇が一片の光に結集し、今まで読んでいたものの幻像に変わった。そして、あの日の教室でアーチャー・スローンに話しかけられたときと同じく、自分が時間の流れの外にいるように感じた。過去は闇の墓所から放たれ、死者は棺から起き上がり、過去も死者も現在に流れ込んで生者にまぎれ、そのきわまりの瞬時(ひととき)に、ストーナーは濃密な夢幻に呑み込まれて、取りひしがれ、もはや逃れることはかなわず、逃れる意思もなかった。

【『ストーナー』ジョン・ウィリアムズ:東江一紀〈あがりえ・かずき〉訳(作品社、2014年)】

 平凡な男の平凡な一生が稀有な文章で綴られる。何ということか。物語は語られる対象のドラマ性に拠(よ)るのではなく、実はその語り口にあるのだ。脳は因果というストーリーを志向するのだが、好悪を決めるのは文体(スタイル)だ(『書く 言葉・文字・書』石川九楊、『漢字がつくった東アジア』石川九楊)。すなわちメロディーとリズムの関係といってよい。感情を高めるのはメロディーだが体を揺するのはリズムである。

 香る言葉が至るところに散りばめられ、青葉の露を想わせる何かが滴(したた)り落ちる。巧みな画家は路傍の石を描いても傑作にすることができる。小林秀雄が岡潔との対談『対話 人間の建設』で紹介している地主悌助〈じぬし・ていすけ〉は石や紙を題材に描く。つまり作品は表現で決まるのだ。

 長い生命を勝ち得た思想を支えているのも文体だ。仏典、聖書、四書五経に始まり、ありとあらゆる宗教や哲学に後世の人々が心を震わせるのは時代を超えたスタイルに魅了されるためだ。セネカショウペンハウエル三木清を見よ。書かれた内容よりも文体に魅力があるのは明々白々だ。

 いかなる人生であろうとも物語られる価値がある。もしもあなたがつまらない日々を過ごしているならば、それは語るべき言葉が乏(とぼ)しいためだ。語彙(ごい)数ではない。視点の高さから豊かな言葉が生まれる。

 本書は東江一紀の遺作である。ラストで物語と翻訳家の人生が交錯し、現実とドラマが完全につながる。「あとがき」から読むことを勧める

ストーナー
ストーナー
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ジョン・ウィリアムズ
作品社
売り上げランキング: 85,249

英「今年の本」は50年前に絶版の小説、翻訳版で一躍ベストセラーに | ロイター

悪文極まれリ/『時のみぞ知る』ジェフリー・アーチャー


・『百万ドルをとり返せ!』ジェフリー・アーチャー
・『新版 大統領に知らせますか?』ジェフリー・アーチャー

 ・悪文極まれリ

『ぼくを忘れたスパイ』キース・トムスン

 クラスの女の子は一人残らず彼に首ったけだったけれど、それは彼が学校代表のサッカー・チームのキャプテンだというだけが理由ではなかった。
 学校時代のわたしにはちらりとも関心を見せなかったにもかかわらず、彼が西部戦線から帰ってきた直後に、それに変化があった。あの土曜の夜の《パレ》で、わたしとわかっていてダンスを申し込んできたのかどうかはいまだによくわからないけれども、公平を期すために言うなら、わたしも相手が彼とわかるまで、二度もその顔を見直さなくてはならなかった。

【『時のみぞ知る』ジェフリー・アーチャー:戸田裕之〈とだ・ひろゆき〉訳(新潮文庫、2013年)】

 7部作全14巻の1ページ目がこの悪文である。三度読み返しても理解できず、頭がおかしくなりそうになった。「首ったけだったけれど」という音の悪さ、「けれど~なかった~かかわらず~けれども~ならなかった」という否定形の連続が文章の行方をわからなくしている。なかんずく「直後に、それに」は致命傷だ。「彼が西部戦線から帰ってきた時に変わった」で構わないだろう。「一変した」でもよい。

 新潮社も落ちたものだ。

時のみぞ知る〈上〉―クリフトン年代記〈第1部〉 (新潮文庫)
ジェフリー アーチャー
新潮社 (2013-04-27)
売り上げランキング: 114,558

時のみぞ知る〈下〉―クリフトン年代記〈第1部〉 (新潮文庫)
ジェフリー アーチャー
新潮社 (2013-04-27)
売り上げランキング: 286,155

2018-12-21

松岡完


 1冊挫折。

ベトナム戦争 誤算と誤解の戦場』松岡完〈まつおか・ひろし〉(中公新書、2001年)/好著である。にもかかわらず読む速度が遅いのは体調が合わないためか。80ページほどで中止する。年を取るとこういうことがしばしばある。『動くものはすべて殺せ アメリカ兵はベトナムで何をしたか』ニック・タースの後に読むのがいいだろう。ほぼ1年振りに読書日記を復活するほどの内容である。『ベトナム症候群 超大国を苛む「勝利」への強迫観念』(中公新書、2003年)と併せて必ず読む予定である。

「外交官とその時代」シリーズ/『陸奥宗光とその時代』岡崎久彦


『日米・開戦の悲劇 誰が第二次大戦を招いたのか』ハミルトン・フィッシュ
『繁栄と衰退と オランダ史に日本が見える』岡崎久彦

 ・「外交官とその時代」シリーズ

『陸奥宗光』岡崎久彦
『日本の敗因 歴史は勝つために学ぶ』小室直樹
『小村寿太郎とその時代』岡崎久彦
『幣原喜重郎とその時代』岡崎久彦
『重光・東郷とその時代』岡崎久彦
『吉田茂とその時代 敗戦とは』岡崎久彦
『村田良平回想録』村田良平『歴史の教訓 「失敗の本質」と国家戦略』兼原信克

日本の近代史を学ぶ
必読書リスト その四

 そのころ、大和(やまと)の五条という天領にいた本屋の主人が、たまたま和歌山に来ていて、宗光が復讐(ふくしゅう)、復讐と叫ぶのを聞いて、これは面白い子だと思って、ぼっちゃん(紀州では、ぼんぼんという)、紀州家に仇討ちをされるなら、天領の代官になりなさい、と言ってくれた。
 宗光は雀躍(じゃくやく)して喜び、大和五条にある老人の家の食客(しょっかく)となって『地方凡例録』(じかたはんれいろく)とか、『落穂集』(おちぼしゅう)とかを勉強した。これらは、幕府の民政の書で、代官の教科書であった。後年、陸奥が、日本の近代化を一挙に促進した地租改正の議(ぎ)などを提案したのは、このときの素養があったからという。
 こんなものは、大人が読んでも面白いもののはずがない。それを、数え年10歳の少年が読んで、あとに残るほど理解し、吸収し得たとすれば、それは仇討ちの気魄(きはく)があって初めてできることと思う。昔話に、仇討ちの執念でたちまちに剣道が上達する話がよくあるが、やる気というものは、恐ろしいものである。(※ルビの大半を割愛した)

【『陸奥宗光とその時代』岡崎久彦(PHP研究所、1999年/PHP文庫、2003年)】

 岡崎は先に『陸奥宗光(上)』『陸奥宗光(下)』(PHP研究所、1987年/PHP文庫、1990年)を著しており、これを短く書き直したのが本書である。刊行年だけ辿ると『小村寿太郎とその時代』(1998年)を先に読みかねないので注意が必要だ。

「外交官とその時代」シリーズは英訳を視野に入れたもので日本の近代史を客観的に捉える工夫がなされており、ルビも聖教新聞並みに豊富で配慮が行き届いている。岡崎は親米保守の旗幟(きし)を鮮明にしているが、安易なコミュニズム批判は見受けられず、時代に寄り添い、時代の中に身を置いて世界の動きを体感しようと試みる。日本近代史の中で立憲制~政党政治がどのように育まれてきたかを俯瞰できるシリーズとなっている。

 陸奥宗光〈むつ・むねみつ〉は紀州藩(和歌山県)士で海援隊では坂本龍馬の右腕となり、任官してからは版籍奉還、廃藩置県、徴兵令、地租改正を始め、農林水産業に至るまでのグランドデザインを描いた人物である。岡崎久彦は伊藤博文と陸奥宗光を日本近代化における政党政治の立役者として描く。陸奥の志は死後に立憲政友会を生ましめる。

 私はかねがね、西郷(さいごう)など徳川時代の教養を深く身につけた人が西欧の合理主義になじまなかった罪は陽明学にあると思っている。陽明学は儒学の行きついた極致であり、すべて自己完結している。個人の人格さえ完成すれば、それが社会全体の幸福にまでつながると信ずれば、日々の生活になんの迷いも生じない。物質的な貧乏(後進性)も、毀誉褒貶(きよほうへん/世論〈よろん〉)も気にすることはない。何もかも失敗しても、天の道をふんでいるのだから、志は天に通じていると思っている。そんな思想に凝り固まっている「立派な人」に近代思想を説いても、結局は歯車が噛み合わないであろう。
 明治維新の過程をみると、行動を重んじる陽明学はたしかに革命の原動力にはなった。江戸時代唯一の革命の試みといえる1837年の乱を起した大塩平八郎も陽明学者だった。吉田松陰が長州の革命家を育てた役割も大きい。しかし、維新後の近代化の過程では西南戦争の西郷隆盛と言い、後に議会政治を弾圧した品川弥二郎(しながわやじろう)と言い、陽明学の士は、近代化の足を引っ張っている。しょせん革命には有用であっても、近代化にはなじまない思想なのであろう。

 儒家における大乗化みたいな代物か。人を動かすのは感情だが、人を糾合するためには理窟が必要となる。思想という物差しがなければ軍は成り立たず、一揆やゲリラ戦で終わってしまう。たぶん様式化した武士道と陽明学の親和性が高かったのだろう。

 陸奥の配下に岡崎邦輔〈おかざき・くにすけ〉がいたが、実は著者の祖父に当たる。本書には書かれていないが上下本では詳細が綴られている。

 人と時代を見事に描き切った傑作である。

2016年に読んだ本ランキング


2015年に読んだ本ランキング

 ・2016年に読んだ本ランキング

2017年に読んだ本ランキング

 2016年のランキングを書いてないことに気づいた。書けなかった理由すら思い出せない。付箋(ふせん)を貼ったページは全て画像で保存しているので記録に漏れはないのだが、量が多すぎて読んだ時の心の動きがわからない。まあ、そんなわけで不正確な覚え書きとして残しておく。

 まずは印象に残った巧妙な悪書を2冊。

『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』矢部宏治
『ジェノサイド』高野和明

 続いて良書。

『なぜ専門家の為替予想は外れるのか』富田公彦
『中国・ロシア同盟がアメリカを滅ぼす日 一極主義 vs 多極主義』北野幸伯
『隷属国家 日本の岐路 今度は中国の天領になるのか?』北野幸伯
『日本自立のためのプーチン最強講義 もし、あの絶対リーダーが日本の首相になったら』北野幸伯
『日本人の知らない「クレムリン・メソッド」 世界を動かす11の原理』北野幸伯
「三木清における人間の研究」今日出海(『日本文学全集 59 今東光・今日出海』)

 次に再読、三読した必読書。外れなし。私の眼は確かだ(笑)。

『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ
『氷川清話』勝海舟:江藤淳、松浦玲編
『集合知の力、衆愚の罠 人と組織にとって最もすばらしいことは何か』 アラン・ブリスキン、シェリル・エリクソン、ジョン・オット、トム・キャラナン
『ウィンブルドン』ラッセル・ブラッドン
『環境と文明の世界史 人類史20万年の興亡を環境史から学ぶ』石弘之、安田喜憲、湯浅赳男
『「疑惑」は晴れようとも 松本サリン事件の犯人とされた私』河野義行
『聖書vs.世界史 キリスト教的歴史観とは何か』岡崎勝世
『なぜ美人ばかりが得をするのか』ナンシー・エトコフ
『女王陛下のユリシーズ号』アリステア・マクリーン
『人類が知っていることすべての短い歴史』ビル・ブライソン
『人間この信じやすきもの 迷信・誤信はどうして生まれるか』トーマス・ギロビッチ

 次にオススメ本。

『声』アーナルデュル・インドリダソン
『裏切り』カーリン・アルヴテーゲン
『風の影』カルロス・ルイス・サフォン
『「読まなくてもいい本」の読書案内 知の最前線を5日間で探検する』橘玲
『三島由紀夫の死と私』西尾幹二
『給食で死ぬ!! いじめ・非行・暴力が給食を変えたらなくなり、優秀校になった長野・真田町の奇跡!!』大塚貢、西村修、鈴木昭平
『「疲れない身体」をいっきに手に入れる本 目・耳・口・鼻の使い方を変えるだけで身体の芯から楽になる!』藤本靖
『自由と民主主義をもうやめる』佐伯啓思
『さらば、資本主義』佐伯啓思
『自滅するアメリカ帝国 日本よ、独立せよ』伊藤貫
『苦しみをなくすこと 役立つ初期仏教法話 3』アルボムッレ・スマナサーラ
『心の中はどうなってるの? 役立つ初期仏教法話5』アルボムッレ・スマナサーラ
『結局は自分のことを何もしらない 役立つ初期仏教法話6』アルボムッレ・スマナサーラ
『日露戦争を演出した男 モリソン』ウッドハウス暎子
『武士の娘 日米の架け橋となった鉞子とフローレンス』内田義雄
『動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか』福岡伸一
『動的平衡2 生命は自由になれるのか』福岡伸一
『失われてゆく、我々の内なる細菌』マーティン・J・ブレイザー
・『人間原理の宇宙論 人間は宇宙の中心か』松田卓也
『「アメリカ小麦戦略」と日本人の食生活』鈴木猛夫
『コールダー・ウォー ドル覇権を崩壊させるプーチンの資源戦争』マリン・カツサ
『天皇畏るべし 日本の夜明け、天皇は神であった』小室直樹
『ブッダが説いたこと』ワールポラ・ラーフラ
『呼吸による癒し 実践ヴィパッサナー瞑想』ラリー・ローゼンバーグ
『幸せになる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教えII』岸見一郎、古賀史健

 必読書入りしたのが以下。

『5つのコツで もっと伸びる カラダが変わる ストレッチ・メソッド』谷本道哉、石井直方
『ヒトラーの経済政策 世界恐慌からの奇跡的な復興』武田知弘
『大東亜戦争肯定論』林房雄
『アメリカの鏡・日本 完全版』ヘレン・ミアーズ
『ファストフードが世界を食いつくす』エリック・シュローサー
『脳はバカ、腸はかしこい』藤田紘一郎
『日本永久占領 日米関係、隠された真実』片岡鉄哉
『父、坂井三郎 「大空のサムライ」が娘に遺した生き方』坂井スマート道子
『ゴーマニズム宣言SPECIAL 天皇論』小林よしのり
『往復書簡 いのちへの対話 露の身ながら』多田富雄、柳澤桂子
『金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント 経済的自由があなたのものになる』ロバート・キヨサキ、シャロン・レクター
『ドル消滅 国際通貨制度の崩壊は始まっている!』ジェームズ・リカーズ
『通貨戦争 崩壊への最悪シナリオが動き出した!』ジェームズ・リカーズ
『複雑系 科学革命の震源地・サンタフェ研究所の天才たち』M・ミッチェル・ワールドロップ
『人が死なない防災』片田敏孝
『新・人は皆「自分だけは死なない」と思っている 自分と家族を守るための心の防災袋』山村武彦

 で、ベスト10である。

10位 『量子力学で生命の謎を解く 量子生物学への招待』ジム・アル=カリーリ、ジョンジョー・マクファデン
9位 『砂の王国』荻原浩
8位 『昭和45年11月25日 三島由紀夫自決、日本が受けた衝撃』中川右介
7位 『われ巣鴨に出頭せず 近衛文麿と天皇』工藤美代子
6位 『確信する脳 「知っている」とはどういうことか』ロバート・A・バートン
5位 『べてるの家の「当事者研究」』浦河べてるの家
4位 『悟り系で行こう 「私」が終わる時、「世界」が現れる』那智タケシ
3位 『わかっちゃった人たち 悟りについて普通の7人が語ったこと』サリー・ボンジャース
2位 『タオを生きる あるがままを受け入れる81の言葉』バイロン・ケイティ、スティーヴン・ミッチェル
1位 『人間の本性について』エドワード・O ウィルソン

『人間の本性について』は一度挫折しているだけに思い入れが深い。

人間の本性について (ちくま学芸文庫)
エドワード・O ウィルソン
筑摩書房
売り上げランキング: 672,934

2018-12-16

富んで栄えた国が武事を閑却し滅びる/『繁栄と衰退と オランダ史に日本が見える』岡崎久彦


『日米・開戦の悲劇 誰が第二次大戦を招いたのか』ハミルトン・フィッシュ
『戦国日本と大航海時代 秀吉・家康・政宗の外交戦略』平川新

 ・富んで栄えた国が武事を閑却し滅びる

『陸奥宗光とその時代』岡崎久彦

日本の近代史を学ぶ

 モデルスキーの「世界政治の長期周期」説などがそれである。大ざっぱにいうと、16世紀をポルトガルの世紀、17世紀をオランダの覇権時代、18世紀はイギリス覇権の第1期、19世紀はその第2期、20世紀をアメリカの世紀と考えて、大体1世紀毎の興亡の周期があるという理論の下で、やがて来るべきアメリカの衰運に警告を発するという考え方である。
 私自身としては、この種のシェマティック(図式的)な分析というものには必ず無理があり、国家や人間の生きるか死ぬかの争いの場である歴史の流れを把握するには役に立たないと思っている。現にオランダの覇権時代といっても、それはあとで論じるように、英国がスペイン帝国に併呑されないように必死に抗争している間に、オランダが世界的規模でその経済力を伸ばすチャンスをつかんだという話であり、もともと英国との友好協力関係が前提であって、スペインの脅威が去るや否や英国の嫉視の的となって衰退するまでの期間に過ぎない。(中略)
 その圧巻ともいうべきものは、日露戦争の翌年である1906年に出版されたエリス・バーカーの500頁近い大著『オランダの興亡』である。(中略)
 私がこの本を知ったのは、昭和7年に出版された大類伸編の『小国興亡論』の中にその短い抄訳があったからである。以来、多年、その原著を求めていたが、英国内の図書館にはついに見あたらず、アムステルダムの王立図書館でようやくそのフォト・コピーを手に入れることが出来た。その後、アメリカの議会図書館にも1部あることも確かめた。また、上智大学の図書館にも寄贈図書として1巻がある由である。(中略)
 右の本はいずれも、かつて英国より経済、技術の面でははるかに先進国だったオランダが、英蘭戦争などを通じて衰えていく過程を記述して、英国も同じ運命を辿ることを憂いた警世の書である。もともとオランダの繁栄を嫉視して、これを破壊したのはイギリスであるが、かつてカルタゴを滅ぼした小スキピオ・アフリカヌスが、同行していた歴史家ポリビウスの手を取って、「次に来るものはローマの衰亡か?」と長嘆息したのと同工異曲というべきであろうか。
 バーカーは、ポール・ケネディと違ってより伝統的な史観の上に立っている。つまり、富んで栄えた国が武事を閑却し、質実剛健、尚武の未開人に滅ぼされるというローマ帝国の衰亡、平家の滅亡の史観であり、この方が本来は人類の常識であって、その意味ではポール・ケネディの理論は独創的であるといえるが、まだどこか未熟であやふやなところがあり、多くの専門家にその弱点を突かれているのもそのためである。

【『繁栄と衰退と オランダ史に日本が見える』岡崎久彦(初出誌『文藝春秋』1990年1月号~10月号/文藝春秋、1991年文春文庫、1999年/土曜社、2016年)】

 本書から岡崎久彦を読み始めた。『戦国日本と大航海時代』を読み終えた直後でタイミングとしては申し分がない。欧州における戦争と大航海時代が同時進行であった歴史的事実にヨーロッパの強さを思い知らされる。

「富んで栄えた国が武事を閑却し」滅びる、との指摘が重い。世界を席巻したオランダは封建領主の力が強すぎて国家として一つにまとまることができなかった。国内で足の引っ張り合いをする姿が日本の政治情況と重なる。北朝鮮がミサイルを撃っても日本国民は憤激することなく静観を保っている。世論がワイドショーで浮いたり沈んだりしている間は憲法改正に至らないだろう。

 つまらないことだが世論の読みは「よろん」で構わないと思う。正しくは「輿論(よろん)、世論(せろん)」なのだろうがどちらも「public opinion」の訳語であるし、漢字が伝わりやすいように訓読みすることは日常でも珍しくはない。私は7月生まれなのだが上京してから「なながつ」と言うようになった。これは多分「しち」と「はち」の聞き間違いを防ぐためなのだろう。北海道の従姉に笑われて初めて気づいた覚えがある。もう一つ書いておくと横書きの場合、数字表記も迷うことが多い。基本的には訓読みでアラビア数字を用いることはない(3つ、など)。一番困るのは「1」である。世界大戦は漢字で書き、その他は感覚で書き分けている。上記テキストだと「一部」にするか「1部」にするかで数分間迷った。書籍タイトルにアラビア数字を入れるのはどうしても気に入らないところである。背表紙は縦書きなのだから漢数字表記が正しい。例えば『一九八四年』の如し。

 日本はアメリカが行った戦争で栄えてきた。朝鮮特需高度経済成長、ベトナム特需を経て、二度のオイルショックを乗り切り、バブル景気へ至る。日本の繁栄をアメリカが指をくわえて眺めているはずがなかった。クリントン大統領が経済戦争を宣言し、人民元のレートを1ドル5.72元から8.72元に60%も切り下げた。地価と賃金の上昇に酔い痴れる日本人は全く注目しなかったが、中国の輸出力に保証を与えたようなものである。ここから日本が沈み、中国が上昇してくる。

 日本の低迷は20年にも及んだ。その間、終身雇用はズタズタに破壊され、会社=ファミリーといった文化も完全に廃(すた)れた。北朝鮮による拉致被害が明らかになっても国民の安全保障意識が高まることはなかった。ただ辛うじて東日本大震災という未曾有の悲劇によって天皇陛下を中心とする国家の命脈が保たれた。

 岡崎の文章は川のように流れ澱(よど)むことがなく、士を見抜く確かな目が具(そな)わっている。その名調子を思えば、やはり話し言葉の拙さや声の貧しさ、大衆を説得する力の弱さという落差が際立つ。「じゃあ、あんたはどういう仕事をしたんだ?」と言いたくなる。これは悪口ではなくそれほどまでに素晴らしい文章なのだ。

 いずれにしても今年の読書道は竹山道雄山口洋一岡崎久彦という流れが決定的であった。

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2018-12-15

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2018-12-11

核拡散防止条約(NPT)の欺瞞/『腑抜けになったか日本人 日本大使が描く戦後体制脱却への道筋』山口洋一


『敗戦への三つの〈思いこみ〉 外交官が描く実像』山口洋一

 ・核拡散防止条約(NPT)の欺瞞

『植民地残酷物語 白人優越意識を解き明かす』山口洋一

日本の近代史を学ぶ

 ところが、(※国家とは異なり)国際社会はこのような公権力によって秩序が保たれる組織化された社会ではないので、個々のメンバーである各国は、国の安全を守り、権利を保全するのに、自国の軍隊で独自に防衛したり(自衛)、腕っ節の強そうな他の国と同盟を結んでお互いに守りあう(集団的自衛)ことをしないと存立し得なくなるのである。あたかも国内社会で、公権力が機能しない無法地帯では、一人ひとりが自分自身で刀やピストルを持って自衛したり、強そうなやくざやマフィアと手を結んで安全を期するしか生き延びていかれないのと似ている。

【『腑抜けになったか日本人 日本大使が描く戦後体制脱却への道筋』山口洋一(新風舎、2007年文芸社、2008年/文芸社文庫、2013年)】

 つまり第二次世界大戦における戦勝国の権利が核保有なのだ。実にわかりやすい話である。続きを紹介しよう。

 軍事大国の身勝手な論理が、あからさまに通っている典型的な例は核拡散防止条約(NPT)である。在来兵器に比べて桁違いの威力をもつ核兵器が拡散して、各国がこれを持つようになると、世界の平和維持が著しく不安定になるどころか、それこそ地球が木っ端微塵になり、人類全体の破滅を招く事態となりかねない。核兵器がテロリストの手に渡る危険も増大する。

 今日、人類が到達した科学技術の水準からすれば、国が核兵器を持っているかどうかは、刀やピストルを持っている人と丸腰の人との違いと変わらない。190人余りの後世ん(国家)がいる社会(国際社会)で、5人だけがピストルを持ち、他の者たちに「お前らには鉛筆削りのナイフも持たせない、素手でいろ」と命じて、監視の目を光らせ、やりたい放題の振る舞いを許しているのがこの条約なのである。しかもこの5人は国連安保理で拒否権をもった常任理事国なので、国連での重要な決定を自由自在に妨げることができ、一人が「ノー」と言えば国連は動きがとれなくなってしまう。こんな実情に国際社会からのブーイングすら起きていないのが不思議でならない。
 もっとも「核拡散防止条約」にも言い分はある。これがなければ190人余りのそれぞれが、各自飛び道具を手にして争うことになり、そうなると大変なことになる。地球が破滅してしまうという理屈だ。だから、核兵器保有国が悪兵器を他国に移譲しない義務を負い(NPT条約第1条)、核保有国が核兵器を受領せず、製造せず、製造について援助を求めたり、受けたりしないと約束すること(同第2条)は、重要であるように思える。
 確かに、無制限、無秩序に核軍備競争が進む状況に比べれば、なんらかの歯止めがあった方がいいという理屈は、一見もっともに聞こえる。しかし飛び道具を独占している5人が「正義」を実現してくれるという保証はどこにもない。彼が唱える「正義」は、彼らの独善による身勝手な言い分に過ぎず、彼ら自身が「ならず者国家」に変身する危険は常に覚悟していなければならない。

 ここで忘れてならないのは、飛び道具独占を正当化するこの理屈は、あくまで最終的には、核兵器保有国も核兵器廃絶に向かうことを前提にしたものだということである。そうでなく、保有国が未来永劫に核兵器を保有し続けるのであれば、軍事面における保有国の、非保有国に対する有利な立場を決定的に固定化してしまうこととなる。
 現にNPT条約の前文には「……核兵器の製造を停止し、並びに諸国の軍備から核兵器及びその運搬手段を除去することを容易にするため、国際間の緊張の緩和及び諸国間の信頼の強化を促進することを希望し、……」この条約を締結することが謳われており、また第6条には「各締約国は、各軍備競争の早期の停止及び各軍備の縮小に関する効果的な措置につき、並びに厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行うことを約束する」と明記されている。
 ところが、この世から核兵器が廃絶に向かう気配は一向にない。

 軍事力があればどのような理窟でも通ってしまう。国際社会といっても所詮は力が支配するのである。力がなければ崇高な理念も絵に描(か)いた餅だ。

 かつてNPT条約に関心を抱いたことは一度もなかったが、このように説明されるとその理不尽さがひしひしと伝わってくる。かような状況を打ち破るためには新たな世界大戦を待つ他ないような気がする。

 核保有国に常識や公正さがあればもちろん戦争する必要はない。だが彼らが増長し、覇権を拡大しようと非保有国に爪を伸ばす時、有事が勃発することはあり得る。特に昨今は中国の動きが活発化しており、南シナ海や尖閣諸島あたりで戦火の上がる確率が高い。

 北朝鮮と中国という脅威がありながらも日本の国会ではまともな防衛議論が行われていない。野党は学校の許認可や土地売買の質問に終始している。憲法改正の気運も低迷しつつある。

 核拡散防止条約がどれほど欺瞞に満ちていようとも直ちにゲームのルールを変えることはできない。とすればしばらくの間は日米安保を重視するのが正道なのだろう。

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ソ連の予審判事を怒鳴りつけた石原莞爾/『石原莞爾 マッカーサーが一番恐れた日本人』早瀬利之


『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』増田俊也

 ・天才戦略家の戦後
 ・ソ連の予審判事を怒鳴りつけた石原莞爾

『昭和陸軍謀略秘史』岩畔豪雄

日本の近代史を学ぶ
必読書リスト その四

 5月27日は、ソ連の予審判事が3人やってきた。陰湿な男で、いきなり満州事変について質問した。
 石原は昭和8年ジュネーブでの国際連盟臨時総会に出席する途中、招かれてソ連のエゴロフ総参謀長と会ったことを話した。するとソ連の検事は顔色を変え、一瞬言葉に詰った。相手が余りにも大物だったからである。
 ソ連の検事は「国体」について尋問した。石原は「天皇中心とした国家でなければ日本は治まらない」と理由を説明した。ところが共産党国家の検事はせせら笑って、スターリンのソ連国体を持ち出した。その時、石原はムッとして、
「自分の信仰を知らずして、他の信仰を嘲笑うような下司なバカ野郎とは話したくない。帰れ!」と激怒した。通訳官が慌てて、「この人は、ソ連では優秀な参謀です。話をすれば分かると思います。ぜひ進めてください」と頼んだ。
 すると石原は、「バカなことを言うな。こんなのはソ連では参謀で優秀かも知れんが、日本には箒で掃き出すほどいる。こんなバカとは口をききたくない、帰れ」と突っぱねた。
「分かるように話してやる。君らはスターリンといえば絶対ではないか。スターリンの言葉にはいっさい反発も疑問も許されないだろう。絶対なものは信仰だ。どうだ判ったか。自分自身が信仰を持っていながら、他人の信仰を笑うようなバカには用はない。もう帰れ」
 それきり、石原は口を固く閉じた。

【『石原莞爾 マッカーサーが一番恐れた日本人』早瀬利之(双葉新書、2013/双葉文庫、2016年)】

 天才とは規格外の才能を意味する。凡人が理解できるのは秀才までで天才が放つ光は時に「狂」と映る。やや礼賛に傾きすぎていて人物の描き方は浅いと言わざるを得ないが、それでもかつての日本にこうした人物がいたことを知る必要があろう。

 石原莞爾〈いしわら・かんじ〉は満州事変の首謀者で、1万数千名の関東軍を率いて23万人を擁する張学良〈ちょう・がくりょう〉軍を打ち破った。その名は軍事的天才として世界に知れ渡った。二・二六事件では単身で鎮圧に乗り出し、凄まじい剣幕で反乱軍兵士を怒鳴りつけ、青年将校にピストルを突きつけられても微動だにすることがなかった。

 二・二六事件のとき、石原は東京警備司令部の一員でいた。そこに荒木貞夫がやって来たとき、石原は「ばか! お前みたいなばかな大将がいるからこんなことになるんだ」と怒鳴りつけた。荒木は「なにを無礼な! 上官に向かってばかとは軍規上許せん!」とえらい剣幕になり、石原は「反乱が起こっていて、どこに軍規があるんだ」とさらに言い返した。そこに居合わせた安井藤治東京警備参謀長がまぁまぁと間に入り、その場をなんとかおさめたという。

Wikipedia

 後に昭和天皇は「一体石原といふ人間はどんな人間なのか、よく分からない、満洲事件の張本人であり乍らこの時の態度は正当なものであった」と述懐している(『昭和天皇独白録 寺崎英成御用掛日記』文藝春秋、1991年)。

 石原は満州国を建国した後は一貫して平和主義者の態度を変えていない。しかしながらさすがの彼も関東軍の暴走を抑えることはできなかった。ここが凡人にはわかりにくいところである。暴走した石原の腹心は石原の行動に倣(なら)っているつもりであったのだ。

 大東亜戦争の戦線拡大に反対し続けた石原は遂に犬猿の中であった東條英機〈とうじょう・ひでき〉の暗殺にゴーサインを出す。その時刺客を務めることになったのが木村政彦であった(『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』増田俊也)。また東京裁判の酒田出張法廷に出廷する際、病に伏していた石原をリヤカーに乗せて運んだのは大山倍達〈おおやま・ますたつ〉であったと伝えられる。

 極端から極端へと走る姿がいかにも日蓮主義者らしい。同時期の国柱会信者には宮沢賢治がいた。

2018-12-09

大東亜戦争は武士の時代から商人の時代へと日本を変えた/『日本永久占領 日米関係、隠された真実』片岡鉄哉


『國破れて マッカーサー』西鋭夫
『日本の秘密』副島隆彦

 ・大東亜戦争は武士の時代から商人の時代へと日本を変えた

日本の近代史を学ぶ
必読書リスト その四

 総体的に、日本の保守政治は、選挙区への利益誘導と、その海外への延長である利権ばら撒きしかないのである。それ以外のことは無関心で、全部アメリカに任せてある。
 いま、ブッシュ政権に憎悪され敵視されているのは、この体制なのである。
 日本は悪いことはしないと誓いを立て、悪いことを避けるのを最大限の目標にして生きてきた。戦争は最大の悪だから、絶対これを避ける。自衛の戦争は、することになっているが、領海3マイルから外では、何が置きても関知しない。これを国家の最大限の目標にしてきたのである。
 そうしているうちに、日本は萎縮した。矮小化した。卑俗化した。気品を失った。
 大きなこと、美しいこと、善いこと、勇敢なこと、ノーブルなこと。これらのすべてを日本は拒否するようになったのである。
 戦争と軍隊は手段であり、悪にも善にも奉仕する。ところが、日本人は、戦争と軍隊を悪に見立てることによって、【悪と善の双方を避けるようになったのである】。

【『日本永久占領 日米関係、隠された真実』片岡鉄哉〈かたおか・てつや〉(講談社+α文庫、1999年/講談社、1992年『さらば吉田茂 虚構なき戦後政治史』の改訂増補版)】

 ノーブル(noble、英語)とは高貴さのこと。ノブレス・オブリージュ(noblesse oblige、高貴なる者の義務)のノブレス(フランス語)と同じ意味だ。

 片岡鉄哉のスケッチは実にわかりやすい。55年体制が自民党内に腐敗を生み、社会党は時代の変化に対応することなく野党の位置に甘んじてきた。この体制を38年間にわたって国民は支持した。かつては武士道のイメージで見られた日本人は、貧相な顔と体そして眼鏡とカメラというアイコンに変わり果てた。戦時中から敗戦後に抱えた「生活さえよければ」との願望はバブル景気に至っても止(や)むことがなく、バブル崩壊後長い低迷期を経てますます強くなっている感がある。日本人が目指したのは飽食だったのだろう。国家を顧みる人はいなかった。

 大東亜戦争は武士の時代から商人の時代へと日本を変えた。経済的成功者を英雄と見なす風潮がはびこった。政治家や官僚、学者や僧侶までもが商人と堕した。いかにマネーを獲得するかというゲームが現代の狩猟である。

 かつては投資=利殖ではない時代があった。タニマチのような存在が各所にいた。まだ若く貧しかった勝海舟を見込んだ渋田利右衛門〈しぶた・りえもん〉は初めて会ったその日に200両もの大金を渡して「あなたの好きな本を買って、読み終えたら私に送って下さい」と申し出た(『氷川清話』勝海舟:江藤淳、松浦玲編)。かような金満家は現在いるだろうか?

『世界!ニッポン行きたい人応援団』を見ると、日本の伝統工芸が落ちぶれてゆく様子がありありとわかる。売れない物は淘汰されてゆくのが資本主義の原則である。篤志家がいないのであれば国が補助金を出すべきだと思うのだが、クールジャパンに出すカネはあっても伝統工芸に回すカネはないようだ。

 人を育て才を伸ばすために喜捨されたカネがどれほど日本を豊かにしてきたことか。現代のスポンサーシップはメディアに向かってのみ発揮される。新聞・テレビが新たな利殖の温床と化し、広告代金を分配するシステムが構築されている。芸人と呼ぶのも躊躇(ためら)われるようなお笑いタレントが数千万円~数億円もの年収を稼ぐ時代となった。世も末である。

2018-12-07

片岡鐵哉『さらば吉田茂』の衝撃/『日本の秘密』副島隆彦


『暴走する国家 恐慌化する世界 迫り来る新統制経済体制(ネオ・コーポラティズム)の罠』副島隆彦、佐藤優

 ・片岡鐵哉『さらば吉田茂』の衝撃
 ・『田中清玄自伝』は戦後史の貴重な資料

『日本永久占領 日米関係、隠された真実』片岡鉄哉
『國破れて マッカーサー』西鋭夫

 国立公文書館に通うかたわら、私はワシントンのいわゆる“Kストリート”と呼ばれる地区に散在する戦略研究所(シンクタンク)を回って、紹介者を介して東アジア専門の戦略研究の学者・研究員たちの部屋を訪ねた。
 そのうちのひとつであるケイトリー研究所の安全保障問題(ナショナル・セキュリティ/軍事・防衛)の責任者であるテッド・ガレン・カーペンターに面会して話した。そのとき「自分は今、敗戦直後の国務省の対日本占領政策関係の文書を読んでいる」と私が話すと、「日本人学者の本でいい本があるぞ。それはカタオカという人の本だ。知らないのか」と教えられた。その本を出して来て見せてくれた。
“The Price of A Constitution,1991,by Tetuya Kataoka”という本だった。勝手に直訳すれば『ある憲法の代償』あるいは『ある政治体制が支払った代償』というタイトルの本である。
 私は東京に帰ってからこの本には邦訳があることを知った。『さらば吉田茂』(文藝春秋、1992年刊)である。著者の片岡鐵哉(てつや)氏はスタンフォード大学フーバー研究所上級研究員である。前は筑波大学や埼玉大学の教授をしておられた。(中略)
 私はこの本を読んで驚愕した。読みながら本当に手足が震えるのを感じた。自分が知りたかった日本の敗戦後の政治秘話が正確に書かれていたからだ。

【『日本の秘密』副島隆彦〈そえじま・たかひこ〉(弓立社、1999年/PHP研究所新版、2010年)】

 副島隆彦は『日本の秘密』で本書を取り上げ、「自民党内の凄まじい権力闘争」と書いているが、私はそうは思わない。むしろ敗戦後、国体を守ることができた事実に安堵し、瑣末な駆け引きの中で安全保障を見失ったように見える。やはり敗戦のショックが日本をバラバラにしたのだろう。民主化の虚しさを感じてならなかった(読書日記)。片岡本の読後感想だが今となっては思い出すことも難しい。スタンフォード大学フーバー研究所つながりで西鋭夫〈にし・としお〉と併せて読むことを奨(すす)める。

 私が驚いたのはアメリカの情報収集能力の高さである。「一体どこまで網を広げているのか?」というレベルである。やはりキリスト教文化は世界を把握する意識が抜きん出ている。

 副島本を先に読んでから片岡本に取り組むのがよい。で、再び副島本を読み返す。

 戦前戦後の流れを俯瞰すると、大正デモクラシー~軍部暴走=政党政治の挫折~戦争という流れの中で外交畑出身の幣原喜重郎〈しではら・きじゅうろう〉と吉田茂が果たした役割は大きい。

2018-12-06

建国の精神に基づくアメリカの不干渉主義/『日米・開戦の悲劇 誰が第二次大戦を招いたのか』ハミルトン・フィッシュ


『國破れて マッカーサー』西鋭夫
・『日本永久占領 日米関係、隠された真実』片岡鉄哉

 ・もしもアメリカが参戦しなかったならば……
 ・建国の精神に基づくアメリカの不干渉主義

『繁栄と衰退と オランダ史に日本が見える』岡崎久彦

日本の近代史を学ぶ

 この本の見どころはいくつかある。
 まず第一に、内容が絶対に信頼できるので安心して読めるということである。公人として、不正確さが、いささかも許されない環境の中に、数十年を過したせいもあろうが、おそらくは、それ以上に、フィッシュの性格と教育からくるものであろう。決して嘘をつかない、時流と迎合していい加減なことは言わない、言行不一致のことはしない、というインテレクチュアル・オネスティーに徹した良きアメリカ人の典型なのである。そもそもフィッシュがルーズベルトに対して怒っているのは、政策論の違いはさておいても、ルーズベルトのやり方が不正直で、汚く、非アメリカ的であるということにある。(中略)
 第二に、彼自身は「孤立主義者」という言葉は、ルーズベルトがプロパガンダのために捏造(ねつぞう)した、不正確な表現で、本当は、自分は不干渉主義者だ、と言っているが、いわゆるアメリカの孤立主義者というものの、物の考え方を、これほど明快に示した本はない。
「孤立主義」を論ずるにあたっては、この本なしでは語れないと言っても過言でないし、この本の各所を引用するだけで、真の「孤立主義」というものを説明してあまりあると思う。
「われわれの祖先は、皆、旧大陸の権力政治から脱(のが)れるために、新大陸まで来た」のであり、「旧大陸の昔からの怨念のこもった戦争にまきこまれない」という、アメリカの建国の精神にまで遡(さかのぼ)る「孤立主義」である。
 第三は、国際政治の本質に立ち戻って考えて、ルーズベルトとフィッシュのどちらが正しかったか、ということである。(岡崎久彦)

【『日米・開戦の悲劇 誰が第二次大戦を招いたのか』ハミルトン・フィッシュ:岡崎久彦監訳(PHP研究所、1985年/PHP文庫、1992年)】

 一般的にはモンロー主義といわれる。

 山口洋一の本で知ることがなければ岡崎久彦の著書を開くことは一生なかったと思う。テレビの討論番組で見たことのある岡崎は高い声で癇(かん)に障(さわ)る話し方をする老獪(ろうかい)な人物だった。周囲と異なる論理をかざして微動だにすることなく相手に理解を求める姿勢はこれっぽっちもなかったことに驚いた。訳知り顔の偏屈な年寄りにしか見えなかった。

 ところが、である。山口が引用した文章は流麗でキラリと光を放っていた。まず本書を読み、次に『繁栄と衰退と オランダ史に日本が見える』(1991年)を開き、そして『陸奥宗光とその時代』(1996年)と進んだ。私は唸(うな)った。唸り続けた。慌てて動画を検索してみたが、やはり岡崎は偏屈なジイサンだった(笑)。きっと文の人なのだろう。

 牛場信彦駐米大使から本書を紹介され岡崎が翻訳する運びとなった。

 ハミルトン・フィッシュ3世(1888-1991年)は彫像のような面立ちで実に立派な顔をしている。1945年まで四半世紀にわたって米国の下院議員を務めた(共和党選出)。原著は1983年に刊行されている。太平洋戦争開戦時にフランクリン・ルーズベルト大統領(民主党)を全面的に支持したのはた自身の過ちであり、ルーズベルト大統領が卑劣な手段で米国を戦争に導いたことを糾弾する。

 フィッシュの筆致は烈々たる愛国心に支えられており、為にする批判とは一線を画している。後味の悪さがなく、むしろ静かな晴朗さが広がる。

 複雑系科学の視点(『歴史は「べき乗則」で動く 種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学』マーク・ブキャナン)だと時代を変えた歴史的な人物も一要素として扱われるが、国家元首や教祖が果たす導火線の役割は決して無視できるものではない。ルーズベルトにけしかけられた国民が愚かであるというよりも、戦争の気運が満ちつつある時代であったのだろう。他国の戦争に巻き込まれることを忌避した米国民も、国際社会でアメリカが主導権を握る政策には賛同せざるを得なかったものと想像される。

 第二次世界大戦は英仏が凋落(ちょうらく)しアメリカが台頭する間隙(かんげき)にソ連が食い込んだ歴史であった。ルーズベルト大統領の周辺には500人に及ぶ共産党員とシンパがいた(『日本の敵 グローバリズムの正体』渡部昇一、馬渕睦夫)。容共の域を越えていたのは明らかだ。日本の占領政策においてもGHQの半分が左翼勢力であったため戦後に長く影を落とした。

 ルーズベルト大統領が行ったことは一言でいえば日本を叩き、ソ連を増長させ、戦後の冷戦構造へと道を開いたことであった。戦時中の日本人の思いは市丸利之助〈いちまる・りのすけ〉海軍中将の「ルーズベルトニ与フル書」に言い尽くされている。

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2018-12-05

身体革命


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     ・クリシュナムルティ著作リスト
     ・必読書リスト その一
     ・必読書リスト その二
     ・必読書リスト その三
     ・必読書リスト その四
     ・必読書リスト その五

『速トレ 「速い筋トレ」なら最速でやせる!』比嘉一雄
スロトレ完全版 DVDレッスンつき
『動ける強いカラダを作る! ケトルベル』花咲拓実
『悲鳴をあげる身体』鷲田清一
『ことばが劈(ひら)かれるとき』竹内敏晴
『臓器の急所 生活習慣と戦う60の健康法則』吉田たかよし
『小麦は食べるな!』ウイリアム・デイビス
『「食べない」健康法 』石原結實
『医者が教える食事術 最強の教科書 20万人を診てわかった医学的に正しい食べ方68』牧田善二
『医者が教える食事術2 実践バイブル 20万人を診てわかった医学的に正しい食べ方70』牧田善二
『医学常識はウソだらけ 分子生物学が明かす「生命の法則」』三石巌
『若返るクラゲ 老いないネズミ 老化する人間』ジョシュ・ミッテルドルフ、ドリオン・セーガン
『サピエンス異変 新たな時代「人新世」の衝撃』ヴァイバー・クリガン=リード
『クレイジー・ライク・アメリカ 心の病はいかに輸出されたか』イーサン・ウォッターズ
『アルツハイマー病は治る 早期から始める認知症治療』ミヒャエル・ネールス
『あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れはじめた』アランナ・コリン
『免疫力が10割 腸内環境と自律神経を整えれば病気知らず』小林弘幸、玉谷卓也監修
『自分で治せる!腰痛改善マニュアル』ロビン・マッケンジー
『ひざの激痛を一気に治す 自力療法No.1』
『新正体法入門 一瞬でゆがみが取れる矯正の方程式』橋本馨
『調子いい!がずっとつづく カラダの使い方』仲野孝明
『寝たきり老人になりたくないなら大腰筋を鍛えなさい』久野譜也
『気功革命 癒す力を呼び覚ます』盛鶴延
『「疲れない身体」をいっきに手に入れる本 目・耳・口・鼻の使い方を変えるだけで身体の芯から楽になる!』藤本靖
『5つのコツで もっと伸びる カラダが変わる ストレッチ・メソッド』谷本道哉、石井直方
『ヒモトレ革命 繋がるカラダ動けるカラダ』小関勲、甲野善紀
『勝者の呼吸法 横隔膜の使い方をスーパー・アスリートと赤ちゃんに学ぼう!』森本貴義、大貫崇
間違いだらけ! 日本人のストレッチ - 大切なのは体の柔軟性ではなくて「自由度」です - (ワニブックスPLUS新書)
『だれでも「達人」になれる! ゆる体操の極意』高岡英夫
頭が必ずよくなる!「手ゆる」トレーニング
『ひざの激痛を一気に治す 自力療法No.1』
『足・ひざ・腰の痛みが劇的に消える「足指のばし」』湯浅慶朗
『5秒 ひざ裏のばしですべて解決 壁ドン!壁ピタ!ストレッチ』川村明
『「筋肉」よりも「骨」を使え!』甲野善紀、松村卓
『病気の9割は歩くだけで治る! 歩行が人生を変える29の理由 簡単、無料で医者いらず』長尾和宏
『病気の9割は歩くだけで治る!PART2 体と心の病に効く最強の治療法』長尾和宏
『ウォーキングの科学 10歳若返る、本当に効果的な歩き方』能勢博
『高岡英夫の歩き革命』高岡英夫:小松美冬構成
『あらゆる不調が解決する 最高の歩き方』園原健弘
『あなたの歩き方が劇的に変わる! 驚異の大転子ウォーキング』みやすのんき
・『膝を痛めない、疲れない Q&Aでわかる山の快適歩行術』野中径隆
『人生、ゆるむが勝ち』高岡英夫
『究極の身体(からだ)』高岡英夫
『フェルデンクライス身体訓練法 からだからこころをひらく』モーシェ・フェルデンクライス
『体の知性を取り戻す』尹雄大
『響きあう脳と身体』甲野善紀、茂木健一郎
『ウィリアム・フォーサイス、武道家・日野晃に出会う』日野晃、押切伸一
『武学入門 武術は身体を脳化する』日野晃
『生命力を高める身体操作術 古武術の達人が初めて教える神技のすべて』河野智聖
『気分爽快!身体革命 だれもが身体のプロフェッショナルになれる!』伊藤昇、飛竜会編
『棗田式 胴体トレーニング』棗田三奈子
『月刊「秘伝」特別編集 天才・伊藤昇と伊藤式胴体トレーニング「胴体力」入門』月刊「秘伝」編集部編
『火の呼吸!』小山一夫、安田拡了構成
・『鉄人を創る肥田式強健術』高木一行
『表の体育裏の体育 日本の近代化と古の伝承の間(はざま)に生まれた身体観・鍛錬法』甲野善紀
『ナンバ走り 古武術の動きを実践する』矢野龍彦、金田伸夫、織田淳太郎
『ナンバの身体論 体が喜ぶ動きを探求する』矢野龍彦、金田伸夫、長谷川智、古谷一郎
『ナンバ式!元気生活 疲れを知らない生活術』矢野龍彦、長谷川智
『すごい!ナンバ歩き 歩くほど健康になる』矢野龍彦
『本当のナンバ 常歩(なみあし)』木寺英史
『健康で長生きしたけりゃ、膝は伸ばさず歩きなさい。』木寺英史
『常歩(なみあし)式スポーツ上達法』常歩研究会編、小田伸午、木寺英史、小山田良治、河原敏男、森田英二
『スポーツ選手なら知っておきたい「からだ」のこと』小田伸午
『トップアスリートに伝授した 勝利を呼び込む身体感覚の磨きかた』小山田良治、小田伸午
『トレイルズ 「道」と歩くことの哲学』ロバート・ムーア
『足裏を鍛えれば死ぬまで歩ける!』松尾タカシ、前田慶明監修
『「疲れない身体」をいっきに手に入れる本 目・耳・口・鼻の使い方を変えるだけで身体の芯から楽になる!』藤本靖
『血管マッサージ 病気にならない老化を防ぐ』妹尾左知丸
『いつでもどこでも血管ほぐし健康法 自分でできる簡単マッサージ』井上正康
『「血管を鍛える」と超健康になる! 血液の流れがよくなり細胞まで元気』池谷敏郎
『血管指圧で血流をよくし、身心の疲れをスッと消す! 秘伝!即効のセルフ動脈指圧術』浪越孝
『実践「免疫革命」爪もみ療法 がん・アトピー・リウマチ・糖尿病も治る』福田稔
『人は口から死んでいく 人生100年時代を健康に生きるコツ!』安藤正之
『長生きは「唾液」で決まる! 「口」ストレッチで全身が健康になる』植田耕一郎
『ずっと健康でいたいなら唾液力をきたえなさい!』槻木恵一
『免疫力を上げ自律神経を整える 舌(べろ)トレ』今井一彰
『舌をみれば病気がわかる 中医学に基づく『舌診』で毎日できる健康セルフチェック』幸井俊高
『あなたの老いは舌から始まる 今日からできる口の中のケアのすべて』菊谷武
『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』西山耕一郎
『誤嚥性肺炎で死にたくなければのど筋トレしなさい』西山耕一郎
『つらい不調が続いたら 慢性上咽頭炎を治しなさい』堀田修
『ムドラ全書 108種類のムドラの意味・効能・実践手順』ジョゼフ・ルペイジ、リリアン・ルペイジ
『ストレス、パニックを消す!最強の呼吸法 システマ・ブリージング』北川貴英
新しい呼吸の教科書 - 【最新】理論とエクササイズ - (ワニプラス) トップアスリートが実践 人生が変わる最高の呼吸法
『呼吸による癒し 実践ヴィパッサナー瞑想』ラリー・ローゼンバーグ

人がうつ状態になるのは感染症から身を守るため/『脳はバカ、腸はかしこい』藤田紘一郎


・『笑うカイチュウ』藤田紘一郎

 ・人がうつ状態になるのは感染症から身を守るため

『9000人を調べて分かった腸のすごい世界 強い体と菌をめぐる知的冒険』國澤純
『あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れはじめた』アランナ・コリン
『心を操る寄生生物 感情から文化・社会まで』キャスリン・マコーリフ
『したたかな寄生 脳と体を乗っ取り巧みに操る生物たち』成田聡子
『土と内臓 微生物がつくる世界』デイビッド・モントゴメリー、アン・ビクレー
『失われてゆく、我々の内なる細菌』マーティン・J・ブレイザー

必読書リスト その三

 ところが腸は脳のように、だましたり、だまされたり、勘違いなどはしません。なぜなのでしょうか。
 それは腸と脳の発生の歴史が違うからでしょう。脳ができたのは生物にとってずいぶん最近の話なのです。地球上で最初に生物が生まれたのは約40億年前でした。生物にははじめに腸ができ、脳を獲得したのは現在から5億年くらい前のことです。つまり生物の歴史上、8~9割の期間は生物は脳を持っていなかったのです。
 したがって、私たち人類は腸をうまく使っていますが、歴史の浅い脳をうまく使いこなせていないのです。脳は人間の身体にはまだ馴染んでいないということです。

【『脳はバカ、腸はかしこい』藤田紘一郎〈ふじた・こういちろう〉(三五館、2012年/知的生きかた文庫、2019年)以下同】

「5億年くらい前」ということはカンブリア紀である。ここで、「ハハーン、そうか」と一つ腑に落ちる。『眼の誕生』(アンドリュー・パーカー、2006年)と脳の誕生はセットだな、と。「眼は、実は脳の一部なのだ」(『共感覚者の驚くべき日常 形を味わう人、色を聴く人』リチャード・E・サイトウィック)から当然といえば当然か。

 話を単純化してエイヤッと押し出すのが藤田紘一郎のプレゼンテーションの特徴だろう。わかりやすいのだがいささか浅い。読後の余韻に欠ける。それでも尚、腸の優位性について読者を納得させる気魄に満ちているのはさすがとしか言いようがない。マーケティング上手。

「人がうつ状態になるのは、感染症から身を守るための免疫システムの進化の結果」だと述べている研究者がいます。米国・エモリー大学のA・ミラー博士とアリゾナ大学のC・レイソン博士は、2012年の「モレキュラーサイカイアトゥリー」のオンライン版に、人間は病原体による感染から身を守るために、免疫システムが進化する過程でうつ状態を発症するようになったのではないか、との学説を発表しています。
 彼らの研究班は、うつ状態になると感染症にかかっていなくても炎症反応が起きやすいことから、うつ状態が免疫システムと関係しているのではと考えました。また、アメリカではうつ病がありふれた精神疾患であることから、もともと脳内に組み込まれた反応なのではないかと仮定し、なぜ人間の遺伝情報の中でうつ状態と免疫システムが結びついたのかを考察しました。
 私たちの人類史において、近代までは抗生物質もワクチンもない環境で生きてきました。人類の長い歴史の中で感染症は特に命を脅かすものであり、新たな感染症に罹患することは死を意味し、家族や集団システムの崩壊に直結するものでした。感染症から身を守り、大人になるまで生き抜き、遺伝子を子孫へと繋げることがとても重要だったのです。(中略)
 ストレスを受けてうつ状態になると、動作が緩慢になり食欲も落ち、社会活動から疎遠になります。このうつ状態が、感染症に罹患している人に接触しないようにするため有効だったのではないか、ということです。
 私は、これらの学説で言われていることにも腸が大いに関係しているのではないか、と考えています。なぜなら、腸は免疫システムの要であり、そしてストレスによるうつ状態では、胃腸疾患の症状を訴える人がとても多いからです。
 食堂から胃、腸まで一本につながっている消化管は独自の神経系を有し、脳とは独立して機能しています。消化管は脳から指令を受けるだけではありません。逆に、消化管から脳への情報伝達量のほうがはるかに多いのです。この腸神経系は「腸の脳」と研究者の間で呼ばれています。腸の脳は神経を通じ、すい臓や胆のうなどの臓器をコントロールしていてい、消化管で分泌されるホルモンと神経伝達物質は肺や心臓といった臓器と相互作用しています。
 つまり、ストレスによる食欲不振や胃痛、腹痛など消化管の不快な反応が、脳へうつ状態になるよう命令し、結果的に行動を緩慢にさせたり、社会的活動から疎遠にさせたりしているのではないか、と私は思っています。

「モレキュラーサイカイアトゥリー」は分子精神医学(Molecular Psychiatry)という雑誌名らしい。考え方は進化医学(『病気はなぜ、あるのか 進化医学による新しい理解』ランドルフ・M・ネシー&ジョージ・C・ウィリアムズ)に該当すると思われる。進化の果てに残っているのだから何らかの優位性があるのだろうという見方だ。

 ただし「感染症回避」との理由に説得力はない。むしろストレスそのものを回避するシステムとして理解すべきだろう。もしも社会が歪んでいるのであれば、そこで耐えて生きてゆくことが死につながるかもしれない。事故・病気・怪我は死因たり得るし、自殺に追い込まれることも珍しくはない。狂った世界に対する正常な身体反応がうつ病だとすれば、うつ病には生存率を高める可能性がある。

 健康な人でも極端に暑い日や寒い日は外に出る気が起こらない。同様に時代が戦争に向かいつつある時は外交的な人間よりも内向的な人間の方が生存率が高まるのだろう。戦時において勇敢な者は真っ先に死ぬ(『病気はなぜ、あるのか 進化医学による新しい理解』)。引きこもり、草食系男子、少子化、未婚の増加といった社会現象は戦争のサインであると私は考えている。

 腸優位との指摘が我々にとって一定の説得力があるのは日本の文化が頭よりも腹(肚)に重きを置いているためか。それは「腹蔵なく」「肚(はら)を決める」という表現や、肝(きも)が心を表し(肝胆相照らす)、武士の切腹に極まる。更に相撲では腰の動きを重視し、そしてアルコールは五臓六腑(ごぞうろっぷ)に染み渡る。

「身」という漢字は妊婦の体を表したものだ。文字通り「中身の詰まった状態」を示す。つまり身とは腹なのだ。

 頭はどちらかといえば位や礼儀にまつわる表現が多いように思う。頭部であれば頭よりも眼や口に関する表現の方が多彩だろう。ついでに言っておくと武道では筋肉よりも骨を重視する。

 更に牽強付会を恐れず申し上げれば、腸はミミズなどの紐形動物を想起させ「脳なんかなくったって生きてゆける」(厳密にはあるのだが)という希望が湧いてくる。

 尚、藤田は70代でありながら男性機能が健在だと豪語している。で、本書で紹介されている土壌菌とは「マメビオプラス」のことである。さて、こちらは中高年の希望となるか?(笑) 失われつつある機能を維持するためにはやはりカネがかかるようだ(ニヤリ)。